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サイクル・リ・サイクル

 緑の火柱の中。お互いの気持ちを確かめ合った直後。コクピットに収まっていた彼らに急激な変化が訪れていた。バスターベイラーが強化された熱線を放ってきたのである。


「コウ! 」

 《ダメだ! サイクルジェットが使えない! 》


 今すぐにでもこの場を立ち去ろうとするも、激戦に次ぐ激戦で、コウの体はまるで使い物にならない。両腕はすでに砕け、サイクルジェットも使えない。緑の炎が空を再生させ始めているが、時間が足らない。


「(せっかく気持ちが通じたのに! )」


 口惜しさが広がる中、ふと、コウを触るものがいる。この場ではカリンとコウ以外に生き物はいない。突然の接触に驚き、そして触ってきた者にさらに驚いた。


 《アーリィベイラー!? 》

「あ、あなた!? 」


 今までカリンが乗ってきたアーリィベイラーが、コウに触れている。アーリィの損傷もまた激しく。両足がなく、もはや立ち上がることはできない。


 《乗り手がいるのか? 》

「い、いいえ。私1人よ。この子が動けるはずが」

 《……ッテ》


 その時、この場合から3人目の別の声が聞こえた。その声は小さく、だが確かに聞こえてくる。


 《ツカッテ》

「ま、まさかこの子、ヨゾラとおんなじ? この子には、心が? 」


 コウは振り向いて、カリンはコクピットから顔を出し、その姿を見る。すでにボロボロで戦うことすらおぼつかない彼は、片言でも確かに、伝えてくれる。


 《ツカッテ。ソシテ、ミンナ、タスケテ》

「助ける? 」

 《ヒト、タクサン、シヌ。ダカラ。トメタイ》

「あ、あなた、私を載せてくれたのは」

 《ヤサシソウナ。ヒトダッタカラ……ネェ、シロイベイラー》

 《ああ》


 わずかな時間だったはず。その時間でも、すでに声もかすれ始めたアーリィの声は、炎の音にかき消されることなく聞こえた。


 《コノカラダ、アゲル。ダカラ、タクサン、ソラヲトンデネ? 》

 《ああ。約束する。俺と一緒になった君は、きっと雲の上、いや、空の上にまで連れて行ってやる! 》

 《ソラノウエ! ソレハ、イイナァ》


 体が欠け始めた。もはや形を保つことさえできなくなっている。だがその声色はひどく穏やかだった


 《タノシミダナァ》


 それだけ言い残し、すべての体が砕け散る。だが、砕け散ったかけらが、コウの体に纏っていく


「まさか、あの子! 」

 《体を分けてくれてるのか》


 コウの右腕が、サイクルジェットが徐々に変わっていく。


 失った右腕を、砕けた翼を。そのすべてを補うように、アーリィベイラーがその体を授けている。

 授けた上でさらに強靭な物に仕上げていく。


 《これは、ヨゾラと同じやつか》 

「でも、自分の体全部なんて」

 《でも、これならいける! 》


 変化はそれだけに止まらなかった。コクピットの一部が、突如として蠢き始めた。それは徐々に棒状に変化し、やがてカリンにも見覚えのある形に変化する。


「これ……あの操縦桿だわ」

 《あの? 》

「……もしかして、アレもできるのかしら」

 《言いたいことは分かったから待って。複雑骨折するかもしれないぞ!? 》

「やってみなくちゃわからないでしょう! 」

 《だからちょっとまって、あ!?》


 カリンの言いたいこと。それは、コウにもアーリィと同じように変形用の操縦桿ができたこと。それがあるということはつまり、コウもアーリィのように変形できるということ。


 《(関節が変な方向に曲がったりしないよなぁ!? )》


 コウの懸念はただ一つ。変形により自分がどんな関節になってしまうのかわからなかった。人から飛行機のように姿が変わる場合、手足がどんなことになるのか想像できるわけがない。


 だが、予想よりもずっとその変化はおだやかだった。関節は正しい位置にしか曲がらず、外見を変化させる要因は、そのほとんどのアーリィベイラーから譲り受けた外装に過ぎなかった。そこからはもう、自転車に乗れた時のような感動を伴い、空へと飛んでいる。


「あの子が手を貸してくれた!! 」

 《いける! いけるぞ!! 》


 爆炎をふかしながら、火柱の外へと駆け抜ける。


 そうして目にした光景は、2人で共にみた久々の青空だった。


 ◇


「それが、その姿の訳か」


 2人が空を駆けながらも状況を説明し終えた。


「お互いの欠けた部分をおぎなうようにして、コウが生まれ変わったのか」

「アーリィが手をかしてくれたの」

「そうか……まぁともかくだ」

「なぁに? 」

「おかえり。ふたりとも」


 オルレイトは、心の底から安堵している。コウが戻ってきて、そのコクピットに収まった今のカリンは、もうブレることはない。


「ただいま」

 《ただいま》

「さて。帰ってきてそうそう悪いが、アレはどうする」


 指をさすのは、こちらにいまだ威嚇を続けるバスターベイラー。いまだ戦意は衰えることなくその場にいる。


 《切ったそばから蔦で補強が始まるし、遠距離はあの熱線、近距離は黒い蔦》

「あー……言われるとまったく隙がないのよね。今のままだと」

 《どういうこと? 》

「見て。オルレイトの撃った顔」

 《顔? 》


 射撃を受けた顔面、果てはコウが殴り抜けた部分。修復こそ始まっているが、まだ傷がくっきりと残っている。


 《再生が追いついてない? 》

「きっとあの熱線のせいね。特に私たちに」

 《刃渡り、バスターブレードで足りるかな》

「縦に一刀両断、とはいかないでしょうね。まず両手、底から両足を落として、最後に胴体といったところかしら」

「ちょ、ちょっとまってくれ。両断?? 」


 オルレイトが待ったをかけた。ふたりの会話についていけずにいる


「刃渡りが足らない? 両断? 2人は何をいっているんだ? 」

「何って」

 《あのベイラーをぶった切る算段じゃないか》


 あっけからんと言って見せるコウ。オルレイトは頭を抱えながら、そういえばこの二人は自分の想像など三歩以上先のものをいつも考えていたなと、感傷に浸っていた。1秒ほど浸ったあと、軽口をたたく。


「そんな魚を下ろすんじゃないんだから」

「でも有効なはずよ。特に今、あのベイラーには乗り手はいないわ。片手一本分の重さがなくなってバランスを崩すはず」

「理屈はそうだろうけど」

「ならば道理も通すわ!! コウ! 」

 《サイクルブレード!! 》


 コウが高らかに宣言し、刃を作り上げ、バスターベイラーへと向かう。


 《オルレイト様。どうします? 》

「ついていくと言ったんだ! 行かなきゃ嘘だろう! スナイプを使う! 」

 《はい! サイクル・スナイプ・ショット! 》


 レイダが、その腕に長い銃口を携えて供をする。


「マイヤ、本当にヨゾラは大丈夫なのか」

「私にも、何がなんやら」

 《スゴイ! トベル! トベル! 》


 レイダの背中にいるヨゾラが心底嬉しそうな声色ではしゃぐ。先ほどまで満身創痍だったはずのレイダの体も、まるで完治しており、戦いに全く影響がなかった。


「(コウは、治療することが得意なベイラーということなのか? いや、それならどうして今までガイン頼みだったんだ? )」


 そのあまりの回復っぷりにオルレイトは頭の中ではてなマークで埋め尽くされている。


「考えても始まらないか! レイダ! 」

 《黒い蔦、来ます!! 》


 2人がバスターベイラーに近づくと、待ってましたと言わんばかりに黒い蔦が襲いかかる。今まで拘束が目的だったが、何か動きが今までと違う。捕まえようとするのは同じだが、その後が違う。


 一瞬の隙をつかれ、レイダの腕が一瞬絡めとられた時、それはおこった。


 《こ、これはぁ?》

 《レイダさん! 》


 レイダの腕に絡み付いたと思えば、まるで力そのものを吸い取られてしまったかのように、がっくりと力が抜けてしまう。コウはすぐさま絡み付いた黒い蔦を切り伏せると、レイダと共に蔦が届かない場所にまで退避する。


 《レイダさん、何が? 》

 《あの蔦、力を吸い取ってくるようになりました。でもどうして》

「……あの熱線か」


 オルレイトが続ける。


「コウ目掛けた撃ってきたあの威力、そうそうだせるものじゃない。あの1発は存外力を使うのかもしれない」

「力は使ってしまえばなくなるもの。それをあんな風に使えば、誰かれ構わず奪い取ろうとする」

「そういうことだな」

「オル。暴発を狙えないかしら」

「悪くない案だ。でも暴発先が避難所だったら目も当てられない」

「ならば、先手必勝」

「いつも後手だけどね」

「なんか言った!? 」

「いいえぇ!! 」


 戦っているというのに、この場にいる全員が心地がいいと感じている。あるべきところにあるべきものがある。そんな心の安心がある。


 《(二人がそろった)》

「(それだけで、こうも戦いやすいのか)」


 レイダもオルレイトもそれは感じている。だがそのふたり以上に、コウとカリンは体中から力が漲っていた。それは単純に緑色の炎を制御できるようになっただけが要因ではない。心の中にあったわだかまりが無くなった今、お互いに遠慮などいらない。


「蔦が来る! でも! 」

 《それがどうしたぁ!! 》


 無数の蔦を、まるで雑草でも刈り取るように一撃で切り伏せる。いままでの威力の比ではない。


 《このまま突き進む!! 》

「よくってよ!! 」


 レイダも負けじとスナイプショットで援護をする。コウが切れるのはあくまで刃が届く範囲。間合いの外から延びる蔦までは斬ることができない。


「2人の邪魔をさせるな!! 」

 《仰せのままに!! 》


 怪我が治ったためなのか、今まで以上に正確無比な射撃で、応戦する。3本の蔦を一発のショットで貫通させ、3射で9本の蔦を叩き落していく。


 《オルレイト様! 今、最高に調子がいいですよ! 》

「怖いくらいだな! このまま援護する!! 」


 レイダの援護も手助けとなって、コウの猛進はとまらずいる、そしてついにバスターベイラーの頭上にまで躍り出た。すでに何本も蔦を切り捨て続けたブレードは刃こぼれだらけで使い物にならず、役目を終えたことで投げ捨てる。そして両腕が開いたとき、2人は高らかに叫んだ。


 《「サイクルバスターブレード!! 」》


 ベイラーほどの大きさをもった巨大な太刀を作り上げる。2人とも、呼吸は、深く長く吐き出していく。


 そして繰り出すのは、コウの持つ最高峰の技。三次元での戦闘で威力を発揮する

空中剣技。


「狙うは胴体!真向!! 」

《唐竹!! 》


 サイクルジェットは大きく火を噴き上げ、コウのバスターベイラーへ真っ逆さまに連れていく。纏った緑色の炎はコウに必死に追いつこうとしている。その速さと炎の輝きは、コウを火の玉に見せた。そしてその刃を振り下ろす。


《「大・切・斬ぁあああああああん!! 」》


 はったりなどない、真正面からの馬鹿正直な一撃。バスターベイラーもただで喰らってはやらないために、黒い蔦でその一撃を阻まんとする。何十、何百の蔦が行く手を遮るも、大切斬の前にすべてが真一文字に切り裂かれていく。そして、ついにバスターベイラーの肩に剣が当たりのこぎりでの動かしているかのようにゆっくり刃が食い込み始める。


「か、硬い!! でも! 」

《負けるかぁ!! 》


 切り裂くというよりは割ってすすむように、ガキガキと不快な音が鳴り続ける。だがたしかに両断はすすんでいく。勢いにくらべて非常に遅いスピードながら、少しずつ、少しずつ進んでいく。


《「これならいける!! 」》

 

 両者が確信したその時。


《---GAYYY》


 最初に聞こえたのは唸り声。それが徐々に大きくなり、やがて獣と同じ咆哮へと変わる。


《GAYYYYYYYYYYY!!! 》

《なん、だぁ!? 》

「コウ! バスターベイラーの皮膚が! 」


 カリンが目にしたのは、たった今目の前で叩ききっているバスターベイラーの肌。その肌が突如、赤い筋を伴って浮かび上がった。同時に、いままで全くなかった手ごたえがブレードを通じてカリン達の手に届けられる。


《か、硬い!? いや、これは》

「反発を受けてる!? 」


 バスターベイラーは、ついに外的から身を守る術として、自分の体表を操作するに至った。そして真っ先に、体に食い込んだ刃を除去せんと動かし始める。そして、瞬きも許さぬ間にそれは訪れる。


 乾いた木が万力でつぶされるような音がする。同時に、コウのブレードはその刃の半分を残し、真っ二つに粉砕されてしまう。


《「折れたぁ!? 」》


 手元の剣が砕け散る。武器がなくなったその瞬間は明確な隙となった。


 黒い蔦は、あろうことかそのブレードの欠片をからめとり、コウに襲い掛かる。

一瞬の出来事で、コウは、そしてカリンは反応ができなかった。


《右だカリン!! 》 

「へ? 」


 間抜けな声が聞こえた瞬間、その光景は遠くにいたオルレイトの目に焼き付いた。


 縦横無尽に動く黒い蔦は、コウの腕を見事に切り裂いた。片腕は空へと放り出され、そのまま砂漠へと落下する。


「まずい、あれじゃコウは空中でバランスを崩す! 助けに行くぞ! 」

《はい!! 》


レイダを動かし、落下するコウを追いかける。そのまま受け止めようとしたとき、不思議なものをみた。


「(コクピットに、赤い斑点? )」


 それは、本来琥珀色をしているコクピットが、なぜか()()から赤くなっている。バスターベイラーは様々な攻撃をしてきたが、内部に影響を及ぼす攻撃はまだしてきていない。


「(まて、僕は何かを忘れている。いや、思い出さないようにしている)」


 違和感が胸の中で膨らんでいく。それに気が付く暇もなく落下していくコウ。手助けする、落下する直前でサイクルジェットをつかい、安全に着地した。ひとまず危機が去ったことで安心するも、オルレイトはコウに問いかける。


「腕がやられたのか」

《ガ、ガアア!》

「コウ? 」


 かろうじて着地したコウが、切り裂かれた右腕を抑えて悶えている。まるで人間のように苦しむソレに、オルレイトは大いに混乱した。


「な、なんでお前がそんな苦しそうなんだ」

《き、気にしないで……すぐ、よくなる》

「よくなるって」

《カリン!! いけるか》

「なん、とか」


 さらに混乱を加速させることが起きる。中にいるカリンも苦しそうな声をあげている。同時に、コクピットの中の赤い斑点がさらに大きくなる。


「ま、まさか、おいコウ! お前、姫さまは今どうなってる! オイ! 」 

《今は、まってくれ……行くぞカリン》

「サイ、クルッ!」

《リ・サイクル!!》


 コウの体、その一部が燃え上がる。そして、その変化は訪れた。


 切り落とされたはずの右腕が、炎と共に甦り始める。傷を焼くように治すのではなく、もとから無い場所から、まるで花が咲いていくように、コウの腕が生えていく。肘から下、手首から指先まで炎が燃えたかと思えば、そこには傷一つない腕が生まれていた。


 この瞬間、オルレイトはサイクル・リ・サイクルの威力を視た。同時に、今までのコウの謎のほとんどを理解した。


「そうか。ずっとおかしなことがあった」

《オルレイト様? 》

「コウの怪我はベイラーにしては治りが速すぎた。接ぎ木をしても1日で治るなんてありえない。お前は、サイクル()()()()を作ることができるんだな? 使えない部分の古いサイクルを壊して、また新しく、強いサイクルに。いままでのは治していたんじゃない。急速に再生してたのか」

《そしてそれは、私たちにも影響を? 》

「ああ。レイダやヨゾラの傷もそうだ。治療なんてものじゃない。0から()()()()()()()()。」


 サイクル・リ・サイクル。使える部分のみを残し、古い部分を砕き、新たな姿へと変える。再生のさらに上の段階。それをコウは得意としていた。


「お前の炎は、再生の炎だ……だが!! 」


 語気を強くして続ける。


「それがどれほどすごいことかはわかる。それでも聞かせろ! 」

《ああ。聞くよ》

「お前は以前言った! 痛みも、傷さえも共有すると!! なら今、カリンは、腕を斬られたのか!! 」

《オルレイト様、それは! 》


 ずっと思い出さないようにしていたこと。それはコウとカリンの共有について。


 もし、あの共有が続いているのであれば、たった今腕を斬られたコウと同じように、カリンもまた、生きながら腕を切断されたことになる。


「そうなのか! コウ! 」

《それは……》

「オルレイト。それは私から言うわ」

《カリン、でも》

「いいの。これは見なにもいわないといけないことだから」


 カリンが、そのコクピットから出てくる。その姿を見て、オルレイトは一瞬、心の底から安堵した。


「無事で---」


 良かったと続けるつもりだったが、それは叶わなかった。


 カリンの右手は確かにそこに存在している。だが、その纏う服には、右半身に大量の血が付着していた。腕から下半身に至るまで、それこそ、右腕一本を斬り飛ばされなければ出ることのないような量を血がべっとりとついている。カリンの体に傷一つないのが異様な光景にさえ見えた。そして、あのコクピットの赤黒い斑点はカリンの血によるものだと気が付いた。


「カリン、君は」

「わかっていたことなの。こうなる事を承知の上で、私はコウに乗ったのよ」

「強要されたりとか、脅されたりとかでは無いんだな? 」

「貴方は私が、そんなことをして従う女にみえるの? 」  


 光景はあまりに現実離れしている。見知った幼馴染が、その体に自分の血を大量にあびていながらそれでも、いつも見たことのある自信満々の顔で答える。


「みえるもんか」


 そう答えるだけで精一杯だった。もう何度もわかっていたことだった。己の知るカリンと言う女性は、そんな女性であったことを。


「(コウ自身も、いつかこうなる事を知っていたから突き放したんだ。なのに、この人は、説き伏せてしまった。まったく)」


 オルレイトは思わず、コウにつぶやく。


「苦労するぞ」

《知ってる。だから共にいるんだ》

「ハッハ!! 」


 もう何も言えることはなくなった、彼らの絆は己が考えられないほど深く強い。


「(であるならば、僕の道は彼らの行く道を手伝うことだ)」


 もはや未練はない。


「手放すなよ」

《誰が》

《オルレイト様! コウ様! 感傷はあとに! 熱線が来ます! 》

「《休む暇なしか! 》


 バスターベイラーはその口を開き、集光を始めている。膨大なエネルギーとも呼べる力をため込み、再び発射せんとしている。


「せめて避難所の方向には撃たせないようにしないと」

《カ、カリン》

「どうしたの、この忙しいときに」

《空が、空が黒くなってる! 》

「空? さっきまで晴天だったのに」


 見上げれば、あれほど明るかった太陽が、大きく陰っている。しかし周りには雲

一つない。コウたちの頭上だけが黒い霧に覆われている。


 変化はそれだけではない。黒い霧はまるで生き物のように一挙に動き出し、そしてコウたちの体めがけ突っ込んでくる。避けようと体を動かそうとしたとき。それが一体何なのかを知る。


《これ、クチビスだ! クチビスの群れだ! 》

「助けてくれるというの? 」


 クチビスの群れは、コウたちを抜け、そのまま果敢にバスターベイラーへと向かう。黒い蔦はクチビスに反応するも、そのサイズがあまりに小さく捕まえることができない。そして、バスターベイラーの首元に取り付いたかと思えば、クチビスは一斉にその首を食いちぎりにかかった。あまりに分厚いその肌は虫の顎ではほんのわずかしか削ることしかできない。しかし、圧倒的な数の暴力で、喉に張り付き、がりがりと削りとっていく。そして、わずかにバスターベイラーの口が上を向いた。その瞬間、クチビス達が何をしたいのか、オルレイトが読み取った。


「レイダ! バスターベイラーの顎を!! 」

()()()()!! 》


 右腕からひと呼吸する間もなくはじき出されるサイクルショット。しかしその小さな一撃で、バスターベイラーの顎が見事に上へとはじけた。


 同時に、熱線ははるか上空へと放たれていく。熱線は雲を裂き、空のさらに先へとまっすぐ続いていく。長い時間熱線は放たれ続け、雲の大穴を開けた後、大きな煙を吐き出しながら収まっていく。


「まるで逆さの流れ星だ」


 オルレイトがそれを端的に例えた。まっすぐのぼるまばゆい一条の光。それは確かに逆さに伸びる流れ星となんら変わりなかった。


「あんなもの、地上に落としてなるものですか」

《でも、どうしてクチビス達が》

「オルレイト、貴女見えていて? 」

「あ、ああ。クチビスの群れの中に、何か」


 大量のクチビスの中に、三人のベイラー、さらにもう一つ、別の物が見える。


「持ってきたよ! 切り札を!! 」


 クチビスの中から、ミーン、セス、リク、三人のベイラー、そして


 かつて龍を殺したとされる大剣が到着した。






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