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揺れ動く政治


 カリンが、カミノガエの手をとったその日、国境付近での戦いで、鉄拳王の異名をとるシーザァーが負傷した。選りすぐりの近衛兵たちも命を落としたことで、その報は瞬く間に帝都に広まっる。シーザァーは王城にそなえらた私室で横になりながら、中庭の風景を眺めていた。すでにあれから三日経っている。


「まさか、貴方様が見舞いに来てくださるとはおもわなんだ」

「お体はどうなのですか?」


 シーザァーの元に、カリンが見舞いに来ている。ささやかな品としての花と果物を手にしてきた彼女がみたのは、両腕の自由がきいていない、痛々しいシーザァーの姿だった。


「骨をキレイに折られましたが、拳は使えるそうです」

「それは、よかった。本当に」


 カリンの言葉は、決して同情からきているのではない。まだシーザァーの戦う術が残っている事へ、心の底からでた安堵だった。同じ武芸者として、その道が断たれる事へがどれほど苦痛であるかは、考えるまでもなかった。


「しかし、中庭がずいぶん賑やかになりましたな」

「ああ。あれは」


 王城の窓から見下ろすと、カリン達が最初に止まった質素な宿舎とは別の、城よりは小さいとはいえ、人が住むには十分豪華な、三階建ての屋敷が建築されている。


「なんでも、陛下が、貴方の働きに報いる為に建てられるとか」

「その、ようなんです」


 カリンが困ったように笑う。


 突如として建造が始まったその建物は、カリンとその父、ゲーニッツに対してのささやかな返礼であるとされている。だが、実情はそうではない。


「(たぶん、私をあそこに住まわせる気なのよね。アレ)」


 カリンの、あくまで推察である。だが、あの日から、皇帝のカリンに対する待遇があきらかに変わってきている。


「(龍石旅団のみんなには個室があてがわれるし、衛兵までついてる)」


 シーザァーが休む部屋のドアには、カリンの御付きになった衛兵が姿勢正しくその出入口を守っている。カリンだけではない。オルレイトにも、サマナにも、他の全員例外なく1人づつの衛兵がついている。これに大いに困惑したのは、長年城勤めだったマイヤである。従者の立場である自分自身に従者が付くのは生まれて初めての事であり、ともかく落ち着くことができない。


「(好意なのか、それとも監視が目的なのかは五分五分といったところね)」


 従者がいることで、身辺のほとんどを代行されている。そして代償として、ほぼ一日、衛兵が付き添っているため、1人でゆっくりする時間というのが無かった。シーザァーの為にカリンがもってきた果実も、彼女が市場に買いに行こうとして衛兵に止められ、代わりに買ってきたものだった。


「聞いたところによれば、カリン殿は座礁した我が国の商船を助けたとか。いやはやお見事。それに比べて、この身の、なんと情けないことか」


 自由に動かなくなった両手と、カリンとを見比べ、シーザァーが悔やむ。両手を握りしめられるようになるのにも、まだまだ月日が必要だった。


「賊に、見逃されるなど」

「そのことで、お話があるのです。その賊の、ベイラーについてです」

「賊の? 」

「はい」


 神妙な面持ちになり、カリンが佇まいを正す。シーザァーも、外を眺めていた視線をカリンへと戻した。


「ここに来る前に、シーザァー様のベイラーをみてきました」

「アレックスを? 」

「ああ、お名前があったのですね」

「勇猛な名をつけたつもりです。して、アレックスが、どうかしましたか? 」

「シーザァー様。あのベイラーには外傷らしい外傷はありませんでした」

「そうでしょうな」

「ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 」


 カリンの質問は、ベイラーの乗り手であれば当然たどり着く疑問だった。ベイラーの乗り手は、コックピットの中にいるために、ベイラーに外傷がなければ傷つく事はない。例外は、ベイラーが落下、もしくは転倒に類する何かが起きたために、中に居た乗り手が揺さぶられて怪我をする場合である。カリンもそれはすでに何度も経験していた。


「(もし、私の想像がただしければ)」

「信じてもらえんでしょうが」


 シーザァーの目に焼き付いたベイラーの姿と、その所業を淡々と説明していく。最初は、他のベイラーと変わらない一つ目出会った事。ベイラーごと、没落貴族たちの経てた簡易的な要塞を火計にしようとした事。そして、その火計で唯一、そのベイラーだけ立ち上がった事。


「皮がむけたように、ベイラーの中から別のベイラーが現れた」

「別の、ベイラー? 」

「そのベイラーは、夜よりも暗い黒色をした肌をしておりました。あのベイラーのために、私の部下は2人が重症。1人は、帰らぬ者に」

「黒い、肌をしたベイラー」


 カリンの想像が、現実のものとして現れた事を感じ取る。カリンの知る限り、乗り手を直接殺害しようとするベイラーに該当するのはただ一人だった。


「あの黒いベイラーは、コックピットにいた私をその手で握りつぶそうとしたのです」

「……黒いベイラーは、アイという名です」

「アイ? 」

「私は、そのベイラーと、何度か戦った事があります」

「何ですと?」


 シーザァーが驚愕する。カリンがあの黒いベイラーとすでに戦った事に、その上で今こうして対面している事実は、カリンがその戦いで生還したことを示している。


「あのベイラーと戦い、よく、ご無事で」

「コウがいなければ、私は生きていないでしょう。それに」

「それに? 」

「その身を挺して守ってくれた友人のおかげです」

「そうで、ありましたか。申し訳ない。答えにくい事を」

「いいえ……シーザァー様。不躾と承知の上で、お願い申し上げます。」

 

 あのベイラーと戦いで、失った物が大きい。だが、2人は生き残った。その一点の共通点が何より信用の証となった。


「アイと、その乗り手の一派は、この帝都を狙っております」

「帝都を狙う? 攻め墜とそうというのですか? たしかに、あの黒いベイラーは強大。だがたったひとりでは何ができましょうか」

「もし、たった一人ではないとしたら? 」

「……どういう事でしょうか? 」

「これから話すことは、どうか公になさらぬように」


 カリンは、少しずつ、少しずつ話はじめた。黒いベイラーがどんな力を持っているのか。空を飛び、物を破壊し、人を殺す。そしてその乗り手であるパーム・アドモントが如何に危険な人物なのかを、丁寧に丁寧に告げていく。


「パームには、すでに軍に相当する数と力があるとみて、間違いありません」

「……戯言を」


 一瞬、カリンの顔が曇った。しかしそれもある種想定通りである。黒いベイラーの元に、この帝都を攻め墜とそうとする勢力が存在しえるなど、ましてや、その帝都の守りを今まで担っており、その力に絶対の自信を持っているシーザァーに同意を求める方が、無理からぬ話であった。だが。


「と。三日前の私であれば一蹴しておりましたでしょう。ですが、この目で、あの黒いベイラーを見てしまえば、信じざる負えません」

「では! 」

「このシーザァー。どんな事でもお手伝いしましょう」

「ありがとうございます! 」


 一礼の元、カリンは全霊の感謝を伝えた。龍石旅団のメンバー、父、義理の兄。それ以外で明確な味方側の貴重な仲間である。


「まず、そのお怪我を治してくださいませ」

「ハハハ。そうですな」

「長年、帝都を守ってこられた鉄拳、頼りにしております」


 カリンが握手をしようと手を伸ばしたところで、シーザァーの手は包帯に巻かれまったく動かせない事に気が付き、その上に添えるだけにとどめた。シーザァーにとってその行動は一瞬虚を突かれるものの、素直に受け入れる。


「カリン殿は、この後はいかがなされる? 」

「このあと、マイヤと待ち合わせを。中庭で作業している人たちに差し入れをしようかと」

「そうですか。では、ひとつ、このシーザァーのささやかな忠告を」

「はい? 」


 添えられた手に折り重なるようにして、シーザァーが手を重ねた。


「このような仕草は、若い男には毒になります。慎んだほうがよい」

「ど、毒? 」

「カリン殿は、魅力的な乙女でれば」

 

 シーザァーはにっこりと笑い、そのまま手を放す。カリンは一瞬言葉の真意をくみ取れずに、首をかしげるも、すぐに手を引っ込める。


「わ、私はそのようなつもりは」

「何、若い男にそのような事をしなければいいのです。お気をつけなさい」

「わかりました。気を付けるようにします。それでは、シーザァー様。また共に」


 カリンが己の国の挨拶を交え、その場を後にする。


「……若さ、か」


 シーザァーは自らの口から出た言葉で、失笑する。


「歳をとった物だな」


 すでに40歳を超える年齢のシーザァーにとって、10代の肌を触る事機会などなかった。ほんの忠告のつもりであったが、カリンの手のひらに触れた瞬間、包帯越しでもわかる、若い人間の肌つやと、己の皺のよった肌との差に愕然としていた。


「だが、見事な剣ダコであった」


 カリンの手は柔らかいだけではなく、剣の修練を積んだしか得る事の無い剣ダコができている。それは、シーザァーが今まで見てきた貴族の令嬢達。ドレスを着て謡い踊る、彼女らの華々しさとは、全く無縁の存在であった。そして、その剣ダコこそ、シーザァーがカリンに手を貸してもよいと思わせるだけの説得材料足りえていた。


「武芸者としても、カリン殿は、賞賛に値する人物である……まずは、治さねば」


 今はまだ力なく垂れる鉄拳に、僅かながら力が戻っていった。



「あのぉ、秘書官様。この設計で本当にいいんですか? 」

「問題ない」

「で、でも、こんな高い建物なのに、ほとんど階層がないなんて」


 中庭で作業している兵士が、指揮の元で建物を作っている。兵士は有事の際の戦力であるが、平時、つまり平和な時は大工をするのが主な仕事であった。建物を作るには男手は必須である。その点兵士は皆鍛えており、力自慢が多い。『帝都人』と俗に言われる、身長も高く、手足もすらりと長い人種としての特徴も手伝い、帝都の兵士の質は良好だった。


「この高さの屋敷なら、三階建てくらい余裕ですよ」

「人間が入る場合に限る」

「はい? 」

「この屋敷を利用するのはベイラーも含まれるのだ。いいから働くがいい」


 コルブラットの言葉に、不満げながらも頷き、兵士たちは作業を続けていく。人間の三階建て相当の建物であれば、ベイラーでも中に入る事ができる。その配慮は、ベイラーと同居しなければ出てこない発想であった。


「(一度進言したとはいえ、事が容易に運びすぎている)」


 職人に設計図を描かせ、材料をあつめ、人を集め、着工をはじめたのは今日の午前の事である。兵士たちにとって建造など朝飯前であるが、慣れない図面に四苦八苦しながらも材料を切り、運び、組み立てていく。


 なお、カリンを皇帝に嫁がせる案を考えたのは、他でもないこのコルブラッドである。特段カリンでなければならない理由はなく、単に手短な、かつある程度格式のある御家柄で若い娘に該当するのがカリンであった為である。


「(もし婚姻がご破算になったとしても、この建物はウォーリアーやパラディンの格納庫にしてしまえる。それはいいのだが)」


 カリンの予想は正しく、現在建築中のこの離れには、カリンと、そしてコウが住むことが想定されている。


「(こうもすんなり、陛下が離れの建造にお許しが出るとは)」


 コルブラッドが驚いてたのは、この離れの建造許可のスピードである。3日前。シーザァーが倒れた報と損失、戻って来た商人が仕入れてきた品の選定と用途を定める雑務の中で、この離れの建造はもっとも最後に回されていた作業だった。それが、二日前に、皇帝が直々に、離れの建造について言及したのである。『離れは、出来るだけ急いで作れ』と、まるで朝食のメニューを問うような気軽さで、さらっと認可が下りた。


「(普段であれば、もっと質問が飛んでくる物だが)」


 皇帝カミノガエは、その怠惰な態度とは裏腹に神経質である。その作業が果たして有益かどうか。他に進めなければならない作業が本当にないのか。無駄を嫌い、余裕を好む。こと、軍備の強化を急務としており、優先事項は常に軍事に関する事ばかりであった。それが、軍に全く関係なき建物、それも相当な兵士の数を割く必要がある建築に対して、即座に許可が下りるのは、近年でも異例中の異例だった。


「(シーザァーが倒れた今、軍備の増強をさらに推し進めるものとばかり)」  

 

 軍備の強化といってもその内容は様々である。兵士の使う武具をそろえるのか。新たな武器を強いれるのか。それとも新たな兵を集めるのか。兵士は維持するのにも費用が掛かる。体を動かす彼らの腹を満たすには必要以上の食料が必須であり、下手な料理人を使えば兵士は逃げてしまう。手を付けはいくらでもあった。その中での、この離れの建造は、コルブラッドにとっては違和感のある許可であった。


「(まぁ、全く無関係という訳ではないのだから、良いとするか)」

「秘書官様! 午前の作業が完了いたしました」

「ご苦労。各自食事をとれ」

「は! 」


 きびきびと動く兵士たちの質に、コルブラッドは及第点をつけていた。午前中の終えるべき作業を終え、報告にもミスがなく、滞り無い。


「(この調子ならばひと月もかからず終わるな)」


 進捗に満足しながら、食事をとろうと作業場を後にしようとした時、兵士が空を見上げてざわめいているのを目にする。


「騒がしい。何事だ」

「秘書官様、なんかこっちにきております」

「なんか……?」


 コルブラッドが、周りの兵士と同じように空を見上げると、白い雲から突き抜けるようにして一つの線が走っているのを見つける。最初は鳥のようなシルエットから、空を羽ばたく鳥にもみえていたが、やがてこの中庭に向かって飛んできたことでその正体が明らかになる。


「こっちに突っ込んできます! 」

「ああ。アレは大丈夫だ」

「はい? 」


 すでに、コルブラッドはその姿を知っていた。そして中庭にゆっくりと降り立った二人のベイラーー―――変形し、人型になったコウの中から、カリンが出てくる。


「ごきげんよう。秘書官様」

「カリン・ワイウインズ。我が国の空を飛ぶのを許可はした。だがこうも無遠慮に振る舞うのは、今後控えていただきたい」

「わ、わかりました」


 ぴしゃりと言い放つコルブラッドに二の句が継げなくなるカリン。まだこの世界には制空権や領空の概念は存在せず、故に壁で国を仕切っている帝都にとって、空を縦横無尽に飛び回るカリン達の衝撃は大きかった。剣聖のベイラーであるグレート・ブレイダーはその姿のほとんどは落下か上昇のみであり、目にする絶対数が少ない。


「して、何用か」

「そろそろお昼時かとおもいまして。兵士の方々に差し入れを」

「差し入れ……ふむ」

「サンドイッチです。手の込んだお料理よりも、手軽に食べられるものの方がよいと思いまして」


 カリンが、いくつかのバスケットを開ける。そこには、新鮮な野菜と、干し肉を挟み、香辛料を利かせたソースがかった、サンドイッチというよりは、ハンバーガーに近い外見をした食べ物だった。


「味は、大丈夫です。マイヤにも手伝ってもらいましたから」

「人数分があるとは思えないが」

「大丈夫です! コウの中には一杯ありますから! ね? 」

《崩さないように飛ぶのに苦労したよ》

「本当はお茶もご用意できればよかったんですけど、水が用立てできなくって」

「……」

 

 バスケットの中にある物と、コックピットにあるであろう量をを考え、コルブラッドが簡単な計算を弾く。カリンが見せたサンドイッチの下たるソースは、汗をかいた兵士にとって良い塩分補給になる。だがそれはそれとして、水分を補給する術が別途必要だった。


「こちらでお茶を淹れましょう。兵士に火を起こさせます」

「そ、そこまでしていただなくても」

「ご婦人が用意していただいた品です。帝都には良い茶葉があるのです」


 コルブラッドは兵士を何人か呼びつけ、火をおこさせる。コルブラッドの指示を聞いた兵士は最初耳を疑ったが、コルブラッドの冷たい視線に縮み上がり、反対意見を言う事なく、即座に行動に移した。兵士たちも、まさか大工仕事中にお茶が飲めるとは思っておらず、それもコルブラッドが出した指示だとは思っていなかった。よくて水が出ればいい。出なければソレを理由に手を抜く算段さえしていた。


 やがて、火がつき、湯を沸かし、人数分に行き渡るように大量の茶葉を惜しみなく投入した頃には、すでに昼間を超えていた。甘辛いソースでまとめられたサンドイッチは、熱いお茶と相性がよく、瞬く間にバスケットの中が空になっていった。だが、舌を満足させた兵士たちの次の懸念は、この突然生まれたロスタイムによって、今日の午後の作業が、後ろ倒しになる事で夜遅くまで作業が伸びる事であった。そうはなるまいと、カリン達の差し入れによって活力を得た兵士たちの働きは目を見張る物があった


「手を休めよ」


 夕方、コルブラッドの最後の指示が飛び、一番驚いたのは兵士たち自身であった。結局、差し入れ効果によって捗りに捗った彼らの働きは、三日分の作業を完了させていたのである。しかし兵士たちは、達成感とは裏腹に、暗い影が覆っていた。明日から、同じ要領で、一日で三日分進めるような作業量をこなせと指示される可能性に気が付いたのである。


「諸君。よく働いた。明日は、休みにする。明後日、今日と同じ時間にくるように」


 故に、コルブラッドの言葉に、おおきな歓声が沸いた。彼らはそのまま、明日の休みをどう過ごすかを考えながら帰路についていく。作業の様子を見守っていたカリンが、思わずつぶやいた。


「コウと一緒ならもっと速く終わりますよ? 」

「それでは意味がない」


 ぴしゃりと、コルブラッドが遮る。


「彼らの世代は、まだ経験が浅い。ゆくゆくは彼らが指示をださねばならない」


 その言葉に、カリンは思わず頬が緩んだ。


「良かった」

「……何? 」

「陛下の御傍に、貴方のような方がいれば、心強いでしょう」


 それは、嘘偽りない評価であった。空になったバスケットをあつめその場を後にしようとするカリンであったが、コルブラッドがどうしても気になっていたことを問う。


「カリン・ワイウインズ。御付きになった衛兵はどうした」

「―――」

「答えよ」


 空を飛ぶ事を許可した後に、カリン達に衛兵が付いた。ほとんどの行動は衛兵が代行するように手配したのも、またコルブラッドであった。その衛兵がカリンの傍にいない。


「まさか振り切って」

「秘書官様! また共に! 」

「まだ話は」

「コウ! 速く! 」

《お任せあれ》


 コウのコックピットに素早く飛び乗ると、サイクルジェットの推力を用いて、あっという間に空へと逃げ去ってしまった。コルブラッドは、ジェットの勢いで吹き飛ばされそうになりながら、中庭に来た時とは逆の手順で去っていくベイラーを見て、思わずため息をついた。


「厄介な……あれでは鎖でつなぐことでもできまい」

 

 空に走る一条の線を見ながら、コルブラッドもその場を後にする。


「だが、あの陛下の妃ならば、あるいはあの位が良いのやもしれぬ」


 最初は、闘技大会の挑戦者を増やすためのただの当て馬だった。次には、世継ぎを生むにふさわしい、適当な家柄。だが、今日、こうしてカリンと会話したコルブラッドは、存外、それが悪い選択肢ではないと考え始めていた。


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