コックピットにあふれるもの
ベイラーに口はない。同様に鼻もない。彼らは咀嚼することはおろか、喋るのに舌を用いることはない。喉にある笛にも似た器官で話ために、顎も、歯も、その体には本来不要であり、あるはずがない。彼らにとってコミュニケーションを取るための口はいらなかった。
だが、バスターベイラーはおよそ他者のためではに方法で口を生み出した。ただ攻撃のため、銃口を用意すべく顔の形を変化させる。そしてその銃口から発射されたのは弾丸ではない。熱線、そう呼ぶに相応わしい攻撃だった。従来のベイラーでは考えられない攻撃方法を何度も行って来たバスターベイラー。その中でもこの攻撃は一際ちがっている。コウと同じように炎を操るようになった事。そのコウでさえ、手のひらから火炎放射を放つ程度。今、バスターベイラーが行なったのは、膨大な熱量を一点に集約して放つ熱線であり、その威力、火炎放射の比ではない。
「あ、あれは」
誰もがその光景に絶句した。真っ直ぐに飛び込んだコウ。バスターベイラーに飛び込み、自身の技を叩きつけようとしていたまさにその時だった。
炎をため込み、爆発させるサイクル・ノヴァ。その性質はおりしも、バスターベイラーが放った熱戦と同じ。ため込んだ炎が直線で襲ってくるか、爆発として襲ってくるかの差がある。そしてコウは、間一髪、自身の体に熱戦が直撃する前に、サイクル・ノヴァを発動していた。空中で球体上に広がる爆風に、垂直に叩きつけられる熱戦。炎と炎がぶつかり合い、火の粉が砂漠へと降り注いでいる。地表にいるカリンらは火の粉にあたらなりように、おのおのサイクルシールドを展開し身を守る。無論ベイラーが作り出す道具はどれだけ硬くしなやかになろうとも、材料そのものは樹木である。どれだけ小さかろうと火だねであれば、丈夫なシールドも徐々にもえてしまう。
《今は防いでいますが、これでは》
「レイダ! 作り変えて耐えろ! いつまでも続くもんじゃない! 」
《やってみせます! 》
レイダがシールドを天にかかげ、降り注ぐ火の粉を防ぐ。雨のように降りかかる火の粉は時折レイダの体にもあたり、体の一部が炭となって消えていく。
「(コウが防いでいなかったら、今頃……)」
同じようにアーリィベイラーにシールドを作らせ手身を守るカリン。今は火の粉となっているが、こいれがもしコウがサイクルノヴァをつかっていなければどうなっていたが、想像するだけでも背筋が凍りそうになる。
「(でも、いくらコウでもこんな攻撃をずっと受けていたら)」
砂漠を焦がす熱線。それを体一つで防いでいるコウ。永遠にも思える攻防が、突如として終わりを見せる。バスターベイラーの口が徐々に閉じはじめ、熱線の威力が弱まっていく。コウの方も、今までの爆風が鳴りを潜め、球体の範囲が狭まっていく。そして炎の猛りが収まると同時に、両者は力がぬけたように地面に倒れこんだ。
火の粉を防ぐべく広げたシールドを投げすて、アーリィを連れ傍によるカリン。コウが空中から落ちた先で体に触れようとしたとき、ある異変に気が付く。
「(湯気? 体から湯気がでている? )」
それは、この砂漠にいてなお、灼熱の温度を体にまとわせていることを意味する。試しに体にふれようとすると、まるで肉でも焼けたような、ジュウっとした音が響く。アーリィの手の表面が黒く焦げながら、コウの無事を確認する。
「コウ!? 無事なの? 返事をして」
《……あいつ、加減してる》
返事をしたことで、無事であることはわかるものの、コウの発言そのものの意図がくみ取れず、カリンが思わず聞き返した。
「加減してる? 」
《まだ、上がある……あの熱量は上澄みだ……もう一回きたら、俺でも防げるかわからない》
「ま、まって、そもそもあのベイラーのどこにあんな力があったの? 空を飛ぶのとは訳が違うでしょう? 」
《地面だ……あいつ、地面の中にいる生き物から血を奪ってる》
「ま、まさかそんな」
《一瞬だけど確かに見えた……あの地面に伸びる蔦……あれは生き物から血を吸い取ってるんだ》
カリンが振り向き、バスターベイラーの姿をまじまじとみる。体を這う蔦は、まるでバスターベイラーを支えるように地面から生え、体のそこかしこに巻き付き支えている。そしてその蔦の表面は、植物の質感をたもったまま、生き物とおなじように常に脈打っている。その脈動はさきほどまではなかったもの。
「まさか、さっきのミルワームから血をぬきとったように……あの蔦、いったいどれだけ伸びているというの? 」
《でも、弱点はある》
「そう、なの? 」
《腕が絡め捕らえてるから、町中で撃ってきたサイクルショットはできないみたいだ。もし撃てるなら俺たちは今頃全滅してる……そして、あの熱線は俺と同じで、連打できない》
コウが灼熱の体を携えて立ち上がる。あの熱線をうけて外傷がないように見え、一瞬安堵するも、それは間違いだと気が付かされる。コウの胴体、ちょうどコクピットから、肩にかけて、その体は内側から炎があふれている。その炎はコウ自身が操るものではなく、さきほどの熱線と同じ色をしている。
サイクル・ノヴァを使った直後であれば、炎は放出されその力は0に戻る。しかし、今のコウは外から熱を浴び続け、放出してもしきれない炎を体に宿している状態になっている。原因としては人間の熱中症となんら変わりない。放出されるべき熱が放出されなかった結果、炎が体にこもってしまっている。
結果、コウは意図しない形で炎に身を焼かれ続けている。戦いでなんどかみせた、急速に自分の体を再生させる力をつかおうにも、燃え続ける体ではそれもかなわなかった。
《もう一発撃たれるまえに、あの口をどうかしないと》
この状況でも、突破する糸口はすでにつかめている。手法は単純で、発射口さえおさえてしまえば、あの熱線が撃たれることはない。しかし課題も存在している。
《真正面からあの口まで突っ込んでいて、何もない訳がない……剛腕だって健在だ。動けないってだけで力が弱まったわけじゃない》
「その、乗り手を気絶させるだけじゃダメなのかしら」
《あんなの、乗り手の意思だと思うのか? 》
コウが指さすのは、すでに原型などなくなったバスターベイラーの姿。あの姿をどうやって人間が想像し実行しようと思うのだろうかと疑問を投げかける
《もう中にいる乗り手が無事だなんて思ってない。良くて気絶、悪くて……》
姿を変えたバスターベイラーに共通するのは、膨大な血を求めているという事。最初は乗り手の血が使われているのだと予想できた。しかし今、本来無いはずの口を作るまでに至ったバスターベイラーにとって、乗り手の血がいったいどれだけ使われたのか。考えれば考えるほど、乗り手の生存は絶望的だった。
「じゃぁ、あのバスターベイラーは暴走してるっていうの? 」
《俺たちが憎いってだけで動いてるんだろう? 乗り手はそう言ってた……流砂に飲まれて動けないからまだましだ……あれで自由に動けるようになったらひとたまりもない》
自分の意思とは無関係に燃え続ける炎は、想像よりもずっと自身の体に負担がかかるようで、立ち上がるのでさえ時間がかかる。ゆっくりと砂を払いながら立ち上がり、バスターベイラーを睨み付ける。流砂に埋まった下半身は見え図、上半身だけが砂の上にある。全身に黒い蔦が絡み合ってもはや全体像のシルエットすら変わっている。
《手はある。あの口をどうにかできれば、あとは自滅するのを待てばいい》
「自滅? 」
《ずっと言ってる。血が足らないって。こんな砂漠の真ん中で早々血が集まってたまるか。あのまま流砂にハマってさえいて、あの熱線を止めることができれば、あとは時間が解決して……》
コウが仮説を述べた瞬間だった。
バスターベイラーから伸びる蔦が、流砂から抜け出し、その体を少しずつ、だが確実に下から押し上げていくのを見てしまう。その力は微々たるものであったが、流砂に埋まっていたはずの下半身が僅かながら見え始める。
「嘘……流砂から這い出てこようとしてるの? 」
カリンもそれは目撃し、コウの仮説がすぐさま否定されたのを見る。時間で解決するのはコウたちの問題ではなく、バスターベイラーにとっての問題の方だった。
「何もかもが違いすぎる……でも」
《やっぱり、口を壊した上で、倒すしかないか》
「ま、待ってコウ! あのベイラーは」
カリンの言葉を聞く事なく、燃え盛る体のまま、コウが空へと飛び立つ。その手にサイクルブレードをもち、バスターベイラーの腕へと取り付く。黒い蔦を剪定するかのように、そのことごとくを切り捨てていく。コウは腕を伝ってコクピットへと向かおうとしているのは明らかだった。
バスターベイラーもコウを認識し、攻撃に移る。黒い蔦がそれぞれ意思を持ったかのように自由に動き、コウの行く手を阻む。コウはひたすらその蔦を斬り伏せ、前へ前へと進んでいく。
「コウ、もうあなたは、1人で戦おうというのね……前に、私に言ったように」
「姫さま!! 」
呆然とするカリンに、レイダとオルレイトガ駆けつける。彼らもまた火の粉を浴び続けたが、シールドで体は無傷だった。しかし今、コウのように空を飛べるヨゾラはいない。うかつに近づけば、今のバスターベイラーのように流砂に飲み込まれてしまう。
「まさかあいつ、この流砂から出ようとしているのか? 」
「ええ。コウはバスターベイラーを倒しに、空に行ってしまったわ」
「1人でか!? 無茶だ」
「ええ。そうかもしれないわね」
「……どうしたんだカリン? 」
オルレイトガ聞き返す。この状況で、カリンがずっと何かを憂いているのを感じ取る。それはコウが1人で戦い続けている事に対してのことかもしれないと考えながら聞くと、予想外の答えが返ってくる。
「ねぇオルレイト。一体、どれだけ人を憎めば、ああなってしまうというの」
カリンは、こんな状況で、バスターベイラーを、そして、バスターベイラーの乗り手のことを考えていた。
「何を、言ってるんだ? 」
「どれだけ、私はあの人に恨まれてしまったの? コウはなぜあんなに恨まれているの? 」
「そ、そんなこと、僕らがわかるわけがない」
「なら……どうして、あのベイラーは、あんなに苦しそうにもがいているの? 」
コウは、ずっと変質したベイラーの恐ろしい面だけ見ていた。街を吹き飛ばす豪腕。ベイラーを何人も葬ることができるサイクルショット。その巨体に似合わない、空とぶ力。そして今、他の生き物の力を奪ってでも力を得ようとし、口から熱線を吐き出すまでに至っている。
だが、ここに来てカリンは、その力とは別のものを見ている。
「もう聞こえなくなってしまったけど、乗り手の人の声はいつも悲痛そうだった。そして今、あのベイラーは身体中から血を流している」
「カリン、まさか、君は」
「私、あのベイラーは、倒すものじゃないと思うの」
アーリィが這い出て、じっと己の目でバスターベイラーを見る、こうしている間も、コウはバスターベイラーと戦っている。黒い蔦を切り裂き道を開き、コクピットへと至ろうとする。バスターべいらーも黙って通すわけもなく、黒い蔦を用いて攻撃を仕掛けてくる他にも、腕にサイクルショットを産み出して、まるで機銃のように迎撃していく。コウは飛んでくる針の雨を、持ち前の炎をうまく使って避け続けている。しかし、先ほど受けた炎がまだ燻っているのか、時折、コウはその体を悶えさせるようにうずくまる。その隙をつかれ、何度もサイクルショットで狙い撃たれている。だがコウは決して諦めず、前へ前へと進んでいく。
その姿をずっと見ていたカリンの瞳は、ある種の確信を得た。オルレイトとはずっと疑問形で会話していたが、バスターベイラーから振り向いたとき、何ら不安のない目で宣言する。
「私、きめたわ」
「決めたって、何を」
「あのベイラーを助ける」
「……何? 」
「だって倒せないもの。倒しても倒しても、今のコウと同じ。諦めずにまた立ち上がっちゃう。でも、それは……きっと、憎んでいるから。怒り狂っているから。もう、自分ではどうしようもなくなっちゃってるから」
「だから、助けるっていうのか? あの馬鹿でかいベイラーと、あの馬鹿でかいベイラーの乗り手を? 」
「ええ」
「助けるって、どうやって」
「私じゃ無理ね」
「そっか。無理か……え? 無理?? 」
キッパリと答える。あんまりに自信満々に言うもので、オルレイトは呆然とする暇もない。
「でも、コウなら、できると思うの」
「コウが? 何で? 」
「覚えてる? 私たちがこの砂漠に来たとき。コウの炎に包まれた時のこと」
「あ、ああ。覚えてるけど」
「あの時はよくわからなかた。でも、ミーロに橋をかけた時、あの炎は現れた。……あの炎は、特別な力があるのよ」
「その特別な力で、あのバスターベイラーを助けるって言うのか? 」
「ええ。だって、あの炎はいつだって誰かを助けているわ。なら、今回もきっと」
「……」
無茶だと否定するのは簡単だった。今のコウはバスターベイラーを倒すことしか頭にない。止めにかかった相手すらその刃で切り捨てる勢いすらある。
そんな考えは捨てろと、別の方法がいくらでもあるはずだと喉元まで出かかる。オルレイト自身、バスターベイラーに致命傷は与えられずとも、時間がくれば自滅するだろうと予測をつけている。ならば、流砂這い出てくるより前にバスターベイラーに消耗戦を仕掛ければいいとも考えていた。
「(それが最善の策だ。これ以上、被害を大きくする必要はない。あのベイラーをこれ以上刺激して、またどんな仕返しが飛んでくるかわからない)」
今まで、バスターベイラーはこちらの想像を遥に上回る変化を続けてきている。それは悪い方向に向かわない保証はもうどこにもない。
「(あの熱線だって、まだ上があるかもしれないんだ。それなのに、どうして)」
だと言うのに、どうしてそんな発想ができるのか。ふと好奇心が出る。
「なぜ、そこまで? 」
「笑ってくれていいわ」
振り返ってはにかむカリン。その笑顔はこの戦場ではずいぶん不釣り合いで、それでいて、ゲレーンの中では見ることができた、久々の笑顔だった。その笑顔のまま、カリンは答える。
「コウを信じているからよ。コウなら、それができるって」
何ら理論的なことはない。屁理屈ですらない。しかし、今のオルレイトにとって、この世に溢れるどんな正論よりも納得できる答えだった。
「……ヨゾラが」
「はい? 」
「ヨゾラが戻ってきたら、僕らもすぐいく。だから行って、コウを説得してくれ」
「言っておいて何だけど、いいの? 貴方も作戦を考えていたのではなくて? 」
「僕が考えたどんな作戦よりも成功しそうだったからいいのさ」
「そう」
「その説得、てまえも協力させてくださいな」
背後から声がする。振り向くとそこには桜色をしたベイラーの手のったアマツが、今までにない神妙な顔をして佇んでいる。
「いいのだけど、グレート・レターはまだあの力は使えて? 」
「てまえの分だけならば、如何に調子が悪くても大丈夫なのです」
「占い師、この戦いの結果を占ったりはしていないのか? 」
「占いました」
「なら、この後僕らがどうすればいいのかも、わかるのか!? 」
「いいえ。今や、てまえの占いは当てになりません」
「ま、待ってくれ占い師。それってどう言うことだ」
オルレイトが待ったをかける。勝つにしろ負けるにしろ、占い師が結果を知っていれば、まだやりようがあった。しかしその占いがあてにならないと言う。
「あんなに自慢げだったろう!? それがどうして」
「てまえの占いでは、流砂に飲み込まれて、この戦いはそれで終わりでした。ボッファの命と、もう1人、戦士の命を、引き換えにして」
「な、なにぃ? 」
「ですが、今はもう違う。ボッファは生き残り、代わりに、バスターベイラーはさらなる力を得てしまった。占いが、外れているのです」
「占いが外れたと言うのに、平気そうね」
カリンの言葉の通り、今までアマツは自分の占い通りに事を進めることを良しとしてきた。それほど占いを絶対視しており、だからこそ、占いでコウが世界を破滅に導くと出たために、距離を置いて観察を行ってきた。
「占いが外れる。それは恐ろしいこと。もうてまえはホウ族を導くことができるかわからない。でも、てまえたちが奮起することで、占いが外れたとしても、占いより良い結果が訪れると言うならば、てまえは協力いたします。そしてそれは、あの白いベイラーが世界を壊す結果を覆すことにも繋がる……てまえは占いではなく、あなた方を、信じます」
アマツが、打算抜きで初めてカリンたちを信じる。グレート・レターの手に乗り、カリンに手を伸ばす。それは施しのためではなく、友好を示すもの。
「どうか、協力させてほしいのです」
「いいえ。協力してもらうのは、こちらの方。私1人では、もうコウは話を聞いてはくれないでしょうから」
「ならば、何としても白いベイラーを追いかけ、そして伝えなければ。しかしグレート・レターの消耗も激しい。あの黒い蔦をどうにかするには随伴してくれるベイラーが必要です」
「ならば、私が」
カリンもまた、アーリィの手を伸ばし、その上に立つ。そして、誰に言われたのでもなく、カリンは占い師を手を取り、額に当てた。それはいつか、戦士であるアンリーがカリンに行った誓い。それをカリンは、この地の作法に則り、約束を、そして友情を交わす。
「この血にかけて」
「(---ああ、そうか。この娘の、この気質が、てまえたちを動かすのだ)」
《ええ、きっと》
グレート・レターの感情が揺れ動く。普段はそよ風に揺られる桜のまま、華やかながらも物言わぬベイラーであるが、その心をカリンは大いに動かした。
《グレート・ギフトは、いい友を持ったのですね》
「レター、もしかして、妬いてる? 」
《いいえ。ただ、アレは少し乱暴者でしたから。離れてから少し気がかりで。でもよかった》
「グレート・レター。もし良ければ、この後、父の、いいえ、ゲレーンに住むグレート・ギフトののお話をお聞かせください」
《ええ。日が昇るほど、語り明かしましょう》
「では」
カリンが離れ、アーリィベイラーのコクピットに収まる。短い間ながらこの戦いの最中命を預けたベイラーは、すでに満身創痍であるものの、まだ機能を十全に果たすことができる。
「もう少し、貴方の力を借りるわね」
返事はないとわかっていながら、操縦桿をひと撫でし、その後ゆっくりと握りしめる。視界の共有のみが行われ、人間では到底得ることのできない視野の高さと広さを得る。
「先に行きます!! 」
占い師の返事も待たず、変形し飛んでいくカリン。そのカリンを遠い目で見つめるアマツ。
「占い師。さっき、老人と、もう1人、戦士が死ぬはずだったって言ってたな? 」
「ああ。言った」
オルレイトの言葉に耳を傾けるアマツ。その言葉の先を何となく予想しながら聞いていく。
「本来死ぬはずだったのは、町の住人か? それとも、僕らの中の、誰かか? 」
「……まぁ、あの姫さまよりは、そこの坊の方がうまく立ち回りそうか」
「坊って何だ坊って」
その返事にカラカラと笑いながら、アマツはゆっくりと答える。
「アンリーだ。アンリーが、あの姫を庇って死ぬ」
今まで伝えたことのない占いの結果を伝える。アンリーはこの戦いで命を落とす。その落とす原因はカリンであった。
「ま、まさか、今まで姫様をずっと嫌ってたのは」
「嫌ってはおらんよ。その占いを見たのはついこの間、このミーロの戦いが始まる少し前だ」
「なら、アンリーは知ってるのか? 自分が死ぬかもしれないってこと」
「さぁ。ただ、自分はいつか死ぬことをぼんやり理解しているようだったよ」
「……占い師。あなたはいつもそうなのか? 」
その言葉に、どれほどの意味が乗っているのか。その意味を全て理解した上で、アマツは答える
「それが占い師というものだ。ホレ。ヨゾラとかいうベイラーが戻ってきたぞ。あとから来るがいい」
「今度の、占いは」
「うん? 」
オルレイトは、苦虫を噛み潰したような顔しながらも、真摯に、アマツに祈りを込めて願う。
「今度の占いは、外れるといいな」
「……占い師の仕事を奪ってくれるな。これで腹を満たせるというに」
「アンリーもこの場にはいない。大丈夫さ」
「はやくゆけい。植え寄せは時間がかかるだろうに」
憎まれ口一ついうので精一杯だった。アマツはグレートレターのコクピットに収まるや否や、ただ上を見上げてその目を閉じる。
《どうしました? 》
「いいや、ゲレーンという国で生きる人間はみんな、あんななのか、それともあの姫さまの周りに集まってくるのがそういう人種なのか……まったく。忘れていたいのに、溢れてしまいそうだ」
その瞳には、本当に僅かなながら涙が溜まっている。ほんの少しだけ溜まった涙は落ちることもなく、体の中に吸い込まれていったが、アマツにとってそれはどんな雨よりも耐えることが難しいものだった。




