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語り合うベイラー

お風呂です。でもテコ入れが入ったわけじゃありません。

「ハッハッハッハッハッハ!! コウ君を泥棒と勘違いして蹴ったぁ!? なぁにそれぇえ!! 」

「もうやめてください……」

「やたら気合の入った叫び声が聞こえたと思えば、今度は真っ黄色な声もするし、もーなにやってんだかハッハッハッハッハハ!! ヒー! 攣る! 腹が攣る!! 」


 さっさと逃げ出したい。でも湯を無駄にするのは、マイヤに悪いとおもって、そのまま入ってきてしまった……すでにお姉様がいて、二人で湯にはいって、そこで質問攻めされてしまい……あっけなく吐いてしまった。そしたら、コレだ。


「第一! 門番いるし! 火事場泥棒が城に直接とか!! 」

「倒してきたのかと思ったんです……いろいろ重なってしまって……・」

「噂話した直後とはいえね……しっかし、蹴る! ベイラーを! 蹴る!! あー見たかったなぁ! それ!! 」

「もう! もう! ……も……う……」


 湯舟に沈む。穴があったら入りたい。むしろ穴を掘ってしまおうか。


「しっかし、想像力豊かだこと」

「……ベイラーの乗り手としては想像力は必須だからいいのです」

「でも逃げるとか考えなかったの? 生身でベイラーに立ち向かうって正気? 」

「そ、それは……ここで逃げれば、城を壊されると思ったからです。時間を稼げば、マイヤも来てくれるし、そうすれば今度は不届きものに気がついた者たちが集まってくれますから……・」

「ほんと。へんなとこ前向きだよね」

「あ、ありがとうございます」

「で。その結果ベイラーを蹴っ飛ばしたと。アーッハッハッハッハ! 」

「もおおおおおおおおおおおおおおお!! 」


 悶絶してしまう。勝手に悪い方向に予想し、勝手に期待し、そして自爆した。


「……でもさ、彼、どうして城に? 今日は別行動してたんじゃなかったけ? 」

「わかりません。でも、門番が言うには『城にもどってきたくなった』とか」

「なにそれ? 寂しかったのかね」

「……それだったら、まぁ、嬉しいですね」

「なに? 違うの? 」

「『どうしてもどってきたくなったかわからない』とも言っていたそうなんです」

「……変な、話ねぇ」

「はい……」

「あとで謝んなね? どれだけ恥ずかしくてもさ」

「それは、そうですね……そうなんですけど……」

「あとさ。もう一個聞いていい? 」

「もうたくさん聞かれて、お姉様の知らないことなんてないと思うのですが」

「いやね。ベイラーって、なんもしてないときは目はそのままでしょ? でもたまに光ってるよね」

「ああ、それは、ベイラーが喜怒哀楽や、感情、もしくは、興奮したときに光るのだと聞いています。虹色に線がはしるんです」

「緑が強めの虹? 」

「そうですね。ちょっと強いかもしれません……どうしたのです? 」

「さっき。運ばれてたコウ君みたんだけどさ。光ってたなぁって」

「……はい? 」

「ピッカピカだったよ。……『なにを見て』ああなったのやらねぇ」

「なにって――!! 」


 潜ってしまう。そうだ、喜怒哀楽と感情だ。それで線が走る。……その中には興奮もはいるのだ。

種類もあるだろう。高揚感からくるものでも、ベイラーはその目を光らせる。でも、もし、もしだ。その……あの姿をみて光ったのだとすれはそれじゃぁコウは


「……あーあ、真っ赤になってまぁ。そのまんまでもいいけどさ。のぼせないでよ? 」

「の! ぼ! せ! ま! せ! ん! 」



「《お前はこの短い間どれだけ俺の世話になる気だ?ええ?左腕が治りきったと思えばこれだ》」

「《ふ、不可抗力です……今日は別に怪我してないので……》」

「《……まぁそうだな。それはいい。でも頭のその綺麗な足跡はなんだ? 》」


 そうだ、今僕の頭には足跡がくっきりのこっている。姫さまの飛び蹴りはすさまじい威力だったのだろう。


「《蹴りを入れられました。でもいいんです……しいて言うならこれは罰なんです……》」

「《け、蹴り? ってなんだ。罰? なんの? 》」

「《不義理というか、蔑ろにしたといいますか、なんというか》」

「《そうか。そりゃ仕方ないな。なんで頭に足跡なのかはさっぱりわからんけど。……あとお前、なんでそんな光ってるんだ? 》」


 そして、今僕の目は光っているらしい。原因は、やはり……


「《いいものは見えたからいいんです……いや見ちゃったからこうなったんですけど……》」

「《お前、本当に大丈夫か? 相談ならのってやるぜ? 》」


 大丈夫じゃないとおもう。なんというか、さっきの光景が目に焼きついて離れない。表情は凄まじかったが、あの肢体は当分忘れられそうにない。なんでそう思う?もしかしてこの体って……


「《……ガインさん》」

「《おう。なんだ。話してみる気になったか。いいぜ話してみろ》」

「《この体肉欲とかあるんですか? 》」

「《にく……なに? なんだって?? 》」

「《人間の体に欲情したりとか、そうゆう》」

「《お前何言ってるんだ?? やっぱ怪我しすぎてどうかなったのか? 》」

「《真剣です。残念ながら》」

「《そ、そんなこといわれたってなぁ。欲情っておまえ……もうちょっとなかったのか。選ぶ言葉というか。……というかじゃぁお前、のぞきっていうのは本当なのか!? 》」

「《それは、違います。なぜか城に戻ってきたくなって、そこで門番さんにつららを落とすようにたのまれて、それで……あーその……力加減を間違えて窓を壊しました》」

「《なんだそりゃぁ、不運が重なったってやつなのか……しかしベイラーに蹴りを入れるってどんな豪傑だよ》」


 ……カリンだというのは、黙っておこう。なんかそうしたほうがいい気がしてきた、いや、すでに肉欲だなんだと言ってしまっているので、もうあまり意味もないのだろうが。


「《あ? お前、どうして戻ってきたくなったんだ? そもそも、城に戻ってこなかったらこうなってなかったんだろそれ》」

「《あー、それなんですが、音が聞こえたんです》」

「《音?……それって、笛のか? 》」

「《そ、そうです。どうしてわかったんです? 》」

「《どうしてって、笛で呼ばれたんだろ?カリン様がどんな方法とったかはしらねぇが》」

「《……笛で、呼ばれる? 》」

「《あー、そうゆうこともまだ知らないのかお前。まぁ知らなくても生きていける知識ではあるからいいけどもさ》」

「《……すいません》」

「《謝るなって。俺だって教わんなきゃしならなったんだからな。さてコウ。俺たちがどうやって声だしてるか、知ってるか? 》」

「《声?それは……》」


 ……そうだ。そうえば、この体、どうやって声をだしてる?初めて声を出そうとしたときは、喋り方を思い出せずにいた。でも、カリンの声かけに答えようとしたら、そのまま喋れたんだ。でも、舌も喉仏もないこの体だ。そうえばどうやって……?


「《といっても、俺も全部言えるわけじゃない。ネイラがいうには、楽器、それも笛とおなじらしいんだ》」

「《笛で、会話している? 》」

「《喉にあたる部分が、それと似てるとかで》」

「《……それが、呼ばれることと、何か関係がある? 》」

「《吐き出す息っていうのが重要で、それは乗り手ごとに違うんだ。吐く息が同じ人間なんていないだろ? で、笛っていうのは、俺たちにとって、その人が出すベイラー側の声だ。体がその声を覚えるんだよ。で、どんな音よりも明瞭に聞こえる。で、それは俺たちを呼ぶ声におもえるわけだ》」

「《……いまいち、理屈がわからないんですが》」

「《ええとだな。例えるなら、お前はラブレスだ》」

「《はい。ラブレスです》」


 ……唐突なたとえ話になった。ラブレスというのは、盆地でみた恐竜に似た生物だ。


「《お前の乗り手であるカリン様もラブレスな。で、普段お前とカリン様は別々の方法で意思疎通ができてる。おまえが、ギャオーンって言う吠え方しかできなくて、カリン様がバウバウって吠え方しかできない。でも、お互いラブレスの言葉だから、伝え合うことはできる》」


 えらくシュールな例え方をされたが、まぁ、言わんとしていることは伝わってくる。

 

「《まぁ、そうでしょうね》」

「《で、だ。たまに、カリン様がギャオーンって声をだす。すると、おまえはどう思う? 》」

「《……珍しい? 》」

「《それもあるだろう。ほかには? 》」

「《他。ほかには……》」


 ラブレスがそんな声だすのがまず驚きだが、そこは考えないよにする。……さて。普段出さない声の出し方で、叫ぶ。それは……周りのラブレスに声を伝える。自分以外にも伝わるように、できるだけ多くのラブレスに伝えられるように……しかし、そんな状況というのは……それは


「《呼びかけてる? 》」

「《おう当たり。つまりは、笛のほうが俺たちに伝わりやすいってこったな》」

「《……笛……笛……でも途中でやんだんだよなぁ。なにで吹いてたんだろ》」

「《口笛じゃないのか? 道具いらないしあれなら楽だ。おまえもなんか見たことないか? 乗り手が口笛をふいてベイラー呼ぶの》」

「《乗り手が口笛で……そんなこと一度も……》」

 

 いや、ある。思い出した。レイダさんとの決闘の時だ。バイツが口笛で吹いたら、レイダさんが走ってきたんだった。あれは、たんなる合図かなにかだとおもっていたけど……


「《そうか……あれがそうなんだ》」

「《今度、カリン様がなにで吹いていたかきいてみるといい……で、だ》」


 ずいっと、ガインが寄って来た。といっても上体を傾けただけだ。そして、小声で聞いてきた。


「《おまえ、のぞきの直後に肉欲と来た。流石に鈍い俺でもわかるぞ。女の裸でも見ちまったんだろ? 偶然とはいえ》」

「《は、裸じゃないさ。下着をつけてた》」

「《なんだ。きっちり見てるじゃねぇか。で、その光景が頭から離れない。そうだろ? 》」

「《……はい。そうです。なんかもうぐるぐるしてます》」

「《で、だ、どうすればいいか。だが……はっきりいうぞ。どうにもならん》」

「《……はい? 》」

「《んなのどうしようもないだろ? なまじベイラーと人は似通ってるからそう思うさ。でもどうしようもない。何もかもが違いすぎる》」

「《え、ええ……》」

「《ベイラー同士でならまた話は変わってくるんだろうが……俺はそうゆうやつらにはまだ会ったことないな》」

「《あれ、ってことは、他の人にはあったんですか? 》」

「《あった。が、どうにもならなかった。人間とまぐわったりなんざできないからな》」

「《ま、まぐわっ》」

「《……なんだ? 違うのか? 》」

「《そ、そこまで直接的な単語をだされると、こう、たじろぐというか》」

「《でも、最終的にはそうなんだろう? 少なくとも、いままでお前みたいな相談したやつらはそうだった》」

「《……わかりません》」

「《じゃぁ、どうしたいんだよ? 》」


 ……どうしたい? どうしたいと、いわれても。好きな人だ。うん。それは間違いない。カリンの為ならなんだって出来る。でも、カリンをどうにかしたいなど、考えたこともなかった。勢いに任せて放ったあの告白は、僕自身、初めての体験でよくわかっていないのだ。


 こうゆうとき、生前、エロいことに興味はあれど、恋人がいた経験がないのが痛い。あの世界の住人は、恋人を「どうしたい」と思うのだろう。……思いつくのは、支配したいのか、隷属させられたいか位のものだ。なんと狭い観点だろう。そして、そのどちらも、今の僕には当てはまらない。とすれば。


「《……なんというか、もっと一緒にいたいです》」


 腑に落ちる答えが、こうだ。


「《……なんだ。そんなんで本当にいいのか? 》」

「《は、はい。今は、それしか思いつけません》」

「《……まぁ、それでおまえがいいなら、いいけどさ》」

「《その、参考までに、他の、そうなった人たちは、どうなったんですか? 》」

「《顛末はいろいろだ。無理やり触ろうとして押しつぶしそうになったり》」

「《人間とベイラーの大きさの差がそんなとこに……》」

「《乗り手が嫌がって逃げて、乗り手じゃなくなったこともあった》」

「《……乗り手じゃなくなるってあるんですね》」

「《そりゃあるさ。……でも、一番多かったのは、旅にでていったな。俺たちの本懐は、遠くにいってこの体をソウジュの木にすることだ。何もおかしくはない》」

「《この国から、出て行ったってことですか? 》」

「《そうだ。でも、俺たちの本懐を遂げにいったというより、逃避行にみえなくもなかった》」

「《逃避行? なにから逃げたんです? 》」

「《一番は、乗り手の肉親だ。親、兄弟。姉妹。親は孫を見たいし。兄弟や姉妹は、へんに思うんだろうよ。だから、そこから逃げる。そのために旅にでた。そうゆうやつは、やっぱりお前みたいな相談をするやつらだった》」

「《……遠くにいくのとと、逃避行は違うんですか? 》」

「《そりゃあ、違わない、違わないだろうが……えっとだな……》」


 ガインが、頭をかいた。言葉を選ぶときに出る、彼のクセのようなものだ。それは、嘘をつく為でも、取り繕うためでもない。出来るだけ、自分の言葉を、相手に伝えやすくするには、どうゆうふうに言えばいいのか、それを考えているのだ。


 彼の、そうゆうところが、長く喋っていても苦にならないのだと思う。そして、しばらくして、その言葉は見つかったようだ。


「《『逃げた先』で木になるのと、『行きたい先』で木になるの。どっちかを選べっていうなら、俺は、行きたい先がいい》」

「《それが、乗り手と違う行き先でも? 》」

「《ああ。どうあがいても他の考えを持った人だ。違うこともある。だから、せめて共有するんだと思うぜ。強要じゃなくってな。……ありゃ、悪い。話ズレたか? 》」

「《ズレたかもしれませんけど、すごく参考になりました》」

「《そうか。ならよかった。……でかい怪我はないんだ。さっさと行きな》」

「《はい。ありがとうございました。……あの、ガインさん》」

「《なんだ? 》」

「《僕は、それでも、乗り手と行き先が重なったら、嬉しく思います》」

「《……そうだな。そりゃ一番うれしいな》」


 医務室を後にする。このあと、どこへ行こう。カリンに会えるとは、残念ながら思わない。むしろ、いつも合うのは、こうして怪我をして見舞いにくるときなのだ。他の場合、僕は「お前のことを姫さまが呼んでいる」と、言伝を聞いて会いに行っている。こっちから会いに行けた試しがない。……城を歩き回っていけば会えるだろうか。


 ガインから、コウが去ったあと、別の人がガインに近寄ってくる。ガインの乗り手であるネイラだ。今日もスキンヘッドが眩しい。


「行き先が重なったら。ねぇ。……あんた、この国から出たいの? 」

「《……まだいいさ。俺がいなくなったら困るやつが沢山いるしな》」

「それ、誰の事? 」

「《誰って……ベイラーを治せるやつは少ないんだ。俺がいなくなったら怪我の多い連中が困るだろう? 》」

「あたいも困るからね? 一応」

「《……一応。ね》」

「あー、そうそう」

「《なんだよもう》」

「島がいい」

「《……は? 》」

「あたいは島がいい。周りを海に囲まれてる孤島とか。高望みするなら、地図にもないような、誰も見たことのない島。火山とかあればなおいいね。そうゆうとこなら暖かいしさ」

「《ああ。いいな。それ》」


 再び、ガインは頭を掻いた。


「《……行きてぇな。そんなとこに》」

「今すぐ行く? 」

「《まだって言ったろ》」

「ならいつか行くか? 相棒」

「《おまえに孫ができたら考えておくよ。相棒》」

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