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ナットの伝令

「本当。砂だけはたくさんあるなぁ」

 《井戸水みたく、どこかから湧いて出てきたりしてるのかな? 》

「おじさんが教えてくたんだけど、砂って元々は大きな石が、バラバラになったものだって」

 《そしたら、ここって、でっかな石がたくさんあったのかな》

「かもしれないね」


 まるでお茶会でもしているかのような穏やかな会話。空色をしたミーンと、乗り手のナットが朗らかに過ごしている。しかしそれはあくまでコクピットの中だけでの話。今。ミーンは砂漠のど真ん中を猛スピードで爆走している。彼が走り去る間にたくさんの砂埃が舞い体にふりかかるも、身に付けた外套(マント)がそれを防ぐ。


「ただ、風景が変わらないのはちょっと退屈」

《森の中だったら生き物もいるんだけど》


 ナットは今、オージェンからの大事な使命を果たすべく砂漠を疾走していた。彼らも世話になったあのオアシスの街。ミーロが帝都の軍に襲われるという情報。さらに住民からの反抗を防ぐべく、猛毒を使うという。その事を伝えるべく、龍石旅団の中でも、最も足の速いミーンが伝令として走っている。通常3日はかかる道のりを、ミーンであれば1日で行けてしまう。日が登るころから行動を開始したナットであり、最初こそ緊張感を持って挑んでいたが、休みなくずっと走り続けても、まるで変わらない風景に、2人とも若干飽きてきた。当初の志はどこへやら。走るだけなら雑談まじりでも行う事ができるナット達は、こうしてコクピット内で、久しぶりの2人だけの会話を楽しんでいた。


 《帝都の人たちって、なんでそんなに戦いをしかけてくるのかな》

「戦いに勝って、その土地を奪って自分の物にしたいんだって」

 《もう自分たちの国があるのに? 》

「どんどん広げて、国をおっきくするのが目的なんだってさ」

 《よくわかんないなぁ》

「でも、攻めてくるんだから、守らないと」

 《うん。それはわかる》


 駆け足の速度を落とすことなく、走ることを続ける。時折ナットは干し肉と水分と取りながら、それでも操縦桿を離さず、ミーロの街へ向かう。


 《敵って、あの紫のやつ? 》

「ザンアーリィ・ベイラー。乗り手はパームの奥さんだって」

 《へぇ……って奥さん!? パームの!? 》

「姫さまがそう名乗ったのを聞いたって」

 《すごいなぁ。パームでも奥さん持てるんだぁ》

「あと、もう1人。これはオルレイトが言ってた」

 《もう1人? 》

「ガインと、同じ技を使う人がいるって」

 《でも、ガインじゃないんでしょう? 》

「うん。違う」

 《なら大丈夫。そんなのが来てもミーンが守ってあげる》

「頼もしいなぁ」

 《あ、丘の向こう! 見えてきた! 》


 砂漠にも高低差がある。それは地脈の関係であったり、単なる風化の為であったりと理由は様々だが、基本的に高い場所を走るのが砂漠での基本だった。低い場所では流砂がおき足をとられ、また地中に潜む獰猛な生物に襲われる可能性があるからだ。その、景色だけは変わらない丘を駆け上がった先に、蜃気楼でまだ霞んではいるものの、たしかに以前訪問したミーロの街があった。


「もう虫も来なくなったから平和かな」

 《そうだね……コウ、今どこにいるのかな》

「1人でアジトに向かった、みたいだけど……もしオージェンさんの言う通りなら、すれ違いになるかも」

 《コウ、姫さまを嫌いになっちゃったのかな》

「そうじゃない、と思う」


 駆け上がった丘を下りながらナットが言う。


「コウが怪我すると、中にいる姫さまも一緒に怪我しちゃうんだって」

 《うん。聞いた》

「だから、姫さまに怪我してしないよう離れた。僕がコウだったら、同じことする」

 《でも、コウ、姫さまと離れて、寂しくないのなか》

「寂しいと思う。でも仕方ないよ。一緒にいると怪我させるし」

 《姫さまは? 》

「うん? 」

 《姫さまはなんて言ってるの? 》

「さぁ。あれからすっかり落ち込んじゃって。普通にはしてるんだけど、だいぶ無理してる」

 《コウともっと話せばいいのに》

「コウが決めちゃったからなぁ」


 コウが今何をしているのかはわからない。逃げてきたレジスタンスの話では、前線基地ひとつを壊滅させ、たったひとりでアジトへと向かった。もし帝都の軍がミーロの街に向かっているとすれば、コウはすれ違うか、もしくは途中で遭遇してしまう可能性がある。しかし確認するすべなどなく、今はただ頼まれた伝令の仕事をこなすだけであった。他愛無い会話が続く。


「占い師さんってさ」

 《あの、何考えてるかよくわからない人? 》

「アンリーさんの事好きなのかな? 」


 突如発せられた言葉にミーンが一瞬態勢を崩し、盛大に砂を巻き上げた。幸い転ぶことはなかったものの、最大速度から大きく減速する。


「急になんだよ!? 」

 《え。ナットからそう言う話聞くの、はじめてなんだけど》

「したらいけないか!? 」

 《いけなくは無い。無いけど、興味あったんだなぁって。でもそっかー》

「そっかーってなんだよ」

 《ナットはああ言う人が好みなのかぁ。へぇ! 》

「ミーン、何か勘違いしてない? 」

 《何を? 》

「僕は別に占い師さんの事が好きな訳じゃないよ」

 《操縦桿握ってるから、嘘ついてもわかるよ? 》

「へぇ。で。嘘ついてる? 」

 《ついてない。ごめん。でもどうしたのさ急に》

「なんかさ、アンリーさんって、姫さまとは違った意味で気前がいいというか、豪快というか」

 《うん。》

「そんな人がさ、この前、泣いてたんだ」

 《泣いてた? アンリーって人が? 》

「たまたま見ちゃったんだ。なんか、涙を見せないように無理やり笑顔になってたような、そんな顔してた。なんか、すっごく気になって」

 《ふーん。それでそれで? 》

「どうしたんですか? って聞いたんだ。そしたら」


『好きな人が、あたしと一緒にいられないって言ったんだ。いろいろな理由があるから、それは仕方ないことかもしれないんだけど、でも、ものすごっく、辛くって。これ内緒な? 』


 アマツの前では気丈に振る舞ってみせたアンリーであったが、自分よりずっと年下の男の子に吐露してしまうほど、胸に生じた痛みは大きかった。同時に、その言葉が、どうしてもナットの中で引っかかっている。


「どうしていいかわからなくなった、きっと僕がまだ大人じゃないから」

 《でも、ナットは行動したんだよね? 》

「……あれで良かったかは分からない」


 ナットは、そんなアンリーにむけ言った。


『そんなになっちゃうくらい、その人が好きだったの? 』


 その言葉に、アンリーは一瞬黙り、しかし確かに答えた。


『うん。うん。いつのまにか占い師さまの事ばっかり考えてて、そしたら、もう好きになってた』


 アンリーの晴れやかな顔を、鮮烈に思い出せる。その光景を思い描いていると、ミーンに確かめるように、ナットが呟いた。


「慰めたり、したほうがよかったのかなぁ」

 《ううん。きっと慰めるよりずっといいと思う》

「そうだったら、いいなぁ。そのあと会ってないからなぁ」

 《ねぇねぇ。ナットはどうなの? 》

「どうって? 」

 《ナットには、好きな人いるの? 》

「ーーー」


 操縦感を握る手が緩くなる。そのまま、さきほどミーンが行ったよりはゆるやかに、しかし確実に速度が遅くなり、しまいにはミーンの足が止まってしまった。


 《ナット? 》

「まだわかんないんだ。僕はミーンが好きだ。でもその好きと、アンリーさんの好きって、違うと思う。なんで違うかは、わかんないけど」

 《ふーん。そっか》

「でも、ひとつだけわかる」

 《それは? 》

「きっと、アンリーさんと姫さまっておんなじなんだ。一緒にいられないって言われて、すっごく落ち込んじゃってる。でもそれくらい、アンリーさんも姫さまも、相手のことが好きって事なんだなぁって。それでさミーン」

 《なぁに? 》

「そんな風になっちゃってる人に、その相手に言葉を届けられたら、やっぱりいいなぁって思うんだ。だって僕らは、郵便屋だ。手紙を送り主に必ず届けることが、僕らの誇りだもの」

 《もし、手紙が書けないくらい心がぐちゃぐちゃだったら? 》

「今しているみたいに、伝令でいいんだよ。『あの人に送りたい言葉はありますか』って聞いて、それを届ける。結局僕は、この仕事が好きなんだ」

 《……なら、まずはこのあと、姫さまに聞かなきゃね》

「うん。伝えた後で2人がどうなるかは分からないけど、きっと今よりもっとよくなる。僕はそう信じてる。だって、手紙をもらって嬉しくない人はいないから」

《ふぅーん。ところでさぁ、あの双子はどうなぉ? 》

「双子ぉ? もしかしてリオとクオ? 」

 《それ以外だれがいるのさ? 》

「どうってなんだよ」

 《結構懐かれてるじゃん》

「いい迷惑だよ。配達中もまとわりつくし、2人ともすぐ泣くし。それにさぁ」


 ナットが今までため込んでいたものを吐き出すように呟き続ける。


「リオはいっつも、二言目には自分はお姉ちゃんだからって我慢してクオにお菓子を譲ろうとするし、でも結局自分も欲しいからあげるって言った後に、やっぱ嫌だって取り返そうとするし、クオはそんなリオのこと、知ったことじゃないからお菓子取られるの嫌で、よく喧嘩するし。他所でやればいいのにそれを、わざわざ僕のところに来てから喧嘩をするんだ!? 毎回止める身にもなってほしいよ」

 《え、あの2人って喧嘩するの? 》

「するよ! めちゃくちゃするよ! いつもは息ぴったりで2人で悪戯してくるくせに、自分が欲しいものができたとたん、二人とも譲らないんだから」

 《へ、へー》

「なにさ」

 《よく見てるんだなぁって》

「いってろ! 砂が絡んでないか見てくる! あとちょっと休憩」

 《わかったー》


 足を投げ出し、座り込んでナットが出ていくのを見送る中で、ミーンはナットの言葉に驚愕していた。予想以上にナットは2人を気にかけていたことや、単純に双子が常日頃から喧嘩していたことなど知らなかった。


 《(まだまだ旅団の人たちでも知らない事があるんだなぁ)》


 寝食を共にしはじめたとはいえ、まだ日が浅い。とくにサーラで合流したサマナやセスの事に至っては知らない事の方が多い。


 《(でもナット。2人からどう言う風に思われてるかは、知らないんだなぁ)》


 そんなミーンでも知っている事がある。それはリオもクオもナットに好意を抱いている事だ。旅団の中で1番仲がよくなり、かつ、2人が危ないところをナットは何度も助けている。ただの友達から気になる相手に変わるのも無理はないと思えた。


 《(ミーンは教えるわけにもいかないしなぁ。どうしよ)》


 ミーンに人の恋を邪魔する趣味はない。しかしナットは自身の乗り手だ。その恋を応援してあげたい気持ちはあった。問題は双子であると言う点。


 《(あの双子の好きが、どう言う好きかでも変わるんだろうけど、なぁ)》


 しかし、ミーンは知っていた。


 双子はよくマイヤに髪型を変えてもらっている事。変えた直後に見せにいくのは、決まってナットに店に行く事を。


 服を仕立て直してもらって、2人の区別が簡単につくようにしたこと(なお、いたずらを仕掛けるのは、決まって揃いの服を着る時である。質が悪い)


 《対して、ナットはなぁ》


 たまに送り合う手紙の中に、まれに「どっちなの?」と書いてあり、その意図が分からずよくミーンに聞きに来ている事。その都度、双子に「手紙は伝わるように書いた方がいい」と説教していること。


 《(気を長くして、待った方がいいなぁ)》

「ミーン。終わったよ。とりあえずまだ大丈夫みたい」

 《わかったー! 街までもうすぐだから、ささっといこう! 》


 今まで考えていた事を悟られないように意識から振り解く。ナットが操縦桿を握ると視界が変わる。ふと共有されたミーンの感覚の中に、どこかふわふわとした、なんとも心地いい感覚が混じってくるのを感じた。


 《ナット。なんか飲んだ? 》

「へっ!? 」

 《いや、なんか変な感じがして》

「ただ、ちょっとリオのことを――」

 《ん?? 》

「ち、違うよ! あ、あいつ、クオとちがって暑がりだから、ちゃんと水とか飲んでるかなぁって」

 《へぇ。リオちゃんて暑がりなんだぁ。クオちゃんも? 》

「クオはあれでいて暑いの平気なんだ。みんな双子だからってよく一緒にしてるけど、2人とも得意なこととか違うんだ。それをなんでみんなしてさぁ――」


 口からすらすら出てきた言葉に、自分自身で驚くナット。どんどん顔も真っ赤になっていく。そのナットを見ておもわず目をピカピカと光らせる(ニヤニヤする)ミーン。生温い空気だけが漂っていた。


「ち、ちがう! なんでもない! 」

 《はーい。そう言う事にしておきます》

「ミーン! 」


 他愛無い会話をしながら再び高速で疾走を始める。砂埃を大量にあげながら、日が傾くまえに、ミーロの街に到着した。街の正面には、何事かと集まった人々がミーンを待ち構えていた。静止すべくブレーキをかけ、外套(マント)を翻しミーンが止まる。その姿をみた人々は口々に歓迎の言葉で迎えた。その中でも1人、先頭で仁王立ちしている者がミーンを認め、近づいていくる。その額にはかつて会った時と同じようにシワが刻まれている。しかしナットの顔を見た事で、そのシワが若干やわらいだ。街の代表であるボッファである。


「ボッファさん! お久しぶりです! 」

「ミーン君と、ナット君。この街に帰ってきてくれるとは。他のみなさんは? 」

「後で来ます。今日は皆さんにお伝えしないといけない事が」

「ほう? 」

「とても大切な話です。代表の方を集めてください」

「なるほど。しかし、歓迎の宴より先に聞かねばならないと? 」

「はい。僕らは伝令を伝えに来たんです。」


 ◆


 《あれが、アジトか……滑走路まである》


 夜。白いベイラーが砂漠の砂に埋もれながら、遠くを覗くサイクルスコープでその場を見ていた。石積みでできた、見るからに堅牢な作りをした砦。そこには何人ものアーリィベイラーがすでに飛び立っている。


 《あの規模。こんどこそ間違いない。でも、あいつらどこにいくんだ? 》


 アーリィベイラーは、すでに上空で円を描くようにして対空し、戦列を作っていた。このままどこかへと跳ぼうとしているのは明白だが、その理由にコウは検討がつかないでいた。同時に、なぜコウがあの基地に向かわないのかの理由もある。


 《クッソ。まだ治らない》


 コウは今、満身創痍であった。すでに10を超えるサイクルジャベリンでの攻撃をうけ、いま砂地に埋もれてやり過ごしている。何本かは身体から引き抜く事ができたものの、完治には程遠かった。ここまで傷付いているのも、ひとえにアジトに向かう間に3回ほど遭遇戦が起きてしまっていた。その全てに勝利したものの、代償は大きかった。いまだにサイクルが軋みをあげて満足に回らない。


 《治る前に逃げられる……追いかけようにもどこに》


 スコープで覗いていると、一際目立つベイラーが飛び立とうとしていた。


 飛びだとうとしているアーリィベイラー。しかし後部に大きなタンクを備え付けてあった。巨大な樽であるそれはアーリィの操縦性にかなりの影響を与えているのか、飛び立つまでまるで安定せず、墜落していないのが不思議なほどであった。


 よく見れば、その巨大な樽をもったアーリィは何人かおり、すでに空へと上がっている。奇妙なのは、その樽は中身が入っていないらしく、大人が数人涼しい顔をしながら運んでいる。


 《空の樽? 何に使うんだ? 》


 コウが大雑把に予想していると、ふたつ目の異様なベイラーが滑走路に現れた。毒々しい紫色に、翡翠色をしたコクピット。ザンアーリィベイラーの特徴を持っているそれは、所々黒い部位が増えている。そのベイラーにコウは見覚えがあった。


 《あいつ、あの村で出てきたザンアーリィだ。全部のベイラーを引っ張りだしてるのか》


 どうやら砦内部のベイラーはすべてで払ったらしく、最後のザンアーリィが飛びだった直後、ずっと旋回していたアーリィ達が戦列を整え、一直線に何処かへと向かっていく。


 《……追いかけててみるか》


 アーリィ達に追いつかないように、慎重に飛び上がる。満身創痍で不調なのか、普段よりまったくスピードが出ない。風にも簡単に煽られてしまい、まっすぐ飛ぶのが難しい状態だった。


 《でも、飛べる》


 気がつかれない事を祈りながら、帝都の戦列からずっと後ろの方を飛んでいく。


 《やつらどこにいく気だ? 》


 普段の何倍も気をつけながら、空中での尾行を続ける。双子の月が傾きはじめたころ、ようやく帝都の軍の行先がわかり始めた。サイクルスコープで除けば、そこにはあのオアシスの街、ミーロがあった。


 《ミーロの街……まさか、あいつら水を奪うためにオアシスに行くきか!? 》


 行動に合点がいき、一気に加速しようとする。


 《そうはさせるか!! 》


 気合を入れ、サイクルジェットの最高速度へと達そうとしたその時。突如としてコウの肩から出る炎が途切れ途切れになっていく。それは両肩とも例外ではなく、さらには進行方向を決める足のサイクルジェットさえ推力を得られない。


 《くそ!? こんな時に! 》


 3度の遭遇戦。その際のサイクルジャベリンでの怪我。さらに身を隠すために砂に埋もれる行為。さらには緊張による不眠。どれが不調の原因であるのか考えられた。しかし今のコウにはそれを判断する冷静さはない。


 《(お、堕ちる!? )》


 なんとかして衝突だけは避けようと、両足を地面にむけて着地姿勢を取る。数秒後。全身を砕くかのような衝撃が走り、コウが砂地の地面へと緊急着陸を敢行した。


 《何で、今になって》


 自身の不調が信じられないのか、パカパカとサイクルジェットを開け閉めするも、もうコウの身体を持ち上げる推力はなかった。さらに、今まで感じてこなかった眠気が急に訪れる。


 《ま、まだだ、今、眠る……訳……には》


 無茶がコウの身体に異常をきたしていた。急速に身体を治すべく、コウに眠気という形で訴える。事実、今のコウの位置から戦列を組んだアーリィベイラーに追いつくにはとにかく身体を治す必要があった。


 《朝、には、おきないと》


 何度も抗おうとするも、全身に怪我を負った状態では完全に覆す事ができなくなっていた。やがてコウが砂漠でうつ伏せになり、そのまま目を閉じてしまう。


 《朝、には、かな、らず》


 それを最後に、コウはベイラーでも珍しい寝落ちを起こす。日の光がなくなったこの砂漠では氷点下にさえ届く気候。コウの身体からどんどん熱が奪われていく。しかし奪われていくだけではない。コウが目を閉じた数分後。新たな変化がコウを襲う。先ほどまで突き刺さっていたサイクルジャベリンがすべて抜けて、さらに関節に噛んでいた砂が全身から溢れ出されていく。超回復とって差し支えない速度で、コウの身体が治っていく。朝には全快しそうな勢いだった。


 次の日の朝。ミーロの街が戦場となるのは、コウはまだ知らなかった。

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