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パーム航空騎士団

 「い、一撃で、一撃で船が全部沈んじまった」


 コウの新たな剣技により、10隻におよぶ船団が塵と消えた。海の上で煙をあげて沈む船からは、中にいたであろう船員たちがその身を投げ出している。彼らにはもはや戦意はなく、ただ沈みゆく船を眺めながら、岸にあがって侵略を続けるのか、降伏するのかを考えていた。


「コウ、いつの間にあんな技を」

《待て。様子がおかしい》


 真っ向(まっこう)一文字(いちもんじ)大炎斬(だいえんざん)。刀身に炎を纏わせて斬る技であるが、コウはその纏わせう炎に際限を無くし、どこまでもどこまでも伸びる炎の刃として扱った。その極大になった剣を一文字、つまり横薙ぎに振るうことで、広範囲の敵を一気の両断する。見た目の派手さもさることながら、その効果もまた絶大であり、船団を丸ごとひとつ叩き伏せた。


 だが、空の上でコウが剣を納めたその時、彼は突然糸が切れたようにその場から動かなくなる。空の上にいるであれば、落下するのは必定。


《オイ落ちたぞ》

「なんか変だ。セス! 受け止めて! 」

《間に合わせる! 》


 セスはサイクルボードをつかい、急いで空へと向かった。コウは空を飛ぶためのサイクルジェットをその体に宿しているにも関わらず。全く使う様子が無い。落ちるにしろ減速するか、空に舞い戻るにしろ、加速をしなければならないが、全く動かない。それどころか、その両手は力なく垂れさがっている。


《間に合えぇ! 》


 セスは落下地点を予測し、コウが墜落する寸前で受け止めた。左腕を壊しているため、体を絨毯代わりにして落下の衝撃を緩和する。


 盛大な水しぶきを上げながら、墜落の憂いを回避しつつ、コウを陸へと上げる。

 

「コウ、お前すごかったけど、なんでサイクルジェットを使わない? 」

《―――》

「コウ? カリン? おいどうしたふたりとも」

「―――サ、マナ」


 コックピットの中からカリンが返事を返す。しかしその声には張りがない。


「まさかどっか怪我したのか? 」

「違うの―――なんだか、とっても、眠たくって」

「ハァ!? 」

「なんでかしら、熱いお茶でも飲めば、きっと―――」

「お、オイ! こんな時に寝るなって! オイ! 」


 サマナの制止もむなしく、カリンはその後返事をしなくなり、代わりに規則正しい寝息が聞こえてくる。


「疲れがでたのか? 無理もないのか。結婚式から直行だったもんな」

《サマナ。そうでは無いぞ》

「何さ急に」

《コウのサイクル・リ・サイクル。あの力のせいだろう》

「そういえば、前もそんなことあったっけ」

《大方、あの技を使った代償と言ったところだろうな》


 コウのサイクル・リ・サイクル。それはベイラーである力の源、サイクルの力そのものを活性化させる。治療ではなく再生を促す。その炎は人にも及び、その体本来が持つ力を呼び覚ます。


 使う際には、全身に緑の炎をたぎらせるその力は、幾ら体が砕けようとも瞬時に再生する。まさに他のベイラーを圧倒する力である。だがその代償として、ベイラーが本来持たないはずの異常な眠気に襲われてしまう。


 それは乗り手であるカリンも例外ではない。むしろ、コウと強い絆を結んだ彼女だからこそ、その影響を強く受けてしまう。


「こうなったら無理やり起こすしかないか」


 仮面卿、そして商会同盟を名乗る軍の侵攻は始まったばかり。ここでコウを伴って先陣を切る事のできるカリンの不在は、戦略的にも戦術的にも痛手を被る。


「水でもかけてやればなんとか」

「お止しよ」

「ッ!? 」

「外が騒がしいから覗いてみれば、なんの騒ぎだいコレは」


 港の淵、水面から顔だけだして声を掛けてくるその人物。赤く波打つ髪がよく目立つ。そしてなにより、サマナがその人物の心を読もうとして、それが出来ない事に驚く。


「まさか、あんた」

「おやおや。今度は同族か。今年の帝都にはいろんなのが居るもんだ」  


 ゆっくりと上半身を晒すその人物は、ヒレがあり、下半身はイルカのようにつやつやとしている。


「ん? 同族じゃなくて呪い持ちか」

「赤毛のシラヴァーズ? じゃぁ、あんたがカリンの言ってたクワトロンか」

「自己紹介は要らないみたいだね」

「それより、なんで無理に起こそうとしたら駄目なんだ」

「その子の心を読んでみなよ。出来るんだろう? 」

「読むって」


 人魚、シラヴァーズと呼ばれる人外の一種、そしてここ帝都に住む、変わり者のクワトロンであった。不服に思いながら、クワトロンの助言に従ってカリンの心を読もうとする。しかし何度その心を見透かそうとしても、まるで心そのものが其処に無いように空ぶってしまう。


「(なんだ? 何もない。それとも、元から寝てる人間ってこんななのか)」

「その子は今、魂の故郷に居る。体を無理に起こしたら心が抜けた廃人に成っちまうよ」

「魂の故郷? 」

「人間だから、恐らくは綿毛の川だろうね」

「し、知らない事ばかり話す奴! 」

「ついでに、私の心を読もうとしても無駄だよ」


 起こそうとした行動に釘をさされ、サマナは口を噛んだ。シラヴァースは人の心が読める。その特技により、会話の内容を先んじて語り掛け、相手の反応を楽しむ。それは彼女らの悪癖であった。


「元からシラヴァーズなら勝手に身に付く事なんだが、まぁ呪い持ちならしょうがないか」

「そ、それより、カリンを寝かせられる場所を」

《王城に戻るか? 》

「それは―――」


 カリンの体の事を想えば、セスの判断は正しい。だが、対外的にみれば、迎撃にでたカリンが、僅かな時間で、それも眠りこけて帰ってくる形になってしまう。多少の戦果を見せれば、疲労の為に倒れたと説得力もでた。


「(でも戦果が大きすぎて、信じようがない)」


 だが、カリンの挙げた戦果はあまりにも大きい。船団そのものを壊滅させたことを、まだ帝都側に禄な被害が出てないうちから成し遂げた事を、王城で籠城を決め込む貴族たちに証明する手立てが無かった。


「(どこか、帝都にも仮面卿にも見つからない、安全な場所で休ませないと)」

「仕方ない。ねぐらを貸してやるよ」


 再び心を読まれたことに、一瞬苛立ちを覚えながら、その提案は渡りに船であった。


「その様子じゃ起きるのもそんな遅くないだろう」

「どうして、そこまでしてくれる? 」

「そうだねぇ」


 シラヴァーズは恋をして生きる。時にその妖艶な姿で誘い、時に輝く宝石を見に纏いながら、見つけた男を、その一生を捧げさせるように仕向けさせる、船乗りにとって恐ろしい存在。そんな彼女らには恋以外はひどく打算的に動く。ここでカリンを匿う理由が、本来は無いはずである。


「あのメイロォお姉様のお友達なら、今度仲直りの口添えしてくれるかもしれないしね」

「ああ。そういう」


 メイロォ。海の国サーラの中でも、誰も近寄らぬ孤島に住む彼女こそ、遥か昔、サマナが呪いを受けた張本人のシラヴァーズ。クワトロンはメイロォと旧知の仲であるが、喧嘩別れした過去を持つ。

 

 仲直りの為に必要だから助ける。やはり打算の元の行動であった。


「でも、だからこそ裏切らない」

「当然。私達シラヴァーズが裏切る事なんて無いよ」

「男は騙す癖に? 」

「騙す事なんてしない。ちょっと秘密にするだけさ」


 カラカラと笑いながら水の中に潜る。時折顔を出しては、サマナ達の様子を確認する。サマナは、未だ海の上で右往左往している商会同盟軍の動きが気になって仕方なかった。


「こっちだよ」

「もっと目立たないように! 兵士たちに見つかる! 」

「ああ、それかい。それなら」


 ほれ。と言いながらサマナの心配もなんのそので直進していくクワトロン。海にぷかぷかと浮かんだ商会同盟軍の兵士たちは、しかし彼女達を目にすることなく、茫然と空を見上げるだけで、隣を悠々と泳ぐクワトロン達に見向きもしない。


「どうなってるんだ」

「ま、心をちょいとね」

「それ、男にやって自分の都合のいいように操れるってこと? 」

「そんな便利だったらもっと楽できたんだけどねぇ。ほらこっちだよ」


 すいすいと兵士たちを押しのけて進むクワトロン。


《今は従う他あるまい》

「そう、かぁ」

《何か気になるのか? 》

「別に。ただ」


 観念するようにセスのコックピットに収まる。ため息をつきながら、サイクルボードにのり、水面を蹴って、ゆっくりと後についていく。


「シラヴァーズだから、ちょっとおばあちゃんを思い出しちゃっただけ」

《……そうか》

「コウ、肩にかつげる? 」

《出来る》

「そしたらお願い」


 左手を失い、かつコウを肩に担ぎながらであるため、バランスの維持を苦心しながら、2人はクワトロンのねぐらへと向かう。


「(海はなんとかなった……今頃空はどうなってるかな)」



「6番機、遅れてます。2番機、高度が落ちてますよ」


 サマナの懸念していた空の上。編隊を組んでいる航空戦力の一団。


 空の上、かつ雲の中を進む彼らの間では、どれほど声を張っても声が届くはずもない。故に、彼らは独自のサインを出して交信を行うようになっていた。アーリィ・ベイラーの手で行う、ハンドサインである。雲の中でも、編隊飛行中の、比較的近い位置で飛んでいるのであれば、サインを見逃す事も無い。先頭を飛ぶのは、ケーシィ・アドモント。乗り込むのは他のアーリィと違い、紫色の肌をもつ、強化型のザンアーリィ。


「(練度は確かに高くなりましたねぇ。でも)」


 ケーシィは短期間ですでに50人以上の人間に飛行訓練を行い、飛行部隊の教官を務めるに至った。彼女を含め、3機の編隊が計5部隊。15機のアーリィベイラーを指揮している。


「(騎士様、それも副団長だなんて、なんだかソワソワしちゃう)」


 パーム航空騎士団。それが彼女が現状所属している。それも副団長という、奴隷の身分からすれば、大抜擢と言える。それは彼女の能力を仮面卿含め、パーム、ポランド夫人両名が高く評価している部分が大きい。


「(旦那様は第二陣だなんてつまらないなぁ)」


 彼女の不満はただひとつ。今ここにパームが居ない事であった。彼は未だ後方におり、主戦場になろうとしている帝都上空には来ていない。


「(せっかく一緒に空飛べると思ったのになぁ)」


 パーム・アドモント。彼女の雇い主かつ、私的にも夫婦を名乗る間柄である。夫婦生活は短い間ながら存在したが、彼女はかつて、ザンアーリィの暴走によりその記憶のほとんどを失っている。


 ザンアーリィの暴走。ポランド夫人により『バスター化』と名付けれたその状態は、通常7m〜9mベイラーの体を、数倍の50mにまで巨大化させる。質量も同様に増大し、腕の一振りで家屋が吹き飛び、足のひと踏みで軍を退ける。そして、人体化ともいうべき、本来ベイラーが持ちえない器官を生成することも確認されていた。その最たる例が口の生成であり、その口からは、熱線としか言いようのない、直線状に伸びる熱量の塊を吐き出す。ベイラーを戦力と数えたとき、このバスター化した状態のベイラーはまさに無敵の兵士である。


 その代わり、乗り手は生死を彷徨い、記憶の欠落さえ起こってしまう。


「(あの人の事、何にも知らないなぁ)」


 あれから記憶が戻らず、己の名前さえ曖昧だった彼女には、自分の夫を名乗る人物に、最初こそ混乱したものの、記憶を失ってなお無くならなかった彼女自身の楽観によって乗り越えた。


「(いつも苦しそうに眠る、笑い方がちょっと変なあの人)」


 奴隷の身分でありながら、決して悲観することない。


「(帰ったら、何かごちそうを用意してあげようっかな)」


 妻として、彼女がやりたい事は料理に行きついた。彼女のベイラーを動かす乗り手としての才能以外に、料理の腕も確かに含まれていた。


「(たしか、ステーキが駄目だから、魚を使って―――)」


 ふと、脳裏に浮かんだ言葉に疑問を抱く。


「(なんで、あの人がステーキ駄目ってしってるんだろ)」


 些細な、ほんの些細な違和感であった。だがどうにも脳裏にこびりついて離れない。風を切る音が耳を通り過ぎていく。


「(嫌いなんだっけ? それとも、たまたま機嫌が悪かったんだっけ? )」


 思考がわずかに沈み始めた頃。ケーシィの前に別の、彼女の指揮下であるアーリィベイラー、3番機が前に躍り出た。先頭を飛んでいるケーシィに対し、その行動は進路妨害に当たる。舵を切りながら、抗議のハンドサインを行う。


「何をしてるんですかヴァンドレットさん」

「まもなく帝都上空です。作戦ではこれから加速するはず」

「(あれ。もうそんな飛んでたんだ)」


 違和感は距離と状況によって遥か彼方へと流される。上空からの奇襲に際し、速度をあげるのはあらかじめ決まっていた予定であり、その予定が行われない事への確認だった。


「ありがとうございます。でも前にでるのは怖いのでやめてください」

「分かりました。以後気を付けます」

「(ヴァンドレッドさん、やっぱ苦手だなぁ)」


 4番機の乗り手、ヴァンドレッドは、帝都の教えを忠実に守っていた元帝都軍人であった。仮面卿は元々帝都側の人間として長い間振る舞っていた。その振る舞いに同調し、帝都軍人や、科学者、医療関係者まで集まっている。しかしながら、パーム航空騎士団設立に際し、その目的が帝都への反乱である事が告げられると、離反者が現れる。


 その離反者の悉くをパーム自身がどう()()をつけていたかは不明であるが、このヴァンドレットは、数いた帝都軍人の中でも異例の存在であった。彼は、パームに向けひたすらに土下座し、騎士団への入隊を希望したのである。


「(いいとこの軍人さんが、小娘相手に敬語使わなくたっていいのに)」


 彼は、以前の砂漠の戦いで、アーリィの装甲増強機たるアーマリィを駆っていたが、結果は惨敗。それも、相手は子供なおナット・シングとミーンであったために、一部から白い目で見られていた。普段、如何に自分が素晴らしい武芸を身に着けて、如何に素晴らしい国に仕えていたかを声高々に自慢していたからこその、凄まじいほどの信用の暴落であった。  


「(帰ってきたら結局アーマリィは取り上げられちゃって、今やアーリィ、それも一兵卒。なんだっけ。コノエキシ? からずいぶん変わっちゃって)」


 近衛騎士。帝都の守りを司る精鋭部隊であり、その大隊長は、鉄拳の異名をもつシーザァー・バルクハッツァー。ヴァンドレットは彼の指導を直接受けたこともあった。


「(でも、妙に落ち着いてる)」


 ヴァンドレッドの第一印象は、声の大きい感情表現豊かな軍人という評価だった。あながち間違いでもなく、彼を見た誰しもが、いい意味でも悪い意味でもそう捉えるであろうという、非常に特徴の分かりやすい人間だった。だが、敗北と共に、土下座してまで命を惜しんだ後の彼び姿は、どこか冷たく、常に冷静であった。

 

「(さっきも私が予定と違う事をして進言してくれたし)」


 兵士に、冷静さは求められる素質であり、命令を忠実にこなすのは、指揮をする側からすれば何ら問題無い。ケーシィが不気味がっているのは、敗北の前と後で、その態度が全く異なっている事。


「(前より、今の方が、もっと苦手)」


 声の大きい異性。人によってはそれだけで良い印象を与えない。だがそれ以上に、得体の知れ無さを、今のヴァンドレットに感じていた。


「(いけない。集中集中。そろそろ帝都がみえてくるはず)」


 頭を振って意識を切り替えるべく、視界を広く取る。雲の中を抜けると、眼下には帝都ナガラがよく見えた。上空からでは、国の内部が壁で仕切られているのが、さらに悪目立ちする。


「(火が上がってない。陸と海の方は何やってるんだろ)」


 彼女らが空から襲い来る場合、すでに陸と海から侵攻を始め、帝都から戦火が上がっている状態を想定していた。急襲による混乱の最中に、上空から更なる追い打ちをかけるのが、ケーシィ達に命ぜられた任務である。


 だが、いくら目をこらしても、帝都からはまだ戦火があがっていない。かろうじて、門の手前で激しい戦闘が行われている事と、港からなにたら火が上がっている事だけは確認できた。


「ちょっと来るのが早かったかな」


 高度をさげつつ、帝都へと侵入する。帝都の壁は大きくて50mに満たない。2000m以上高い場所を飛んでいる彼女らにとって、壁などなんら意味を持たない。


「予定通りこれから王城へこうげ―――」


 ケーシィが部下に攻撃の指示を飛ばそうとしたとき、自分の後ろを飛んでいたアーリィ2番機が、突如としてその翼が砕け、失速し、墜落していく。


「攻撃中止! 各機散開! 高度を取れ! 」

「「「了解! 」」」


 攻撃命令を取りやめ、編隊飛行を解くように指示を出す。アーリィの乗り手達は混乱することなく、指示を受け高度を上げていく。ケーシィだけが、墜落していった2番機の安否を確認していた。


 翼が砕け安定しなくなった乗り手は、即座にコックピットから這い出て、商人からもたらされて新装備を使い空へと身を投げる。しばらくすると、その乗り手が背負っていたリュックから、白く大きな帆が張らると、一気に落下速度が低下していった。


「(商人って。面白いものかんがえつくなぁ)」


 それこそ、商人の国、アルバト、その王であるライカンがもたらした装備。膨大な布地を幾重にも折りたただ、墜落時用の非常落下傘、現代ではパラシュートである。


 気球を生み出したアルバトは、人間が高所に飛ぶと落下する可能性があることを実体験として身に染みており、それを回避すべく生まれた、いわば必然の道具であった。


「(ひとまず大丈夫そう。でも一体何がおきた? )」


 ケーシィは状況を分析すべくあたりを見回した。


「(さっき、2番機の翼には穴が空いてた。撃たれたんだ)」


 墜落していく2番機を見送りながら、他のアーリィが同じように撃ち落とされていないか確認する。幸い、攻撃をとりやめすぐに上空に避難させた為、誰も2番機の二の舞になていない。これがもし攻撃の指示を出した後であれば、被害はさらに大きかった。


「(対空射撃。でもポランドのおば様以外でそんなことできる人が)」


 長距離射撃は、アーリィ開発者ポランド・バルバロッサの得意とする分野でもあり、飛行できるアーリィと、飛び道具との組み合わせが如何に有用なのかをはじめに見出した人間でもある。そんな彼女は、試作と呼称して自分が実験するためのアーリィを別でこさえるほど、研究熱心でもあった。


 その彼女が買るベイラーと、遜色ない精度と威力を持っている相手が帝都に居る。


「誰だ。一体、誰がそんなことを」


 下から撃ってきたのは射線上理解できる。であれば場所が問題だったが、調べるまでもなく、その場所はよく見えた。帝都を象徴するかのような、国の内部を隔てる壁。その上にベイラーがいた。遠くでもよく見えたのは、そのベイラーの周りがあまりに異様な空間になっている為。


 無数の、無数の弓弩が、ベイラーの手の届く範囲で、無造作に並び立っている。打ち出すであろう、城塞攻撃用のひたすらにふとく頑強な矢に関しては、束にして地面に突き刺している。たしかに矢筒をこさえるよりも、それはずっと効率的だった。


 ベイラーの姿は、緑の肌に、縁に銀色のエングレービング。


 それは空を守るべく出陣した、オルレイト、もとい、黒騎士の駆るレイダである。

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