表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/359

物言わぬ乗り手

 どうにもならない事態を前に、もはや子供が泣き叫んでいるような声だった。癇癪と言っていい。


 《このぉお!! 》


 目の前には無数の蔦。それぞれが独立して動き回り行く手を阻む。腕に絡まりつき、足に絡まりついてくる攻撃は厄介でしかない。そして動きを止めたが最後、巨大な手が、まるで蚊でもはたきおとすかのように降ってくる。コウは、今まで蚊の気持ちなどは考えたことがなかったが、彼らが最後に見る視点とは、今見ている風景のように、突然天井が降ってくるようなものなのかと理解する。


 バァンと、派手な音がバスターベイラーの体表から鳴る。蔦ごとはたきおとすその動作に押しつぶされれば、体がぺしゃんこになる。そうならないためにも、動きを止めないように縦横無尽に動く必要がある。蔦を斬り捨て、てのひらをよけ、コクピットめがけ駆け上がる。腕からコクピットまで、そんなに距離はないはずだが、先ほどからの妨害でまったく進めていない。その要因は蔦以外にももうひとつ存在している。


 腕に直接生えたサイクルショット。まるで砲台のように備え付けられたそれは、対空砲火としての効果を十分に発揮し、空からの敵を寄せ付けない。コウが腕を駆け上がらずに、空から直接コクピットに迎えない原因でもある。かといって、腕に張り付いていれば狙われないというわけでもなく、進軍を阻む砲台としても役立っている。動きを止めれば、手のひらだけでなくこのサイクルショットの餌食にもなってしまう。


 《地表に打ち下ろされないだけマシだけど、これは》


 シールドを構えながら駆け出すコウ。サイクルショットを防ぎつつ、迫り来る蔦を斬り伏せ、前へ前へと進んでいく。時間はかかるものの、空から迫って打ち落とされるよりはいいと考えていた。そして駆け出していく最中、足元から不穏な音が響き始めていくのを感じる。すでにベイラーのものとはかけ離れ始めたバスターベイラー。その肌には本来ないはずの血管が這い回っている。すでにこのベイラーには至る所に血が巡っていた。バスターベイラーの乗り手のものや、砂の中にいたミルワームなど、様々な場所から血を奪い取り自らのものとしている。


 その血管が、激しく脈打ち始めた。そしてそれは兆候とも言える。コウが顔を見上げれば、これから先、何が起ころうとしているのかがわかる。もうひとつ、ベイラーにあるはずのないもの。口が開き始め、その中が淡く光り輝いている。


 《もう一度アレを使う気か!? 》


 熱量をため込み、発射する熱線。威力はサイクルショットの比ではない。その性質上、連発することが出来ないが、いまだにどれくらい貯め込めば発射されるのかは誰にもわからなかった。


 《(あんなもの、街で使われたら)》


 熱線の恐ろしさは威力だけではない。膨大な熱量を長時間照射できることにある。サイクルショットであれば、その針を防ぐだけで脅威は収まる。しかしあの熱線は、一度その身に受けると、威力が数秒ほど持続する。シールドで防いでも、照射され続けることで容易に貫通してくるのである。


 もし、それが街中で、薙ぎ払われるように使われてしまえば、ミーロの街は、バスターベイラーが辿り着くことなく、死の街となってしまう。街だけではない。今バスターベイラーは流砂に足をとられているが、自力で脱出しようと試みている。最初は腰まであった砂が、今や股下まで這い上がっている。もしこの状態のバスターベイラーが移動できるようになれば、それこそホウ族の里も危険が及ぶ。そして砂漠をこえれればさらに人が集まる場所に出てしまう。そうなればもはやバスターベイラーは災害と何ら変わりなく、人々に恐怖を撒き散らす存在になる。


 《そうなる前にカタをつける》


 サイクルショットの砲台を踏みつけコクピットへと向かう。蔦が絡みつくのを蹴り飛ばし、腕に這い回るのを引きちぎり、そして、再び叩かれそうになるのを飛び上がって回避する。


 回避した瞬間、バスターベイラーは振り落とすように腕をブンブンを振り回し始める。今まで攻撃だけを耐えてきたコウも、足場ごと変わる攻撃には対処しきれず、駆け上がった以上に腕から落下していく。落下するコウに対し、チャンスだと言わんばかりに砲台が狙いをつける。針が真っ直ぐコウへと向かう。


 《(防ぐしか……いや)》


 コウの視線は一直線にコクピットに向けられた。今。コウを振り落とすために高く掲げられた腕は、落下していくコウの障害物たりえない。また、体に絡みついてしかたなかった黒い蔦も、空中であれば邪魔をしてこない。であれば。今まさに降り注ごうとしているサイクルショット以外、コクピットへと向かう道を阻むものは無くなった。


 《見えた! 》


 真っ直ぐ突き進むことさえできばれ、今この瞬間、コクピットまでは最短距離で飛んでいける。すでにサイクルショットは放たれているが、ここで防いで1から仕切り直す時間が何より惜しかった。


 コウがサイクルジェットを灯し、抵抗となるシールドを投げ捨て、全力で飛んでいく。サイクルショットのいくつかが体に刺さるのを無視しながら、毒々しい翡翠色をしたコクピットへと向かう。


 《俺だって、もう使えるんだからなぁ!! 》


 身体中に溢れる炎を集めていく。胸の中心に集まるように意識を集中させ、どんどん炎を溜め込んでいく。ため込んだ炎はやがてその許容を超えて、大爆発を引き起こす。サイクルノヴァと名付けたこの技ならば、どれだけ硬いコクピットであろうと、粉砕できる自信があった。


 《(そして乗り手ごと、俺が)》


 コクピットごと乗り手を殺す。そうすればこの巨大なベイラーは瓦解するとコウは踏んでいる。実際乗り手であるケーシィ・アドモントには何度も憎しみを込めて罵倒されている。彼女の旦那であるパームの足はコウたちとの戦いが原因で切り落としている。


 《(でもそれって因果応報ってやつだ。あいつがやったことを考えれば)》


 だがパームは報いを受けても仕方ないと言い切れるような人物だった。コウたちが知っているだけでも、殺人、強盗、ベイラー攫い。悪事を悪びれもせずに行えるその性根もまた、コウが理不尽さを感じている要因でもある。コウからすれば、逆ギレされているようなものであった。


 《(こいつはもっとたくさんの人を殺そうとしてる。カリンだって)》


 このままバスターベイラーを野放しにすれば、どんな被害が出るかわからない。だがそれ以上に、コウが恐れているのは、この憎しみがカリンに向けられることにある。あの熱線をはじめとしたバスターベイラーの威力を持ってすれば、ひと1人の命など簡単に奪えてしまえる。


 《そう、ならないために、俺は! 》


 サイクルショットを体に受けながらも飛び続け、その炎を体にため込んで、ようやくコクピットまで辿りつく。コクピットに張り付いくと、自分の体に当たるのを嫌がったのか、サイクルショットがピタリとやんだ。叩く攻撃も今のところ予兆はない。ただ一点、喉の辺りから口に至るまでの一帯がぼうっと淡く光り始めている。やがてあの淡い光が目を焼くほど強くなったとき、再び熱線が放たれてしまう。しかし、そうさせないために、コウはコクピットを死に物狂いで目指していた。そのコクピットが、今目の前にある。


 興奮と、もうすぐ目的が達成できる高揚感。その二つが合わさって、自らが殺人を犯すという事実を塗りつぶしていく。これは正しいこのなのだと、免罪符を手に入れているコウにとってこれからすることは正義の執行と同義であり、何ら後悔があるわけがないと思っていた。


 目の前にあるコクピット。その中身を、一瞬見てしまうまでは。


 《サイクル・ノ―――》


 炎を解き放とうとした時。翡翠色のコクピットからその内部がよく見えた。もはやベイラーのコクピットと同じものは何一つない。操縦桿も見えなければ椅子もない。そこには、巨大な繭のように蔦が絡まり合って、時折脈動している何かがあった。その繭の中から、かろうじて見える顔と、目があってしまう。コウは顔こそ知らないが、乗り手であるケーシィ・アドモントであることは明らかだった。しかし彼女の体はすでに蔦によって身動きが取れず、顔の半分だけが見えているような状態で、その顔色も青白く、目の下はくまで真っ黒になっている。あれだけの力を得た代償にどれだけの血が彼女から抜き取られたのか。想像するだけ無駄というものだった。頬はこけて、すでに息絶え絶えでそこにいる。時折脈うつと、その度に首が座っていない赤ん坊のようにガクンと揺れる。意識があるのかさえ怪しい。もはや、バスターベイラーの操縦などできているようには見えなかった。


 そんな彼女の、左目と目があった。その時、その瞳から、一筋の涙が見える。そしてもはや力など入らないであろう体で、精一杯、彼女の口が動く。もはや声さえ出すことができないほどに弱っているのか、コクピット越しでは聞き取ることができない。だがその口の動きだけは、はっきりとわかった。唇の動きを読み解いた時。コウの炎が一瞬萎える。ため込んでいたはずの炎が、水でもかけられたように消えていく。そしてコウはただ叫ぶ。


 《お、お前はぁ、そんな自分勝手なことをぉおおお!! 》


 その言葉を聞いてから、我を忘れて激昂する。ツルツルとした表面に掴みかかるのは至難の技である。故に、サイクルブレードでそのコクピットに突き刺し、足場とした。切っ先のほんの少し刺されば、それで構はしなかった。一本が刺されば、二本めを作り出し、突き刺して両足が踏ん張れるようになる。そして、感情が迸るままに、コクピットを殴り続ける。コウの全力の殴打でも、1番丈夫なベイラーのコクピットを壊すに至らない。だからこそサイクル・ノヴァの破壊力を使う気であった。もう一度、炎を貯め込めばよかったが、それができるほど、コウの心に余裕がない。


 《お前たちが悪いんじゃないか!! それを! それを!!! 》


 拳がコクピットの硬さに耐えきれず、指がぐしゃりと歪む。白い破片がばらまかれていくが、コウはまったく気にせずに、殴り続けていく。


 《どの口が! どの口がいうんだああ! 》


 そして両手の指全てが潰れた頃。頭上がやけに明るくなったのに気がつく。上を見れば、バスターベイラーはたった、ため込んだ熱量が、今にも熱線を吐き出そうとしている。ちょうど頭を真下に向けて、狙いをコウに定めているようにも見え、喉の輝きは、マグマのような明るさと熱量を持っているのが見て取れた。


 《いつも嘘じゃないか! お前らの言葉なんかぁ!! 》


 その行動に、さらにコウは腹を立て、あろうことかその口目掛け飛んで行った。直線距離であるために一瞬でその口に辿りつき、その頬を殴りつける。指が第二関節まで砕け散っているために、もはや拳とはいえない状態で、ひたすらに殴り続ける。コウの体は、まるで感情に反応するようにその炎を滾らせている。炎そのものがバスターベイラーを攻撃し続けているようにさえ見み得た。頬を殴るたびに、その頬から真っ赤な血が流れ出る。白い肌にその返り血はベットりと張り付き、どんどんその身を赤黒く染めていく。


 《死んでしまえ! 死んでしまえよ!! 》


 すでに剣が掴めないために、ひたすらに殴り続ける。そして、顎の下からの下突き(アッパー)を喰らわせると、バスターベイラーは大きくその顔をのけぞらせた。同時に顔にあるバイザー状の目が砕けていく。明確なダメージを認めるも、それを無視してコウの感情は高り続け、炎がすでに鎧のようにまとわりついている。表情が変わることのないベイラーが、その炎によって目を鋭くさせ、そして、炎によって象られた笑顔が張り付いてる。その笑顔は決して人の喜びを分かり合っているような安寧のものではなく、ただ虐げることを楽しんでいるような、邪悪なものだった。


 のけぞったバスターベイラーの口からは、ため込んだ炎が漏れ出している。熱線を吐き出せるような状況ではなかった。


 《はっはっは! ざまぁないよなぁ!! 》


 あれほど戦力差があったはずの状況は、一瞬でひっくり返った。コウの目にはもう、バスターベイラーはただの、殴り甲斐のあるサンドバック程度にしか思えていない。だが、先ほどから全く反抗がないのも事実だった。ため込んでいた炎が熱線として吐き出されることはなく、いつの間にか輝きは失われている。アレだけ動き回っていた黒い蔦はまるで勢いを失いその場でただ揺らめいている。


 《その首ぶった切ってやる!! 》


 そうとも気がつかないコウは、高ぶる炎に身を任せ、その手に刃を作り出していく。すでにまとわりついた炎が、コウの指を修復し終えていた。いつものように刀を作り出し、構えをとる。肩に担ぐようにして、バットでも振り抜くように一文字に切り捨てようとした。


 刃筋、剣の軌道、気合。全ての要素が完璧に噛み合い、真っ直ぐ切りつける。しかし、いかにコウの剣がどれだけ鋭かろうと、バスターベイラーの首は太く硬い。一撃では切断に及ばず、一筋の切り傷がつくだけに止まる。コウの剣戟に刀が耐えきれずに砕け散っていく。


 毒づきながら、慣れた手つきで剣を作り上げ、もう一撃、その首に入れようとしたとき。バスターベイラーがコウを向いていた。バイザー状の目が割れて、左側の中身が見えている。ベイラーの目が発光するのは、バイザーの中にある発光体が原因である。その発光体を、コウは見たことがなかった。


 初めて見るベイラーの目の中。目と言っても、人間のような瞳孔もなく、白目も黒目もない。円形であることだけが共通している。その発光体から、真っ赤な血が涙のように流れているのを、見てしまう。そしてその目は、先ほどの乗り手と同じ目から流れている。同じ表情、同じ涙。それは先ほどの乗り手が口に出していた言葉を思い起こさせるに十分だった。


 《なんで、こんな状況で、そんなこと言える! なんで! 》


 喉を斬ることをやめ、空へと舞い上がる。剣を下に向け、その発光体目掛け突き刺していく。返り血はいよいよ膨大となり、コウの体が真っ赤に染まっていく。


 《どの口が、どの口が言えるんだ! 「助けて」なんてえ!! 》


 ひたすらコウが怒り狂う。ずっと、ケーシィが言っていたその言葉で、怒りが抑えられることができなくなっていた。


 《誰が助けるものか! 誰がァア! 》


 剣が折れているにもかかわらず、ひたすら突き刺し続ける。その度に返り血がコウの体にべっとりと付着していく。だが、それでも、コウはその口の動きがどうしても頭から離れない。怒りがその体を支配しているが、同時に、ケーシィの事を憎むことができない。


 コウの善性とも言える部分が、憎しむことを拒んでいる。


 《お前なんか! お前らなんかぁ!! 》


 怒りと、困惑が混じって、突き刺す剣が弱くなっている。そして先ほどのように威力に耐えきれず、剣が砕け散ったとき、ふと自分の手を見た。そこには、真っ赤に染まった自分の手が写っている。そして次に体を見たとき、今まで感じたことのない嫌悪感が、怒りの代わりに体を包んでいく。


 ホウ族の人々が、その子供たちが褒めてくれた白い体はそこにはなく、ただ惨たらしく痛めつけた後の体がそこにあった。


 《なんだよ、なんでこんな》


 その体を認めた瞬間、自分がしてきたことが急に怖くなっていく。力のまま相手を打ちのめしていた事実。何より、ずっと、バスターベイラーは抵抗していない。


 《助けろなんて……どうすりゃいいんだよ。お前は今までたくさんの人を、殺してきてるのに、なんで俺はこいつを助けなきゃいけないんだよ……》


 コウはついに戦意を失い、バスターベイラーの頭の上で膝をつく。返り血のついた手で顔を覆う。背中以外の場所はほとんど血に濡れて白い場所は見えない。ただ、ケーシィの口の動きだけが、流れていた涙が、そして動かないバスターベイラーが、コウの体を苛んだ。


 《俺は、なんで殺せない……どうして》


 砂漠では、動きを止めたバスターベイラーを不思議そうに眺める龍石旅団がいる。あの凄まじいコウの姿が目に焼きついて離れない。


「……バスターベイラーは、止まった、のか? 」

 《ここからでは何が起こったのかがよく》

「なら、僕たちもいくか


 オルレイトは、何があったかを確かめるべくレイダを動かそうとしたその時。


 《坊や! お待ちよ! 》

「バスターベイラーが動いたのか!? 」

 《地面から何かくる! 》

「今度はなんだ!? 」


 再び砂漠が揺れ動く。今度の揺れは今までの比ではなく、レイダが思わず膝をついて耐える。


「ミルワームが這い出てくるのか! マイヤ、ヨゾラの手を貸してくれ!! 」

「はい! レイダ様お手を! 」


 ヨゾラがレイダを掴み、空へと浮上する。ヨゾラはバランスを崩さないように慎重に飛び上がると、バスターベイラーを見て悲鳴をあげた。


 《マイヤ! マイヤ! コワイ! アレコワイ!! 》

「ヨゾラ、落ち着いて」

 《アレ、オナジ! マエミタ、クロイノト、イッショ!! 》

「同じ……? 」

「黒いのと一緒? それって」


 続きを話そうとしたとき、ついにそれは姿を現した。


 深く大きい流砂を突き破り、黒い蔦は幹となって砂漠に顕現する。すでにバスターベイラーの下半身はなくなり、代わりに木の根っこだけがそこにある。巨大な樹木と半身が変わっていた。そして幹から生える蔦は、さらにバスターベイラーの体をくくりつけ、強引に動かし始める。逆さの操り人形。今度こそ、バスターベイラーは黒い樹木の人形となった。その樹木の特徴を、オルレイトはよく知っていいる。


「黒い、ソウジュの木だってぇ!? 」


 砂漠から出てきたのは、まごうことなく黒いソウジュの木だった。しかしいくつもの相違点がある。まず、日の光を受けるための葉がない。墨を垂らしたような真っ黒な幹だけがそこにある。今までバスターベイラーの体からは生えていた黒い蔦は、この黒いソウジュの木から出ていたのだと気がつく。頭の上にいたコウもそれに気がつき、思わず飛び上がって距離をとる。


 《流砂から、あんな方法で出てくるなんて》


 黒い幹の根本には、養分にされたであろうミルワームたちがいくつも干からびている。血の補給は終わったものと見て間違いなかった。しかし、もはやバスターベイラーは己の意思で動いておらず、黒い蔦によって勝手に動かされ始めている。


 《本当に、ケーシィって人は助けを求めてるのか》


 半分ベイラー、半分ソウジュとなった異形が、コウを睨む。その目からはいまだに血の涙が流れ出ている。サイクルではなく、蔦が強引にバスターベイラーの四肢を動かす。


 《……助けなくっちゃ、ならないのか。俺は》


 コウの葛藤をよそに、バスターベイラーの口の中で再び充填が始まっている。しかし、方向の定めかたが尋常ではない。先ほどコウが叩き切った首を、黒い蔦が締め上げ、無理やり方向を変えていく。


 《もう、あの乗り手にはなんの力もないのか。なら、俺がやるべきことは》


 充填された熱線が放たれようとする。その時。


 バスターベイラーは、自らの手で首を持ち上げ、熱線を空へと放った。黒い蔦が締め付けるのか、紫色の肌がボロボロと崩れていく。熱線はコウたちを穿つことはなく、空へ一筋の光を残していく。


「オルレイト様、今のは」

「僕も見た。今、自分で自分の攻撃を逸らした? どうなってるんだ」


 空に逃げていたオルレイトたちもその不可解な現象を目の当たりにしている。


「(なんだ? コウがバスターベイラーのコクピットにとりついてから様子がおかしいぞ)」

 《オルレイト様、コウ様と合流しますか? 》

「ああ、きっとコウは、あのベイラーと何かあったんだ。言ってくれヨゾラ! 」

 《ハーイ》


 間延びした声とともにレイダが空へと飛んでいく。


「(黒いソウジュの木……それってまるで)」


 頭によぎるのは、かつてサーラの地で出会った黒いベイラー。アイと名乗ったそのベイラーの圧倒的な力と、今、前の目に広がる景色に関わり合いがないとは思えなかった。


「(占い師は言っていた。二つの力があると。一つはあのバスターベイラーのことで間違いない。もう一つは黒いベイラーのことだったとしたら……あのバスターベイラーのどこかに、黒いベイラーと関わりがあるものがあるのか)」


 空を飛びながら、一瞬でまとまる思考に困惑しつつ、結論が出る。


「黒いベイラーに関わるものを壊せば、あるいは」


 オルレイトは1人、この戦いを終わらせるパズルのピースを見つけだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ