謀反のあらすじ
「昨夜は、お疲れさまでした」
「いえ、大丈夫よ……それより、彼らの事は、何かわかって? 」
「それが……」
中央の宿舎に泊まっていたカリン達は何者かの襲撃を受けた。幸い見張りとしてミーンとナットの2人が即座にみつけ、事なきを得た。犯人はミーンが蹴り墜とした2人と部屋に入ってきた2人。そしてもう1人、門の傍で待機していた別の男がおり、その男もほどなくして捕まえられた。
朝、朝食もままならないまま、カリンは再び王城前まできていた。隣には付き人として、ロペキスもいる。他の龍石旅団のメンバーは後ろに控えていた。
「目的は誘拐か暗殺でしょう? それも、私の」
「金で雇われただけで、彼らは、誰にやとわれたのかさえ分かっていないようでした」
「この国の人たちは、お金をもらうと人を殺せるのね」
「……奥様も、おなじような事を言っていました」
ロペキスがしみじみとつぶやく。
「お金があればなんでもできると勘違いしているのだと」
「だってそうでしょう? 子供を人質にとって私を連れ去ろうとしたのよ。その理由がお金の為だなんて、どうかしていると思わない? 」
「それが、この国の習わしなのでしょうな……ささ。開くようですよ」
ロペキスがピシっと姿勢を正した。王城、通称天空城は美しい見た目をしているが、その門は硬く閉ざされている。周りに衛兵と門番に囲まれた中でようやく進むことができた。
《カリン、アーリィもどきと、昨日のがいる》
「ええ。見えてる」
門番には、アーリィベイラーから翼だけをなくしたようなベイラーと、そのベイラーに装飾と色をつけ、巨大なランスを持たせた、上位種と呼べるようなベイラーがいる。
「ロペキス殿、アレはなにかご存じ? 」
「ああ、アレですね。私も最初は驚きました。最近アレの多くがここ帝都で使われているようです。青い方がウォーリアー。橙色の、金縁なのがパラディンと兵士は呼んでましたね」
「ウォーリアーに、パラディン」
アーリィもどきはウォーリアーと名を変え、そしてそのもどきを重装させた物をパラディンと区別している事をロペキスから教わる。ウォーリアー、パラディン両方ともすでにかなりの数がここ王城に配置されている。
「ふつうのベイラーとちがって、あれらは人の意のままに操れるそうで、私でも簡単に乗れるそうです……まぁ気は進みませんけど」
「あら、そうなの? 」
「あいつら、一つ目で、すこし不気味じゃありませんか? 」
「それは、そうね」
アーリィは、すべて人間とちがい顔が一つ目で出来ているのが特徴で、コックピットも琥珀ではなく蛍光に近いの翡翠色。普通のベイラーに慣れているとその二つの要素は受け入れるのに時間がかかる。今は仲間であるヨゾラの容姿を受け入れるのにも、彼らには時間がかかった。
「ベイラーに乗るより先に、船に乗りたくなりますから」
「サーラの人らしいわね」
門がひらき、ついに一同が中へと入っていく。しかしここで、ベイラーだけは待機する形になる。単純に彼を中に入れるには入り口が狭すぎた。
《カリン、行ってらっしゃい。また共に》
「ええ。また共に」
名残惜しくも、物理的制約だけはいかんともしがたい。ベイラーから全員おり、乗り手だけが城へと入っていく。
《さて。どうしたものかな》
《城の中にはベイラーはいないのでしょうか? 》
《……いや、見張り台にベイラーがいる。たぶんここ以外に通路があるんだ》
《使わせては、貰えそうにないですね》
閉じていく門で、カリンが最後までベイラー達に手を振っている。いままでベイラーと共に生きる構造物がおおく存在した。それがけっして世界のスタンダードでは無い事を、コウは、まざまざと見せつけられたような気がした。
◇
「(ああ、この感じ、覚えている)」
カリンらが、王城に入る。中は豪華絢爛を尽くした調度品であふれかえっている。中央には高名な画家に書かせたであろう、皇帝陛下の巨大な肖像画が、一番目立つ場所にかかっている。
「(石の城はこんなにも冷たい。サーラだって、同じ石造りのはずなのに、こんな感じはしなかった)」
人影のほとんどは兵士であり、カリン達の一挙手一投足を監視しているのを感じた。まるで自分たちは罪人であり、処罰の対象であると言わんばかりの目である。
「あまり目を合わせないように」
「……はい」
ロペキスが先んじて釘をさす。つい昨日騒動がおきており、城の内部はピリピリと緊張感が漂っている。それは長いしたいような空間ではなかった。
「この部屋です、わたしは、これにて」
「ありがとうロペキス殿」
「前は」
「はい? 」
ロペキスが、その口からこぼしたのは、カリンに対しての印象だった。
「前は、そのような顔をなさる人ではなかった」
「……そう、かしら」
「修羅場をくぐった人間の顔をしておいでだ。しかし、それでもなお美しい」
おもわず、一同がきょとんとする。カリンは、最初これを皮肉か何かと考えた。
「お姉さまに告げ口してもよいのよ? 貴方が私を口説いたって」
試すような真似をしている事を内心失笑しながら問うと、その真意が分かった。
「まさか。あの方がそんなことを気にするわけありません。きっと」
ロペキスがしみじみと言う。
「『私の妹に会ったのに口説きもしなかったのか』と叱られますから」
「貴方、いい度胸をしているわ」
「それが気に入られたようでして。私としては、常日頃から胃が痛くなる思いは嫌なんですがね」
カリンが、このロペキスをなぜ姉が気に入ったのかを僅かに理解した。彼は嘘がいえない。取り繕うという事をしない。それでいて、自分の能力が、立場が下であろうと意見を具申できる度胸がある。そしてその度胸を受け入れる度量を、姉であるクリンは持っている。
「忠臣、大儀でありました。これからもお姉様を、いえ、奥様をよろしく」
「は。それでは、さらば」
サーラの別れは、じつに短く端的である。それが彼らの流儀であった。去っていくロペキスを見送りながら、扉の前に立つ。大きく息を吸い込んで、深呼吸し、そしてノックをする。扉の向こうから、聞きたかった声が聞こえてくる
「入り給え」
扉をあけると、そこには、記憶よりもすこしだけやつれた、父の姿。激務に追われているというより、精神的に疲弊しているのは明白だった。書き物をしているのか、さらさらとペンを走らせる音が止まず、今の声も、ノックをしてきたのが誰なのかまだ気が付ていない為、実に淡泊な返事である。
「すまないが、今日は来賓の予定がある。昼食は別の者に―――」
目線があがり、ようやく目があった。
「カリン、ワイウインズ。ただいま到着いたしました」
「……顔を」
「はい? 」
「顔を、よくみせておくれ」
カリンが、父の言葉に従い、近づく。その頬を撫でる手は、幼いころからずっと変わらない、大きくて、皮の厚い、剣ダコのある手。
「よく、よく無事で」
「はい。お父様」
「率いたキャラバンの皆も、無事か」
「……それに、ついては」
カリンが、うしろを振り返り、皆を中にいれる。その顔は、王も知る者ばかり。出立の際にカリンが選んだ人間を見ているのだから、当然ではあった。
「今日は、お父様に、お願い申し上げるために、やってきたのです」
そして、僅かに、かいつまみながら、道中を話した。
サーラでの戦い。黒いベイラーの出現。
龍の翼により各々が吹き飛ばされ、帝都を飛び越え、砂漠に出てしまった事。
その砂漠で、すさまじい戦いがあったこと。
かいつまんでになるが、ひとつ、外せない事があった。
「ネイラが、死んだか」
「私達を、守るために、盾となって」
「そうか……ネイラが」
「お父様は、ネイラとは親しかったのですか? 」
「親しい、とまではいかないな。彼があのように、女性的に振る舞うのはなぜかを、一度興味本位で聞いたことがある」
「……あれは生来の物ではなかったのですか? 」
しんみりした空気が一瞬にして崩れる。それを感じ取ってゲーニッツも笑った。
「私だってそうおもった。だが彼は、かつて別の国で軍隊をやっていて、そこで新兵相手に女房役を買ってでたそうだ。彼の口調は、彼の女房からとっていると聞いたことがある」
「ネイラさんの、女房? 」
カリンが情報量に驚いている中、1人、オルレイトは納得していた。
「(連れ合いが居たって話……あの口調が、そのまま奥さんのものか)」
彼が医者としてではなく、兵士として戦う時は、荒々しい口調に変化していた。それがおそらく元来の彼がもつ気性で、そして医者としての立ち居振る舞いは、彼が奥方から学んだ物だったのだと悟った。
「お父様。この国は無用な争いを続け過ぎています」
「無用な争い? 」
「私はこの目でしかと見てきました。この帝都という国が何をしてきたか。外のベイラーを見たでしょう? あれは技術者が……仮面卿と名乗る人物がつくらせたものなのです」
「あのウォーリアー・ベイラーと、パラディン・ベイラーがか? 」
「それに、鉄拳王が使っているベイラーもです。王よ」
補足するようにオルレイトが続ける。
「コックピットの色が緑……アーリィベイラーをはじめとした、毒々しい色をしたベイラーはすべて、仮面卿と呼ばれる人間が作らせた人工のベイラーなのです」
「しかし、なぜそんな物をつくる? 」
ゲーニッツが問う。その問いを正確に答えられる者は今だれもいない。
「わかりません。ですが」
「……ですが、なんだ」
「より、大きな戦いを生み出すために、あのベイラーは作られています。これ以上戦火を広げるようなことをなさないように、お父様、皇帝陛下に具申していただけませんか? 」
ゲーニッツが、腕を組んで考え込んだ。
「お父様」
「すまない」
場が、今度は凍り付く。しかし長い間ではなかった。
「帝都はまだ他国に戦争を仕掛けはいない」
「はい? 」
「アーリィ? そんな空を飛ぶベイラーの話など帝都にはなかった」
「私のお話が嘘であると? 」
「そうではない。その話、まだ他国の人間に話していないだろうな? 」
「え、ええ」
ゲーニッツはカリンの言葉を聞き届けると、ドアを開け、衛兵が居ない事を確認し、次に窓の外を確認した。聞いている者がいないかを注意深く警戒している。
「こんなことならまずオージェンに探らせるべきだったな」
「オージェンは今何をしているのです? 」
「バルバロッサ夫人の事を調べてもらっている」
「バルバロッサ? どなたです? 」
「ポランド・バルバロッサ、最近妙な噂のある婦人だ。彼女は若い権力者を手中に収めつつある。今や帝都の社交界で無視できぬ存在だ」
「バルバロッサ? ゲーニッツ王。今、バルバロッサとおっしゃいましたか? 」
オルレイトが口をはさむ。その名を彼は、とある場所で聞いたことがある。
「そう言ったが? 」
「オル、どうしたの急に」
「……その名前で、砂漠で、取引している人間がいました」
「なんだと? ポランド夫人が? 馬鹿な」
「本当です。金品と交換して、その砂漠でとれる氷や調度品と取引していたんです。オージェンおじさんにはその時助けてもらいました」
「バルバロッサ夫人が、その仮面卿と呼ばれる人物とつながりがあると? 」
「はい。彼らの部下と僕らは幾度となく戦っています。経緯はわかりませんが、彼らが手を結んでアーリィベイラーをつくり、砂漠の近隣で戦いを起こしているのはまぎれもない事実です」
「ならば、その目的は」
「……帝都は、一枚岩では無いかもしれない」
カリンが、コウの言葉を反芻する。
「もし、バルバロッサ卿やその仮面卿が、この帝都を内部から崩壊させようというのなら」
「まさか、謀反を企ているというのか……しかし、いや、確かに、若い権力者を集めているのとそれ辻褄が合う……だが」
ゲーニッツは渋い顔のままだった。
「何をすればよいというのだ。すでに、その企てに参加している連中と、そうでない帝都の人間とは区別がつかぬ。夫人の息は帝都中枢にまで手が及んでいるのだ」
「そうでない味方を、我々は知っています」
オルレイトが、机に紙を広げた。全員がそれに注視する。
「ゲーニッツ様のおかげで、かなり情報が整理されました。まず、戦いの火中にはかならず仮面卿の手が及んでいます。それはバルバロッサ夫人も同じ。この二人の配下として、パーム・アドモントも絡んでいる。おそらくかなり長い間、この三人は手を組んでいたようです。なにせパームは各地でベイラーを盗んでいました。計画そのものは長期に組まれていたとみていいでしょう」
仮面卿。バルバロッサ卿。そしてパーム。この三人の名を囲む。
「謀反の理由はわかりませんが、仮面卿には資金が、バルバロッサ卿には伝手と技術があった。そこに材料提供としてパームが尽力し、アーリィベイラーが出来上がった」
「尽力。ね。悪事の事をそんな風に言うのは変な感じ」
「整理しているだけだ。気にしないでくれ……そしてサルトナ砂漠での戦い」
地名と共に、帝都軍と言う名を記す。
「軍内部ですでに、派閥ができていると思っていいでしょう」
「仮面の軍勢、とか? 」
「まぁ名前はさておき、この軍勢の中には、帝都近衛格闘術……この国でも限られた人間のみが使える武術を持った奴もいた」
「帝都近衛格闘術だと? 近衛兵しか授けられぬ武術だ。その地位と権力は剣聖より下とはいえ、かなりのものを持っている」
「あの、頭の硬そうな、あいつが……」
実際に交戦したナットがしみじみとつぶやく。そして戦った感想も述べた。
「たぶん、兵士の人たちは自分が何をしているのか、わかってないと思う」
「ナット、どういう事? 」
「兵士の人は、帝都の為だって疑ってないんだ。そのバルバロッサって人、帝都の人なんでしょう? 謀反とか、企てとかはまったく兵士には伝えていないんじゃないかな」
「なぜわかる郵便屋君? 」
ゲーニッツがナットを見据える。子供に物事を問うとき、その態度から上から目線で話す大人は多いが、ゲーニッツは分け隔てなく民に対して王である前に人であることを説いている。その時彼は、対面する人物がどんな年齢だろうと、高圧的な態度をとることは無い。ナットはその王の態度に一瞬ひるみながらも、まっすぐに見据えて応える。
「だって、みんな帝都の為に、って口をそろえてました。『仮面卿の為に』じゃなかった」
「つまり……仮面卿の一味は、あくまでかれらの私兵と、一般の、騙されたまま手を貸している兵士との二種類がいるというのか? 」
「はい。たぶんパームの事を、バルバロッサって人の手下としか、兵士の人は思っていません」
「それは……面倒だな」
「ゲーニッツ様。面倒くさいついでにもうひとつ」
仮面卿以外の場所にまた別の名をそれぞれ上げる。
「鉄拳王シーザァー。この人も『騙されたまま手を貸してる』兵士の1人。アーリィベイラーとおなじ人工ベイラーを持っていました」
「鉄拳王の名がここで出るのか。カリン。彼にはもう会ったのか? 」
「ええ。なんとうか、こう、バイツに似てるのよね。背格好といい」
「そして、もうひとり」
仮面卿の勢力の中に鉄拳王がはいり、そしてもう一つ、また別勢力として新な名前が出る。
「奴隷王ライカン。これは単純に僕らにとっての脅威だ」
「なぜ? 」
「双子を狙ってる。それにこの配下には、あの頭巾のベイラーもいる」
奴隷王の下に、フードをかぶったベイラーが描かれる。
これで、カリン達龍石旅団、仮面卿、奴隷王。三つの勢力図ができあがった。
「厄介なのは、奴隷王の方は状況によっては、すぐさま仮面卿の配下になって謀反に加わる可能性がある」
「どうして? 」
「あの商人は金でなんでも買う。アーリィだって買うだろう。そしてやつらは別に帝都が滅びようとかまいはしない。あくまで帝都は自分たちの商品を買ってくれればいいだけだ。そのトップが変わろうと、彼らは知ったことじゃない」
三すくみと思われた勢力図は、すでに二対一の図に早変わりしている。
「少なくとも、本質的には鉄拳王は仮面卿と相いれない。まだ自分の乗っているベイラーがなんなのかを知らないんだ。もし明確な味方がいるとそれは、それはあの人になる」
「状況は、良くないわね」
「もちろん楽観はできない。あの馬鹿でかい空飛ぶベイラーの存在もある」
「そんなベイラーもいるのか」
「サルトナ砂漠で一度だけ見かけましたが、あれは城が飛んでいるようなものです」
「そんな物まであるのか……これは」
ゲーニッツが、にわかに信じがたくも、受け入れるしかない事実を認める。
「せめて、もっと味方がふやせればいいのだけど」
カリンが、出来上がった図式を眺めてつぶやく。仮面卿の軍勢が圧倒的多数であり、その内部に、また派閥が分かれている。組織図としては乱雑だが、カリン達に対する敵対者が多い事だけはよく理解できる図式だった。
「お父様。皇帝陛下にこの事をお伝えしては? 」
「それも、難しいだろうな」
「なぜ? 」
「謀反の理由がわからねば、皇帝陛下に直訴しても無駄だろう。謀反の確かな証拠もない」
「……でも、今度の大会で誰が敵か味方かが分かる」
オルレイトが、その図式に一つのあらたな丸を描いた。その中央には、剣聖選抜大会の文字。
「そうか。剣聖選抜大会であれば、だれが息のかかったものか分かる」
「そうです。参加者はカリンのように公表される。であれば、その人をあらかじめ調べることができる……まぁ、公表された場合、昨日のように、間者を使う人間は多く出るでしょう」
「なら、鉄拳王は大丈夫ね。あの人の腕、相当なものよ。お姉様にはかなわないけど」
「そうだ、クリン様は」
「お姉様は出場できるお体ではないわ」
「ああ。そうだ。あの娘はもう自分1人の身ではない」
ゲーニッツとカリンがしみじみしていると、同じゲレーンを故郷とするマイヤ、オルレイト、クオ、リオ、ナットがぽかんと口を広げた。サマナはどこか得心を得た表情で頷いている。
「むしろ、やっとか」
「「「「「え? 」」」」」
「まったく。久しぶりに同郷の者に会うと話が飛んでイカンな」
困ったような、しかしその喜びは隠せない笑顔をして、王は続ける。
かくして、カリンとゲーニッツとの邂逅は、半ば報告会の様相を呈していた。シラヴァーズの事。ホウ族の事。占い師の事。龍殺しの事。バスターベイラーの事。語るにはあまりに砂漠での出来事は多く、この場にコウが居ないことも相まって、説明には時間を要した。
「謀反の理由はわからぬが、その準備を仮面卿という人物が推し進め、その企ては、無辜の民を巻き込みかねない。そういう訳か……だが、鉄拳王以外にも味方がおる」
ゲーニッツが、部屋にある人物を呼ぶ。すでに時刻はおそく、夕食の時間をどうするかかの人物は悩んでいたようで、使いの者が彼を案内し終えた後、誰もがその顔を見て納得する。
「クリンから話は聞いていたが、なるほど。息災だな」
「はい……その、なんとお呼びすれば」
「今までと同じで大丈夫だ。もっとも、今まででもだいぶむず痒いんだが」
「はい。では、その、お義兄様。お久しぶりです」
「ああ。息災だと信じていた。あの白いベイラー……コウ君の方は城に入れないんだったな」
ライ・バーチェスカ。現状、カリン達の最も頼れる、数少ない味方であり、カリンの、年下の義兄である。その容貌は、絶世なる金髪の美少年。皇帝陛下と並んでその美麗さを称えられるほど。
凡人が近づくとその人間らしからぬ美貌にたじろいでしまう彼は、武力でも一流である。
「でもよかった。貴方が味方で」
「……何をいっている? 勝ち抜けだぞ? 」
「はい? 」
「なんだ? 勝負の話ではないのか? それともまだ聞いていない? 」
「その、なんのお話ですか? 」
一同がほっとしている間、ライから衝撃の事実が伝わる。
「君は一回戦で私とあたる事になっている。まぁ身内を推し進めてしまったのでそこを曲げることは叶わなかった……なんだ? 私の貌はいつも美しいがそうまじまじとみないでくれ」
ライと、カリンが戦う。それも、初戦である。一同が驚愕している中で、当事者のカリンは、生唾を飲み込んでいた。
「(お姉さまを、倒した相手と、私が、戦う? )」
その絵は、カリンの中では想像だにしていなかった。
次回登場人物紹介を挟みます。




