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馴染む体

「皆さまはここで身を隠していてください」

「あ、ありがとうございます」

「では、リオ、クオ。ナット。よろしくお願いします」

「わかった! 」

「がんばるー! 」

「るー!! 」


 救い出した子供たちをひとまずは村の外へと運ぶ。ナットたちに見守られ、ひとまずはマイヤの役目も終わる。


「ヨゾラ。急いで戻りますよ」

 《ワカッター》


 ヨゾラのサイクルジェットが唸り、体を空へと運んでいく。村の外とはいえそこまで遠くない。戻るには時間はかからないはずだった。


 《コノマママッスグモドル》

「ええそうね……まってヨゾラ」

 《ドウシタノ》

「左に、何かある。別のアーリィベイラーかもしれない」

 《ドウスルノ? 》

「ヨゾラ1人では戦わせない。でもせめて人数くらいは」

 《シラベル。ワカッタ》


 翼の動かし、体を旋回させる。カリンらがいる場所とはまた違うところにマイヤは進路を取った。そこは村の北側で、レジスタンスの地下への入り口もなく人の行き来が最低限以下の、もっとも寂れている場所だった。井戸がある訳でもないがその場にある光景はマイヤにとって見たことのない物だった。


「こ、これは」

 《オリル? 》

「そ、そうね」


 足を出し、ズルズルズルと砂の上を滑りながら着陸する。マイヤがコクピットの中から出てその光景をまじまじとみた。


「これ、全部アーリィベイラー? にしても」


 そこには、置き捨てられたアーリィベイラーたちがいた。その数は5人。そのだれもかれもが怪我をしており、全員接木の必要がある。しかしその翡翠の目は光ことはない。なぜならもうそんな事など出来る体になっていなかった。


「全員、燃えたあとがある……ベイラーの炭だわ……こんな」


 全員、その体が何者かによって焼かれていた。中に人の気配はない。幸い、そのベイラーの近くに、駆け出したような深い足跡があった。乗り手が中から逃げ出したのは考えられる。マイヤは、このベイラーを焼き尽くす炎を見たことがある。パームアドモントが操る黒いベイラー。しかしこの村に黒いベイラーが居たという話は聞かない。であるならば、同じように炎を操るベイラーが居ると言う事になる。残念ながらそのベイラーにも心当たりがあった。


 それは怒りに身を任せ荒れ狂う、炎を纏うベイラー。


「これを、コウさまが? 」


 真っ黒に焼かれたベイラー達はコウがやったのではないかという疑念。状況証拠が揃いすぎており、それがどうしても疑念以外の確信に近い物になってしまう。


「いえ、あの黒いベイラーが潜んでいる可能性もあるのですし」

 《マイヤ。マイヤ》

「どうしましたヨゾラ? 」


 ヨゾラがマイヤの近くで座り込む。この世界にはない飛行機に足が生えたような姿をしているヨゾラにとって、座るというのはなかなか難しい。立ち上がる際に腕が使えない為である。しかしその座るという行為をするのは、できるだけ乗り手のそばにいたい時にヨゾラが行う仕草でもあった。


 《ミンナ、シンジャッタ? 》

「そ、それは」

 《ヨゾラ、ミタコトアル。マイヤ二、アウマエモ、ミンナコウナッタ》


 ヨゾラが言っているのは、マイヤに出会う前に倉庫で眠っていた時のこと。アーリィベイラーの前身の実験として作りあげられたヨゾラは、同型のベイラーが何人も居た。しかしその全てが今のヨゾラのようになった訳ではなく、空を飛んでいる途中で燃え尽きたり、飛ぼうとして地面に激突したり。そのようになったベイラーをあつめていた倉庫で、マイヤとヨゾラは出会っている。だからこそヨゾラはつい聞いてしまう。


 《ヨゾラモ、コウナル? 》


 そのそれは、常に墜落と炎上が側にあったヨゾラにとって、いつかなり得ると信じてきた姿。黒焦げになった体はもう二度と動くことはない。そしていつか自分も他に見てきたベイラー達と同じように黒く焦げて空を飛ぶ事ができなくなるだろうという諦め。それがマイヤへの問い掛けにつながる。しかしマイヤは、その言葉を真っ向から否定する。


「なりません。いいえ、()()()()()()()()()

 《……ワカッタ》


 静かな時間が流れる。風が砂を巻き上げ、足跡を消した頃。ヨゾラが促す。


 《イコウ。ヒメサマ、マッテル》

「ええ」

 《アリガトウ。マイヤ》

「どういたしまして……その前に、少しだけいい? 」

 《ドウスルノ? 》

「確か中に……あった。痛ッツ!?」



 コクピットの中に入り込み、もぞもぞと探し物を探す。途中でコクピットの中で頭をぶつけながらなんとか見つけ出す。


「何も置いて行ってあげないないんて。アーリィベイラーの乗り手はなんて酷い人達なんでしょうね」


 コクピットから這い出ると、水筒を手にもって燃え尽きたアーリィベイラーへと駆け寄る。


「器、ちいさいけれど、もってってください。また共に」


 マイヤがそれを供え、中に水を注いていく。それをきっちり5人分。


 《……ナニシテルノ? 》

「ゲレーンのおまじないです。また共になる前に、彼らは旅立ってしまいました。それにほんの少し、私たちからの送り物。こうすることで、きっと彼らの手助けになります。そしてまた出会えるようにと」

 《ヨク、ワカラナイ》

「私も、よくわかっていません。でも、こうすると、旅立った人たちに水を一杯、差し上げられたようで。それは悪い気がしないんです」

 《マイヤガ、ソウシタイノ?》

「ええ」

 《ソッカ。ナラ、ヨゾラハ、ソレガイイトオモウ》

「さて。いきましょう。そんなに時間は経って無いと思うけど、姫さまとオルレイトさまが心配です」

 《ソウダネ》


 ベイラーに乗り込む動作がまだたどたどしいマイヤがコクピットの中に収まる。サイクルジェットを吹かし、ヨゾラを空へと導く。


「空からなら見つかると思いましたが、検討違いでしたね」

 《マイヤ! マイヤ! 》

「ヨゾラ、こ、声がおおきい。耳に響く」

 《ア、ゴメン》

「どうしたんです? 」

 《マイヤノ、ミギテノ、ホウ! 》

「右手…? 」


 右手を空にかざし、そのまま視線を奥へと進める。その瞬間、ヨゾラの言おうしていることを理解した。


 なぜならそこで、巨大な火柱が上がっているの見たから。


「まさか、あれが」

 《イコウ》

「ええ! 」


 ヨゾラを飛ばす。そこは村のさらに外れで、かなり離れていた。しかし離れていてもわかるほど、その火柱は大きかった。炎を操るコウがいるのは明白だった。


「連れて借ります。姫さまのためにも」


 空を駆けるヨゾラとマイヤ白い体を視野にいれるのは少し先になる。


 ◆


「肘打ち! 裏拳! はぁあああ!! 」

「うぉおお!?? 」


 帝都のベイラーを相手取り、オルレイトは苦戦を強いられていた。ヴァンドレットと名乗る帝都の兵士は、レイダのサイクルクロスの上から打撃を正確に叩き込んでくる。


「(今までの相手とは訳が違う! 強い! それもかなり! )」


 アーリィベイラーはその性質上、体が軽くできている。だと言うのに一撃一撃は重く、先ほどから格闘戦で翻弄され続けている。理由はある一点の技巧が、ヴァンドレットの方が上手であること。


「(レイピアの間合いにならない! せめて距離をとりたいのに、こいつ! )」


 ある一点の技巧。それは相手の間合いの測り方。それが完全にヴァンドレッド側に嵌まっているのが原因だった。剣術と格闘術ではもちろん有効打になる間合いが違う。一般的に剣術の方が間合いが遠く、拳の方が近い。結果間合いが遠い剣術の方が強いという意見がまかり通る。


 実際、剣術と格闘術が相対した時、間合いが遠い剣術の方が相手に届き、拳が相手に届かない為、通常であれば剣術側が圧倒的有利になる。しかし、稀にその常識を覆す者が現れる。


「このぉ! 」


 相手の関節目掛け、レイピアを突き出す。どれだけ細い剣であろうと、突きが当たれば手足の一本を串刺しにできるレイダのサイクルレイピア。だがこの相手にこの突きを繰り出しても効果がない。


「遅い! 」


 レイピアの剣先を、アーリィベイラーの、先ほど切り裂かれた左手を使いいなす。ガリガリと肌が削られるも致命傷にはならない。そしてレイダの方はというと、すでに体は伸び切り、隙だらけであった。


「正拳突きぃ!! 」


 ガラ空きになった胴体へとベイラーの拳が迫る。オルレイトはレイダのサイクルクロスを胸元へともっていかせることで、直撃は免れるも、衝撃はいかんともしがたく、レイダは後方へと吹き飛ばされ廃屋にぶつかる。中にいるオルレイトもその衝撃から逃げる事はできず、シートに体を叩きつけられ、背中を強く打つ。


「ガッハァ!? 」

 《坊や!? 》

「だ、大丈夫。すこし打っただけだ。でもこいつ、やっぱり強いそれに、上手い」

 《上手い? 》

「さっきから拳の間合いで戦わされてる。こっちの間合いの内側に入り込まれる」


 斬撃にしろ突きしろ、有効範囲は限られる。それは剣先の部分であり、根本に当たってもなんら効果はない。それをヴァンドレッドは間一髪で回避、もしくはかすり傷をおいながらも一本前にでる事で剣の間合いより内側に入っている。それは致命傷を分かった上で全て回避し、本命の自分の攻撃を当てる高い技術力がいるが、その全てをヴァンドレッドは持ち合わせていた。


 加えて、今までオルレイトが相手をしていたのは武器対武器の戦いのみであり、間合いが自分より近い無手の相手との戦いは今回が初めてであった。その不慣れな戦いなのも相まって、オルレイトは先ほどから苦戦を強いられている。


「既に2度目。偶然ではないようだ」

「お前のその拳でやられる訳にはいかないんだ」

「ほう。この拳を知っているのか? 」

「ああ。知っている。僕らの恩人だった」

「恩人とやらはどこの生まれだ? この拳を知っているのは帝都の兵、それもごく一部の選ばれた人間のみが習得できる。」

「帝都生まれの帝都育ちだ。何がおかしい」

「なるほど。帝都の兵士が外でこれを見せて生かして帰すか。それは、なるほど。よほどの腕の無さとみた」

「な、なに? 」

「帝都近衛格闘術は帝都の絶対守護を目的とした格闘術。模倣をされぬように、見せた者には死を。それが掟である。掟を守れずにいるということは、おそらくその者はもうこの世にいないのだろう? 」

「ど、どうしてそれを」


 オルレイトにとってネイラは自分たちを守ってくれた恩人。しかしカリンを庇って死んだ事をまだ話していないが、この目の前の男はいとも簡単にそれを見抜く。


「考えるまでもない」


 レイダがどうにか立ち上がろうとするも、先ほどの衝撃で足にダメージがあり、うまくサイクルが回らずに立ち上がれない。それを見越してなのか、ヴァンドレットはゆっくりとこちらに向かってくる。


「掟を守れないような者に、勝利はない。勝利無きものに、命ははい」

「知ったような、口を」

「知らないから言えるのだ。この拳を備えて負ける者の事など」


 アーリィベイラーの拳が真正面にかまえられる。その拳はコクピットへの最短距離で向かう構えをしている。


「ベイラーには帝都の礎になってもらう」

「レイダをアーリィベイラーにするのか」

「軍備は多いに越したことはない」

「レイダ! 立てないのか! 」

 《さっきの衝撃で、足が》

「だが乗り手入らない。眠ってもらう。永遠に! 」


 アーリィベイラーの拳が、放たれる。防御もなしでくらえば、コクピットがどれだけ揺らされるかわからない。死ぬ事は無いにしろ、気絶か、怪我か起きるのは予想できた。オルレイトはどうにか体をよじり、レイダのサイクルクロスを使おうとするも、先程の攻撃でクロスさえも破壊されて使えなくなっていた。


「だめ、かあ?! 」

 《坊や! 》


 ここで、レイダがオルレイトの意思を無視した行動を取る。武器を捨て、右手を盾にし、さらに体をうずくませ、コクピットを全力で守るように姿勢を変えた。しかしコクピットを守る代わりに、頭を相手に差し出すような形になる。


「よせ! いくらお前でも頭を壊されたら! 」

 《いいんだよ。これで》

「レイダ!! 」


 レイダは自分が壊されるのを覚悟の上で、オルレイトのいるコクピットを守ろうとする。ベイラーがどこまで壊れてもいいのかは誰も知らない。しかし頭を壊されて再生したベイラーの話だけは聞いたことがなかった。誰もそんな事をためした事がなかったからだ。しかし人間の部位として当てはめても、間違いなく何か例外的な事が起きる予感はしていた。その例外こそ、ベイラーの死亡。


 《(でもいいんだ。坊やがいれば、それで……)》


 レイダの中で、記憶の反芻が起こる。初めての乗り手だったオルレイトの祖父。その息子。孫。三代にわたりレイダは人間と過ごした。


 《(オルレイトとは、もうちょっと長いとおもったんだけどねぇ)》


 拳が迫り、諦めたその瞬間だった。


 突如として炎がアーリィベイラーに向け襲いかかってきた。家屋が吹き飛び、壁を吹き飛ばし、同時にアーリィベイラーがその破片と共に飲み込まれていく。


「何事!? 」


 ヴァンドレットは襲いかかる炎から逃れるべく素早く変形し空へと舞い上がった。しかしわずかに変形が間に合わず、翼を焼かれ十分な高度を稼げず、すぐさま地表へと着地くしてしまう。


「今のは何だ。レジスタンスの新兵器か」

「炎、だよな? いまの」


 オルレイトは突然起こったことに茫然としている。炎が家屋を貫通してたまたまヴァンドレッドのベイラーに当たったようにも見えたが、そもそもなぜそんな炎がこんなところに有るのかが理解できなかった。


 《これは、攻撃? しかし誰が》


 耳を澄ますまでもなく、ベイラーの足音が聞こえる。そしてその姿を見て、思わず口おおさえた。


「コウ、お前、なのか」


 炎が晴れ、その姿が現れた。白い体に、赤い肩。間違いなくコウの特徴を持っているベイラーだったが、手に持っている物がその断定を疑問視させた。


 コウが、アーリィベイラーの首を持って、ゆっくりと歩いてきている。


 先の炎の中にも、よく見れば別のアーリィベイラーが焼け焦げた形で横たわっている。それはいまの炎によって引き起こされた結果で有る事は明白だった。


「炎を、操るベイラーだと!? そんなベイラーがいるのか! 」

「コウ、本当に、コウなのか? 」

 《……》

「コウ? 」


 様子がおかしい事に気がつくも、レイダが動けないために確認できない。コウは手に持っている首を放りなげ、アーリィベイラーを睨む。


 《まだ、いるのか》

「白い、ベイラー? これは一体」

「隊長! 」


 ヴァンドレッドの元に、2人、別のアーリィベイラーが空から現れる。増援というより、元々この村へとやってきていたのがこの場に集まってきた形だった。


「お前たちか」

「他の隊員がベイラーを乗り捨て集合しています」

「乗り捨てて? どう言う意味か? 」

「白いベイラーにやられたと! 」

「なんだと? たった1人にか」

「そう、らしいのです」

「ならば全員で叩くぞ! サイクルナイフを! 」

「はっ! 」


 兵士はヴァンドレットの言葉に奮起し、ベイラーに武装させる。刃渡りこそ短いサイクルナイフ。しかし刃物で有ることには変わりない。ベイラーの体重で押し込まれれば致命傷となる。だがコウは迫り来る敵に対し棒立ちだった


「丸腰ならばぁ! 」


 隙だらけと見た兵士が、コウに向かって気合いの声を上げて突進する。立ち上がれないレイダの中でオルレイトが次の瞬間を夢想する。


「(いまのコウには乗り手がいない! あんな攻撃を喰らえばただで済まない! )」


 乗り手であるカリンはいまコウの中に居ない。

 なんとか立ち上がろうとするも、その距離がどうかんがえても間に合う近さではなかった。


「避けろコウ!! 」

 《……》


 棒立ちだったコウが、やがて静かに右手を動かす。左手に添えるようにして、一言。


 《サイクルブレード》


 小さな言葉だった。それだで、状況が一変する。


 ◆


 《白い家族は、不思議な家族でしたね》

「わかるの? 」

 《入れ物は家族の物。入っているのは人間の魂》

「そう。アレはベイラーだった体に、何故か人間の魂が入っている。ならもしかしたら」


 ホウ族のアマツが祠の中で水をこくこくと飲みながら、グレート・レターと会話する。


 《もしかしたら? 》

「まだあのベイラーは、魂と器が馴染んでいないのでは? 」

 《ほう。馴染む》

「ベイラーだって、人間がいれば確かに動き、できる事は多くなります。しかしあくまで、できる事が多くなるだけで。人間がいなくとも、ベイラーは生きる事ができるのです」

 《その考え方は寂しいですが、そうでしょうね》

「体と魂の馴染みは、本来生まれてすぐに終わります。結果としてベイラーはそれぞれ得意な事を自覚し、動けるようになる。アンリーのシュルツが、戦う事が好きだと自覚したように。龍石旅団の腕のないベイラーが、走る事が得意だと自覚するように」

 《そういえば、あの白い家族は、何が得意だと自分で言った事はありませんでしたね》

「それが、魂が馴染んでいないからだとしたら」

 《だとしたら? 》


 アマツがたった今飲んでいた水を飲みほし、その中を見る。中には入れた水カサ分の線ができている。


「本来の中身なら器はすぐに馴染む。ソレ用にできているのだから。しかしあの白いベイラーは違う。あるべき中身が別の器に入った。しかし、長くいれば、その器にも入れた中身が馴染んでいく」


 カリカリと、水カサでできた線を引っ掻く。この器はアマツが長く使っているもので、その位置にできた線は削れる事はない。


「もし、完全になじめば、それこそ白いベイラーは、()()()()()()()とてつもない力を、使う。かもしれませんなぁ」


 ◆


 《ズエァアアアア!! 》


 コウの気合いが村に迸る。右手に出来たブレードが相手に対して袈裟斬りで力を発揮される。その剣術は、あくまで模倣にしかならないが、それでもベイラー1人を文字通り叩き切るのは容易かった。


 踏み込んだ足が砂上で小さく柱をあげながら、コウの全力に応えてていく。肩にのせていた刀が飛び出すようにしてアーリィベイラーの肩口に深く傷をつける。そのまま刀を振り抜くと、剣圧で‘アーリィベイラーは吹き飛んで行った。あまりの状況の変化に、兵士が一旦突進を止め、後方へと距離を取る。ヴァンドレットも同様に、拳を握ったまま2歩後ろへと下がった。ちらりとヴァンドレットがたった今斬り伏せられたアーリィベイラーを見る。コクピットにヒビさえ入っているベイラーが横倒しになっいる。中にいる乗り手は衝撃で頭を打ってそれ以上動けないのは予想できた。


「一撃で……一撃でアーリィを撃破か」

「あれが、コウ? 本当に乗り手はいないんだよな」


 オルレイトがコウの姿を見る。たしかにコウの姿をしてはいるが、先ほどみせた剣術はカリンの物にとてもよく似ていた。違う箇所は、その剣戟はあまりに乱暴で、一撃で使った剣が砕けてしまうほど。


 《お前らが、帝都の、兵士か》


 使い終わったブレードを投げ捨て、再び作り出す。一歩一歩前に歩きながら近づいていくコウに合わせ、ヴァンドレットたちは距離を開けていく。


 《全員、全員》


 コウの意思に応えるように、肩とふくらはぎの噴射口から炎が漏れ出はじめる。それはコウを見る者にとっては体を一際大きく見せた。


 《叩きのめしてやる!!! 》


 コウが叫びと共に疾走する。炎は一層大きくなり、全てを焼き尽くさんと燃え盛っていた。




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