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戦いの下準備

「訓練が終わったようです」

「全員収容させな」


 帝都より離れた、遥か空の上でソレは行われていた。アーリィベイラー、およびザンアーリィベイラーの慣熟飛行訓練。編隊飛行から急加速、急減速。天候や風向き、乗り手の体力を鑑みても、そう何度も行える物でもない。


「ポランド君。いかがかな」

「……なんだ。起きてたのかい」


 工ベイラー製造の責任者的立ち位置にいるポランド夫人が振り返る。年齢はすでに80歳となる彼女は、どうみても10代前半の少女にしか見えない。アーリィ・ベイラー製造の実験中の事故によってこの姿になってしまった彼女は、現状、成長をすることもなければ、老いてもいない。


「仮面卿。体はいいのかい? 」

「今日は調子が良くてね……おお。アレか」


 仮面、というよりもはや鎧兜で顔を隠した、仮面卿と呼ばれた男が外を眺める。訓練を終え、5人のアーリィベイラーと、ソレを率いて先頭を飛ぶザンアーリィがゆっくりとこちらに向かってきている。空中で均衡のとれた編隊を組んでおり、技量の高さが分かる。


「ずいぶんと動きが見違えたものだ」

「あのお嬢ちゃんが良い先生になった。最初は才能(センス)で操っていたのが、自分の中で理屈として伝えられるようになったのが大きいね。今度はそれを手順(マニュアル)化して教本にできれば、もっと乗り手を増やせる」

「あとは、機を待つだけか」


 仮面卿が帰還するアーリィ達を眺めながらうそぶく。


「あたくしはいいけど。パームの坊やがやきもきしてるよ」

「彼は、少々焦りすぎる所がある。貪欲なのはいい事だが」

「なら諫めておやり。今なら格納庫にいるだろうから」

「うむ……そうだ。このベイラーの名前の件は考えてくれたかね? 」


 脚でコツコツと叩く。このベイラーとは、今仮面卿たちが乗っている、巨大なベイラーのことである。その言葉に眉をひそめるポランド。


「やっぱり、あたしくが決めないとだめかい?」

「一番名付けが上手いだろう」

「そう言われると悪い気はしないけどね……候補はあるんだ」

「ぜひ聞かせてくれ」


 仮面卿は期待を胸にその名を聞いた。ポランドは、その期待に応えれるかどうかを疑問に思いながら、しかしはっきりと答えた。


「ベイラーキャリアード……でどうだい? 」

「存外、普通だな」

「奇をてらって良い事は何にもないからね」

「ベイラーキャリアード。なるほど。悪くない」

「最初からそう言えばいいんだ」


 ベイラーキャリアード。変形機構を排し、ベイラーの輸送、およびその人員の移動を主眼においてつくられた空母である。ベイラーの、代替可能な労働力としてではなく、飛行できる点を着目し、輸送を主な任務とするベイラーは、すでにモル・ベイラーが作り出され、実戦に使われている。だが、人間を複数人運ぶ以上、大きく空洞化する貨物部分の強度が落ちる事や、悪天候時に飛行すると、安定感がなく墜落しやすい等、問題点も多々あった。


 ベイラーキャリアードは、そのモル・ベイラーでみつかった問題点を、サイズを度外視することで強度、積載量共に、半ば強引に解決した、ポランド自慢の意欲作である。三号機までが製造され、現在動いているのは、彼女らの乗っている二号機であった。



《ちょっと。なんで私の方を削るのよ。鎧の方を削りなさいよ》

「は、はいぃ! 」

「おお。君も戻っていたか。龍殺しの」

《あらこんにちは。仮面のおっさん》

「そんなに声を荒げて、どうしたね? 」

《こいつが私の体を削ろうとするからよ》

 

 収容部分にたどり着いた仮面卿が目にしたのは、黒いベイラー、アイが文句を垂れている場面だった。見れば彼女に外装を取り付けようとした整備の者にかみついている。


「外装はお気に召さなかったかな? 」

《私を削るなっていうの》

「で、でも釘も駄目なんて無理ですよ」

《第一、まだ外面なんか気にしないといけない訳? 》

「君もパーム君と同じような事を言うのだね」

《あ゛あ゛ッ!? 》


 明確に怒気を含めてた声で威嚇する。声だけではない。その自在に動く髪を用いて、仮面卿の喉元に刃を何本も生み出し、その全てを突きつけた。


《誰が、あんな男と同じだって? 》

「……ふむ」


 仮面卿はその行動そのものには驚きはせず、ただ刃と変わった髪を指でなぞる。すこし撫でただけで、薄皮を超えて肉が切れてしまい、ツゥっと血が垂れた。


「また、精度を上げたようだ。切れ味も増している」

《……自分がどんな状況かわかってる? 》

「ああ。君の成長を喜ぶ状況だとも。よくぞここまで」


 屈託のない柔らかな声で、そう告げる仮面卿に、状況を生み出した側であるはずのアイが、息をのんだ。乗り手であるパームの事はどうでもいい相手であると認識しているが、ことこの仮面卿と名乗る。バケツのような兜をかぶった男に対しては、終始不気味であるとしか判断ができずにいる。どんな状況でも冷静であり、達観している様子が崩れた試しがない。


「そして、君の髪は今日も美しい」

《……フン》


 髪を誉めた時点で、それ以上の追求をするのが馬鹿らしくなり、刃とかえた髪を元に戻す。スルスルと舞い戻るその様子は、蛇が巣に戻っていく様子を連想させた。


「外装はこの際よかろう」

「仮面卿、よろしいのですか? 」

「彼女の怪我は他と比べて治りが遅い。無理に傷をつける事もあるまい」

《……まるで私が悪いみたいな言い方ね》


 仮面卿が指摘したのは、アイの根本の性質だった。彼女の肌は、並みのベイラー、つまり、本来の通り、ソウジュの木から生まれ出たベイラーと比べても非常に遅く、傷の治りには時間がかかる。抉れるような傷を受けた場合、通常のベイラーを基準として、1日としたところ、アイは3日かかる。


「治りが遅い事に優劣はないよ。気にしてはいけない」

《あの白いベイラーは一瞬で傷を治せるんでしょう? 》

「ベイラーには得手不得手がある。そして総じて、得手がある場合は何かしらの対価を支払っているものだ。どんな対価を払っているかはベイラー事に変わるから、一概にも言えんがね」


 仮面卿が語るベイラーの素質。それは龍石旅団のベイラーにも当てはまっている。足の速いベイラーは元来腕がなく、力の強い者は動きが鈍い。そして体を再生できるベイラーは、時折眠っていつ起きるか分からない。


「何かで帳尻が合うようにできているのだ」

《面倒くさいわね》

「だからこそ、君達ベイラーと我々ヒトは協力できるのさ」


 大仰な仕草で語る仮面卿。その姿を胡散臭く感じながらも、自身の体の事を知るアイは、それが真実であることがなにより煩わしかった。


《何をするのも人間が必要なのは、それでも面倒よ》

「今はそれでいい。いつか君は人やベイラーを超えた存在にだってなれるとも」

《ウザ。大袈裟すぎ》


 仮面卿の言葉を一蹴するアイ。それと同時に、コツコツと足音を立てて歩いてくる男がいる。義足であり、不揃いな靴音だけが耳に残る歩き方をしている。


「おお。仮面の旦那か。久しぶりだな」

「パーム君も久々だね。義足の調子はどうかね? 」

「ようやく慣れてきたころだ。だが踏み込みが甘くなっていけねぇ」


 太ももから上の部分、右足の大部分を切断したパームは、その足のほとんどが義足になっていた。

無論関節を動かせるような高度な義足はまだ世界に存在せず、ただつっかえ棒のように、とりあえず立つ事だけはできるような粗末な義足だった。


「君は1人で動く癖があった。コレを機会に部下を動かす事を覚えるべきだな」

「否が応でもそうするしかねぇか」

「英雄は時にその手を汚さずに事を成す事もある。慣れる事だ」

「……そんなもんかねぇ」


 部下に指示を出す事は過去パームも経験している。だがそれは、自分も動いた上での指示であり、立場に胡坐をかいて自らの手を汚さない、いわゆる策士の動きは、彼自身の性質も相まって経験が乏しかった。今、義足となったパームは、昔のように即座に体を動かしたくても不可能であり、腕そのものが鈍っていない分、歯がゆさが残る。


 指示の出し方や手法を考えようとしたとき、ベイラーキャリアードに帰って来たアーリィベイラー達が収容されてくる。十分な長さの滑走路を確保できない都合、彼らはネットに自ら飛び込んで、キャッチしてもらう、乗り手からすれば心臓が縮み上がる工程を経て帰還する。


 無論、キャッチするネットは耐久性、伸縮性に優れ。機首からしっかり突っ込めば、見た目以上に衝撃はなく、かつ壊れる事も無い。恐怖心に負け機首がブレることで、横から飛び込んだほうが翼が壊れてしまう。慣熟飛行を終えた彼らも、すでに習得済みであり、全員怪我なく帰還してくる。一番先頭で指揮をとっていた女性、ケーシィが声を精一杯張り上げる。


「アーリィベイラー、訓練終了ー! お疲れ様ー」

「「「ありがとうございました! 」」」   

「しっかり水を飲んで、休息も忘れないように。ええと、では、解散です」


 訓練を終えた兵士が散り散りになっていく。ケーシィは自分が乗っていたザンアーリィベイラーの肌を手で触れて確認する。小さくとも、翼に亀裂があればそれは空中分解の危険がある。いつの間にか彼女の中で習慣化した行動だった。それを邪魔しないように、確認を終えるまでじっと待つパーム。やがてザンアーリィを一周してもどってきたケーシィがパームに気が付く。


「だ、旦那様! 来てたんですね」

「よう。教官殿」

「そんな、教官なんて」

「ずいぶん板についたもんだ」

「みんな覚えがいいんです」


 屈託のない笑顔で答えるケーシィ。皮肉の一つでも言おうとしたパームではあるが、その言葉が心の奥底から出ている物だと知り、逆に毒気を抜かれてしまった。


「この際、お前に任せた方がいいか」

「はい? 」


 そして、同時に、パームが提案する。


「連中の指揮だ。お前の方が慣れてるだろう? 」

「指揮って……私が、ですか!? 」 

「そうだ。もうすぐデカい戦いが起きる。其の時、俺はあのゲレーンの姫と、白い奴と今度こそ決着をつけなきゃならねぇ」


 義足の付け根を抑えながら、パームは続ける。その心はアイも同じであり、彼女の黒髪がわなわなと蠢く。


「やられたままで終われねぇ。だが其の時、俺達は白いのにかかり切りになる。とてもじゃないが面倒みきれなねぇんだ」

「私が、みんなのリーダーになるってことですか? 」

「ああ。連中はお前を信用している。俺がやるよりいいだろう」


 パームは単純な信用の足し算の話をしている。今からケーシィ達の教え子たちとパームは知り合いではあるが、腹を割って話すような間柄ではない。その彼らから、信用を手に入れ、指示をだして正確に実行するだけの人員になるには時間がかかりすぎる。ならば、最初から信用を勝ち得ている人員で部下を構成すればいいのだが、パームに限ってはそれができない。


「(クソ。長く居座った連中をいままで悉く殺してきたのがこんなところで裏目に出るとは)」


 彼は、その生涯の中で一時的な徒党を組む事はあっても、仲間ができたことはない。仲間になる前にその相手を悉く消してきた。顔が割れている場合、盗賊であるパームは仲間からの告発を防ぐ目的があった。また、徒党を組む上で金銭が絡んだ場合、即座に金銭の方を手に取る。事実、彼が仮面卿の下に着く際、12人の仲間をその場で惨殺し、分け前全てを自分の手に納めた。


「やれるな? ケーシィ」

「は、はい! 精一杯頑張ります! 」


 パームの思想などお構いなしに、ただパームに仕事を任せられたただ一点で、ケーシィは舞い上がるほどうれしかった。


「旦那様から任せられたお仕事! がんばらなきゃ」

「(……能天気なもんだ)」


 もし仮面卿の存在がなければ出会う事さえなかったであろうふたりの間には、決して埋まる事のない溝がある。その溝こそ、パームの生き方の証明であり、その生き方で、盗賊の身ながらも、捕まる事無く、生き残り続けた。しかし、その彼を別の視点で見る者がいる。


《あんた、もしかしてボッチ? 》

「意味は分からねぇが、馬鹿にしているのはわかるぞ」

《よく分かってるじゃない》

「てめぇ! 」


 ぼっち。独り身であることの侮蔑語である。


《というか、最初から盗賊だったの? 》

「……」

《なんとか言いなさいよ》

「それを知ってどうする? 」

《アホらしい過去だったら大笑いしてあげる》

「……言ったな? 」

《言ったわよ》


 しばしの無言の合間を挟み、先に動いたのはパームだった。強引にコックピットに乗り込み、乱暴に座り込む。


《嘘? 本当に身の上話するわけ? 》

「話すよりも簡単な方法がある」


 操縦桿を握る。意識と視界の共有。そして、共有は記憶にも及ぶ。


「……」

《何よ、やるなら早くやりなさいよ》

「うるせぇ。少し黙ってろ」

《……まさかあんた》


 一瞬感じた予感を、パームが蓋をするように喚く。


「黙ってろ!! 」

《―――ふざけんな》


 だが、それをさらに覆すようにアイが動いた。右手を動かし、そのコックピットへと指を沈みこませる。そして、胴体の中にいるパームを、死なない程度に握りしめた。アイの右手には、乗り手を殺すための刃が、爪のような形で埋め込まれている。その刃が体にあたり、切り裂かない程度に調節する。神がかり的な精度であるが、握りしめられたパームはたまったものでは無い。


「何しやがる! 」

《今さら怖気づてんじゃないわよ! あんたは言った! ここで終わっていいのかって! 私の髪を切れって迫ったあんたが、今さら自分の過去にビビってるんじゃこれから先は無いわ! 操縦桿を握らないなら、今ここで殺してあげる。そのほうが苦しまないで済むってものよ》

「……」

《それとも、あの時の言葉はでたらめだったって訳? 》

「……いいから、手を放しやがれ」

  

 パームの言葉を聞き、ゆっくりと手を引き抜く。


「俺様を脅した事を後悔させてやる」

《お生憎様。後悔なんか生まれてからずっとよ》

「口の減らない奴だ」


 パームは、己の蓋をした過去を向き合うべく、操縦桿を握りしめた。意識と視界が共有され、そして最後に、記憶を思い起こすことで、思い出を共有する。それは、パームのこれまでの軌跡。それを知ったアイは、受け入れるのに時間がかかった。


《……》

「なんか言ったらどうだ? 」

《……》


 アイは、明確に混乱していた。過去の閲覧によって、パームへの認識が多少変わると思っていたかの彼女は、しかし、過去の記憶を眺めた上でなお、全くもって人物像が変わらない事に、素直に驚いていた。


《……へぇ! へぇ! そういう事!? 》

「なんだよ」

《いやぁ。意外だわ。すっごく意外》

「何がだ」

《あんたの性根が、過去のどこで曲ったのかが、ほんのちょっぴり気になってたのよ。盛大に同情してやるフリして馬鹿にしてやろうって》

「……」

《あんた、最初から()()なのね》


 盗賊になった理由も、なぜ貴族の振る舞いを身に着けているのかもアイは、理解した。だが、そんなことはこの男には些細な事だった。


《奪わないと気が済まない。奪われるのが許せない。それだけなのね》

「……最初からそう言ってるだろうが」

《ええそうね。何も変わらないわ。笑い話にもならない。ただ―――》

「た、大変です! 」


 突如として、解散したケーシィの部下が戻ってくる。相当慌てていたのか、報告すべき上司をさがしていたようで、服は乱れ、汗はとまらず、息が荒い。


「なんだ」

「ぱ、パームさん! この船に接近する機影があります! 」

「機影? アーリィじゃねぇのか」

「違います! もっと丸い、変な物です! 」

「……詳しくおしえてくれるか? 」


 傍らで控えていた仮面卿が詳細を聞こうとしたときである。


 ベイラーキャリアードが突如として横揺れを起こした。


「今度は何事だ! 」

「正体不明の、変な物がぶつかりました! 」

《……ねぇ。正体不明っていうのは、まさかアレ? 》


 アイが指をさすと、外から見えた物に対して、その場にいた全員が固まった。


 ベイラーキャリアードと同じ高度に、同じ大きさの、しかしまったく違う物が複数の浮遊体が飛んでいる。長い長い筒を浮かべたような外見で、明確な推力らしいものは見当たらない。すでにベイラーキャリアードに接触してしまった浮遊体は、弾かれたように地面へと真っ逆さまに落下している。全員がその正体に対して混乱に陥っている中、アイだけがその外見に答えを出した。


《嘘。気球じゃんアレ。でもだいぶお粗末ね》

「き、ききゅう? なんだそりゃ」

《袋に空気をおくりこみ続ける事で空を飛ぶ乗り物よ。この船と違って推力がないから、風任せだし、速力はでないしで戦いに使う事なんでできないけど、まぁ飛ぶってだけでだいぶすごいわね》


 ベイラーキャリアードの周りに、ちいさな気球が現れたのである。その数10ほど。翼を持たない彼らは、キャリアードの進行方向に邪魔をするような形で割って入っている。結果、接触し気球が割れ、すでにいくつもの気球が墜落の憂いをみている。


《そういえば帝都でもガス灯つかってたから、まぁどっかしらで精製されたガスはあるのか……ガスがあれば気球がつくれなくもない? ……でもノウハウなんてないだろうし、だいぶ無茶をやってるわね……あ。また堕ちた》

「その気球がなんでこんなにきてるんだ」

《私が知るわけないでしょう! 》

「いや、あの印は……アルバトの物だ」

「アルバトぉ!? なんで商人崩れがあんなものを」

 

 巨大商業国家アルバト。帝都とならび栄える彼らは、その貿易によって莫大な利益をえている。その国の印をつけた気球が、あろうことかベイラーキャリアードと物理的に接触している。


「みていられん。アイ君、パーム君。あれらすべて撃ち落とせるかね」

「できねぇ事はないだろうが、いいのかよ? 」

「今は機を待つ時期だ。へんに事を荒立てたくない」

《……向こうはそうじゃないみたいよ》

「何? 」


 一つの気球が、まっすくアイたちのいる格納庫へと突っ込んできていた。迎撃した場合、進路上にはアイたち自身がおり、そして、もしアイの言う通りガスを用いた気球だった場合、爆発する場合もある。


《突っ込んでくるわね》

「急いで開けろ! 」

「旦那!? 」

「一体だれが、この空にあがって来たのか、それが気になる! 」


 仮面卿の鶴の一声により、格納庫の扉が開かれる。誘導灯等も無いきわめて着陸の難しい構造であり、そもそもアーリィ達は網で捕まえるため、格納庫に直接着地する事はない。気球は、自分を受け入れる先を見つけたのを喜ぶように、魚が川をさかのぼるように、勢いよく飛び込んでくる。ここで、ようやく気球の全体像が明らかになる。大きさはベイラーとさほど変らず、籠は1人乗りであり、また気球を膨らます装置がその籠に張り巡らされている。


《(如何にも急造品って感じね)》


 アイは入って来た気球をそう判断した。そして、気球はほぼ墜落と変わらない形の着陸をおこない、中から人間が放り出された。その人間は最初、強かに体を打ち付け、うめき声をあげながらも、しかし確かな意思の元立ち上がり、全員に礼を行った。


「受け入れ、感謝いたします」

「……驚いたな。まさか」


 その人物に、仮面卿が、そしてパームが驚く。浅黒い肌に波打つ短い黒髪。大きな目は、幼さを感じさせるよりさきに、欲深さで染まっている。


「アルバト王、ライカン殿ではありませんか」

「はい。あらたな商売をお話をしにまいりました」


 ライカン・ジェラルドヒート。通称奴隷王が、自らの手で、仮面卿とコンタクトを計ったのである。それは、商業国家アルバトが長年同盟を組んでいた帝国に反旗を翻す行為であり、そして仮面卿をもってしても、思わぬ援軍であった。






 

Xデーが近づきつつあります。

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