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帝都の仕組み

 関所を兼ねた石門を通り、ベイラーが歩く。カリン達が一人ずつ兵士に手のひらよりちいさな金を兵士に渡す、通行料に年齢は関係ないようで、双子もおなじように金を手にして渡る。兵士は一瞬ベイラーの姿に怯みつつ、しかし確かに金を改め、それが偽物でないことを確認したのちカリン達を門の向こう側へと導いた。


《ここが、帝都》


 この地にたどり着くまで、船で海を渡ればすぐだと聞いていたはずの旅路が、遠い遠い回り道だった。一体どんな国なのか。期待に胸膨らませたコウを待っていたのは、ある意味期待以上の国がそこにあった。


 基本的に石造りであり、大きな一本の道が石畳でできていた。灰色の石が均等にならべられたその道の上を、いままで見たことのないような人の数が、忙しそうに往来している。人々の服装は、洋服に限りなく近い。鮮やかな染色が行われたその服は色とりどりで、石の上で花が動いているように見える。石畳みでできた道沿いには市場が開かれ、道行く人々が硬貨を用いて買い物をしていた。買われていくのは食べ物から日用品、武具にいたるまで多種多様にわたる。そしてなによりその広さは、ゲレーンの城下よりも大きかった。そもそもコウにとって、この世界で硬貨のやりとりさえ久しぶりに見るのに、こうして目の前で、突如として近代的で巨大な商業区画が現れ、おもわず眩暈がした。


《人が、おおい》

「そうね」

《市場もある》

「そうね」

《カリン、知らないの? 》

「一回だけ、王城に入ったことのあるだけだから」

《そうか! 城! あるよなそりゃぁ!……あれ? 》


 人の多さと物量の多さに目がくらんでいると、その単語を聞いて思い出したようにあたりを見回す。この大きな道の先に、巨大な壁があり、その壁はこの街の四方を囲み、まさに箱庭と化していた。だがここで、カリンの言う城が見つからずに戸惑う。


《カリン、城がない》

「え? そんなことは……あら? 」


 カリンもそんなバカなと共に見まわしすものの、四方に囲まれた壁しかない。そして別の視点も見出した。


「……あら? 」

「ささ。こちらですゲレーン皇女殿下」


 カリン達の前に、シーザァーがベイラーを伴って現れる。ベイラーには別の兵士が乗っているのか、シーザァー自身は歩いていた。カリンもそれにならい、コウを膝立ちさせ、地面へと降りた。


「この道を行けばよいのです」

「ええと、バルクハッツァー様、王城はどちらに? 」

「おや、帝都の仕組みをご存じない? 」

「お恥ずかしながら、帝都には幼いころ来ただけで」

「なるほど。であればお教えしましょう。歩きながらでよろしいか? 」

「構いません」

「では、まずはこの道」


 ベイラーが石畳の上を歩く。土と違って硬く、反発がつよい。並みのベイラーであれば、踏みしめれば踏みしめるほど足を痛めそうな硬さだった。人々はその硬い石の上を快適にあるくべく、頑強な靴を皆履いている。


「この『王道』は、我が主君の城に続いております。この道から逸れることさえなければ、いずれたどりつけましょう」

「でも、お城がみえませんが」

「ここは第四地区ですからな」

「……第四地区? 」

「この国は大きな円形をしております。真ん中には運河がとおり、その先には海ががございます。港は第十二地区ですな」

「……? 」

《……? 》

「そして、1から12の地区を通り、最終地区の王城にたどり着くのであります」


 カリンが、そしてコウが頭をひねる。円形で12個の分割。さらに真ん中には大きな城が立っている。


「壁で、街が区切られていて、その街は12個あるということ? 」

中央(セントラル)を含めれば13個ですな」

《えっと》


 コウが今みているものは、国ではない。ただ一個の街、地区であること。そしてそれがあと12個もあるということ。その全容は一体どんなものになるのか、想像するだけで広いのがわかる。さらに、この四方の壁は四角形に囲まれているのではなく、しいて言うならば切り分けられたケーキの一辺のような形をしている。


「中央はここより狭いですが、豪華絢爛であることは保証いたしましょう」

「そ、そうね」

《あれ、でも》

「どうしたの」

《なんで真ん中にすぐ行けるようになってないの? 》


 コウの疑問は、その構造上の回りくどさだった。シーザァーの言う通りであれば、わざわざ中央にある城に赴くには、第四地区の場合は八個の街を、第一地区の場合は残り十一個の街を通らなければならなくなる。だがそのことについて、シーザァーはさも当然のように振る舞った。


「そんなことをすれば城に敵が容易く入り込めるため、多少不便だろうとこの道に沿って街を通ることこそ、街の防衛にもつながるのだ」

「(敵……そうか。この人達にとって敵とは常に人なのね)」


 カリンにとって国全体で抗う敵とは、自然、つまり天災であり、かつてコウと共に嵐によって生まれた洪水を文字通り押しとどめた。だが彼らにとって敵とは、彼らを害する人間である。その人間から自分たちをまもるために、壁をつくっている


「第五番地区の門も、わしが言えば開きましょう」

「……門? 国の中でさらに門があるの? 」

「当然のことですな」


 シーザァーは事も無げに告げた。


「万が一の侵攻も許さぬための物です」

「そうですか」

「そして、不貞の輩を中央にいれない策でもあります」

「不貞? 」

「いやしき者は城を仰ぎ見ることさえできないでしょう」


 カリンはそれ以上何も言うことができなかった。自分の持つ国という物の価値観と、シーザァーの持つ価値観がまるで違っていることに気が付き、何をいっても相手にされないであろうことを感じ取っていた。


「(自分たちの国の中を自由に行き来できないなんて)」


 ゲレーンで生まれ育ったカリンにはまるで理解できない感覚だった。時間の許すかぎり、カリンはゲレーンの端から端まで自由に出歩いていた。それはカリン以外の、ゲレーンの住人も同じである。彼らはゲレーン中で行動の制限などなかった。


 この決定的な価値観の違いはコウにもすさまじい衝撃を与えていた。その衝撃は、ある意味カリンより大きい。それは彼の生前の知識からである。


《(絵にかいたような階級制度だ。しかも露骨。第一番地区生まれの人は第十二地区に入れないとかないだろうな? )》


 彼の生前は決して勤勉ではなかったが、醜悪なほどの怠慢でもなかった。義務教育を終え、高等教育を受けられる程度の知識と知恵を持っている。その知識の中に、階級制度の事は確かに入っていた。血族による特権。その血族に連ならない他の人間たちを隷属させ支配する。民主主義が生まれるまで長い間人類の中で不変だった国の枠組み。それが確かにこの帝都では使用されている。


《(でもあの壁は異様だ。それに門まで。)》


 大きな壁に、人々の移動を制限する門。人の流れを分断するその構造は、物流の断絶を生むことに他ならない。運河があるとシーザァーはいうが、この第四地区にはそれはなかった。


《(なにか理由があるんだ。壁を作った以外にも、なにか)》


 帝都ナガラの国家のありようと、その立地を理解しつつ、不明瞭な点もまだまだあった。だがそれを問いかける相手は、あまり望む答えを返してくれそうにない。なぜなら、その相手、シーザァーは帝都の人間であり、それが基本であるために疑問など持たない。それが当然という目線でしか話さない。現にカリンは会話をしようにも一方的に打ち切られていた。


《(ほかにいないかなぁ……帝都生まれでない人で帝都の事を知ってる人)》

 

 ふと、その条件に当てはまる人間が、新しくこの旅の仲間に強制的に加わった人間がいることを思い出し、その人間を探した。


《カリン、ちょっと離れる》

「わかったわ。でも列から離れてはだめよ」

《もちろん》


 短いやりとりでカリンから離れると、歩調をおそくしその人間と並んだ。すっかり意気消沈し、トボトボとあるく商人に上から声をかけた。


《あの》

「あ? ああぁ。白い奴か」


 今はレイダが牽いている台車の上にある鉱石をうつろな目で眺める商人、オルレイトの機転でおそらくは今年最大の儲けをフイにされたネルソンがいた。


「あーあ。あれを持ってくるのにどれだけ……」

《で、でも、まだあるじゃないですか》

「儲けの半分もないんだよーだ! で! なんだいきなり」

《あの、帝都の壁なんですけど》

「壁? 壁がどうしたんだ」

《なんでわざわざ囲ってるんです? 》

「なんだ、お前ら、本当に田舎から来たんだなぁ」

《この際その言葉は認めるよ》

「よし。いいだろう教えてやる。そら肩に乗せな」

《肩? 》


 コウの態度に気をよくしたのか、ネルソンはコウによじ登り、その肩にどかりと座り込んだ。サイクルジェットが内蔵され肥大化した肩は人間が座るに十分な面積があった。


「あの壁はただの壁じゃねぇ。上は通路なってて兵士が配置できる」

《兵士? 》

「外から来た連中を上から弓で狙い撃つのさ……ほらみてみろ」


 ネルソンが指さした先には、確かに兵士が外側をみて警戒をしている。門番とは別に、壁に数人が配置されていた。


「やつらは壁の中を自由に行き来できる。なんかあったら上に配置された連中がすぐさま通路を伝って集まることができるのさ。まぁ壁の連中が街に降りれないけど」

《あ、そうなんだ。てっきり兵士の特権か何かかと思った》

「敵に利用されるからだと。あの壁の上に出るには中央か、第四地区と第十二地区にある出入口からしか入れない」

《なんか、便利なんだか不便なんだかわからないね》

「そして、だ。白い奴。こっから先のことは、あんま大声で話すなよ」


 ネルソンがわざとらしく声を抑えた。周りの人間に聞かせるには憚られるのだろうとコウは思ったが、その内容はあまりに突拍子がなかった。


「この壁は病を抑えるものなのさ」

《病? 》

「この国は人が多い。、地区によっては運河もあるし、水路もある。さらにはあの王道の下には下水道だって通ってる。あっしがこういっちゃなんだが、ほんと大したもんだよ」

《(水路……井戸水を汲んでないのは水路があるからか…さらに下水道)》


 改めて、帝都の構造が先進的なのかを聞かされる。ゲレーンも、海に面したサーラでさえ、飲み水は井戸を組んでいた。この国は井戸さえ人々の生活から取り除き、さらには下水道の整備も進んでいる。12個の街を貫く王道の下に下水道が通っているのは、コウは妙な納得があった。


《王道の下にあるんだからそれはまぁ下水道になるか》

「だけどなぁ、この国がどれだけすごかろうが、あっしは住みたくないんだ」

《どうして? 》

「兵役はあるし、医者は万年不足してるし。その不足を補うためにわざわざ遠征して他の国からぶんどってくるんですから」

《まさか、帝都が侵攻してるのって、医者が欲しいから? 》

「そして極めつけ。この国は―――呪われてるのさ」


 先進的な話題から一転、突如として呪いという言葉が飛び出してきてこうはつんのめりそうになる。それは肩にいるネルソンが落ちそうになる事と同義であり、とさに手でネルソンを支えた。


「あ、危ないなぁ!? 」

《の、呪い? 》

「声が大きい! 」


 ネルソンが当たりをきょろきょろする。幸いコウの事を不信に思っている者はいなかった。そもそも、ベイラーの一団が王道を通っているというだけで、人々は奇異の目を向けている。いまさらベイラーがすこしつんのめった程度では、帝都の住人の好奇心を満たすことはできなかった。


「帝都は、数年に一度、すげぇ勢いで疫病が流行る」

《疫病? どんな? 》

「あっしも見たことはないんで。いやまぁ、でも、もしこの目で見てたら、あっしもこうして生きてねぇでしょうな」


 しみじみと自分の行いを省みているようだったが、コウにとってその発言はあまりに意味深に聞こえた。


《生きてない? 》

「その疫病は、人を狂わせちまうそうで。熱がひたすら出る。でも水を飲まない。いや、飲めない」

《水を、飲めない? 》

「水を飲むと喉が酷く痛む、そのせいで水を怖がるそうで」

《(水を怖がる病気……インフルエンザ、とは違うか)》


 コウが、疫病と聞いて真っ先に思い浮かぶ病名をあげる。コウ自身患った事があるこの病気は現代では治療可能なものであるが、その感染力と症状は現代でも死者がでる類の物。


「で、そのうち体もろくに動かなくなっちまう、そして、その人間は息すらできなくなる」

《医者が足りないっていうのは、その疫病のせい? 》

「ええ。なにせ医者だって例外なくその疫病にかかっちまう」


 症状の羅列であったが、恐ろしさがどれほどのものかはコウに十分に伝わった。だが、次の言葉でコウは一瞬思考が停止する。


「だからその病にかかった地区の住人は、その年にすぐ()()()()()()()

《……殺される? 》


  言葉が間違っているのかと最初は思った。だがネルソンの表情がそうではないと語っていた。


「女子供だろう容赦ない。やつらはなんの躊躇もなく殺す。う」

《……やつら? 》


 語るまでもなく、ネルソンは壁の上を指さした。そこには、外に弓矢をむけている兵士がいる。それが何を意味するのか。


「あいつらは、上から街を消毒するのさ」

《消毒って……まさか、門が閉じてるのって》

「気づいたかい? ああそうさ」


 ネルソンが手で顔を覆った。指の間から見える目は恐怖に揺らでいる。


「そんな病を持った奴らが他の地区に、ましてや中央にいかないために、全部()()()()()()()()病人かそうでないかの区別をつけるよりよっぽど楽でしょうね。あの壁は、街の人間を守るためなんて大層な事を言ってるが、最後には街の住人を焼くための釜土なのさ」

《ま、まさかそんな》

「……嘘だとおもうなら、壁の模様をみてみな」


 コウが壁をよく見る。石積みである壁は長年の雨風で痛んでいる。だが50m以上は積み上げられたであろうその堅牢な造りであるのが見て取れるものの、模様と言う模様は特になく、のっぺりとした印象を受けた。


《何もないよ》

「よく見てみなって……周りの家の高さより少し上」


 ネルソンの言葉に従い、周りの家より少し高い位置に焦点を合わせた。その瞬間、ネルソンの意図した光景が目に留まる。家の少し高い位置が、わずかに黒く焦げている。それは一直線に壁に伸び、やがて街を囲む壁全体に及んでいる。


「あっしが知ってるだけでも少なくとも2回。1回目は七番地区。2回目はここ第四地区で、()()がおきてる……みんな知らないふりをしてるのさ。いや、半分は本当に知らないんでしょうけどね」

《なんで、なんでそんなことを》

「帝都の安寧のため、だそうで」


 ネルソンの言葉と、状況、そして今見ている景色がすべて真実であると告げていた。同時に帝都の構造がなぜこうなっているかも理解する。壁を隔てて人間の交流を止めれば、疫病を抑え込むことができる。さらに情報さえも規制すれば、ネルソンのような商人でなければ事実を確認する術さえない。もし、コウ達のいる第四地区が燃えていても、第五地区の人間は、なんら不自由なくその日その日を過ごすのが分かる。壁の高さは、家を燃やす炎を隠すほど高く50mはあった。


《でも燃えれば煙はあがる! 》

「敵国が攻めてきた。でおしまいですよ」

《それが、帝都の仕組みなんですか》

「あっしはよくわかりませんがね。でもわざわざ一個の国の中で十三個も地区を分けたのは、そういうことなんでしょうね」


 十二個の地区のうち、ひとつが焼け消えても、まだ十一個ある。疫病が国に蔓延し、滅亡するよりも良いというのが、この国の基本思想なのであるとコウは知識として得て、そして理解を拒絶した。


《それで一体、何人の人間が死んだんだ》

「だから呪われてんですよ。この国は。敵からも、きっと国の内側からも」


 それ以上はネルソンは語れなかった。語ることをしたくなかった。


「でも―――あっしは覚えてます。一回目も二回目も、どれだけ壁が隠したってその匂いは誤魔化せない」

《匂い》

「人が焼けた匂いです。あんな匂い忘れるほうが無理ってもんです。だからってもう一度嗅ぎたいものでもない。もう三度目は嫌です」

《……そうですね》


 この時、コウははじめて、ネルソンに同調した。門の手前で、没落貴族に対して彼の行いがどれだけ悪辣であったとしても、人肉が焼ける匂いがどれほど脳裏にこびりつくのかを知っている。その一点においてコウは、カリンの肌が自分のせいで焼け焦げたことを覚えている。操縦桿による共有で嗅覚も共有していた。その時の匂いは、強烈で鮮烈で凶悪だった。


《人が人に、やっていい事じゃない》

「ちがいないですねぇ。いやぁしかし、すいませんね。変な話きかせちゃって」

《いいんです。俺が知りたかったんですから》


 この時点で、コウの帝都に対する好感度は零を下回った。サルトナ砂漠での戦いを経て、すでにほぼ零に近かったが、それでも、まだ知らない部分でどこか加点する部分が出てくるだろうと期待をしていたが、ネルソンの情報により、それはものの見事に裏切られる。


《カリン達にどう伝えようか》


 ここで一旦、コウは情報を整理する。


 コウ達の、もはや怨敵と化したパームの後ろ盾には帝都の力が及んでおり、その力は仮面卿が大きく関与している。その帝都はたびたび疫病が流行り、流行るたびに地区ひとつまるごと生贄にしてとどめている。同時に、帝都はいまや敵が多く、様々な場所でレジスタンスの反攻を受けている。その反攻に対し、帝都は徹底抗戦の構えでもってあたっていた。


 ここで、物量と技術の両面で勝る帝都が今までレジスタンスの活動を止められなかったのは、地区の消毒が定期的に行われいたからだとコウは気が付いた。消毒によって人員も物資も一挙に減ることは想像に容易い。それは同時に、消毒には医者も巻き込まれている事にもつながる。失われた分は、他国から奪う形で帝都は存続していた。 


《(カリンは、皇帝に会って争いを無くしたいと思ってる。帝都が侵攻を続ける理由が疫病なら……その疫病を解き明かすことができれば、あるいは)》


 コウの中で、明確な方針が出来上がりつつあった。だがその方針と、パームとの関連性がつながらない。正確には、パームを動かしていた仮面卿の目的が分からない。


《(パームにベイラーを攫わせたのは、アーリィ・ベイラーをはじめとした人工のベイラーをつくりだすために、実験材料がほしかったからだ。実際あのアジトでそれは見た……待てよ)》


 ここまで思い出し、思考の決定的な齟齬が浮き彫りになった。


()()()()()()()()()()()()() もし仮面卿が帝都の人間なら、そもそも侵攻のためのベイラーをつくるよりもっと前に、疫病の原因を探すはずだ。その上で、薬なりなんなりを作って、運ぶためのベイラーとして、アーリィ・ベイラーが必要なのは分かる。でもパームたちは、別に医者を集めてたりしなかった。もし医者を集めてるなら、ネイラさんの事が説明できない)》


 ゲレーンの医者、ネイラを彼らは自分たちの手で殺めている。ネイラとパームは顔こそ合わせていないが、そもそもネイラが医者であることを、彼らが知らなかった事が考えにくかった。だが知ろうとしていなかったのであれば。


《(なぜ知ろうとしなかったのか、それは知る意味がなかったからだ。あいつらは医者を探してたわけじゃない……なんだ。なにか決定的に食い違ってる)》


 これ以上考えるには、仲間の協力がいると感じていた。


《(空を飛ぶベイラー。そして帝都の高い壁……偶然か? それとも)》


 この時のコウの思考は、限りなく仮面卿の思惑に肉薄していた。その意図が定かでないとしても、仮面卿の企みを暴く一歩手前まで行っていたのである。だがその思考は、第四地区を通り過ぎ、第五地区の門を通った後に、とある行事の開催によって一瞬で吹き飛んだ。


 帝都剣聖選抜闘技大会の開催とその募集が、龍石旅団にもたらされたのである。そしてその参加者には、サーラ王、ライ・バーチェスカの名があった。それだけでなく、推薦として、彼にとっての義妹、つまり龍石旅団団長でありゲレーン皇女殿下であるカリン・ワイウインズの名が挙がっていた。

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