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荒れ狂いミーン

「アイだ。間違いない」

《でも、なんか形が変わってる》


 門を正面から打ち砕き、ゆっくりと歩いてくるその姿は、砂漠で出会った物と造形が異なっていた。黒い体に、それ以上に暗い髪をなびかせている彼女。名前を、アイ。コウと同じ時代、同じ世界から来た女が、ベイラーの体としても異形を極めた右手を携えている。後付けでカギ爪を取りつる加工を行い、より鋭く、より凶悪に。より恐ろしく。その、他者を害する事しか考えられていない装いに、ミーンはわずかに憤慨する。


《せっかく腕があるのに、あんなにしちゃうなんて》

「―――そうだね」

《あれじゃ何もできないよ》


 ミーンは生まれつき両腕が無い。その事について、ミーン自身が恥じた事はない。代わりに誰よりも速い脚を持っている。だが、不便さについても、誰よりも骨身に染みている。ふとした拍子に体を支える事ができず、他のベイラーの何倍も転んでしまうし、物をつかむ事が出来ない為、何かを運ぶというのも一苦労する。何より、乗り手を自分に乗せるのが、最初の難題になった。腕があれば、その手に乗り手を乗せ、コックピットまで運んでやれるが、ミーンは違う。乗り手が自力でよじ登らねばならない。今でこそ、両足を投げ出して座ることで、多少、乗り手のナットにも負担は軽減されたが、この方法を編み出すまで、彼らは試行錯誤を何度も繰り返した。


 あらかじめミーンにロープを括りつけて、よじ登れるようにしたり。


 ミーンの脚に大きな釘を打ち込んで、階段のように利用してみたり。

 

 梯子を備え付けて、いつでも登れるようにしたり。


 総じて、ミーンに何かを付け加える方法で、2人は乗り込みやすい方法を模索していた。だが、郵便の仕事をしている彼らは、一日中。街を、野原を、山を猛スピードで駆けずり回っている。ロープも釘も梯子も、いつの間にかどこかに落ちてしまうか、走っている最中に壊れてしまい、二度と使い物にならなかった。


 その課題を克服したのは、足を投げ出して。ぺたんと座る。ただそれだけの事。立ち上がるのに多少難儀するが、何かを体に付け加え、いつの間にか壊れてしまうより、ずっと良かった。何より、この発想は2人が試行錯誤した末にたどり着いた、2人で思いついたある種の絆と言って良かった。


 アイのその右手は、人と共に生きようつするベイラーとは相反している。ミーンは、もし自分に腕があったならと、考えなかった訳ではない。ベイラーの中でも小柄で、腕があったとしても、細くか弱いかもしれない。だが腕があれば、ナットに触れる事ができる。その手でコックピットへと迎え入れる事が出来る。


 ベイラーにとって、ミーンにとって、腕というのは、求めても手に入らないが、どれほど大事にすべきかを知っている。それを、アイは蔑ろにしている。


《全部が全部、戦う為だけにしか使わない気なんだ。なんて奴だ》

「なら、戦おう」

《相手をするのは厳しいんじゃないっけ? 》

「正直、勝てるかどうか分からない。コウと同じで訳分からないし」

《アハハ……》

「でも、僕もだ」


 ナットが操縦桿を強く強く握りしめる。意識の共有をしていなくても、その想いは同じ。


「ベイラーの腕をあんな風にするやつらに、負けたくない」

《うん》

「だから、もう一回、暴風形態(アレ)をやろう」

《分かった》

「止まらなくっていい」

《止まれないもん》

「そうだった」


 恐ろしい力と姿をしたアイを前にして、ナットには不思議と、恐怖は無かった。ミーンが傍にいる。それだけで力が沸いてくる。


「なら……吹き荒べ(ふきすさべ)、ミーン! 」

《あいあいさ! 》

 

 全身のサイクルが爆音を挙げて回りだす。削れる摩擦熱で黒煙が上がる。澄んだ青空のような肌はすぐに見えなくなり、代わりに、真っ赤に光る赤い目が、煙の中で瞬く。ミーンの暴風形態(ぼうふうけいたい)である・

 

 嵐となったミーンが、一直線に駆け出した。



《(へぇ。意外と使えるじゃない)》


 帝都の兵士たちがその姿に恐れおののいている中、右腕の威力に驚いていたのはアイも同じだった。武器の理屈は知っていたとはいえ、見聞していたのと、いざ自分が使ってみるのとではやはり実感が違う。


《(連発は、無理か)》


 サイクル・ノヴァ。サイクルのエネルギーをコックピットにため込み、360°全方位に放出する、いわば範囲に重点をおいた攻撃。その攻撃を、ポランド作成のアイディアにより、手から前方へと、収束して放つ事ができるようなった。いいことずくめではあるが、弱点も存在する。ため込む際にひと呼吸おかねばならず、さらに攻撃した後も、アイの右手は痺れて自由が効いていない。サイクルノヴァのエネルギーが大きすぎて、アイの手をもってしても、無傷で放てないのだ。


《(でも、銃みたいに使えるのはいいわね)》


 アイが注目したのは、遠距離で攻撃できる手段を手に入れた事にある。今まで遠距離の攻撃はさほど威力のないサイクルショットの他には何もなく、乗り手であるパームが毎度接近戦を仕掛けるのも相まって、アイはその度に睥睨していた。


《ほら、さっさと離れなさいよ》

「あん? どうしてだよ」

《なんで飛び道具があるのに使わないのよ! 》

「この手はパイロットごとぶっ殺す為だろうが」

《わざわざ近寄る必要ないっての! 》


 問答しようとした、その時だった。前から、凄まじいスピードで、黒い煙を上げた()()()が迫ってくる。


《なによアレ!? 》

「分からねぇ! とりあえず捕まえろ! 」

《まだ右手が痺れて動かないのに! 》


 文句をいいながら、突っ込んでくるナニカを捕まえようと手を伸ばす。指先についた刃が触れようとした時、突如として煙は方向を変え、視界から一瞬で消えてしまう。かろうじて目で追えた方角へ、振り向いて相手を確認しようとしする。


 だが、今度は目で追った方向と()()()()、頬を蹴り飛ばされ、無様に尻餅をつく。アイは一瞬訳の話分からなさで、しばし呆けた。


《今、何されたの? 》

「とりあえず立て! 何かヤバイ」


 パームも事態を把握できずにいる。すぐに立ち上がるも、視界の端で、黒い煙がチラチラと映るだけで、いつ攻撃されたのかが分からない。追い打ちをかけるように、防御する暇もなく、アイは顔面にもろに喰らってしまう。二度目の攻撃で、今戦っているのはベイラーであり、そのベイラーが、アイに向け飛び蹴りを放っている事は理解できた。だが、理解はそこで止まっている。

 

《ちょっと! 何やってんのよ! 》

「分からねぇ! 」

《ハァ!? 》

「相手が速すぎんだよ! ックソ」


 相手の攻撃手段が飛び蹴りである都合、突っ込んでくる方向さえ分かれば、いくらでも防御できるはずだった。間合いも、ただの蹴りの間合い。


 だが、突っ込んでくる方向に防御しようとした瞬間、そのベイラーは突如方向を変え、別の角度から飛び蹴りを放ってきた。問題なのはその進路変更の速さと範囲の広さ。視界から消えるほど瞬時に遠くまで離れたと思えば、アイの方向を変える前に、すでに蹴りが飛んできている。


 ()()()()()()()()()()()()に、アイを基点にして、動き回っている。


 「(クソ! 相手はなんで方向を変える前に減速してねぇ!? 普通曲るときには速度が落ちるはずだろうが! )」


 正面から来た蹴りを防御しようとすれば、すかさず背後から。背後を向いて防御しようとすれば、今度は側面から。ベイラーから出ている黒い煙のせいで、目で追う事も難しくなっていく。5度目でついにアイが膝をついた。


「(アイ(コイツ)でなけりゃ、一撃で終わってたなコリャ)」


 圧倒的な速度と威力の飛び蹴り。だがその攻撃をすでに5度目も耐えている時点で、アイの体は他のベイラーよりもはるかに頑強であった。


「どうすりゃいんだコレ」

《ああもう! なんで飛ばないのよ! 》

「ああ!? 」

《蹴りなのはわかってるんだがら、飛べば追いかけてこれないでしょう!》

「クソ、このパーム様がてめぇの言いなりとは」


 口では文句を言いながらも、パームは反論できなかった。アイの提案は、非常に理にかなっている。相手の速さはあくまで地上の話。空中であればそもそも飛ぶことはできず、蹴りをしようにも、支える足場がないため踏ん張りが利かない。

 

「(うすうす感じちゃいたが、コイツ、頭の出来もいいんじゃねぇか? )」


 他のベイラーと一線を画す体に、現代の知識を併せ持つ頭脳と相まって、アイの戦いにおける強さは、何者も寄せ付けない領域にある。


「サイクルジェットを使う! 」

《やるならさっさとしなさい! 》


 両肩に備わったサイクルジェットの炎が猛る。轟音を上げ、アイの体は物理法則を単純な推力でこじあげて、門が解けた壁沿いに急上昇する。


 だが、推力を持っているのはアイだけではない。


「壁を登ってくるぞ!? 」

《嘘でしょう!? 》


 パームもアイも、その光景を目に己が目を疑った。壁伝いとはいえ、地面から垂直に伸びた壁を、まるで道でもあるかのように自然に駆け上がっていく。それは壁をつかって地面を三角飛びするのとでは訳が違う。


 地上からまっすぐ、なんの補助もなく、ただの脚力で登ってきていた。


「サイクル・ノヴァを撃てぇ! 」

《言われなくたって! 》


 アイは、痺れの取れた右手を駆け上ってくる敵へと向ける。手のひらに備わったコックピットの欠片がひと際大きく光ると、膨大な熱量をもった、エネルギーの塊が放たれる。鋼鉄の門を焼き溶かすその威力は、ベイラーに当たればひとたまりもない。


 だが、黒煙を纏う敵のベイラーは、放たれたサイクルノヴァに怯むことなく、冷静に射線から逃れた。その時、サイクルノヴァの余波がベイラーにまとわりついた煙を一瞬だけ引き剥がす。一瞬晴れた煙から現われた顔と風貌を見て、パームは再び呆けてしまった。


「あいつ、腕無しの、たしかミーンとかいう」


 翻弄され続けた敵の正体がかつて、その腕がない事をけなしたミーンであった。ベイラーを商品として扱っていたパームにとって、両腕の無いミーンは、欠陥品以外のなにものでもない。自分が怪我によりその片足になった今でも、そう思っている。そのミーンに、こうまで自分を追い込まれている事が信じられなかった。 


「馬鹿な、白い奴に会う前に、こんな」


 渾身のサイクルノヴァも空振りに終わる。そして呆けたその一瞬を、ナットは見逃さなかった。


「サイクル! 」

《イカヅチ! 》


 壁を蹴って、ミーンが空へと躍り出る。全身を使っての飛び蹴りに、回転を加え、更なる威力の向上させる。


「《キィイイイイイイイック! 》」

「こんな馬鹿な事が! 」


 肝心の右腕は、さきほどのサイクルノヴァにより痺れて使えない。シールドを作り出したとしても、空中でミーンの一撃を防ぐような事も出来なかった。


「(このパーム様が、負ける!? )」


 パームの頭に、敗北の二文字がよぎる。接近戦んであれば、その類まれなる天性により、どのような武術も、武器も、一度目で見ればその全容を把握し、二度目で見れば、即座に対応できる。だが、そもそも相手の攻撃が速すぎて目で見えないのであれば、把握のしようがない。把握できないだけならばまだいい。パームの場合、それに加え、今まで持ち前の天性に胡坐をかいていた事が災いし、理解を拒んで一瞬体が硬直してしまう。その一瞬は、戦いにおいては致命的だった。


 パーム自身も、今の今まで気が付く事が無かった、明確な弱点である。


「(よし、勝った! )」


 その弱点を、意図せずついたナットの頭には、パームとは対照的に、勝利の二文字が浮かんでいた。コウの手を借りず、ミーンと力を合わせての勝利。


「(これで、戦争にも決着が―――)」

 

 己の勝利をもはや疑わなかった。故に、ナットは反応できなかった。


 最初は目がくらんだのだと錯覚した。次に、体中から湧き上がる痛みに思わず声を出そうとする。だが、そのあげようとした声も、またでない。


「―――ガァア!?」

《ナット!? 》


 ナットは、声の代わりに、その口から血を吐き出した。ねばついた血が、コクピットに付着する。その瞬間操縦桿を離してしまい、あれほど勢いのあったミーンの体は、突如失速し、体から吹き上がっていた煙も収まってしまう。


 嵐がおさまった後に訪れる平穏のように、ミーンの体は急に止まってしまった。


《ナット! どうしたの! ナットってば! 》

「(な、なんだ? いったい、どうして)」


 無論、空中を駆けていたミーンは失速し、地面へと真っ逆さまに落ちていく。


「(なんで、急に、こんな)」


 自分の体に何がおこったのか、ナットは分からなかった。


 ミーンの暴風形態。加速に必要な時間が限りなく零になり、一瞬で、最高速度で移動し続ける事が出来る。それは圧倒的なスピードを得ると共に、全体重を乗せた蹴りによって、体の小さなミーンでも凄まじい威力を発揮できる。だが同時に、ナットの体には常に荷重に晒され続ける。体重の2倍から3倍もの負荷。


 それを、ミーンは、鋭角に、減速せずに動き続けた。ナットの望むとおり、止まることなく、5回以上。さらには、重力に逆らって壁を登って見せた。そのため、乗り手であるナットの体には、膨大な負荷がかかってしまった。 


 その結果、ナットの体は、いまや全身が骨折するに加え、内臓もズタズタになっている。吐血は喉の周りが裂けただけでなく、軋み砕けた、彼の骨の欠片が、度重なる振動によってに弾み、体の中で血管を傷つけている。


「(アレ、声が、でな……い……)」


 全身骨折に加え、内臓の裂傷。それはもはや痛みを感じる暇さえなく、ナットの意識が防衛本能によって意識が途絶えた。ミーンはただ、ナットが返事さえしない事に動揺を隠せない。


「なんだかしらねぇが! 」


 戦いの最中で、その動揺を見逃すパームではなかった。アイの推力をふんだんに使い、落下するミーンに追いすがる。空に向かうならまだしも、落ちている相手に追いつくのは、アイにとってはもはや容易かった。そしてすでに、アイの右手は痺れから回復している。


強奪のぉ(エクストーション)!」

 

 右手に施した加工は、最初からソレを想定した物。刃は確実に乗り手を惨殺すべく備えられている。普段であれば、わざわざ相手に向かってその技巧の名を高らかに叫ぶことは、アイは唾棄すべき悪習だと一蹴している。だがこの時ばかりは、自分でも想像だにしていなかった逆転劇を前にし、少々心酔していた。相手を叩きつぶす、およそ理性的でない快楽を前に、アイはあれほど嫌がっていた叫ぶ行為に同調した。


 この時、パームとアイが、僅かながらも、心を通わせていた。コウとカリンのように、決して共に生きる為でない。ただ暴力に身を任せ、相手を共に打ちのめす為に、2人の心は今までになく一体化していた。


《「(フィンガー)ああああああ!! 」》


 雄たけびを上げながら、空中で逃げ場がない相手に向け、そのコックピットを掴みかかる。あらかじめ湿らした、滴り落ちる液体は、本来乗り手以外を阻むはずのコックピットに侵入する為の鍵。ミーンのコックピットに、アイの指先が沈みこんでいく。無論、中に居るナットは、その指先を認めると、反撃せんと体を動かそうとする。


 だが、そのナットの体は、今や自分の意思では、どうにもならないほど損傷し、全く動く事ができない、操縦桿を握ることはおろか、指先すらぴくりとも動かない。全身の骨という骨が砕け、さらには体内で内出血を起こしすぎているのである。


《ナット! 動いて! ナットってば! 》

「はじけろやぁ! 」


 パームは、己の勝利を確信していた。このまま握りつぶすか、それともコックピットの内部で、サイクルノヴァを発射するか。どちらで勝利するかしか頭に無かった。過程は異なっているが、得られる結果は、どれも同じ。乗り手の完全なる殺害が完遂されようとしている。


 アイの力は、ベイラーとしては破格としか言いようがない。一撃でアーリィを砕くミーンの蹴りを5度も耐える頑強さに加え、遠距離ではサイクルノヴァで、近距離でも強奪の(エクストーション)(フィンガー)で戦い、さらには、彼女の長い髪は、その毛先一本のいたるまで、自在に操る事が出来る。意識を集中すれば、髪の毛で相手の体を雁字搦めにとらえる事すらできてしまう。


 総じて、人間と共に生きるのではなく、ひたすらに人間を害する事に特化し始めている。今この瞬間も、ナットはまさに殺されようとしていた。パームとアイの目には、ずっとナット達しか映っていなかった。ミーンの暴風形態を目で捉えるべく、視野が狭くなっていたのも要因のひとつだった。


 故に、不意打ちは成り立った


 アイの体に、サイクルショットが雨のように降り注ぐ。一撃一撃の威力もさることながら、ミーンには一発も当たっておらず、恐るべき精度と言えた。空中でミーンを捕まえていたアイであるが、その降りしきるサイクルショットにより、わずかに隙が出来る。


《何よ一体!? 》

「クソ、どこからだ!? 」

「真っ向!! 」

《唐竹ぇえ! 》


 その隙、目掛け、一直線に白いベイラーが大太刀を携えて迫りくる。ミーンを捕まえたままでは、その大太刀を防ぐことは叶わない。手にした得物を、むざむざ離す事は、パームにとって屈辱であった。だが、白いベイラーの力を、パームは侮っていない。


「アイ! こいつはいい! 白い奴を! 」

《あともう少しだってのに! 》


 一瞬で状況をみきわめ、ミーンを離す。獲物をなくした右手が虚しく空を漂う。だが、感傷に浸っている暇もなかった。迫る大太刀を防ぐべく、右手に迸るエネルギーをため込む。そして、空から来た白いベイラー、コウが、大太刀を真っ向から振り落とした。


「《大切斬ぁあああん! 》」

「《サイクル・ノヴァ! 》」


 コウが振り下ろした大太刀と、アイの右手が交錯した。大質量の剣戟と、エネルギーの塊が空で炸裂する。互いに全力の一撃を見舞っている。剣と手のひら。普通であれば剣が勝つと思われるその勝負は、お互いにお互いを弾きあったことで、引き分けの結果に終わった。アイが地面に着地すると、たった今吹き飛ばし、吹き飛ばされた相手をにらむ。


《お前、お前、お前ぇえええ!! 》

《貴方の、その腕は》


 白いベイラー。コウは、弾き飛ばされながらも、器用に地面に着陸している。そして大太刀を構えようとしたが、アイの右手を見て、思わず声が漏れ出していた。


《なんで、そんな風に》

《なんで? 》

《そんな風にしちゃったら、誰かと手をつなぐことなんで出来なくなる》

《お前に心配されるようなことじゃない! 》


 激昂するまま、『そんな風』になった右腕を叩きつけようとするも、再びサイクルショットが襲い掛かる。


「二度も喰らうかぁ! 」


 だが、これにはパームが完璧に対応した。即座にサイクルシールドを作り上げ、降り注ぐサイクルショットを防ぎきる。作り上げるタイミングも、シールドの強度も問題なく、先ほどとは違い、全くの無傷である。


「こうもあっさり防がれるか」

《さすがに自信が無くなりますね》

「コウ、ナットを治してやって! ちょっとヤバイ! 」

《分かった! カリン! 》

「ええ! 」

「《サイクル・リ・サイクル! 》」


 コウの背後から、緑色の肌であるレイダと乗り手のオルレイト。ミーンを空から受け止めた赤い肌のセスと、乗り手のサマナが、切羽詰まりながら声を上げる。コウはアイから目を背けないまま、左手でゆっくりと炎を灯す。コックピットの中で、ナットの骨が、血が、肉が、みるみる内に完治していく。そして、痛みすらなくなったころ、ナットは意識を取り戻した。


「……あれ、コウ? 」

《大丈夫。みんないるよ》

《どいつもこいつも邪魔をしてぇ! 》


 アイが再び掴みかかろうとする、こんどは上空から黄色い肌のベイラー、リクが、地面を削りながら、土煙を上げて荒々しい着地をしてみせた。4本脚の4本腕。その腕には、分厚いタワーシールドを持っている。空で観測役をしているヨゾラを除けば、ベイラーと乗り手、10人5組龍石旅団がここに集結した事になる。


「くそ、数だけはそろってやがる」

「旦那さまぁ! やっと追いついた! 」

「サイクルノヴァはうまく使えたようだね。感心感心。」


 だが、集結したのは、龍石旅団だけではない。パームにもまた、率いている部隊がある。パーム航空騎士団。実働隊長のケーシィの駆るザンアーリィ。その傍らには、空こそ飛べはしないが、戦うために全身に調節の入った、ポランドが駆るブレイク。


 ベイラーの数は5対3だが、数滴不利を覆す力をアイは持っている。もやは戦力差は宛てにならない。


「旦那さま、空爆までもう時間が無いですよ! 」

「……なら、さっさと片付けちまうか」


 パーム航空騎士団と、龍石旅団。この戦争でもっとも戦局を左右するふたつの力が、いまここに集結していた。

最近おくれて申し訳ないです。更新頻度そのものは落とさないように頑張ります。

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