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アンリーと仇

「ベイラーはいくら壊れようとも治る。だがそれは日を開けた場合の話だ」


 どうにか不時着に成功したオルレイト。彼は今、目の前の光景に理由を見つけようとして、しかしどうやっても己の知識ではその理由を見つけることができてなかった。そのベイラーは今まで幾度となく信じられない光景をその目に残してきたものの、その光景がもうひう一つ増えてしまう。


「そんな、一日に全身の怪我が治るなんてことはないんだ。それが、どうして」


 つい先ほどまで、怪我まみれだったコウは、今、まったく無傷の状態でいる。そしてザンアーリィと空での格闘戦を繰り広げていた。幾度となく刃は交わされ、その度に耳に重く低い音が両者の威力がどれほどのものか推し量れる。紫の体と白い体が空で己の感情を載せてぶつかりあっている。誰もその間に入る事などできなかった。


「任せる、しかないのか」


 間に入れない理由がもうひとつある。いままでレイダはヨゾラがいることが前提で空を飛ぶことができていた。しかしヨゾラは先ほどの戦いで翼を破壊されている。空を飛ぶことがかなわなかった。同じくベイラーのレイダがヨゾラに被害の状況を確認する。


 《ヨゾラ、翼はどこまで怪我を? 》

 《アナガ、アイチャッテ、トベナイ》

「マイヤ、どうだ? 」

「それが、穴が開いたのは翼以外にもそこかしこに」

「歩けるか? 」

「一人では、正直」

「わかった。レイダ、マイヤたちを後方に下げるぞ。お前はまだ歩けるな? 」

 《もちろん》

「背負ったままだとつらいだろうが、頑張ってくれ」

 《仰せのままに》


 背中にいるヨゾラを気にかけながら立ち上がるレイダ。不時着の際に体のいくつかにヒビが入っている。ポロポロと緑のかけらが落ちていく。それを見たオルレイトがつぶやいた。


「……そうだよな。そうなるよな」

 《どうしたんです? 》

「お前の怪我も治してやらないとな」

 《この戦いが終わった後でいいですよ。まだアーリィもいるのですから》

「戦いか」


 一歩一歩、ヨゾラを落とさないように、かつアーリィに見つからないように慎重に歩いていく。目指すは避難している人々のいる後方。今この街で一番守り手がいる場所。


「戦いが起きるようになって、わからない事だらけだ」

 《そうですね》

「でも、この旅にはその分からない事だらけの答えが一個ずつある。この街に来なければ龍の事はわからなかった。コウが特別なベイラーだってことも」

 《はい。世界を壊す、ベイラーというのはあまり信じていませんが》

「ああ。あいつにそんなことさせるもんか。それに」

 《それに? 》


 レイダが聞き返す。少し答えに詰まりながら、しかしはっきりと答える。


「乗り手の姫さまに、そんなことさせるもんか」

 《はい。もしもそんなことになったら、友人として丁重にぶん殴ってでも止めて差し上げましょう》

「……ああ。そうか」

 《急にどうしたんですか》

「いや、ただ」


 オルレイトは、再び言葉に詰まる。それは言うべきか言わないべきかと考えているというより、言う相手が間違っていないかの確認。それもすぐに終わり、レイダに言っていい種類の言葉だと判断して続けた。


「僕の中で、あいつは友達になっていたんだなぁとな」

 《友人兼恋敵とは、なかなか》

「いうな」

 《しかし、姫様の首尾はうまくいっているのでしょうか》

「後方に逃げるのはその確認もある。うまくいっていればかなりの数……そら」

 《お、おお》


 しばらく歩いた先に見えた光景に、オルレイトの心はこの戦いの中で久々に高揚していた。


「よし。反撃に参加するとしよう」

 《仰せのままに》


 ◇


 空での戦いが行われている最中、地上ではヴァンドレッドとアンリーが戦っていた。ショーテルによる変則の一撃は幾度となく命中するも、そのすべてを分厚い甲羅に阻まれている。そしてその阻まれた隙をついて、ヴァンドレッドの操るアーマリィベイラーが拳を叩き込んでいく。


「がぁ!? 」

「ホウ族の戦士とやら、レジスタンスでありながら自分に挑むその勇気は素晴らしい。だが力量の違いはいかんともしがたいぞ!! 」


 拳の間合いから逃れようと間合いから距離を取る。アンリーのベイラーシュルツは、すでに盾ごと右腕を破壊され砕け散り、隻腕となっている。今、アンリーが使える武器はこのショーテルだけだった。


「刃が通らないのはいかんともしがたいなぁ! 」

 《だが、担い手よ。ここであきらめるか? 》

「いや。まだ戦える! 」

「よい気迫だ……あの村を思い出すようだ」

「村? 」


 その声色はこの戦いの中でずいぶんと穏やかだった。それがさらにアンリーの神経を逆なでさせる。


「初任務でお前のような戦士たちがいたのだ。ずいぶん懐かしい。毒で侵されながらも武器を手に取り戦いを挑んできた。同じ帝都の生まれならば、よき同胞になっただろうと」

「その村の名前はなんていうんだ」


 先ほどまでの高揚が嘘のように冷めていく。体に氷を放り込んだよとてこうはならない。だがなげいれられた氷が、一瞬で消えてなくなるような熱さもまた体に生まれようとしている。


「ああ。よく覚えている。彼らはその村の名をずいぶん叫んでいた」


 声がどこか遠くになっていく。さんざん痛めつけられたからか、それとも、その先にある言葉を聞き逃さんとするためか。そしてその時は来た。


「メイビット村と。帝都の正義は執行された。今どうなっているかはしらないがな」

「お前が、お前がぁ!!! 」


 体に熱がこもっていく。頭に血がせりあがってくる。どうあがいても冷静になれない。相棒のベイラーは、乗り手の感情を一心に受けている。


 《(ついに、この時が来てしまった)》


 膨れ上がる感情をなだめることなど出来はしない。ただ、乗り手がしたいことを十全に発揮できるように努めるのが、せめてこの体を(つるぎ)と呼んでいくれる者への最大限の敬意であると信じてやまない。


 《(いつか、この日が来ると思っていた。必ず、メイビットの仇。その直接の相手が現れる。その時激高しないアンリーではない。復讐に身を染めること咎める立場など誰ができよう)》


 メイビットがどれだけアンリーにとって大事だったか。メイビットを取り巻く環境がどれだけ愛おしかったか。それは乗り手として共有している最中で幾度となく思い起こされていた。それが大事な記憶であればあるほど、奪った張本人を許すことなどできない。


 《(戦いに高揚し、勝つ。ただの剣闘士になれればどれだけ楽か。アンリー。お前は剣闘士こそ似合いなのだ……しかしそうはなれぬと、初めて乗り手として名乗ったときお前は言った)》


 アンリーの感情が一気に流れ込む。その感情をただ己のものとして受け入れた。


 《我が担い手よ! 怨敵はどこか! 探し求めた怨敵はどこだ!! 》

「目の前だ!! 眼前に悠々と立っている! 」

 《それを是しないならばどうする!! 》

「たとえこの身が砕けようとも! 奴を打ちのめす!! 」

 《それでこそ!  》

「我が剣!! 力を貸せぇ! 」

 《おうともさ!! 》


 すでに隻腕。重心はズレ、満足にいく剣戟もできない。だが、一瞬にすべてをかけることはできる。それはすなわち、捨て身の一撃に他ならない。しかしただの捨て身では意味はない。アンリーの願いを成就させる渾身の一撃を入れねばならない。どうすればいいかと逡巡していると、アンリーが一言だけ、シュルツに頼んだ。


「---いいか? 」

 《それが、我が担い手の願いならば》

「ならば、征く!! 」


 アンリーは無策に直進してくる。右手に持ったショーテルがそのまま振り上げられている。


「愚かな」


 ヴァンドレッドは激昂するアンリーとは対称的に、あくまで冷静に対処する。迫る来るベイラーにむけ無慈悲にサイクルショットを連発していく。離れた相手には飛び道具が有効などというのは考えずともすぐわかる事である。だがアンリーはそれをわかっている上でまっすぐに突き進む。


「うおおああああああああ!! 」

「こいつ、止まらないのか!? 」


 連射されるサイクルショットを真正面から受ける。体のいたることろに棘が突き刺さるも、止まることはない。幾度かの被弾を受けたとき、ついにシュルツの纏う鎧がはじけ飛んだ。鎧に隠れていたその体は、目を覆いたくなるほど傷だらけで、とても細い。怪我の治療が間に合っていないのと、元来の体の細さが明るみになる。軽くなった体のまま、ショーテルの間合いまで接近する。


「これでぇ!! 」


 ショーテルを振り上げ、腕や足ではなく、アーリィ達特有の色をした翡翠色のコクピット目掛けて、今だせる最大限の力をもってして振り下ろす。コクピットであればそこに鎧はなく、通常の一撃が甲羅によって阻まれることはない。


「(だがそもそもコクピットの強度はベイラーの中で随一! 何が狙いだ!? 何が!? )」


 ベイラーのコクピットには謎が多いが、その中でも知られていることは、体の何倍も丈夫であり、壊れることが稀で、ヒビを入れるのでさえ苦労する。あのコウでさえ、赤目の状態となって、自身の最大限の力を発揮してでも、コクピットを壊すことはかなわず、ただ裂け目を入れただけに過ぎなかった。


 そんな硬度の高い場所目掛け、ショーテルを振り下ろした。ガキンと硬い音が鳴り、ショーテルが弾かれる。


「当然だ! 気でも狂ったか! 」

「まだまだぁあ!! 」


 突撃の姿勢をかえず、そのままアーマリィを押し倒し、地面へとたたきつけた。シュルツは馬乗りになって、ひたすらコクピットに剣を浴びせる。何度も、何度も叩きつける。いくら殴っても傷はつかないが、しばらくして、ヴァンドレッドがその意図に気が付き、大いにうろたえる。


「まさか、いや、そんなことが」


 初めのうちは、気が済むまで殴らせ、無意味と分かった直後にベイラーを行動不能にすればそれでいいと考えていた。しかしヴァンドレッドの考えはすぐさま体を駆け巡り、行動に移させる。


「離せぇええ!! 」


 両の拳をにぎり、馬乗りになっている相手を殴ろうとしたとき、体が思うように動かないことに気が付く。それはアーマリィの根本的な弱点。増設した甲羅によって通常よりずっと可動域が狭くなっていること。その結果、馬乗りにされた場合、殴るには振りぬけるほど肩まわりが動かなくなっていた。


「こ、こんなことで」

「まだシュルツ! もう一撃! もう一撃!! 」


 シュルツは反抗する手を押しのけ、ただひたすらにサイクルショーテルを打ち付ける。ついに20を超えたころ。コクピットに変化が起きる。翡翠色のコクピットにヒビが入った。そして今度はそのヒビ目掛け、ショーテルを何度も何度も突き刺す。アーマリィの抵抗むなしく、何度も何度も突かれたコクピットは、周りに翡翠の結晶をぶちまける。そしてついに、ショーテルが深く突き刺さったとき。コクピットの中まで丸見えになった。ヴァンドレッドの目線と、アンリーの目線が合う。


「は、はは! このままショーテルでつぶす気だったんだろうが、残念だったな」


 ショーテルは深く刺さりすぎたのか、そのまま抜けなくなる。それを好機と思ったのか、ヴァンドレッドはいそいそとアーマリィから逃げ出し始めた。シートベルトを外し、コクピットがショーテルですべて潰される前にこの場から離脱する算段だった。幸い壊れたスキマは人間一人が出ていくには十分な大きさである。


「またアーマリィでも、いやこの際アーリィでもみつけて戦い続けてみせる」


 逃げ出そうとも、戦う意思は萎えていなかった。それほど気力にあふれている。しかし次の瞬間、逃げるという選択肢はなくなっていた。


「そうか! それが狙いか!! 」


 すでにベイラーの中から躍り出て、腰に据えたショーテルを引き抜き、憤怒の形相でアンリーはそこにいた。今までシュルツにずっとコクピットをたたかせていたのは、決してベイラーを倒すためではない。中にいる乗り手を外に出すために。そして乗り手を自分の手で決着をつけるために今の今まで動いていた。


「メイビットの仇ぃいいい!! 」


 彼女の叫びに、シュルツはどうすることもできなかった。この策ともいえない自爆を止めることなどできない。そしてヴァンドレッドは小さなナイフしか手元にはなかった。ショーテルのような刃渡りの武器を防ぐにはあまりに短いそのナイフを、最後の砦として構える。


「(これで! これでメイビットの仇が取れる! こいつ以外にもあの村にかかわったやつがいるなら、すべてこの手でカタをつけてやる! そうすれば! )」


 アンリーは高揚のあまり、ヴァンドレッドの持つナイフに気が付いていない。このまま振り下ろせば、ヴァンドレッドに致命傷は与えられるだろうが、同時に、心臓にナイフを突き立てられるのは明白だった。しかしそんなことはもう今のアンリーには関係がなかった。


「(そうすれば、もう誰も悲しい思いをしなくていい! あたしみたいなヤツが増えることもない!! )」


 景色が遅く流れていく。集中の極致に至ったアンリーの1秒は限りなく長くなっていた。


「(仇を取れるなら、あたしは死んだってかまわない!! )」


 嘘偽りない本心だった。脳裏に描くのは、もう見ることはない妹メイビットの姿。彼女の仇のために、アンリーは戦ってきた。しかし。


 ふと、アンリーの隣に、見知った姿が現れた。その姿を見たとき、アンリーの頭は硬直し、あれだけ膨れ上がっていた殺意が消え去っていた。それどころか、体を支配していた熱すらなくなり、ただその姿を思い描く事しかできなくなっている。


 それはアンリーの隣で、占い師のアマツがただ微笑んでいる姿。


 共にホウ族の里を歩き、子供と戯れる。いつかあった一日。


 他愛のない話でアンリーは笑い、付き合うように苦笑するアマツ。


 どれもアンリーの中にあるなんの変哲もない記憶のかけらたち。そのなんの変哲もないものが、アンリーの死を望む心を否定した。


「づぁああああああああああああああああ!!! 」


 引き延ばされた1秒が元に戻る。その時、アンリーはヴァンドレッドの懐にあるナイフに気が付き、ショーテルを振り下ろすのをやめた。突然の行動にヴァンドレッドは疑問に思うも、そんな悠長なことを考える暇もない、そのままアンリーに向けナイフを突き入れる。


 鈍い音が、アーマリィの上で鳴る。それは骨にまでくる衝撃をその身に受けた音。


「なぜ、だ」


 ヴァンドレッドのナイフは、ショーテルによって防がれている。だが、同時に、アンリーはその膝で、ヴァンドレッドの腹を穿っていた。深く突き刺さる膝蹴りで、ヴァンドレッドの体は『く』の字に曲がっている。


「なぜ、殺さない」

「……わからない」

「なぜだ……なぜ」


 ヴァンドレッド意識を手放し、その場に崩れ落ちる。そこには無防備になった男が一人。目の前には、アンリーにとっての仇が一人。すぐそばにはナイフがある。


「……」


 手に取る事も出来た。そのナイフでヴァンドレッドの首を掻きとるのも容易だった。しかし今、アンリーは別の理由でその刃を握れないでいる。


「そんなもんかよ」


 その拳は強く強く握られ、唇はきゅっと閉じられている。そして最後に、彼女の目から涙が流れ出ていく。


「ごめんなぁ、ごめんなぁメイビットぉ」


 戦いがつらいのではない。ましてや怖かったわけでも、傷ついたことへの痛みではない。ただ、彼女はひたすらに悔しいく、悲しかった。


「お姉ちゃんなぁ、お前の仇を取るより、好きな人と一緒に過ごしたいっておもっちゃたぁ!! 」


 あれだけ憎んでいたのに。必ず目的を達成すると決意があったのに。アマツとの約束を優先してしまった。


「ごめんよ、ごめんよぉ!! 」


 その涙は、剣として傍らにいるシュルツしかみていない。だからこそ止まる事が無かった。自分の中での優先順位が覆る。彼女が戦ってき理由は妹の仇にある。それが覆るというのは、アンリーにとってアイデンティティの崩壊に等しかった。


「どうしたら、どうしたら」

 《我が担い手よ》


 戦い続けて、鎧もなくしたシュルツが傍らに寄り添う。


「久しぶりに見たな。その姿」

 《痩せすぎだとよく言われたな》

「だから鎧を着せたんだ。そっちの方が見栄えがする」

 《実際鎧を着たほうが戦いやすかった。》

「だろうな。お前は細いし軽いんだ。少しくらい重い方がいい」


 軽口をたたきあう。それはアンリーにとって効果的で、少しは気が紛れていった。


「……腑抜けと笑うか? 」

 《まさか。だが、今の担い手は、言葉で何も変わらんかもしれん》

「変わらない? 」

 《妹の事を大事にしすぎるあまり、肝心なことを忘れている》

「それはなんだ? 」

 《みろ》


 指さす先には、いま倒れているヴァンドレッドがいる。


 《お前がやろうとした事と、妹に降りかかった災難。それは同じことだと思わんか》

「どういう意味? 」

 《あの男にも妹が、もしくはあの男は弟かもしれんということだ》

「---」


 思わずアンリーはヴァンドレッドをにらむ。今だ気を失い力なく倒れているその姿。今、先ほどまでの殺意があればこれほどの好機はない。


「言ってることは、わかる。わかるよ。でもそれは言葉だ! 」

 《だから言ったであろう。今の担い手は言葉では変わらぬと》

「ならどうすればいい!! どうしたらよかったんだ! 」


 今度はシュルツに激昂する。それを咎めるでもなく、ましてや受け流すでもない。真正面から受け止めてシュルツは対話を続ける。


 《ただ、知っておいてほしかった。剣が言えるのはここまでだ》

「くっそ。どうすりゃいんだよ。どうしたらよかったんだよ」


 アンリーは今自分が置かれている事態が理解ができない。もしくはしたくない拒絶の意思を反映している。そこに思考のほとんどを持っていかれて、別の事などろくに考えられないでいた。


「教えてくれよ。占い師様……どうすりゃいいんだよ」


 ただ彼女は助けを求めるしかなかった。それ以外の術を知らなかった。


 ◇


「すごいな」

「ええ。よく、よく集まったわね」


 コウが空で、アンリーが地上で戦っているとき。カリンとオルレイトは広場でただ感動していた。目の前に広がる景色にただため息が出ている。


「アンリー達にはいつも世話になってるんだ! こんな時に助けられなくってどうする! 」

「あんたたちは俺たちの街を守ってくれた! 今度は俺たちが守る番だ! 」


 20名ほどのレジスタンスたちが集まり、その意気込みを唱える。その背後には、言葉なくたたずむベイラーの姿がある。


「これ、全部がそうなの? 」

「はい。姫様の考えは他の方も同じだったようで」

「貴方が突然こっちにこいだなんていうから、何事かとおもったら」


 そこには、ずらりと並んだアーリィベイラーがいた。帝都の援軍ほどではないが、それでも10人はいる。大きな戦力補強となる。それぞれの肩には、敵味方の区別がつくように、そろって白い布がまかれていた。カリンが戦線を離れていたのは、バラバラになっていたレジスタンスを再集結させ、防御を強固にしようというものだった。その間に、再びアーリィベイラーの一つや二つを強奪しようとしたとき、すでにレジスタンスはベイラーの強奪に成功していたのである。しかし彼らはまだアーリィの乗り込み方をしらなかった。そこで知識のあるカリンが駆り出された結果となる。


「変形はしなくてよいから、そのままついてきて! コウが……えっと、白いベイラーがまだ広場で戦っているの! 」

「まかせとくれよ! 」

「もう帝都の好き勝手にはさせないぜ!! 」


 今まで帝都に苦しめられてきた人々が立ち上がっている。そして帝都の力を逆に利用し、立ち向かわんとしている。


「すごいことね」

「はい。戦いにはこのような活気が必要です」

「戦い……そうね。戦いだものね……人が死んでしまうのよね」

「貴女様は死にませんとも」

「貴方の世話になる気はないわ。自分の身は自分で守って見せる」

「そうなされるとよろしい」

「さて……占い師さま。グレート・レター様。いかがか? 」

 《空色のベイラーは避難させたよ》

「あとは飛んでいくだけだ」

「サマナ」

「いつでも」

「リオ。クオ、マイヤとナットと一緒に、お留守番をお願いね? 」

「う、うん」

「姫さま、帰ってきてね」

「ええ、必ず」

「姫さま」


担架で横になっているナットが申し訳なさそうに謝る。


「すいません。こんな時に」

「いいえ。貴方がいなければそもそも間に合っていないのですよ。もっと誇ってくださいまし」

「そう、ですか」

「マイヤ。皆の看病をしてやって」

「はい! 」

「では……グレート・レター、よしなに」

 《家族の頼みとあらば》


 ベイラーと、人の群れが花弁に包まれていく。


「(待っていてコウ。貴方だけを戦わせはしない! )」


 その目には悲しみと共に、決意がこもっている。


「(たとえ貴方が、私と共にいられないというのなら、私は私のできることをして、貴方を支える! そのために)」


 操縦桿を握る。帝都から拝借した、カリンのベイラー。


「行くわよ! 私のアーリィ! 」


 翼が開く。カリンのベイラーには、特別両肩に白い布がまかれていた。それは彼女がこのレジスタンスの指揮者であることも示している。


 レジスタンスの反撃が始まろうとしていた。


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