ベイラーと錆
カリン・ワイウインズに突如訪れた嫁入り話。心構えもないまま、その真意を図るべく、カリンは父ゲーニッツに連れられながら、ついに皇帝との謁見が叶う。
「コウは今頃、どうしているかしら」
今すぐに、相棒のベイラーと話がしたかった。だがカリンは王城の外に出る事が許されることがなかった。皇帝に謁見するにあたり、まずは身ぎれいにすることと、身辺の調査がなされる。ゲーニッツは以前にも謁見しており、その調査はすでに済んでおり、二度目ともなると事務的な手続きもスムーズに終わっている。
「あなたと、お話がしたいわ」
謁見初回であるカリンは、調査という名目で半ば軟禁状態であった。窓辺によりかかりながら外を眺める。降り注ぐ暖かな日差しは外には無く、あいにくの雨であり、とても薄暗い。
「(……でも、なぜ私なのだろう)」
カリンは、己の身が、数多の保身に走る権力者たちによる、態の言い道具になっていることを知り、ずいぶんと虫唾が走っていたが、皇帝が寄越した手紙には、不思議と他の者たちが書いた物と雰囲気が違っていた。無論それは文体や、文末に添えられた、皇帝直々の血判があった事も大きな要因である。
「(他の方は誰一人、血判を使っていなかった。他の方は私を娶るのに、わざわざ自分の指の腹を切るまでもない訳ね…‥‥でも、皇帝は違った。でも、なぜ? )」
カリンには、皇帝が自分を選んだ理由に、皆目見当がつかなかった。
「……今からでたら、怪しまれないかしら。でもいいわよね。自分のベイラーに会いに行くだけなのだから。きっと許してくれるわ」
じっとしていることに耐えきれず、兵士がいないのをいいことに、ついにカリンは王城を駆け出して行った。
◇
《酷い雨だ……体が重い》
《コウ様、もうすぐ宿舎ですから》
雨で陰鬱な気分になっているのは、人間のカリンだけではなかった。間仕切りもない、ただ広いだけの宿舎に無理くり押しこまれているベイラーである2人もまた、己の乗り手に会えない事に不満を抱いていた。コウの隣にいるレイダも、それは同じ思いだった。
《しかし、調査と言ってましたが、何をしらべたのでしょうね》
《さぁ。刃物でも隠してあるんじゃないかって疑われてるんだろ》
《隠すような隙間があると思っているのでしょうか》
《思ってるんだよ。ここの人たちベイラーの事何にも知らないし》
カリンの関係者であることと、そのコウの同室という事で、レイダも調査という名目で全身をくまなく調べられる。だが叩いても木屑以外は何も出てくることはなく、結局は最初からコウが主張するように、なんの問題もなく、宿舎に舞い戻る形になった。
雨の中、体がこれ以上ぬれるのを避けるべく、小走りになる。ようやく見えた宿舎にレイダはすんなり入っていくが、コウはその入り口で足踏みしてしまう。
《おっと、危ない危ない》
《コウ様、お早く》
理由はその体にある。そのまま入ろうとすると、コウの肥大化した両肩が入り口のフチに当たってしまい、入り口からはじき出されてしまう。事実コウは、そのことを何度か失念し、盛大に体をぶつけすっ転んでいる。だが、彼もベイラーの体になって一年以上。すでに回避方法は思いついていた。それは簡単ながらも、どこか姿が間抜けだった。
《よっ! っは! 》
《もうちょっと、なんとかなりませんかソレ》
《こうしないと入れないからしょうがないだろう! 》
《それは、そうなんですが》
その方法とは、体を横にむけ、カニのように横歩きで入っていく事だった。シャカシャカと動くさまは、あまり優雅とは言えない。だが体をぶつけて転ぶよりはましであった。
《……よし! 通れた! 》
《こうしてみると、ゲレーンのお城は大きかったのですねぇ》
城の構造。人間が住むのであれば、屋根の高さはもちろん、入り口ひとつとってもすべて人間用である。それはなんら不思議な事ではない。だがことゲレーンで長い時を過ごしてきたコウやレイダにとって、この王城はあまりにも不便であった。ゲレーン城は元は巨大な樹木であるソウジュの枯れ木を利用し、ベイラー用の空間、人間用の空間、共同の空間とみっつの区分が別れながら、城の中を快適に移動できた。
《さて体を拭いて……おや》
《何かあった? 》
《いえ。アレを》
レイダの視線を追いかけると、そこには外で雨ざらしになっている者がいる。ぬっと佇むその姿に、2人は見覚えがある。
《パラディンベイラーだ……あーあー。雨ざらしにしちゃって》
橙色の派手な着色に、鎧を釘で打ち込み重装化し、さらにその鎧には金のエングレービングまで施されている、遠目でも目立つ、近衛兵仕様のベイラーである。コウもその姿はこの城で何度も見ている。その派手なベイラーが三人。片膝をついて沈黙している。
《こうして見ると、あまり私達と違う所はありませんね。ただ》
《ただ? 》
《やはり、お顔が不気味です》
レイダが自分の目を指す。バイザー状になっている顔と違い、人工ベイラー達はそのほとんどが一つ目で、レンズ上のぎょろぎょろした目である。パラディンベイラーもその例にもれず、一つ目であり、その顔は、やはり見る物に不安感を煽る。
《パラディンベイラーの鎧って、俺たちも着れるのかな》
《コウ様は肩が邪魔で無理でしょう》
《そっか。レイダさんは着た事ある? 》
《私は……体が重くなるのが苦手で……このあしらいだけで十分です》
そう言ってさするのは、自分の両肩に施された、銀でできたエングレービング。レイダの肩を掘り、その溝に銀板を押しこみ、その銀板に彫刻されている一品もの。オルレイトがレイダに贈った物である。金ではなく銀にしたことで、よりレイダの深緑が映えている。
《俺もソレやってもらおうかな》
《職人なら紹介できますので》
《カリンの気分次第かな……さて》
《どうしたのです? 》
《どうって、あいつらを雨ざらしにするわけにもいかないだろう? 》
《……そうですね。すこし手間ですが、まぁ2人掛かりなら、なんとかなるでしょう》
コウは、この雨の中屋外で放置されているパラディンベイラーを不憫に思い、この宿舎の中に移すことを決めた。レイダも、その不憫に思う気持ちは同じであり、即座に手伝う事を約束する。
《5人か……広さは平気だ》
《では、お先にどうぞ。どうか肩をぶつけませんように》
《ぶつけないよ》
先ほど入って来た時と同じように、カニ歩きの要領で歩くコウ。コウが出ていったのを見送ってから、レイダもその後に続く。宿舎のすぐ近くで放置されていたパラディンベイラーは5人。全員が膝立ちの状態であった。人が乗り込むには適した姿勢だが、こと運ぶのには難儀する。
《(……両脇から手を差し込めば……なんとか)》
出来る限り振動を与えないように、背後から両脇に手を差し込み、羽交い絞めのようなかたちでパラディンベイラーを立たせる。だがコウの想像以上にパラディンが重く、前にすすむのさえ苦労する。レイダもコウと同じように運ぼうとするも、重さに負けて立たせることができない。
《よ、鎧が重すぎる》
《コウ様。ここは担架を使いましょう。独りでは無理かと》
《賛成! そうしよう! 》
コウが両手を広げ、サイクルを回す。雨に濡れるのを気にしながら、棒と板を組み合わせた形状である担架を作り上げる。簡易的ながらもしなやかで丈夫に出来上がったそれをみて、コウがため息をつく。その出来栄えをみたレイダも、同じように感嘆の声を上げた。
《ずいぶんお上手になった》
《まぁ、あれからいろいろやってるからね》
《最初は物を乗せたら底が抜けたりしましたね》
《よく覚えてるなぁ!? 》
恥ずかしさと気恥ずかしさで声がおおきくなりながら、パラディンを担架に乗せる。ずしりと重い手ごたえを感じながらも、レイダとコウの2人であれば、難なく運び出す事が出来る。えっちらほっちらと運んでは宿舎に雑に転がし、また運んでは転がす。運んでいる最中にパラディンのエングレービングが削れた音がしたが、2人はその音を聞かなかったフリをした。
《お、終わった》
《雨がつよくなってきました……これは今日はもう外に出ない方がいいかもしれません》
《風もあるね。この国壁があるからちょっとの風も巻いちゃって大変だ》
《はい。ベイラーがここに長居しないのも無理ないでしょうね……おや? 》
《レイダさん? 》
《コウ様、これ何かわかりますか? 》
《どれどれ》
雑に仰向けにされ、横並びになっているパラディンベイラー達。遠目ではわからなかったが、彼らの鎧はまるで新品で、傷一つない。そしてレイダが指さす部分は、橙色に着色された体の一部。鎧とベイラーの体の接合部であった。そこだけ、着色されている色とわずかに違う。
《……うわぁ》
《コウ様? 》
《これ、錆だよ》
《錆? 》
《そう。錆……まぁそうだよなぁ……鉄の釘で木の体に打ち込んで、そこに雨ざらしとくれば錆もするか……レイダさん。他のパラディンもこんな感じ? 》
《少々お待ちを》
レイダが注意深く眺めていくと、1人、2人、3人目以降からは首を傾げだし、5人全員見終わる頃には、頭を抱えていた。
《全員錆がありますね……全身にくまなく》
《だよねぇ!! 》
あらかじめ予測を立てていたとはいえ、実際にその情報がもたらされて、コウもひっくり返ってしまう。錆。鉄が酸化することで起こるそれは、構造が脆くなる致命的な物。それが鎧にではなくベイラーの側にできているのが問題だった。
《ゲレーンじゃ鉄使ってなかったし、鎧を着てたホウ族のベイラーも、あれ場所が砂漠でめったに雨が降らないもんな……そりゃ錆ないわ……》
《どうします? 》
《見て見ぬふりは、ちょっとできないかなぁ……でもこの世界の錆止めなんか持ってないし》
《……コウ様、何か来ます》
《何か? 》
コウが入り口を見やると、大雨の中、空から高速でこの宿舎に突撃してくる赤い塊が目に入る。止めに入る暇もなく、とりあえず横に並べたパラディンたちが轢かれないように大急ぎでどかすと、すぐ後に、文字通り滑り込むようにして赤い塊―――セスが飛び込んでくる。ギリギリで着地を成功させると、立ち上がって体を震わせ、浴びてきた雨を振るい落とす。
《いやぁ。ここまで雨が強くなるとはおもわなかった》
《セス! サマナは? 》
「いるよぉ……ちょっと気持ち悪い」
《どうしたのです? 港にいくとおっしゃってましたが》
「大漁だよ。コレ」
サマナが木箱をもってよろよろとでてくると、その木箱の中に20匹はいる魚がぴちぴちと動いている。鮮度はまったく落ちていない。
《これ、全部釣ったの? 》
「まさか! 漁を手伝ったら、代わりにもらえた……さすがに生臭い」
《まったく。その場で喰ってしまえばよかったのだ》
「旅団のみんなにふるまってやろうって言ったのはお前だろぉ!? 」
《……そうだったか? 》
すっとぼけるセス。サマナは肩をすくめながら、一旦コックピットの中に戻る。しばらくすると、その手には、てごろな大きさの薪がある。いくつかを立てかけ、木の窯をつくると、その場でおもむろいに火を起こそうとする。
《待った待った待った!? 》
「なんだよぉ」
《まさかここで焼く気!? 》
「焼かないでどう食べるんだ」
《いや、それはそうだけどさ》
「ここの漁場は悪くない……でも量と質はサーラの方が上だな」
《え? そうなの? 》
「港の匂いが違う。いい魚が集まる所はもっと磯の匂いがする」
火打石をカンカンとならし、火種をつくると、慣れた手つきでその種をあっという間にたき火にしてしまった。そして、いつの間に用意したのか、鉄製のちいさな足つきグリルをとりだし、火の熱さに小さな悲鳴をあげながら設置する。
「よし。セス! 椅子と焼き串! 」
《おう》
乗り手であるサマナが指示すると、セスは手のひらで簡易的な椅子と、魚を突き刺す為の棒をこさえる。石畳みでできた宿舎に刺すことはできないために、足つきグリルの有用性が生きる。焼く為の準備が整うと、木箱から魚を手に取り、ナイフで手早く内臓を取り分ける。魚を捌く手際の良さは、彼女が海賊であり、毎日のように魚を焼いて食べていたことに起因する。
《見事なもんだね。あっという間だ》
「慣れだよ慣れ……さて」
その手際は、制止していたはずのコウが思わず見惚れてしまうほどだった。内蔵の処理から血抜きまであっという間に終えると、今度は市場で手に入れたであろう塩をふって、グリルに乗せる。じっくり焼き上げてくと、魚の脂が染み出てジュウジュウと音をあげる。
《いい匂いがしそうだ》
「でもここ、変な匂いする……こう、血の匂いともちがう、鼻の奥にツンとくるような」
《それって、もしかしてこの人たちかも》
「この人? 」
サマナがふりかえると、コウが乱雑にどかしたパラディンベイラー達が積み重なっている。一瞬、その絵面にぎょっとするサマナであるが、すぐにそのパラディン達が無人であることに胸をなでおろす。
「慣れないなぁ。ベイラーなのに流れが全くないの」
《あ、分かるんだ》
「分かるから怖いんだよ……で、匂いの元って? 」
《ずっと雨ざらしだったみたいで、こいつら錆があるんだ》
「錆ぃ!? 陸で!? 手入れは!? 」
《されてないみたい》
「それはまた……不憫なやつら」
パラディンベイラーをその手で撫でながら、しかし最後には興味が無さそうに椅子に座りなおす。サマナにとって重要事項は、焼いている魚を黒焦げにしない事である。
《どうにか、ならないかなぁ》
「どうにかって? 」
《サマナは海で過ごしてたんだろう? 潮風で痛んだり、そんな時はどうしてた? 》
「セスはべつに気にしてなかったな」
《なんか錆取りみたいな薬ないの? 》
「ないなぁ」
コウの頭の中には、機械のサビ取り剤を思い描いている。現代であれば、金属にできた錆をとるための薬剤は市販されているが、ここはより前時代的な世界であり、まだ普及などしていなかった。しばらくコウの問いかけに答えていたサマナも、両面をこんがりときつね色に焼き上がった魚を前に、雑談を切り上げる。用心のために中まで焼けているのを確認すると、大口を開けて豪快にかぶりつく。しばらく咀嚼し、ごくりと飲み込んだ後、顔をしかめながら一言つぶやいた。
「塩の良さで食べれる……思った以上に痩せてる」
《美味しくないの? 》
「美味しいよ。でも同じのをサーラで食べた時はもっと美味しかった……時期かなぁ……もっと脂がのってたとおもったけど」
ぶつくさ文句をいいながらも、よほど腹が減っていたのか、サマナはかぶりつくのをやめない。
《って! 錆は! 》
「そんなに気になるなら鎧はぎ取ってさびてる部分削ればいいじゃん」
《削る!? 》
「できるだろう? そいつらも、いちおうベイラーだし」
コウにとっては頭に雷がおちたような衝撃だった。追い打ちをかけるようにサマナが続ける。
「あと、姫様が来た時にでもサイクル・リサイクルでも使ってやれば元通りにならない? 」
《さ、錆に効くかなぁ? 》
「分からないから試せばいいんだ……うーん。イマイチ」
文句をいいながらも、すでに別の串焼きに手を伸ばしている。小骨をボリボリと噛み砕いていき、最後には綺麗に背骨と頭だけのこった残骸を捨て、三本目に手をかけようとしたとき、宿舎の中に帝都の兵士たちが血相を変えて入ってくる。サマナの様子をみて、一瞬は安堵するものの、
「宿舎で火事が起きていると聞いてみれば! なんだこれはぁ! 」
「……見て分からない? 」
「どこに宿舎で魚を焼く奴がいる! 」
「ここにいるよ」
「皇帝の城の中でこのようなこと! 許されるはずがない! 」
《許されないっていうのは、アレもそうじゃないですか? 》
コウが、入って来た兵士たちを一瞥しながら、やや怒気のこもった声で伝える。
《鎧を釘でとめたベイラーを雨ざらしにして、錆を出すのは許されるんですか! 》
「さ、錆? ……さびるのか? ベイラーが? 」
《錆てるから怒ってるんだ! 》
コウのその迫力に、兵士たちは思わず尻込みしながら、そそくさとパラディンベイラーの元へと走る。橙色に隠れながらも、たしかに釘を根本として赤さびが出来たベイラーがそこに居る。
「だ、だが俺達ではどうしようも」
《鎧を引っぺがして、元から削ります》
「引っぺがす? 今から!? 」
「報酬はこの魚でどう? 」
サマナがこんがりと焼き上がった魚を掲げる。味に関してサマナはずっと否定的だったが、ここにいる兵士たちはまだ味をその知らない。グリルを使ってしっかりと両面が焼けたその焼き魚は、見る者に唾を生み出すのに十分な威力があった。
「美味しいよ? 」
「ぐ、ぐう……何をすればよいのだ」
「パラディンに乗れる人いる? はがすのとかは自分で出来ればいいんだけど」
「ならこいつが」
兵士の中で一番若いであろう小柄な青年が押し出される。
《パラディンを立たせて、足から鎧をはずす! 》
「は、はい! やってみます」
《外したら錆を削る! 》
「削るってどうやって」
《カンナでも鉈でもナイフでもなんでもいい! 》
「は、はいぃ! 」
声かけにより、見張りの兵士さえ錆取りに参加し始める。やがて20人はくだらない数の兵士たちが鎧をとりだし、ベイラーの釘を抜き、そして現れた赤さびを見て思わず睥睨する。
「これ、全部? 」
「でも、ほっといたら錆で関節まで固まるんじゃないか」
「ならやるしかないかぁ」
「終わった奴から食べてねー。あ、新鮮でおいしいよこれ」
サマナはすでに三本目の串焼きに舌鼓を打っていた。重労働ではあるが、今目の前で頬ぼられている魚は、美味に映る。
「カンナもってくる」
「鎧もみよう! そっちもさびてるかも」
「だがまず釘だろう! 新しい釘どこだ! 」
やがて兵士たちは自分の役割分担をきめ、錆取り作業をはじめていく。はじめは初の作業であるために、ギクシャクと作業は滞っていたものの、その仕事ぶりの上達はすさまじく、1人目のパラディンの錆び取りを終えた頃には、彼らは錆取りの達人となっていた。
《……サマナ。魚、余ってる? 》
「ひとり1本ならまかなえる」
《2本欲しいって言われたら》
「言われてから考える」
作業が始まり、あと二人のベイラーだけとなった頃。宿舎に誰かが訪ねてくる。
《ああ、今ちょっと作業が》
「コウ。お願いがあるの」
それはカリンであり。その神妙な空気を感じ取り、コウはカリンの傍によって膝をついた。
《仮面卿の事でなんかわかった? 》
「そうじゃないの。ちょっとした、相談」
《どんな? 》
コウが無垢な眼差しでカリンを見る。カリンは、両手を後ろに組み、ずっと切り出すのをためらっている。
《……ここじゃ話せない? 》
「そ、そうね! コックピットにおじゃまするわ」
《どうぞどうぞ》
コクピットによじのぼり、シートに座る。シートベルトを使わず、操縦桿さえ握らないカリンには、さらに困惑しながら問いかける。
《何があったのさ》
「コウ。私ね……お嫁にいくかもしれないの」
膝立になったまま、コウはバランスを崩す。シートベルトを着けていないカリンは、ただ倒れただけでも痣を作ってしまう。咄嗟に手をだして姿勢を足した。
《―――なんて? 》
しばらく、コウは、「なんて? 」と、機械のように同じ言葉を繰り返しいうのであった。




