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バスター・ベイラー

 その拳の一撃は、街全体を揺らした。


 幾人のベイラーがたった一撃でまるで紙吹雪のように吹き飛んでいく。街に巨大なクレーターが出来上がる。


「冗談じゃないぞ」


 誰もがその言葉を口にする。街の中でその異形は目立ちに目立ち、誰もがその姿を見ることができた。姿形は、ザンアーリィベイラーのそれであり、そのことにはだれも言及していない。それでも人々は口を開けてただ呆けてしまう。


 50mはあろうその巨大な姿は、街に大きな影を落としている。そんなベイラーの姿を見ても、皆が皆、己の目が狂ったのだとしか思わなかった。幸いなことに、さきほどの一撃ではまだけが人はでていない。巨大なベイラーはまだ自分の力を十二分にコントロールできてないのがうかがえた。


「あれがベイラーだっていうの!? 」

 《幻か何かだろう! 》


 しかしそれはなんの慰めにもならず、異様な姿に人々は畏怖の念を覚えた。戦場に立つカリン達もそれは例外ではない。炎に包まれた後に現れたそのベイラーに、どうしたらいいかわからないでいた。そして、巨大なベイラーが再び動き出す。


 1歩、あゆみを進めた。足を上げ、下す。その単純な動作でさえ、空気が震え、嵐が起きた。地面にその足が付いた瞬間、大きな地響きと共に、何軒もの家が崩れていく。嵐が歩いてくるかのような被害が起きた。土煙と砂埃が手を組んで、カリン達レジスタンスの姿を隠してしまう。降りかかる砂を払う中で、カリン達が脳裏に描くのは、あのベイラーが、これ以上街を進んだ場合の、荒廃した街の姿。


「幻が街を壊せるわけないでしょう! これ以上あのベイラーを先に進ませたら、ミーロの街がめちゃくちゃになる! 」

 《なら一撃入れる! 》

「ちょっとコウ! せめて連携を! 」

 《アーリィととれるもんか! 》


 コウがカリンに一瞥もくれずに飛び立つ。7mほどの大きさのベイラーでは、50mの大きさに達するベイラー相手では壁を相手にしているような威圧感がある。


 《サイクルブレード!! 》


 それでもコウは心折れずに、サイクルブレードでその顔を斬りつけようとした。しかし、相手の大きさと自分の武器の大きさとでは間合いがまるで合わない。さらには、斬りかかるのは巨大な頭という、ベイラーになる前の生前さえ見たこともない代物であり、距離感が狂って仕方ない。


 《遠い! 》


 振り上げた剣がまだ振り下ろせないことに苛立ちながら、ようやく、顔の目の前まで来たとき、その目が赤く光っていることに気が付いた。ベイラーの目が赤く光る。それは乗り手の意思がベイラーと合致したときでしかなしえない相互理解の力。しかし例外もある。ザンアーリィベイラーは、ベイラーに意思がなくとも、乗り手の強い意志さえあれば、赤い目になる事ができた。そして赤い目になったベイラーは、想像を超えた力を発揮することができる。


 《(乗り手はまだ中にいる? )》


 一瞬、視界の端から自分に向けて延びる物のみた。コウはそれに危機感を感じ振り向くと、それは、この巨大化したベイラーの腕であり、その腕がコウをつかまんと伸びてきている。コウは斬りかかるのをやめ、伸びてきた腕から逃れようと全力で飛行する。上昇速度によってコウの体から雲が引いた。


 《ザンアーリィに、こんな力が》

「はっは、はっはっはっは!! 」


 その時、ザンアーリィの中から、女の笑い声が聞こえてくる。その女はとても上機嫌で、とても無邪気だった。


「どうしたのぉ! とってもちっちゃくなっちゃってさぁ!! 」


 乗り手のケーシィは、自分の状況を理解していないようで、無邪気な声のままで、コウを握りつぶそうと手を伸ばし続ける。気分の高揚だけはそのままに、ずっと笑い続けているのは狂気的であった。


「あっはっは! 」

 《クッソ! 》


 コウがさらに全力で逃げる。腕が伸び切って、コウがその手の範囲から逃れたとき、ザンアーリィの足元がわずかに動いた。そしてザンアーリィはコウを追うのをやめ、じっと地面を見つめ始める。


 《なんだ? 》


 ザンアーリィが追撃をやめた事を不振に思い、コウもまた地面を見やると、そこにはレジスタンスがサイクルショットで巨大なザンアーリィを攻撃している姿があった。しかし、そもそも大きさが違うためにまるで有効打になっていない。それでも攻撃をやめないのは、レジスタンスのことごとくが、目に前に突如として現れたベイラーに対し、パニックを起こし恐慌状態になってしまっていた。


「来るな! 来るなぁぁあ!! 」

「ここから出ていけぇ! 」


 泣き叫び、吠え叫びながら初めて乗ったベイラーで、かろうじてサイクルショットとして成立している攻撃を永遠と行っている。しかし、どれだけ威力があろうとも、相手の大きさがあまりに違っていた。サイクルショットの針は刺さっているもの、その分厚い体にはびくともしない。


 《オルレイト様! これは》

「駄目だ! みんな冷静になれない、なれるもんか! なんだあれ!! 」


 恐慌状態に陥ってるのはレジスタンスだけではない。この場にいたオルレイトとサマナもまた、恐怖に身を貫かれている。サマナに至っては、この戦場の意思を読み取り、物が言えなくなっている。


「グレート・レターこれは」

 《家族の力ではありません。ですがなぜああなったかまでは》

「占いではあんなものは一度もでてこなかったのに」


 グレートレターとアマツは、その力に圧倒されながらも自らの知識にあてはめ、なんとか打開策を得ようとしている。催促せんとオルレイトが叫んだ。


「占い師! なにかないのか! 」

「あれだけ大きくてもベイラーはベイラー。火を扱うものさえいれば勝機はあります。ただ、それにはどれだけの火力があればよいかまでは」

「火力、火力か」

「あーあ。めんどくさいなぁ」


 ずっと上機嫌だったケーシィの声色がわずかに沈む。そしてベイラーの両腕を地面へと向けた。


「あ、そうだぁ。そうすればいいんだぁ」


 ベイラーの腕から、針が生成される。サイクルショットを使おうとしているのは、相対しているレジスタンス全員が理解できた。しかし、その数が違う。通常のベイラーが作り出せるであろう針。それを、50mの巨体が腕一面に作り上げいく。ギリギリとサイクルが重く低く鳴っているのが不気味だった。やがて、100を超える針が出来上がったころ。ケーシィがつぶやいた。


「いなくなっちゃえ」


 無慈悲にそれは発射された。片腕に100。両腕で200の針が、レジスタンスのベイラー達を襲う。それは暴風に等しく、まともに受ければ致命傷は免れない。


「グレートレター! 」

「レイダぁああ!! 」

 《はい!! 》

 《家族の頼みなら》


 アマツが、オルレイトが動く。それはとっさの反射で、そうしなければ自分が死んでしまうと思ったから。誰かを守ろうとした行動ではない。しかしそれでも、アマツもオルレイトはもその場から退かずに、ここでシールドを張ることを選んだ。それが彼らにとっての分岐点となる。


「サイクルシールドぉおおお!! 」

 《《はぁあああああああああ!!》》


 叫び、うなり、その手を前にかざす。壁を生み出し、迫りくるサイクルショットからこの身を守ろうとする。そして。その瞬間はすぐさま訪れた。


 轟音。爆音。地面を抉る針が、レジスタンスを襲う。一斉に放たれたサイクルショットは狙いなどつけられておらず、ベイラーがいない場所でさえその雨を降らせた。家屋に穴があき、倒壊し、何人かはその音で耳をやられた。そしてサイクルショットによって、大多数のベイラー達がその針の犠牲となる。


「うぁあああああ!! 」

「くぅ!うあぁ、ああ!!」


 オルレイトはただ、サイクルシールドに叩きつけられる何十回もの衝撃にひたすら耐えるだけだった。振動で体中が痺れていく。意識だけは手放すまいと唇ごと歯を食いしばる。アマツは声を上げることさえできず、ただじっと震えに体をこわばらせている。二人の視界の隅では何人ものベイラーが針の雨に貫かれて倒れていくのを見る。そんな降りしきる針の中で、一人のベイラーが、レイダの方に手を伸ばしてきている。このシールドの中に入ろうとしているのは明白だった。その手を取れば、そのベイラーを助けることができる。


「早くこっちに!! 」


 だがシールドの中に引き入れようにも、オルレイトもレイダも、自分の体を守るので精一杯だった。やがて悪夢のような時間が過ぎ去り、吹き上がる埃がようやく収まったころ。歯を食いしばりすぎて滴る血を吸ってようやく周りを見まわせるようになる。


 ◇ 


「あっはっは! すごい! すごいよぉ!! 」


 つい先ほどまで。白いベイラーと、裏切り者のベイラーに襲われていた。ケーシィはそこまでは覚えている。油が切れて空から落ちようとしたとき、憎しみに任せ、ただ感情をぶつけた。そしたら、ザンアーリィが応えるように力を与えた。


 ザンアーリィになぜそんな力があるのかケーシィは知らない。おそらく永遠にそのことを気にすることもない。


「おばさま、もったいぶって教えなかったのね! もう! でもこれで旦那様をいじめたやつらを懲らしめてやる! 」


 ケーシィを支配しているのは圧倒的な全能感。それは十分な睡眠をとった後のすがすがしさを10倍にしたような気持ちよさが全身を包んでいる。それゆえにずっと上機嫌で笑いながら見下している。


 その全能感とは裏腹に、コクピットの様相は壮絶なものになっている。コクピットシートから蔦が何本も伸び、ケーシィの体をがんじがらめにしている。獲物を逃すまいとからめとるその蔦の先には棘があり、その棘がケーシィの腕に小さく、しかし確かに突き刺さっている。緑の茎に黒い斑点をしたその棘は、よく見ればケーシィから血を抜き取っていた。細い管に赤黒い血が流れていく。少しずつ、少しずつ血は滴り落ちる。文字通り彼女の力を吸い取り、ザンアーリィは力を得ている。


「この力があればなんだってできちゃいそう……あれ? 」


 自分の血がベイラーによって抜き取られていることも知らず、陽気にあたりを見ていると、足元がかゆいことに気が付く。目を凝らせば、恐慌状態に陥ったレジスタンスたちがケーシィに向かって攻撃を行っている。だがどうあがいてもサイズ差がある。通常のベイラーの肌の厚さが10とすれば、今のザンアーリィの厚さは100はくだらないものになっている。ただのベイラーによるサイクルショットなどまさしく蚊ほども痛くない。しかし、鬱陶しいことには変わりなかった。


「あーあ。めんどくさいなぁ」


 その時、ケーシィに妙案が思いつく。普通のサイクルショットのサイズを、今のサイズで大量につくればどうなるのか。


「あ、そうだぁ。そうすればいいんだぁ」


 その案は予想以上の光景をもたらした。何mにおよぶ長さに、まるで畑のように生まれてくる針山。これを打ち込めばどうなるのか。それを想像するだけで彼女の体は喜びを得ていた。


「さて、ザンアーリィ……あーでも、そのままだとちょっと弱っちいなぁ」


 狙いなどつけなくてよいため、とりあえず腕を前にむける。あと数秒後にはサイクルショットの雨が降り注ぐ。


「あとで名前かんがえてあげよ。さてザンアーリィ。やっつけろ」


 ケーシィは小声で、ザンアーリィが殺戮を行うことを許可した。


 ◇


「終わった、のか」


 絞りだすように出した言葉を聞くの人間はその場にいない。地面には無数の針が突き刺さっている。そしてその針が貫いているのは地面だけではない。昨日まで暖かい灯りをともしていたであろう家々。活気のある市場。人の営みに必要なもの、なくてはならないもの。そのことごくを無残に撃ち貫いている。そしてその針の山に力なく横たわる、()()()()()()()


「―――」


 建物や道だけに飽き足らず、巨大なベイラーは命そのものを無慈悲に奪い去っている。逃げ遅れたレジスタンスだった物。アーリィベイラーはそのコクピットを串刺しにされ、中から鮮血が滴っている。あれだけ毒々しい色であった翡翠色の胸には、血によって真っ赤に染まる手形が見えている。アーリィベイラーの中から這い出ようとして力尽きていた乗り手の手形である。そんな動かなくなったベイラーがいくつもこの場にあった。人の死が、この場にあふれている。そしてレイダのすぐ横には、ついさっきまでこちらに手を伸ばしていたアーリィベイラーの手だけが残り、残りは針で覆われて見えなくなっていた。再び動き出す様子はまるでない。


 オルレイトはコクピットの中で、胃の中の物を吐き出した。意思とは関係なく、体がこれ以上この光景を見るなと警告していた。吐き出していく物の中に、ついさっきまで噛みしめていた唇から流れる血が混じり、その匂いでまたむせた。


 乗り手が行動できないと判断し、レイダはすぐさま物陰に隠れる。レイダもこの光景をみてショックを受けている。しかし彼女にとって乗り手が今見ている光景に心身を貫かれている現状を打開するほうが先決だった。


 《坊や、もう大丈夫》

「あんな、あんなもの」

 《坊や? 》

「あれが人間の死に方か? あれがベイラーの最後か? あんな、あんなものが」

 《坊や! 》


 レイダの声に気が付き、ここでようやく、自分の状態を把握しはじめるオルレイト。しかし把握はできても行動に移せない。あの光景はそうなってしまうに値する景色だった。


「あんなもの、どうすればいいんだ」

 《やり過ごしましょう。あれが連射できるとは思いません》

「そうだな……撃ってこないのがその証拠だな……こうして休んで……」


 目をつぶろうとしたその時、オルレイトの顔が見上げられる。その目は酷くよどんでいる。


「レイダ! 他の連中を見たか!? セスは!? グレートレターは!? 」

 《わかりません。ただ、姫さまは空にいましたから、無事のはずです》


 レイダが先回りして答える。彼の心など、すでにお見通しだった。その答えに満足したのか、オルレイトの目に光が戻ってくる。


「そ、そうだよな。空にいたものな」

 《グレート・レターの欠片もありません。もし何かあれば彼女が、サイクルレターがなんとかしてくれます》

「そうかもしれないな。そうだよな」


 もはやすがるような声で、しかし気を確かに持ち始める。口を拭い、レイダと共にオルレイトは立ち上がる。


「あんなもの、戦いようがない」

 《すると、やはり》

「撤退する。生き残りを見つけて引きずってでも生き残るぞ! 」

 《……そうそう。そっちの坊やがいいよ》

「何か言ったか!? 」

 《なんでも。行きます》

「見つからないように、慎重にな」


 レイダがゆっくりと動き出す。あのアーリィベイラーの前では徒歩でどれだけ距離をとれるか分かったものではない。撤退しようにも、こうして物陰からゆっくりと顔を出さないように動くしか術はなかった。


「そのままだ。そのまま」

 《オルレイト様。敵の位置が分かるのですか? 》

「影だ。影がまったく動いてない。もしかしたら機敏には動けないのかも」


 オルレイトの言う通り、先ほどから巨大なベイラーの影は一行に動いていない。身動きが取れないのか、それともあえて動かないのか。理由を知る事はできないが、それは好機といえた。


「今のうちに、できうるかぎり離れるぞ」

 《もち……ろん……》

「レイダ? 」

 《オルレイト様! 左! 》

「サイクルショット! 」


 レイダが声をかけるのと同時に、オルレイトは声を荒げて攻撃の意思を示す。レイダの右腕に鋭い針が出来上がり、そのまま、左の方へ向けて発射する。するとそこに、こちらに狙いをつけているアーリィベイラーがいた。サイクルショットを先に撃った事が幸いし、攻撃されることは免れた。だがそれよりも気になる事がある。


「あのベイラー、白い布を巻いていなかったな」

 《帝都の者でしょう》

「くそ。仲間がまだいたのか!? 隠れてもこれじゃぁ」

「 み ぃ つ け た 」


 頭の上から、声帯だけを拡張されたような、それでいて肌をやさしくなでる女の声がする。これが寝床で聞くことができればどれだけ安心できる声であったか。


「そーれぇ」


 その声の持ち主は無邪気にベイラーの足をあげさせ、そのまま踏みつぶそうとしてくる。これが通常のベイラーであればなんの問題もないが、50mのベイラーが行うとなると話が変わってくる。


「まずい! 」


 全速力で逃げ出すも、そのサイズ差で距離がまるで足りていない。そしてケーシィはこのベイラーのコントロールが徐々にうまくなっていた。


「そのままつぶれちゃえぇ」


 足と認識する前に、壁が落ちてくるようなものだった。圧倒的な質量を前にして、心が折れそうになる。


 《オルレイト様! 》

「あきらめるわけないだろう! 」


 レイダの全速力でも、その落ちてくる壁から逃げ出すことなどできなかった。


「こんなところで! 」


 オルレイトが思わず目をつぶった。視界がゼロになり、体がひしゃげることを覚悟する。しかし、いつまでたっても体は元のまま。


「な、なんだ? 」


 みれば、先ほどの影がない。それどころか、さきほどまで逃げていた地面とはまったく別の場所にオルレイトとレイダがいた。


「今度は……いや、この力、サイクルレターか! 」

「よい洞察だの」


 振り向けば、そこにはグレートレターの肩でクツクツと笑う占い師、アマツがいた。そして周りには、女子供たちが身を寄せ合っている。


「ここは一体? 」

「避難所。ミーロの街で戦えぬものたちがここにきておる」

「戦えない人たち」

「男たちも、いま戻ってくるだろうさ」

「男たち、そうか、レジスタンスの人たちは」


 その瞬間、オルレイトは脳裏にあの死が充満している光景を再び思い出してしまう。もう吐き出す液体すら残っていないため、ただひたすらにせき込み、えづく。


「大丈夫ではなさそうだな」

「うるさい。これくらい、なんとでもなる」

「うむ。では、ついでに悪い話をしよう」

「これ以上どう悪くなるっていうんだ」

「グレートレターが力を使いすぎた。サイクルレターはもうあと何回も使えない」

「……そうか。でもそれがなんで……」


 ここまで言って、オルレイトの顔が青ざめる。その表情でアマツもまた彼の脳裏に描かれた事を察した。


「今のおまえさまなら占いなどせんでも考えることが分かるわな」

「な、なんだよ」

「逃げることができなくなった、と考えておるだろう? 」


 青ざめた顔に、さらに眉間にまで皺がよった。


「この街を諦めたいわけがない。だが手段が出てこない」

「そうさな。あのバスター化したベイラーをどうにかしなければ」

「……何? バスター? 」

「ベイラーの武器は、重ねることができる。その重ねた武器をバスター化と言うことがあるのだ。見たことがあるのではないか? 」

「武器を、重ねる……」


 思い出すのは、コウが作り出すバスターブレード。身の丈におよぶ強力な刀剣。その重さもさることながら、そこから繰り出される剣戟は幾人のベイラーを切り伏せていた。


「な、ならあのベイラーは」

「考えにくいが、体を重ねた。といったところだろうの。海賊のがいうには、別のベイラーの欠片があのアーリィにはくっついていたとか。その別のベイラーがあのアーリィを大きくしたのだろうな。無理やり名付けるなら、バスター・ベイラーといったところか」

「バスター・ベイラー……そんなの、どうにかなるのか」

「わからん」

「お、お前なぁ!? 」

「だが、あやつらはそんなこと関係ないみたいだの」

「あやつら……?」


 アマツが指をさす。その先にみえるのはバスター・ベイラー。戦場からだいぶ後方に位置するというのにその姿は克明に映っている。同時に、そのベイラーの周りでずっと飛び回っているベイラーが、二人。


「……まさか、まだ戦ってるのか。あの二人は」


 そこには、果敢に立ち向かう白いベイラーと、肩に布を巻いたアーリィベイラーがいた。コウとカリンは、いまだあきらめてなどいなかった。

あーあ

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