アーマリィ・ベイラー
ナットがミーロの街に到着してたことで、迎撃用の準備が急速に進められていた。対虫相手の準備は先日おこなわれていたため、同じ要領で再びの作業だった。一度経験した事であれば、慣れた様子で同じ事ができる。前回は長くかかった時間も、今回は街の住人総動員で一日足らずで終わっていく。
「人間が、作った、ベイラーですか」
「うん」
「いささか信じられませんな。それに、空を飛ぶとは」
「鳥みたいな姿に変わるんだよ」
「な、なるほど。……用意はさせていただきました。しかし、白いベイラーのように空を飛べる者が他にいたとは」
「やっぱり、信じられませんか? 」
「……半分、ほどは。」
「まぁ、そうだよね。正直、僕も、この目で見るまでは信じられなかったから」
「しかし大丈夫です。我らは一度、龍石旅団に救われた身。その一員であるナット殿の助言であれば、信じましょう」
「ありがとう。ボッファさん」
「しかし、またこれを使うことになろうとはなぁ」
夕方、小高い丘から見下ろす場所で、ボッファとナットは寛いでいる。眼下に見えるのは急ピッチで配備された巨大な弓弩。それが街の外に向けずらりと並んでいる光景はなんとも壮観だった。さらに発射用の弓矢も大量に用意されている。かつてクチビス達を打ちのめすために作られた物が、今度はベイラーに対して使われる事になった。
「しかし、ミーン殿には酷ではないかね? 」
《なんで? 》
「同族を我らは討たねばなりません。その戦いに巻き込んでしまって」
《それは、そうなんだけど》
アーリィベイラーは人間の手によって作られたベイラーであり、そこに意思はない。あるのは乗り手の感情だけ。まさしく人形である彼らをみてミーンは胸の内を開ける。
《戦いなんかしたくはないよ。でも、あのアーリィって、とっても悲しいんだ》
「悲しい? 」
《あいつらは生まれていきなり戦いをさせられる。自分で考える事もなくだよ。そんな事してたら、アーリィって戦いの事しか知らないんだ。ミーンが見た森の景色、海の景色を見ないで生きる事になる。それって、すごい嫌な事だよ。だから》
ミーンが顔を下に向ける。そこには乗り手のナットがみえ、お互いに微笑み合う。
《そんな悲しい事をやめさせるために、ミーンはあいつらと戦う。でもきっとナットも、そうしてくれる》
「それにねボッファさん。アーリィの中にも、自分で考える奴がでてくるかもしれないんだ」
「そんな事があるのですか? 」
「ヨゾラがそうだったんだ。だから他のアーリィベイラーももしかしたら」
「ヨゾラ殿が、もとはアーリィベイラーだったと? 」
「詳しくはわからないけど、マイヤが助けたんだって」
「龍石旅団の方々は、いつも誰かを助けておりますなぁ」
「……そうかな? ミーン、どう思う? 」
《どうって、そりゃぁ》
思わず考え込むミーン。コウと知り合いってからという物、たしかにそこかしこで人助けばかりをしている。ゲレーンでの火事場泥棒騒ぎにはじまり、サーラでの海賊退治。さらにはこの砂漠での帝都との戦い。ゲレーンでは嵐で弱った人々のため。サーラでは船を作るため。そしてここでは、虐げられている人のため。いつでも誰かのために龍石旅団は戦ってきた。それが当たり前であるかのようにさえおもっていた。
《だって。困っていたら助けたいもん》
「ゲレーンでは助けるって感じすらないもんね」
「なるほど。ゲレーンと言う国は良い国なのですね」
「うん。みんながみんな協力し合う。僕らの国はそうしてた」
「……この国に住む物としてあまり褒められた事ではないが」
ボッファがミーンのとなりにドカリと座り込む。いつのまにかその手には水筒があり、中身が酒であることは、飲み出したボッファの頬が赤くなっていくことで気がつく事ができた。
「人が住むにはここはひどく厳しい。砂漠の中で水の奪い合いは無論、作物も育つ事ない大地。そんな場所で、ナット殿の言うように、誰かを助ける生活などできる暇もなかった」
「それは、どうして? 」
「自分が助からないからだ。水を分ければ隣人は助かるだろう。しかし分けられる分にも限りがある。それに隣人は1人ではない。自分以外にたくさんの隣人はいる。そのたくさんの人に水を分けてしまえば、たちまち自分の分が無くなってしまう」
「だから、助けないの? 」
「違う。分け合える分を決めるんだ。この街にある分の水を、この街に住める人にできるだけ多く、できるだけたくさんの水を分けるために」
「砂漠で住むのって大変なんだね。別の場所で住むことは考えないの? 」
「考えた。考えたとも。だがみてくれ」
酒に酔う初老の男は、ナットの背後、この街の遥か彼方を指差して促す。
「ここから見る、この時間の景色が、本当に美しんだ」
「この時間に? 」
「もうすぐだ……ホレ」
促されるまま振り向くと、その時初めて、この丘は砂漠の地平線見える事にナットとミーンは気がついた。そうすると、嫌というほど見慣れたはずの砂漠が、一瞬サーラで見た海のように広大で雄々しい物へと変わっている。そして、その地平線の中でしか見れな景色がそこにあった。
西へと沈む太陽と、いままさに夜の訪れを知らせる双子の月。それが地平線の両端で、まさに入れ替わるようにしてその姿を表していた。太陽と共に沈む赤く照らされた砂漠と、月と共に登る青く照らされた砂漠。それがちょうど真ん中を境目にするようにして浮かび上がる、地平線の絵画。海も森も見た事のあるナットでも、この景色は初めてみる物だった。
「す、すごい。砂漠が二色になった!」
「この景色を、子供や孫に見せてやりたいんだ。この街はたくさん大変な事があるが、あの景色だけは、他のどこでも見ることができない宝物なのだと」
「宝物」
「これを、帝都の連中は勝手に奪おうとしてくる。ならこの先の短い命を燃やすのは当然のことだ」
「……うん。これはすごい、綺麗だ」
飲むペースが早かったのか、いつのまにか水筒の中身が空になっているのに気がつくボッファ。
「さぁ。夜は夜でやることがある。冷える前に中にはいろう」
「っと。そうだった」
「寝ずの番は久しぶりだ。勝手に寝てたら起こしておくれよ? 」
「寝てる間に済ませておくよ」
「ハッハッハ! 頼もしい限りだ」
ボッファは朗らかに笑いながらその場を立ち去る。ナットはといえば、この景色を目に焼き付けるのに忙しい。
《ナット? 》
「もうちょっと」
《うん。これ、みんなにもみてもらいたいね》
「帝都をやっつけた後で見にくればいいよ……あ、もう日が沈む」
美しい景色は完全に日が落ちてしまうと、瞬く間に赤い空はその形をなくし、夜空が砂漠を覆っていく。そうすると今度が肌を突き刺す寒さが体を襲う。
「ささ。次の仕事だ。帝都の連中が明日夜中、もしくは今日って言ってたからね」
《ナットの担当は? 》
「東にある井戸だ。ここから1番遠いけど、何かあったら僕らが駆ければいい」
《わかった。いこう》
ナットが目的地を伝え、すぐさま走る。ナットの仕事は伝令だけではなかった。
◆
砂漠の夜はどれだけ寒かろうとも雪が降らない。湿度が全く無いからである。乾燥した地域では吐き出す息も白く伸びる事は少ない。故に、忍び込んで何かをする際には、都市よりもずっと容易い。それはオルレイトも実勢していた。だがオルレイトも素人。だれかに見つからないようにする術を持ち合わせていない。しかし。もし潜入専門の技術を持つ者なら、ミーロの街への侵入は、明かりが少ない事もあって簡単であった。
朝日ももうすぐ登ろうとする頃。砂漠の色に着色した衣服を見にまとい、足早に駆ける者たち。手には 小瓶が握られ、中には液体が満ちている。明らかに濁った色をしたそれは毒である事が見て取れる。
彼らは井戸の前まで近寄ると、数人が合図と共に散る。1人がそのまま井戸の中に液体を流し込もうとしたとき、ふと井戸の異変に気がついた。滑車はおろか、桶すら周りにない。怪しんで中を覗いてみると、そこには怪しく光る細い線があった。その姿におもわず後ずさる怪しい影。
《こんばんわ》
「そしてみつけたぁ!! 」
中から細い線……ベイラーの目がギラリと赤く光る。井戸の中で待機していたミーンが飛び出し、その影を踏みつける。にげようとした怪しい者は服の裾を踏み潰され、身動きが取れなくなった。
「捕まえたぞ! 」
「な、なんでベイラーがこんなところに」
「ベイラーだけじゃない! 」
ナットが叫ぶと、家の中から隠れていた男たちが、捕まっている者の取り囲むようにして出てくる。その人数におもわず捕まった男が情けない声を上げた。
「なんでこんなに起きてるんだ!? 」
「さぁ。ひとまず納屋にでもいてもらおうか」
「帝都の手先め! ふんじばってやる」
ナットが警戒する井戸に、狙い通り帝都の間者が毒を投げ込みにきた。あらかじめ隠れていたナット達であり、その後、次々と別の井戸で間者がとらえられ、夜の間にすべての井戸を守る事に成功する。
「これで、街の被害がずいぶん少なくなる」
《あとは、この後くるっていう帝都のベイラーたちだね》
「それは、これだけ用意をすすめればなんとかなるよ。あの弓弩の数だよ? あれに突っ込んでくるなんてそうそういないって」
敵対する相手にカウンターを決められたことで気が緩むナット。だがその気の緩みは、これまでに積み上げられた事への裏付けでもある。配備された弓弩の威力は、ベイラーでさえ当たれば致命傷になりかねない物であった。
「あとはいつ来るかだけど、やっぱり朝日が登った後かな」
《どうしてそう思うの? 》
「この痺れるって毒が混ざった水を飲んだりしたあと、身動きできなくなったところで襲うんなら、それくらいかなぁって」
《ナット、大丈夫? 眠くない? 》
「大丈夫……だと思う。ちょっとぼーっとするけど」
《今のうちに少しでも眠ってたほうが》
ミーンが心配した直後だった。別の井戸がある場所から、朝日も登っていないというのに小さな光が奥で立ち上っていく。赤い色をしたそれは街を離れ、どこか遠くへまるで逃げるように去っていった。夜中でその光はずいぶんと目立っている。
「あれ、なんだろう」
《さぁ。虫かなんかが光ってるのかな》
「まずいぞ。伝令虫を出された」
「伝令虫? 」
街の住人がその光をみて焦る。焦りの原因がわからないナットはとぼけて聞き返してしまう。
「伝令虫? 」
「たしか、本当の名前はホウロウなんとか、とか」
「それはいいんですけど、なんで伝令虫なんですか? 」
「そ、それは、あの虫は光の色でいろいろ伝える事ができるんだ」
「色? 」
《便利ですねぇ……まってください。伝える? 》
「そうだ。あれが伝書の代わりにできる」
「な、ならあれってまさか、助けを求めた? 」
「かもしれない。いますぐ準備を進めないと」
「ボッファさんに伝えてくる! いまどこに! 」
「中央の井戸に! 」
「ミーン! 」
《あいあいさ! 》
軽い返事と共に街を疾走する。砂漠を1日で横断することができるミーンにとって街は箱話にも等しい。瞬きする間に街の端から中央に走り去る。その場には東側の井戸と比べ、にわかに騒がしくなっている。みれば帝都の間者が数名縛られいるが、そのうちの一つが解けてなくなっている。
「ボッファさん! 」
「おお! どうした」
「伝令虫が飛んでました! 帝都のベイラーに助けを呼んだかと! 」
「さっきのはまさか」
「今すぐ準備にかかってください! みんな疲れてるかもしれませんけど、お願いします! 」
「わ、わかった! 皆! すぐに弓を張れ!! 女子供は奥にかくせ! 」
ボッファの応え、すぐさま準備が進められる。準備された弓弩に矢がつけられ、罠もそこかしこに貼られていく。朝もあけぬうちに起こされた子供たちは目を擦りながら、街の奥へと逃げていく。
「戦いになっちゃうのか」
「だが、こちらにも人質がいる。こいつらを交渉に出して、せめて戦いはさけねばならない」
「ボッファさん」
「戦いは腹が減る。ナット殿持ってきてくれた情報のおかげで、我らは戦わずにすみそうだ」
「そう言ってもらえると、砂漠を飛ばしてきた甲斐があります」
助けを呼ばれたとはいえ、迎撃の準備は済ませてある。そう難しい事にはならないとナットは考えた。それはボッファも同じで、こうして間者を捕まえたからには、帝都の軍を交えての交渉の場がつくれると考えている。ミーロの街はたしかに栄えているが、その土地柄故に戦いに向いているわけではない。普通に暮らすのでさえ物資はいっぱいいっぱいであるのに、戦いが、それも長い戦いとなれば、いずれ備蓄が尽きてしまう。そうすれば戦いはおろか満足に生活するのさえままならなくなってしまう。
「だが、気は抜けぬな。帝都がどんな手をつかってくるか」
「伝令虫っていってもそんなに早くは伝わらないし。まだ間に合うはず」
《ナット! 夜明けだ! 》
準備の最中、空が徐々に明るくなっていく。景色は夜から朝へと代わっていく最中、ナットの耳に、聞き覚えのある音が聞こえてきた。サイクルジェットの甲高い音。それが複数聞こえてくる。
「な、なんで、来るには早すぎる」
「ええい! お前ら! いったい伝令虫でなにを送った! 」
ボッファが怒鳴ると、いままでずっと口を割らなかった間者は、諦めたような、しかしやり遂げたような口調で話す。
「色はなんだ? 」
「何? 」
「色は、なんだった」
「赤だよ! 夜中でもよく見えた! 真っ赤な赤だ」
「そうか。そうか、あいつは赤い伝令虫を放ったのか。そうだ。それでいい」
クツクツと笑う間者。おもわずボッファが襟首を掴んで問い詰める。
「その色はなにを意味する! 答えろ! 」
「失敗故、助けず潰せ」
「……なに? 」
「任務失敗ゆえ、我らを見捨て目標を達成せよということだ! こらからくる部隊で貴様らは皆殺しだ!! 」
《帝都の連中は、自分たちの部下を見殺しにするっていうのか》
「その強さが我らにはある! 」
「そんなの強さなもんか! ミーン! 」
《門の前まで! 》
ミーンが弓の並ぶ場所まで駆け出していく。幸い迎撃の準備は整い、あとは敵を見つけるのみとなった状態で、緊張があたりを包んでいた。なるべく今来させないようにナットが喋る。
「みんな。さっき帝都のやつが言ってた。これからくるのは、間者ごとこの街を潰しにくるやつらだって」
「あいつら、見殺しにするのか」
「空を飛ぶ連中だから、見つけたら撃ち落としちゃって! 」
《ーーーナット! 来た!! 》
ミーロの入り口。オアシスの向こうから、ソレはやってきた。青黒い翼に、翡翠色をしたコクピット。それだけみれば見慣れた姿。しかしその数が問題だった。
「20……いや30はいる! 」
《それも、アーリィ以外に何かいる! 》
アーリィベイラーの戦列が低空からこの街に襲いかかろうとしている。それだけではない。中には紫色をしたザンアーリィ、さらに、まったく別の種類のアーリィ1人、こちらに向かってきていた。
「なんか、着膨れしてる? 」
空はかろうじて飛んでいるが、あきらかにザンアーリィベイラーより遅れている別のアーリィ。その姿は苔むした藻がそこかしこについてるようで、一見強力なベイラーには見えなかった。
「でもアーリィには違いない! みんな!! 」
「弓構えぇえ!! 」
クチビス用に調節された爆裂する矢が、一列に並んだ弓弩に備えられていく。徐々に明らかになっていく。その数がやはり問題で、30という数。圧倒的なその数に、弓弩を構える街の男たちの冷めていく感情がこの場にどんどんと伝染してく。その中で、1人。勇気を振り絞った。
「大丈夫」
コクピットの中で声をだす。怒鳴るわけでもなく、呟くでもなく、ただ、幼子にきかせるように、たしかに声を上げる。
「ここに、僕の仲間も向かっています。その間だけでいい。時間を稼ぐんです」」
「まさか、龍石旅団が、来てくれるのか? 」
ナットの声に合わせて、男が声を出す。
「はい。僕がここに来るまでに1日。準備に一日。そして今日が3日目。だから、きます。必ず」
「そうか。なら、その間だけでも頑張らなきゃなぁ! そうだろう皆!! 」
「おう! あの虹の橋をかけたひとたちがまたきてくれる! 」
冷たい空気がほんの少し暖かくなる。その暖かさには、希望という名前があった。
「ベイラーきます! 」
「よく狙え!! 」
弓の角度が変わっていく。仰角があがり、より遠くへと矢が飛ぶようになる。
「まだだ……まだ……」
ベイラーが街に近づいていくる。数もそうだが、サイクルジェットを用いた飛行。その速度に気圧されそうになるのを、奥歯を噛みしめじっと堪えている。
「まだだ… 」
弓弩の射程まで、あと少しというところで、アーリィベイラーに動きがあった。先頭を飛ぶアーリィが、こちらにサイクルショットを撃ってきたのである。連射こそされないものの、作り上げた壁に大穴をあけていく。生身の人間があたればひとたまりもない。
「ま、まだか! 」
「焦るな! 相手だって狙っちゃいない! 」
サイクルショットの精度がひくく、まばらにしか飛んでいないが、脅威であることには代わりない。だれもが焦りを強く感じる中、ナットが叫んだ。
「サイクルショットは連射が効く! 連射できないこっちに無駄打ちさせるための罠だよ! 」
サイクルショットで崩落した破片が飛び散る中、その声は男たちを冷静にさせるのに大いに役立つ。
「そういうことだ……まだだぞ」
冷や汗が垂れていく中、サイクルショットの雨が眼前から降ってくる。恐怖心をこれでもかと煽られ、1人が引き金を絞ろうとするも、隣の男が静止する。
「やめろ! 」
「でも撃たなきゃやられる! 」
「あんな子供が踏ん張ってるんだ。俺たちが踏ん張らなくてどうするんだ! 」
男の声にはっとしたのか、引き金から指を離す。
「もう少しだ。もう少し」
距離が近づくにつれ、サイクルショットの精度が高くなっていく。それでもだれも引き金をひこうとしない。全てはあのベイラーたちを黙らせる一撃のために。そして、その時は訪れる。
「はなてぇ!!! 」
サイクルの甲高い音とも違う、引き絞った弓が放たれる轟音が凄まじい数と共にアーリィベイラーへと襲いかかる。先頭を飛ぶザンアーリィベイラーが危機を察知し、すぐさま射線から逸れる。それに追従しする、弓矢が放たれたのをみた集団は何事もなく旋回し、再び突入しようとしてくる。しかし、弓矢を見なかった後方にいたアーリィたちは違う。
空中で炸裂した弓矢はさらなる威力を持ってして、アーリィベイラーに突き刺さる。羽をもがれ、足をもがれた数多のアーリィたちは、そのまま地面へと墜落していく。30いたベイラーは、その数を20までへらし散っていく。思わず男たちが歓喜で腕を振り上げた。
「よし! 」
「喜ぶのはまだはえぇ! 第二射急げ! 」
矢を再びつがえ、引き絞っていく。すると、アーリィたちに変化があった。
「なんか変なやつが飛んでくるぞ! 」
1番後方にいた、着膨れしたアーリィがこちらにまっすぐ突っ込んでくる。それだけではなく、まるでそのアーリィを盾にするかのように、一列に並んで他のアーリィが街に侵攻しようとしていた。
「いい的だぜ! 」
《ナット、もしかしてあれって》
「まさか、そんなことが」
ミーンが懸念を拭いきれず、駆け出していく。
「ああ! ナットさんが! 」
「射線は被ってねぇ! もう1発あのノロマにかましてやれ! 」
限界まで引き絞った矢が、放たれるのをいまか今かと待ち望んでいる。そして着膨れしたベイラーが射程まで飛び込んでくる。
「はなてぇ!! 」
再びの轟音。今度は矢の全てが先頭を飛ぶベイラーへと向かう。何十もの爆裂した弓矢が本体へと襲いかかり盛大に煙を上げた。集中砲火のせいで破片という破片が飛び散りベイラーの姿が見えなくなる。
「ノロマを落とした! これでーーー」
歓喜の声をあげようとしたその時、男の目に信じられない物が写っていた。アーリィベイラーを打ち落としたの矢を、それも集中砲火を受けてなお、先頭にいたベイラーは煙の中から悠々とその姿を現した。どこも欠けていないだけでなく、無傷で未だに空を飛んでいる。
「そ、そんなことが」
他のアーリィも、着膨れしたベイラーを盾にしていたためにまったくの無傷。街を蹂躙すべく飛び去ろうとしたその時。真下から叫び声が響いた。
「サイクル・キィイイイイック! 」
先ほど走り去ったミーンが、先頭のベイラーに飛び上がって蹴りを入れて見せる。弓矢を防ぐ体でも、ベイラーの全体重を乗せた蹴りは効くのか、その体勢を大きく崩し、不時着するように地面へと降り立った。
「ナットさん! 」
「そのまま撃ち続けて! 僕らはこいつを! 」
アーリィベイラーは散りじりになり、街への侵入を試みるも、そこかしこに設置された弓弩に狙い撃ちされていく。そんな中、蹴り込んだミーンだけが、眼前のベイラーに違和感を覚えていた。
「ミーン。あの硬さってもしかして」
《うん。前にコウがやったことだ。まさかアーリィに同じことをするなんて》
「空中の相手に蹴りを入れるとは、見事」
不時着したベイラーの中から乗り手の声がしたともえば、そのまま姿を飛行形態からヒトガタへと変えていく。
「このヴァンドレッドと、アーマリィベイラーの初戦にふさわしい」
アーリィベイラーに、海に住む甲羅を持つ生物、バエメーラの甲羅を移植したあらたなベイラーが姿を現した。




