新たな剣技
ミーン、リク、セス。龍石旅団の全員が今、ここに集結する。同時に、砂漠に突き刺さった一本の剣。その刃は随分と鈍い赤色だった。錆びているのではない。元の色が赤いのである。その赤も、血の色よりも濃い赤色でありながら、光を浴びて宝石のように輝く赤さ。そんな刀身をその剣は持ち、よく見れば橙色の刃紋が見える。豪華な拵などはない。抜き身の刃にただ雑に巻かれた布が柄の役割を果たしていた。
「この剣は? 」
「リュウカクが渡してくれた! お前たちにって! 」
《この剣を、俺たちに? 》
刀身の大きさは、普段コウが作り上げるサイクルバスターブレードと変わらない。自分の身長ほどある巨大な太刀と言える大きさ。
「なぜ、リュウカクがそれを渡したいのかわからない。でも、その剣が、きっとあのバスターベイラーを倒すために必要なものだ」
「なぜわかるの? 」
「その剣が持つ流れと、バスターベイラーの流れが反対の流れをしている」
「相反している? 」
「そして、コウ、お前の流れと、その剣は同じ流れを持ってる」
《この剣が、俺と同じ? 》
「ぶつかれば何が起こるかわからない。でも、確かに、何かが起こる! 」
「……詰まるところ、ぶっつけ本番な訳ね」
《なんだ。いつものことだ》
コウがその剣を手に取った瞬間。サマナの言っていることを理解する。
その剣はまるで、元から自分の手足の一つであるかのようになじみ、全く違和感がない。その剣の重さ、長さに至るまでまるで、なぜこの剣がこの体になかったのか不思議なほどだった。だが、なぜか一つだけ足りないような、飢餓感にも似た違和感がある。
《サイクルバスターブレードが効かない相手だ。これでダメなら》
「もう何してもダメね」
些細な違和感であるために、それを無視した。その違和感さえなければ、軽口を叩く余裕さえある。この剣をもつ前の感覚に戻れる気がしなかった。
「この剣で、あのバスターベイラーを斬る」
宣言したのちに、バスターベイラーを見上げる。
すでに数えるのさえ嫌になるほど多くなった黒い蔦。両腕は硬く握りしめられ、こちらを狙っているのが明らか。全身からサイクルショットの針が伸び始め、さらには、再び口の中が淡く輝いてる。熱線を放ってくるのも時間の問題だった。
「呆れるほど手数が多いわね。さて、どう道を開けましょうか」
「道を開ければいいんだな? 」
オルレイトがあっけからんと答える。
「道を開ければ、あのバスターベイラーを止められるんだな? 」
「ええ。私に二言はなくてよ」
その答えに満足したように、オルレイトは続ける。オルレイトだけではない。ここに集まったベイラー乗り全員が満足げな顔をしている。
「なら、やってみせる。いつものように付いてきたんだからな」
声色はひどく落ち着いていた。そこに決死の思いはなく、ただオルレイトが、そして他の乗り手ができることを精一杯やることを声に出さずとも誓っていた。
「両拳はリオ、クオ、ナット、飛んでくるサイクルショットは僕とサマナでなんとかする! そしてあの熱線が飛んでいくるより先に、斬れ」
「必ず」
「ナット、怪我は1番お前がひどい。大丈夫なんだな? 」
「大丈夫。あの拳は絶対届かせない」
全員、コクピットにいるために顔色などわからない。だというのに、その顔は、カリンの声を今か今かと待ち望んでいるような、期待に満ちたものであることが透けてみてる。そんな声色をベイラーを含めて、全員がしていた。
「ならば皆……抜かりなく! 」
《「応!! 」》
カリンの声がそのまま引き金であり皆は弾丸であった。弾丸は真っ直ぐ勢いよく飛び出していく。最初はナットとリオ、クオはそれぞれ右腕、左腕に向けて走り出した。同時に、バスターベイラーも動き出す。
バスターベイラーはその動きを見て対応し、両腕を無造作に振り下ろしてくる。単純な攻撃。故に効果は絶大。巨大な拳が空から降ってくるような錯覚に陥る。
「この体、後一撃だけ持ってくれぇえ!! ミーン! 吹き荒べぇええ!!」
《あいあいさー!! 》
駆け出した1歩目から、最大速度に切り替わる。風よりも早くなるミーン。爆音と全身から出る黒い煙で、青色の体は蒼い雷のように見えた。迫る巨大な拳を前にして、かねてより、叫ぶには少し長いなぁと思っていた技の名前を、ミーンはふと思いつく。
「サイクル・マキシマム・ジェットキック。悪くはないんだけど、長ったらしいから、改めましてぇ!」
加速は最高潮に達し、地面を蹴る。砂漠にクレーターを生み出しながら、その拳に新たな技を叩き込む。上をむく都合で、蹴り上げる足の重心が片方に向いた結果。自然と体が回転していた。この土壇場で、ミーンは新たな技を偶然発明したのである。遠心力で体がバラバラになりそうなのを、吠え叫ぶことで必死に耐えた。
「サイクル! 」
《イカヅチ! 》
《「キィイイイイイック!! 」》
ドロップキックである。だがそこに、ミーンの超加速と回転が加わり、一点の破壊力を得る。そしてその威力は、ドリルとなって拳を貫通していく。ミーンは自分でも気が付かないうちに突き進み、バスターベイラーを肘から飛びぬけた。穿たれた拳はそのまま完膚なきまで叩き壊しされていく。
「クオ! 」
「お姉ちゃん! 」
「「いくぞぉおおおお」」
双子は武術の習ったことがなければ剣術なども何も知らない。武器など使ったこともない。彼女らは自分たちの知る上での力の大際限は、拳でベイラーを圧倒したガインとネイラ。あの2人の振るう拳は鮮明に覚えている。
「覚えてる!? 」
「覚えてる! 」
「できると思う!? 」
「できなくたっていいと思う! 」
「ならやってみよう! 」
「やってみよう! 」
《ーーー》
姉が聞き、妹が答え、最後にベイラーが答えた。
素人が武術の構えを真似しようとして、1番最初に失敗するのは足腰である。最初に目が行きがちな拳や腕の構えは真似できても、足腰を落とすという発想ができない。普段の運動でそんな負荷のかかる動作など行わないためである。だからこそ、リオとクオの2人はガインの上辺だけを汲み取る。しっかりと拳を握り、振り上げる。本人たちはますぐ打とうとしているつもりでも、やり方がわからないため、正拳突きではなく、横殴りになっていることに気がつかない。
「「せーの! 」」
これが並のベイラーであれば、バスターベイラーの巨大な拳を前にして無様に吹き飛んだかかもしれない。だがある程度、パームが乗っていたことで戦い慣れた事に加え、元来持つ、強くなったコウさえ凌ぐほどの凄まじい馬力を発揮できるリクが、見様見真似でも武術と同じ拳を振るのであれば。
「「サイクル・すっごいぱあああんち!!」」
腰の入った、凄まじい横殴り。それが二つ。バスターベイラーの拳を横から襲った。その威力は、バスターベイラーの拳を、真っ向から弾き飛ばした。
両手がそれぞれミーンとリクに弾き飛ばされ、バスターベイラーが一瞬、呆然としたかに見える。だが、あくまで攻撃は両腕だけではない。胸元からすでにびっしりとサイクルショットがカリンたちを狙い、すでに発射されている。雨というには生やさしい、暴風雨というべき量の針が迫る。
「サイクル・バーストショット! 」
オルレイトガその針を真っ向から打ち返していく。レイダの作り出したサイクルショットが、バスターベイラーのサイクルショットを撃ち落としていく。散弾にしたショットを何発も何発も打ち込んでく。
「サイクル・シミターァア、ブーメラン!! 」
セスのシミターをブーメランにして投擲していく。刃は降り注ぐショットを切り裂きその威力をなくしていく。だが剣一本では落とすのもたかが知れている。
《六連刃ダァ!! 》
だからこそ、セスの手にはすでに片手に3本、計6本のシミターが握られている。それらを一斉に投擲し、迫り来る針は弧を描く6つのブーメランによって悉く切り裂いていく。
ナットとリクが拳を、レイダとセスがサイクルショットを叩き落とした結果。
ベイラー1人であれば通れるほどの道が空に出来上がる。
「いけぇ!! カリン!! 」
オルレイトが思わず叫ぶ。バスターベイラーのサイクルショットの猛攻は止まることがない。しかしレイダのバーストショットは針の生産に若干のラグがある。カリンも、この出来上がった道が長く持つものではないのは承知していた。真っ直ぐ伸びるバスターベイラーへの道。その道が出来上がるのを見ていたコウは、思わずため息をついていた。
「何よ」
《俺がどれだけ頑張って毎回バスターベイラーの元に行ってたと思う? 》
「さぁ」
《死に物狂いでやっとだったのに、みんながいれば、こんな一瞬だったのかってさ》
「なら、無駄にしない。行くわよコウ! 」
《応!! 》
リュウカクから託された真っ赤な刀身を肩に担ぐ。なんら変わり映えない、いつもの構え。サイクルジェットを力の限り火を入れ、道を開けてくれた皆を置き去りにして、緑の輝きを持ってしてバスターベイラーへと迫る。コウとカリンはすでに赤目となって共有を強くしている。だがすでにその口にはあの必滅の熱線が蓄えられている。もはや発射まで幾ばくもない。
「(狙うのは……狙うのは……)」
カリンが必死に狙いを定める。すると、一箇所だけ、不自然にひび割れている場所がある。バスターベイラーの肩の付け根。そこに一本、小さな、本当に小さな針が突き刺さっている。その針こそ、レイダが、オルレイトが1番最初に打ち込んだ楔であった。
「きちんと届いてるわよ! オル! 」
《肩口から叩き斬る!! 》
すべての覚悟が決まった。
その瞬間、剣がコウの輝きに、応えるように瞬いた。赤い刀身の波紋が、まるで生き物のように蠢いている。その蠢き有機的なものでありながら、機械のように滑らかで、その在り方は、コウ達ベイラーのサイクルによく似ていた。
《まさか、この剣自体にも、サイクルと同じ力が? 》
疑問に思っているのも束の間。バスターベイラーから生えた黒い蔦がコウへと襲い掛かってくる。もう幾度となくコウの前に立ちふさがっているその蔦は、相も変わらずコウを絡めとろうとしてくる。すでにコウにとっては有象無象に過ぎないが、万一この蔦につかまりでもすれば、拘束され、熱線を直に浴びせられるのは必定であり、油断も無視もできないなんとも歯がゆい相手であった。
「いい加減しつこい!! 」
カリンもそれは同じであり、対処こそなれたものの、時間をかけたくない相手だった。だからこそ、無造作に手に持った剣を振るった。
ただの横薙ぎをしたつもりだった。その瞬間、剣がコウと同じように緑の炎を纏い、あまつさえその炎が、刃となって前に飛んで行った。
黒い蔦は後続の蔦を巻き込み、そのほとんどのたった一撃で焼き斬ってしまう。
「コウ、貴方がやったの? 」
《違う! この刀だ! この刀にはサイクルがある!》 》
刀身をみれば、たしかに、光で揺らめいているだけのように見えた波紋は、本当に揺れ動いており、表面そのものが動いているのが分かる。そして、先ほどみせたあの剣戟。斬撃そのものが飛んでいくようにみえたあの攻撃は、コウの力を増幅させるような作用が働いているように見えた。
「この刀は、サイクルの力を増してくれる? 」
《なら!! 》
おもむろに、コウが刀に意識を向けた。その瞬間、刀はその意識に応えるように炎をたぎらせる。
《これでどうだ!! 》
たぎらせた炎を、そのまま斬撃として放った。緑の炎を宿した斬撃はたしかに黒い蔦に届くものの、バスターベイラー本体には傷一つつけることができない。
だが、コウはおもむろに放った剣戟で想像以上の成果がでたことにおもわず感嘆していた。
《存外使えるな》
「でも、本体を斬らなきゃいけないのは変わりない! 」
炎の斬撃で黒い蔦を一気に刈り取り、バスターベイラーへと肉薄していく。
《さっきは斬撃の威力も範囲も足りなかった。もしそれ以上をするなら……》
「連撃で削り取る? 」
《その前に熱戦でやられる。あくまで一撃で仕留めないといけないんだ……何よりも早くあのバスターベイラーに一撃を叩き込む方法…‥早い……速さ…‥》
斬撃の速さ。無論コウはカリンと意識を共有していることによって、剣の腕もある程度知識を得ている。その中で、今までで最も早く、最も鋭いカリンの斬撃を思い出していく。
「一番強かったのはきっとあのアジトでの一撃……なら早いのは」
その瞬間、コウの脳裏に、ホウ族の里で行われた祭りの風景が思い起こされる。
あの時、カリンは目にもとまらぬ速さで、迫りくる人形を一刀両断して見せた。同時に、コウがたった今まで、この剣に何が足りないのかを思いつく。飢餓感にも似た不安は、本当の意味で、この武器に本来ならば必要な武具だった。
《カリン! 》
「足りないというはそういう事ね! ! 」
《それに、アレができる! 》
「アレ……よくもまぁ思いつく! 」
《でもアレなら! 》
「ええ、斬れる!! 」
共有がより深くなったために言葉がどんどん省略されていく。オルレイト達からすれば一体何を言っているのかわからない。そんなことなどお構いなしで、コウ達が構えを一瞬解き、右手を無防備にぶら下げた。そして左手を自由にしたと思えば、あるものを作り出す。剣よりも一回り位大きく、厚みがあり、かつ中身が空洞であるその構造体。
それは、リュウカクより授かった剣を迎え入れる鞘である。
急造で作り上げた鞘に剣を納めていく。すでに体の一部のように把握できている剣であれば、その大きさは測るまでもなく理解できる。そして身の丈ほどのある大刀を納めると、腰に据えた。
そして剣を腰に据えたまま疾走する。狙うは肩の楔。
「(攻撃の瞬間を気取られてはならない。そうすればまた防がれる)」
バスターブレードが通らなかった最たる理由。こちらの刃が通るまえに刃を圧迫さえれる。その圧力のつよさは剣そのものを折ってしまうほど強い。
《(奴より速く、強い斬撃を与えるには、返し)》
太刀による返し、つまり、居合斬りである。
バスターベイラーが熱線を放つ直前に、炎を纏う刀で叩き斬る。策とも呼べないものだが、今カリンらができる最速の剣戟はこの居合斬りしかなかった。行動を決めた後、疾走し、滑空し、太刀の間合いへと入っていく。同時に、バスターベイラーの口が嫌でも目に付く。口の中にため込まれたであろう膨大な熱量は、今か今かと吐き出されるのを待っている。ここで失敗すれば、コウたちが熱線で焼かれることはおろか、後ろにいる皆も巻き添えとなる。そうなれば、もう誰もバスターベイラーを止めることなどできなくなる。
「そんなこと」
操縦桿を握りしめる力が強くなる。
《そんなこと》
剣を握りしめる力が強くなる。
《「させるかぁあああああ」》
コウの緑の炎がさらに大きく強くなる。
「いけ、コウ!! 」
「頼んだ! 」
「「やっちゃえコウ!! 」」
コウを信じる声。
《姫様なら、必ず》
《絶対できる! 》
《----!! 》
カリンを信じる声。
想いはすべて託された。そしてその想いが、願いが集うことで、コウの炎はより大きく膨れ上がり、そして、剣も、それに応えるように煌めく。コウが、緑の炎を生み出すように、剣そのものから、緑の炎が再び生まれ始めた。生まれた炎は、鞘を破らんとする勢いで燃え上がり始める。もし鞘がなければ、その炎はコウすら焼いていたほどに。
コウは先ほど、無造作に炎を発生させ斬撃にのせていた。あくまで発生した炎を乗せられるのは刀身分だけ。範囲も限られている。だがここに、鞘ができたことで、その鞘の限界まで、炎を中に閉じ込めておくことができる。この局面で居合斬りを選択したことは、なによりの最適解であることも知った。
膨大な、膨大な量の炎が鞘の中にため込まれていく。これを解き放てば、もはやコウもカリンもどうなるか分からない。
「コウ!! 」
《ああ!! 》
だが、そんなことは間合いに入った二人にしてみればすでに些事である。バスターベイラーの狙いは寸分狂わずコウに定められており。瞬きする間に熱戦は発射される。熱線だけではない。黒い蔦はすでに生え変わり、今にもコウたちを捕らえようと迫っている。
一秒満たない時間で、で戦局は決する状態になった。
―――解き放たれる技の名は、すでにきまっていた。
「真っ向! 」
《逆袈裟ぁ!! 》
鞘からわずかに剣が抜かれる。そのとたん、炎が鞘から逃げ出すかのようにあふれ出す。
《大! 炎! 斬ぁあああああああん!! 》
鞘から解き放たれた剣は、炎を帯びていた。だがただ帯びていたのではない。まるで炎がそのまま剣になったように、ただでさえおおきな太刀がさらに大きくのびていく。鞘から太刀を抜ききったとき、その炎はさらにのびていく。切り上げにも関わらず、その炎の長さは地面の砂漠を削った。
そして、コウは、カリンは、力の限りその剣を振るい、その剣閃は吸い込まれるように、穿たれた針へと叩き込まれた。
逆袈裟。文字通り袈裟斬りの逆向きであり、斜め右上へと切り上げる、カリンらの新たな技である。




