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分かれる戦場


《カリン! 見えてるか!? 》

「え、ええ。でもあれって」


 パームと相対しながらも、地表で行われている戦いを目にしたカリン達。セブンの体が豹変したその姿は、彼が尋常ならざる存在であるのは明らかであった。


「よそ見をしている暇があるのかよぉ! 」

「ッツ! 」


 今すぐにでも、オルレイトに助勢したい所であったが、アイが相手ではそうもいかない。右腕を自在に飛ばし、死角からサイクル・ノヴァによる遠距離攻撃を仕掛けてくる。


《さっきより連続で撃ってくるぞ! 》

「分かってる! 上手くなってる! 」


 サイクル・ノヴァによる強力な光線。それは防ぐ事は叶わず、かろうじて発射のタイミングを見極め、致命傷を割けるしかなかった。避けるのは、まだいい。


「そらそらそらぁ! 」

 

 アイは、右腕だけでなく、左足、右足も切り離し、さらに十字砲火を仕掛ける。一方のサイクル・ノヴァをよけたとしても、さらに二方向から、同時に攻撃されては、完全によけきる事などできない。それでも、上体を逸らし、下半身を振り回し、バタバタと無様に体を動かして、かすり傷でどうにか収まっている。


 龍殺しの大太刀でサイクル・ノヴァを切り払う事もできたが、刀身を鞘に納めている状態では、そもそも剣を振るう事もできない。


《(炎がたまるにはまだ時間が掛かる)》

「(返し(カウンター)でなければアイを倒せない! )」


 アイとの闘いを終わらせる最後の手段。コウでは遠距離からの攻撃は致命傷を与えられない。大太刀を使っての最大の攻撃を与える以外、彼らに勝機はない。そのためには、居合斬りによる返し(カウンター)は必定であった。


「(そのためには、この攻撃をしのぎ切るしかない! )」


 サイクル・ノヴァの余波を受け、コウの体が焼け削れていく。コウの傷は、そのままカリンにも伝播し、傷がパックリと開いた。


「(ま、まだ。今サイクル・リ・サイクルを使ったら、また寝ちゃう! )」


 傷の治したくとも、サイクル・リ・サイクルの代償でカリンとコウは深い眠りに落ちてしまう。今でさえ、激しい眠気によって集中力を削られながら戦っていた。


《(勝機は、アイが、あの技を使ってきた時)》


 アイが遠距離での攻撃を止め、接近戦を仕掛けた時、必ず彼女は、その右手を使う。コックピットに侵入し、乗り手を直接殺す最悪の技。‘強奪(エクストーション)の指(フィンガー)


 無論、乗り手のカリンには、その攻撃を受けるリスクが伴う。タイミングを間違えれば、文字通りカリンは死んでしまう。いままでのコウであれば、カリンの身を案じてこの手段は用いていない。


《(そんな事、絶対にさせない)》

 

 だが彼らは、今や木我一体の境地に至っている。その証に、カリンの目には、樹木のような線が走っている。お互いの事を知り、想い合う事で、不可能を可能に変えてしまおうというだけの意思を持っている。その意思の強さは、今までの比ではなかった。



「あ、あれが、初代、剣聖のお姿だというのか」


 同じ頃、セブンがその名と姿を明かしたのを見た者がいる。両腕と背中、計7本に恐ろしき恐ろしき爪その爪は自在に伸び縮みし、その鋭さは、ベイラーを簡単に両断できる。接近戦において、確かに無類の強さである。


「(あんなものにが、剣聖だと? )」


 その姿を目にし、シーザァーは己の内に怒りが沸き上がっていくのを感じた。


「(あんなもの、剣とはいえぬ。剣と認められぬ)」


 先の戦いでアレックスは負傷しているが、戦えないレベルではない。なにより、拳はまだ砕けていない。このまま戦いに飛び込もうとしたとき、黄色いベイラーに肩をポンポンと叩かれる。


「て、鉄拳王さん! 」

「どうしたのだ」

「レイダちゃんを引き上げるから手伝って! 」

「背中にはヨゾラとマイヤちゃんもいたの! このままだと危ない! 」

「(……なんと、この少女たちは)」


 敵と戦うのではなく、仲間を守る為に行動する。そのリオとクオの意思に、シーザァーは己の視野の狭さに猛省する。


「(イカンな。この身は戦う事が手段として身に染みついておる)」


 黒いベイラーと戦うきっかけを与えてくれた双子。その双子が、今度は仲間を守るきっかけをあたえてくれている。その事実で、ライカンの怒りは静まり、代わりに、際限なく高まる使命が奮い立つ。そして、今のライカンの使命とは、身動きのとれぬ仲間を救出する事である。


「うむ! ふたりの緑のベイラーを救出する! 」

「鉄拳王さんはレイダちゃんの足を! 」

「足ならそのベイラーでも抱えられるでしょう! 」

「心得た! しかし」

「? 」

「? 」


 レイダとヨゾラの救出作戦に乗り出そうとした双子を呼び止めるシーザァー。彼は彼なりに、思う所があり、一か所訂正を求めた。


「鉄拳王というのはやめてくれ」

「じゃぁシーザァーおじざん! 」

「ゑ」

「いってくるねシーザァーおじさん! 」

「う、うむ。レイダ殿の足はまかされよ! 」


 鉄拳王と呼ばれたのは、己の拳が、帝都で評価されていた己に付いた名である。黒いベイラーと戦い、リク達と出会い、彼は、己の技量を今一度見つめなおす機会を得た。それはそれとして、その呼び方は不本意である。しかし己の年齢を鑑みれれば、リオ達からすればシーザァーはおじさん以外のなにものでもない。


 シーザァーがおじさんと呼ばれている事に、クツクツと笑う声がする。


「シーザァーが、おじさん、そうであろうな。そうであろう、しかし、おじさん、おじさんか、へっへ、へっへっへ」

「陛下、あの、可笑しいでしょうか」

「いやぁ、佳い。実に佳い物をみた」


 カミノガエが、ウォリアーヘベイラーのコックピットで満足げに笑っている。


「甘んじて受け入れるとします。さて」


 呼び方を受け入れつつ、シーザァーは状況を整理する。


「(戦場は二つ。空でコウ殿と、あの黒いベイラーがいる。足場には、あの初代剣聖。ここが地下深くなのはわかっている。できれば、このレイダというベイラーだけでも、安全な場所に送ってやれればよいのだが)」


 自分達が王城の地下で戦っている事実をいまさらながらに噛みしめる。『獣』の腕の下には、高熱のマグマがあふれている。落ちてしまえばひとたまりもない。

 

「(あの剣聖を抑えながら、はたして逃げる事ができるか? )」


 そうこうしていると、コックピット事切り裂かれたレイダの下半身を見つける。だらんと力なく倒れるその下半身を、アレックスで抱えるようにして運び出す。


「こちらは良いぞ! 」

「ありがとうおじさん! 」

「よくやったおじさん! 」

「(……慣れんなぁコレ)」


 鉄拳王呼び方を自分から訂正した手前、再度矯正するのにも気が引けた。


「ヨゾラ! 」

「マイヤちゃん! 」

「う、うう」


 レイダが上半身を切り裂かれた時、幸いにしてヨゾラは切り裂かれずに済んだ。しかし、落下の衝撃でマイヤは怪我を負っている。致命傷ではないが、早急に措置が必要だった


「レイダちゃんとヨゾラとマイヤちゃん確保! 」

「確保! 」

「よし! しかし、これからどうする。援護しようにも、どちらを援護する? 」

《そのことなら、こちらにも話がある》


 シーザァーが次の手を考えあぐねていると、赤い肌のセスが顔をだした。


「おお、セス殿。何か妙案でも」

《セスではない。サマナからだ》

「なんと。それはどのような」

《サマナ》

「う、うん。いま出る」


 コックピットから顔だけを出すサマナ。『獣』を直視してしまったせいで、正気を失いかけていた彼女であったが、今は気を確かに保てている。


「動けるあたしたちは、まず黒騎士の援護だ」

「心得ました」

「あー、なんか手がへんなベイラー。お前の名前と、乗り手の名前はなんていうんだ? 」

《ジョウ》

「フランツだ」

「「あーー! リオ(クオ)達を攫おうとしたベイラー! 」」


 ぶっきらぼうに答えるフランツ達を指さし、双子が叫んだ。すぐさまナットが弁明する。


「もうフランツは敵じゃない! 」

「ナット、本当? 」

「ああ! 本当だ! 」

「「じー……」」


 双子は、如何にナットの言葉であっても、信じるには時間が必要だった。自分達を攫おうとした張本人であり、かつ、フランツはオルレイトに怪我を負わせている。すぐさま信じろというのも無理な話だった。そこに、サマナが助け船を出す。


「リオ、クオ。フランツってやつなら大丈夫だ」

「そうなの? 」

「もうそいつらには、お前たちに何かする気はない」


 まじまじと双子がジョウの姿をみる。夕焼けのような肌とは裏腹に、焼け落ちた左半身が痛々しいい。コウのサイクル・リ・サイクルの力を受けてなお、焼け落ちた体は元には戻らなかった。

 

 その姿をみて、リオが問うた。


「ナットの事、もういじめない? 」

「いじめない」


 フランツは即答する。その声をきいて、リオが問うた。


「もうオルレイトにひどい事しない? 」

「オルレイト? お前たちの仲間か」

「うん。仲間」

「なら、しない」

「「――そっか」」


 双子は、その答えに満足したのか、フランツについて言及はそれ以上行われなかった。


「サマナちゃんがそう言うなら、もういいよ。許す! 」

「(こいつら、本当に)」


 フランツ自身、すぐに信じてもらえるなど考えていなかった。しかし、サマナの言葉ひとつで、過ぎに疑念が晴れた事に、驚愕している。


「(ナットと同じで、みんな、いいやつらなんだな)」


 驚愕しながらも、ナットの仲間であるというその一点で、彼は納得していた。


「あとナット、お前、コックピットにもう一人いるだろ? 」

「ヘ!? あ、ああ、うん。フランツの妹さん」

「「妹!? 」」

「な、なんだよ」

 

 フランツの妹、ソフィアがいる事に、警戒心を抱く双子。


「なんでいるの! っていうかミーンもなんで乗せたの! 」

《そりゃ、手で運べたらそうしたけど》

 

 だが、彼女たちの言及はフランツだけととどまらず、ナットに対して、特に中にいるソフィアに対しての弁明を求め始めた。


「「なんで女の子乗せてるの!? 」」

「な、なんでって、ソフィアは怪我人なんだぞ」

「リオだってまだミーンに乗ったこと無いのに! 」

「クオも乗ってない! 乗りたい! 」

「だぁ! わかった! 今度()()()()()()()()()()()()! 」

「「ちーがーう!! 」」

「な、なんなんだよぉ! 」


 双子がナットに対し、非難し続ける。彼女たちは、なにもミーンに乗ってみたい訳ではない。ナットと一緒に、それもできればナットと二人だけでミーンのコックピットに居たいを思っている。それは彼女たちが、ミーンに対し、異性として好意を持っている事に他ならないのだが、一方のナットは、その手の話題に、まったく無頓着であった。


「えっと、郵便屋さん? 」

「ソフィア! えっと、もうちょっと待ってて」

「は、はい。でもさっきから、なんか目がむずかゆくって」

「かゆい? 」

「は、はい。なんだか、変、なんです」


 くわえて、現在ナットと絶賛二人乗り中である、当事者のソフィアはと言えば、長年感じた事の無い、目の痒みに違和感を覚え始めていた。


「(まてよ。僕はサイクル・リ・サイクルで骨折が治ったけど、もしかして)」


 とある予感を胸に、ソフィアに確認を取る。

 

「ソフィア、君の目って、火傷だっけ? 」

「え? 」

「火傷が原因で、目が見えなくなんたんだっけ? 」


 それは、ともすれば非常にデリケートな話題であるが、今まさに必要な情報でもあった。ソフィアは、急に聞かれて一瞬しどろもどろになりながらも、しっかりと受け答える。


「えっと、病気、です。火傷は、足の方で」

「よ、良し! 」

「ふぇ? よし?」

「フランツ! ソフィアは良くなる! 」

「なんだ急に」

「ひとまず、足は難しいけど、目だけなら、たぶんもう少しで」

「話が見えないぞ。どういう意味だ」


 ナットの予感は的中していた。サイクル・リ・サイクルは、生命の力を手助けする。だが、火傷を折って居たり、そもそも体から無かったりするものは、治る事は無い。逆に言えば、それら以外は、時間が掛かるにしろ、治るのである。

 

「(そのためにも、どこか安全な場所に)」

「あー、よし。ナット、ちょっとまってろ」

「サマナ、なんかあるの? 」

「そうじゃない。黒騎士の援護は私たちがやるから、お前は上から来る奴らと合流しろ」

「上? 奴ら」

「サマナ殿、まさか、まだ同盟軍が来ると? 」

「いや、そうじゃない。別の”流れ”だ」

「流れ? 」


 サマナの、フランツやシーザァーにとっては要領の得ない、龍石旅団にとってはすでに慣れ親しんだ説明を聞く。サマナは人の、ひいては万物が持つ流れを見る事ができる。それは時に、空を流れる風の流れ、波打つ潮の流れ、ひいては、人の意思をも流れとしてみる事が出来る。


 そして、シラヴァーズに近くなっていく彼女は、今では人の心さえ読めてしまう。


「流れそのものは、むしろあんたの方が近い」

「私に? 」

「なんかこう、暑苦しいというか、むさ苦しい」

「……双子の乗り手殿、サマナ殿はいつもこんな感じか? 」

「こんな感じだねー」

「ねー」


 双子も、サマナの状況説明をなんとなく理解している。詳細は分からないが、このあと、自分達にとって良い事が起こると、サマナは言っている。


「しかし、サマナ殿。一体何が来るというのか」

「それは来てみないと何とも……っと、噂をすればだ」


 サマナが頭上を見上げる。ソレにつられて、全員が上を向いた。


 彼らは今、王城がそのまま陥落した真下に位置している。上を向けばすなわち、ぽっかりと開いた大穴が見える。一体何がくるのか待っていると、その大穴のフチから、何本ももロープが垂れ下がり始めた。そのロープは、この『獣』の腕、サマナ達が足場としている場所まで落とされる。


 そして、そのロープを伝い、何人ものベイラーが降下してくる。垂れ下がったロープの太さはかなりの物で、ベイラーを吊り下げてもなお、千切れる様子はない。彼らはゆっくりと、この足場にむけて降りてきている。彼らはベイラー皆、そのコックピットが翡翠色。


「同盟軍、じゃないな」

「あ、あれは」


 もし同盟軍であれば。ベイラーの扱いはもとより、戦いもズブの素人達である。だが、ナット達の元におりてくるベイラー達は、全員が訓練された、統率のとれた動きであり、とても素人の集団には思えなかった。


 やがて、ナット達が、訪れたベイラー達を確認できる距離まで近づいてくる。彼らを目にし、一番心高鳴ったのは、他でもないシーザァーであった。


「お、お前たち!? 」

「おじさん、この人たち誰? 」

「ああ、こやつらは……いや、見てもらったほうが速かろう」

「? 」

「総員、並べぇえ! 」


 シーザァーの号令により、3列で、合計12人のベイラーが規則正しく並ぶ。ベイラーには板金でできた鎧が着こまれており、その鎧には、金のエングレービングが施されている。


「帝都近衛騎士団、カミノガエ様救出のため、馳せ参じました」

「お、おお! お前たち、よくぞ来てくれた! 」


 サマナが見た流れは、シーザァー直属の部下たち、近衛兵達であった。この戦争がはじまってからという物、シーザァーの部下の数人はすでに戦いで命を落としている。


「あの巨大なベイラーが我らに向かっていたら、ここまでの数は生き残れなかったでしょう」

「そ、そうか」

「しかし、突如として、二体目の巨大なベイラーが現れ、同士討ちをはじめてくれたおかげで、我々も命拾いしました」

「そ、そうで、あったかぁ」


彼らは、バスターベイラー同士の戦い、その片方がシーザァーであった事を知らない。技を見ている暇もなく、逃げ惑う事しかできなかった彼らでは、致し方なかった。当の本人であるシーザァーとって、バスター化は一度は怒りに身を任せた結果であり、気恥ずかしさが勝っている。


「よくぞ来てくれた。怪我人がおる。安全な場所に運んで差し上げろ」

「は! 」

「ナット殿、怪我人を」

「は、はい。ソフィア、ちょっと揺れるよ」

「え、えっと、わかりました」


 パラディンベイラーへとソフィアを移すべく体を乗り上げる。兵士はしっかりとソフィアを抱きかかえ、コックピットの中へと納まる。


「それから、この方を」

「シーザァー様、こ、これは、ベイラーの足、なのですか? 」

「うむ」

「た、たしかに受け取りました」

「かの黒騎士殿の相棒だ。丁重にな」

「なんと!? あの黒騎士様の!? では、この足はレイダ様なのですか!? 」

「そ、そうだ」

「このお役目、かならずや果たします! 」

「お、おう」


 突然の士気高揚に困惑するシーザァー。帝都剣聖選抜大会で彗星のように現れた黒騎士の人気ぶりたるや、その戦いを見ていた住人だけにとどまらず、すでに帝都の近衛兵にまで浸透していた。


「(黒騎士、人気だなぁ)」


 その様子を、どこか遠くで眺めるサマナであった。


「(まぁ、誰もオルレイトだって知らないからか)」


 黒騎士が仮面を付けているのは、元は言えば、まだ敵が誰かも定かではない頃、カリンと同郷の生まれであるオルレイト・ガレットリーサーであるのを隠して戦いに参加する為であったが、今ではすっかり、黒騎士の名前だけが浸透している。


「(あののっぽのどこがいいのやら)」


 あののっぽ。自分達だけが黒騎士の正体を知ってる。ほんの少しの優越感が、己の中で生まれている事にサマナは気が付く。


「(これも最近、シラヴァーズの力が目覚めたからかな。こんな、変な感情ばっかり敏感になる)」


 それが気の迷いであると彼女は断定し、振り払う。今は思考すべき時ではない。目の前では、オルレイトは初代剣聖と戦っている。ならば今すぐにでも行動すべき時であった。


「それでは、陛下も」

「まさか、余まで怪我人扱いするのか」

「違います。安全な場所で、この男の処遇をお決めください」

「――なるほど、確かに、それは余にしかできんな」


 シーザァーは己のコックピットから、縛り上げた奴隷王、ライカンを手渡した。国家に反旗を翻した張本人であるが、今は気を失っている。武芸者でもない彼が、縄で縛られては抜け出す事はできない。しかし、シーザァーが戦う以上、ライカンをコックピットの中で放置もできなかった。


 カミノガエはそれ以上抗議するもなく、渋々ながら了承する。武芸者でない点においては、カミノガエも同じだった。


「頼みました」

「シーザァー」

「何か? 」

「死ぬな。これは余の勅命である」

「――御意」


 レイダ、ヨゾラ、マイヤ、そしてカミノガエを乗せたウォリアーと共に、近衛兵達がロープと使い上へと昇っていく。これで、彼らがセブンとの闘いに巻き込まれる事は無くなった。


「ではサマナ殿。我らも加勢に」

「ああ。いこう! 」

「行く! 」

「おー! 」


 ◇

 

「ハー! ハー! 」

「もっと巧く避けたらどうだ? 」

「(全部ギリギリで悪かったな! )」

 

 セブンと相対し、その剣を躱し続けている黒騎士の本心であった。


「(7本の剣、いや爪か」


 彼は先ほどからセブンから逃げ回っている。否。()()()()()()()()()()


「(こっちの間合いを無視して、いろんなとこから襲ってくる! この男には剣士の常識が一切通用しない! )」


 黒騎士は、セブンの攻撃を決して剣で受ける事はしなかった。単純に、黒騎士が使っている剣は一本であり、両手で使っている。もし、7本あるうちの爪の一本を防御してしまったのなら、残りの6本の爪で体を切り裂かれている。防御しないのではなく、できないのである。


 セブンは最初、普通の剣を振るっていた。その剣こそ囮で、本体は体から伸ばした爪による広範囲の斬撃であった。剣を振るうフリをすることで、相手に剣士だと自分を誤認させるのが、セブンの最大の目的であった。そのいわば囮剣術に気が付いていなければ、黒騎士はすでにあの世に旅立っている。セブンの囮に気が付き、かつ防御をしないことで、かろうじて戦えている。


「(でも僕の方は時間の問題だ)」


 しかし、セブンも、しかるべき対応を即座に行った。すなわち、黒騎士の消耗を強いるべく、縦横無尽に爪を動かし続けている。時折かけた爪を折っては生え換え、再び攻撃する。己は一切その場から動く事なく、長い7本の爪を振り回している状態である。

 

 黒騎士は、否応なしに爪の攻撃を避けざる終えず、さりとて間合いに飛び込む事もできず、ひたすら体力を消耗している。最小限の動きで回避されないよう、手足の末端を狙い、的確に爪を振るう事で、黒騎士の体力を削ぎ続けている。


「(息が、もたない)」


 すでに黒騎士の呼吸は乱れに乱れ、整える暇もない。加えて、黒騎士には基礎体力はお世辞にも高くない。長年の病床生活が祟り、体力、時にスタミナに関しては龍石旅団の誰よりも低い。


 そしてついに、何度目かの爪を躱しきった後、黒騎士の足がもつれ、バランスを崩した。


「こんなものだな」

「しまっ――」

「サイクルシミタァアアアア! 」

《ブーメラン! 》


 黒騎士に迫った7本の爪のうち、6本が、投擲されたシミターによって叩き折られる。


「正拳突き!! 」


 そして残った最後の1本も、急襲したシーザァーのベイラーの一撃により、木っ端みじんに吹き飛ばした。一瞬にして全ての爪を失ったセブンであるが、すぐさま爪を再生してしまう。


「ふむ。不意打ちであったなら今ので終わっていたな」

「(こっちが出来なかったのを知ってて言うんだからなぁ)」


 不意打ちしようにも、すでに爪は回復し、再び周囲を切り刻めるだけの状態になっている。縦横無尽に振るわれる爪を攻略しない限り、セブンに勝つ方法はない。


「加勢しにきたぞ黒騎士」

「サマナ、シーザァー殿、それに、リオ、クオ。ナットまで」

「で、どうするよ、あいつ」

「どうする、ってなぁ」


 加勢が来た事は喜ばしいものの、セブンを倒す手段が、今の黒騎士には思いつけなかった。


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