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ベイラー、出撃

 危険を知らせる甲高い音が響く。鐘をひっきりなしに鳴らしている。里にこの音が響くときは、住民に危険を伝える為の場合がほとんどだった。


「占い師さま! 」

「聞こえているよ。どうしたんだい」

「帝国のベイラーです! 進路上の村に向かっているのを見張りが! 」

「この里のことを知られたか」

「いや、そこまでは」

「……ふむ」


 占い師のアマツが考え込む。


「(襲って来ないこと考えれば、まだこちらの位置が知られているとは考えにくい。ならばこちらが迎え撃う必要もないか)」


 あくまで冷静に判断し、里の住人には落ち着かせるように指示を行おうとしたその時、冷水をかけられるかのような言葉が降ってくる。


「それと、帝国のベイラーを追って、あの白いベイラーが! 」

「……まこと? それまことか? 冗談でもちょっと許せそうにないぞえ」

「は、はい」

「このてまえに誓えるか? 」

「そ、それはもう! すでにあの旅団の宿に白いベイラーがいません! 」

「はぁああ……はぁああ……」


 ため息を吐き、さらに息をすって大きなため息を吐く。


「(あの姫さま。血気が盛んすぎる。こっちの里の存在が知らられてば帝国のいい的だというに)」


 云々うなり、こめかみを指でつまみながら考える。すでにコウが追いかけているのであればそれを辿ってこのホウ族の里にくるのは時間の問題であった。


「ええい。援軍をだしてやるか」

「では」

「アンリーをよべ! ホウ族の戦士たちをだすぞ。いそげよ! 」

「はい! 」

「それから、里への捧げ物も用意させい! 『撃砲』をつかうぞ」

「そ、そこまでせぬとも」

「それくらいせねば追いつけぬ。グレート・レターは今日調子が悪いのだ」

「わ、わかりました! 用意させます」

「最後に、龍石旅団の連中もつれてこい。姫さまを連れ戻させてやれ」

「はい! 」


 短く返事をくりかえし、若者はその場所を後にする。アマツは誰も居ない事を確認すると、座り込んだ姿勢から仰向けになるようにパタリと倒れた。その様子をみたグレート・レターが咎める。


 《これ。汚れるぞ》

「てまえは少し疲れた。ゆるしてほしいものだ」

 《しかし、あの白いベイラーと姫君は行動が早いな》

「予想以上だ。まるで沸騰寸前の水かなにか」

 《すまんなぁ。調子があがらん》

「良い良い。グレートの力は世界を変えてしまえる力だ。秘匿すべきであり、さらにはやすやすと使うものではない。人はな、力に溺れやすいのだ」

 《そんな人もまた愛おしい》

「ベイラーとは変わり者だ」


 アマツが目を閉じる。占いをしようと瞑想するも、いつもであれば現れる夢がでてこない。完全に見れなくなっているのではなく、まるでモヤがかかったようにその全貌が明らかにならない。


「(力が無くなった?……いや。阻害されている。あの白いベイラーが来てからというもの、こんなことばかり続く。先が見れない不安がこんなに大きいとはな)」


 むくりと起き上がると、杖を抱えて立ち上がる。


「グレート・レター。戦士たちを見送ってくる」

 《大事な事だ。戦士たちの分、花を摘んで行きなさい》

「ありがたく」


 祠にさく花を丁寧に一輪づつ摘んでいく。戦士たちの分を摘み終わった後、ふと、龍石旅団の人数を思い出した。二人乗りのベイラーがいるために、ベイラーと乗り手の数が合わず、一瞬数を間違える。


「手伝ってくれる物を除け者にはできんかな」


 数をかぞえ、正しい事を確認し終えると、懐にかかえて布で出来た袋に包む。それが終わると今度は自身の装いを整え、手早く化粧をおこなう。池の水を鏡として薄い口紅を引く。


「では、行って参ります」

 《よく、勤めを果たしなさい》



 祠からアマツが歩いていく。出口から差し込む光に目が焼かれるような錯覚を覚えながら、一歩ずつ進んでいく。池のほとりまでくると、アンリーがすでにシュルツを伴ってその場でまっていた。


「占い師さま! 撃砲を使うとか! お供します! 」

「うむ。丁寧にな」


 シュルツを屈ませ、アマツが手に乗った。シュルツが出来る限り足取りを早く、それでいて揺れないように配慮を重ね移動していく。道中、アンリーが気になっていた事をアマツに問う。


「白いベイラーが飛んで行ったっいうのは本当ですか? 」

「らしい。見張りの者がみていたそうな」

「はぁ。よくやるなぁ」

「感心している場合か。里の場所がバレるかもしれんのだ」

「安心してくださいって。このアンリーがついていますとも」

 《シュルツもおります》

「ああ。本当に心強い。あれから随分と強くなった。いまでも思い出せる。拾ってきてしまった事を後悔した日もあったが……」

「え。占い師さま、もしかしてアンリーは邪魔でしたか? 」

「そうではない。強引に連れてきた物だったから、お前が里を嫌ってしまうかもしれないと。あの村で過ごさせたほうが良かったのかもしれないと思った夜もあった。もっともそれは杞憂だったが」

「占い師さまのおかげで、毎日美味い飯が食えるんですよ? なんでそれが村においていく理由につながるんです? 」

「お前さまは、本当に残念な子よなぁ」

「ざ、残念、ですか」

「だからこそいい子に育ったよ」

「はい! でももし、後悔があるなら、妹も、占い師さまにあって欲しかった」 

「……そうだな。てまえも会ってみたかった」

 《我が担い手よ。ついたぞ》


 シュルツが足を止める。そこは大きな横穴。そこにはすでに戦士たちが集まっている、同時に、龍石旅団の面々も揃っていた。しかしアマツはそこにいる筈のない人物を目にし思わず頭を抱えた。


「カリン・ワイウインズがなぜここにいる!? 」

「あれ? 白いベイラーは追いかけに飛んで行ったて……あれ?」

「……コウは」


 アマツの困惑をよそに、カリンが一語一句吐き出すように答えた。


「私を、おいていきました。一人で、戦う為に」

「ベイラーが、一人で? そんなことが」

「出来てしまうんです! 私の目の前でコウは、およそベイラー一人ではできないことをやってのけてみせました。コウは、もう一人で戦えてしまうんです! 」

「……そんな、ことが」


 アマツの中にあるベイラーとしての常識と照らし合わせれば、今の言葉は全くもって信じがたい物であった。


「(ベイラーは乗り手がいてこその物。歩く程度なら問題ないとして、戦うなど、乗り手がいなければ不可能のはず)」


 シュルツに顔を合わせる。ベイラーの表情など変わらないが、それでも困惑しているのは明らかだった。しかし、状況がその言葉を真実として伝えている。


「話はわかりました。龍石旅団の団長に問おう」

「なんでしょうか」

「これから、我らはレジスタンスのいる村に救援を送る。同行するか? 」

「それは……」

「同行しよう。姫さま」


 カリンの言葉を遮るように、オルレイトが応える。


「宿を貸してもらっただけじゃない。僕らはここの人たちに恩がある。何もしないでのうのうと過ごすのは誇りに関わるだろう」

「で、でも」

「それに、ここでコウを放っておけば、あいつ1人で帝都に向かいかねない。なんでコウが1人でいったのかは……その、わからないが、それでも、1人にしていたらダメだ」

「……皆は、どう。ここから先には戦いがあるわ。それに巻き込む事になる」


 カリンの問いかけに首を振る物はいなかった。誰も彼もが納得の上でうなずいく。それはベイラーも変わらない。


 《ひとりでなんでも抱え込むのは、コウさまの悪い癖ですね》

 《しかしどうやって。セスやヨゾラはいい。空が使えるからな。しかし他の連中は》

「心配には及びません」


 占い師が堂々と宣言する。


「ホウ族がこれまで、隠れながらも、どこからでも、グレートレターの力を借りずとも、レジスタンスを手助けできた理由を、お見せしよう」


 ◆


「これは、まさかタルタートスの中? 」

「鼻の奥です。この先にあります」


 アマツに連れて行かれながら、ズンズンとすすむ戦士たち。やや気後れしながら後をついていく龍石旅団達。ときおり感じる生温い風が、この場所がタルタートスの体内であることを自覚させる。


「グレート・レターが動けないときはコレを使うのです」

「……これ? 」

「《撃砲》といいます。これで戦士達を打ち出すのです」


 巨大な大砲、と呼称する筒が置いてる。すでにトンネルと違いない大きさにまでなっており、存在感をありありと示している。しかしこの構造を見たオルレイトは、ある一点を疑問視する。


「打ち出すって、一体なにで? 弓のような弦もないぞ」

「それはまぁ、見てからのお楽しみということで」

「なんだそりゃぁ」

「さて。準備しますので少々お待ちを」


 アマツ達は、10人がかりで用意した巨大な棒を、大砲のはるか後方へと持って行かせる。それとは別に、皿に盛った食べ物を用意させる。肉やきのこではなく、野菜や果物ばかりで、その数もまた多く、20に及ぶ。里の人間達に振る舞える量に達いている。皿の前に座ったアマツが、その食料に祈りを捧げ始める。アマツだけではない。ホウ族の全員が跪いて祈り始める。異様な光景に飲まれながら、カリン達もその礼に習う。


「我れが里のお力をお貸しください。代わりに、今年育てた果実を捧げます。御賞味あれ」

「「「「御賞味あれ」」」」

「ご、御賞味あれ」


 カリンが後につづくように言葉を重ねる。祈りが終わると、せっかくの野菜を刻み始める。刻むのも一口大という大きさではなく、文字通り粉微塵にしていき、尽くをジュースへと変えていく。そして数分ごには、皿にあった食べ物を全て飲み物にしてしまった。味付けもしていないため、あまり味に関しては保証できないのは見て取れた。その飲み物を、今度は別の器に移し替える。


「……なにを、なさっているの」

「無理をさせるでな。これはお詫び」

「それが、お詫びになるの? 」

「タルタートスは固形を食さぬ。こうしてやらねば受け取ってもらえぬのだ」

「うけとるって」


 占い師と似たような、大袈裟な服をきた家臣達がその器を天に捧げるようにして並ぶ。器の中に入っているのがただの野菜ジュースだとは思えない仰々しさだった。アマツが一言呟く。


「捧げよう」

「「「ささげよう」」」


 家臣達がを無造作に倒す。当然中身はこの中にぶちまけられる。液体は地面へと滴り跳ねる、はずだったが。


「こ、これは、吸い込んでる? 」


 オルレイトが跳ねたジュースを避けたとき、その液体はまるでスポンジの中に沈むようにゆっくりと吸い込まれてなくなっていった。他の場所も同様で、あっというまに大量のジュースは底をつき、この洞窟には生温い風しか残らなくなる。今の現象にカリンが問いかけを行う。


「占い師さま、今のは」

「食事だ。タルタートスの。個体は食べないが、液体だったらどこからでも吸収できる。これで少しは機嫌をよくしてくれるさ」

「さっきから、何を行なっているの? 食事? 機嫌? 」

「もうすぐ分かる。さて」


 アマツが戦士達のそばによる。その手には一輪の花が握られている。その話を、戦士たちの髪へと指していく。男も女も関係なく、ただ占い師が花を刺しやすいように全員が屈んでいた。カリンたちも例外ではなく、作法を習って屈んでいく。双子だけは身長差のため占い師自身が屈んで髪へと指してみせた。儀式の意図を汲み取れずにいると、最後にアンリーへと花が差される。


「戦士たちよ。屍の上で朽ちるなかれ」

「死するは土の上で」

「ならばゆけ」

「ならばゆこう」


 占い師の顔は、どこか寂しげで、しかし悲しさを感じさせない表情で、戦士たちを見送ろうとしている。最後に花を差し終えたことで踵を返そうとすると、アンリーが突然感極まったのか、突然占い師を抱き上げた。これにはアマツは大いにうろたえる。


「これお前さま! よせ! よさんか! 」

「そんな顔しなくって大丈夫ですって! このアンリー、必ずや占い師様の元に帰りますとも! いつもそうだったでしょう!? 」

「わかった! わかったから離せ! 」


 ジタバタするアマツを面白がってしばらく抱き上げたまま硬直する。


「必ず帰ってきますから、泣きそうな顔しないでください」

「……お前さまが死んで、てまえが泣くことなどない、占い師に情はつかぬ」

「はいはい。それじゃあ、行くとします」

「ささっといって、ささっと帰ってこい」

「はーい」


 アマツを下ろし、アンリーが、戦士たちが、自分たちのベイラーへと乗り込んでいく。歴戦の戦士達なのはその淀みない動きで理解できた。


「なんだか、凄まじい惚気を喰らった気分だ」


 オルレイトが睥睨しながら、この後のことを伝える。いま、カリンにはベイラーがいない。しかしこの後、戦うにしろしないにしろ、砂漠を行くための足が必要だった。そこで、オルレイトはあるベイラーと乗り手を呼ぶ。


「マイヤ、姫さまとヨゾラに乗れるか? 」

「ヨゾラのコクピットには余裕がありますから、いけるかと」

「なら乗せてやってくれ。コウを連れ戻すのに姫さまは必要な方だ」

「それはそうでしょうとも」


 給仕服の裾を持ちながら、カリンの前へと躍り出る。カリンの先導という大役を任され、マイヤは心が躍っていた。


「姫さま。不肖マイヤ、お供をさせていただきます」

「え、ええ。ヨゾラには乗れるの? 」

「元はアーリィベイラーだった子ですから、乗り手は選ばないようになっているのです。とはいっても、好き嫌いはありますが、姫さまならば問題ないでしょう。こちらに」

「よしなに」


 カリンの手を取り、ヨゾラへと移る。ヨゾラは最初こそ、マイヤ以外の人間が乗る事に否定的だったが、その相手がカリンであったことでその否定は一瞬で吹き飛び、むしろ喜んだ。


 《カリン、イッショニ、トブ》

「ええ。よろしくね」

「姫さま、私の前へ」


 体格差のため、マイヤの体にすっぽりとおさまる形でカリンが座る。


「さすがに恥ずかしいわね」

「ご迷惑をおかけしましす」

「良いのよ。元はといえばコウが私から離れたのがいけないのだから」


 口では明るく振る舞っているが、その笑みに力はなく、ただ愛想笑いにしかなっていなかった。しかし慰めの言葉をマイヤがもっていようはずもなく、今はただ、この後の飛行を安全にするための努力を行うしか無かった。


「ベルトを。ヨゾラは空でよく動きますから、多少きつめに」

「わかったわ」

「用意できたかぁ? 」


 龍石旅団のメンバーへ、アンリーが声をかけた。すでにシュルツの準備は万端で、初めてあった時と同じように鉄板の鎧に身を包んでいる。


「こっちだ。今から方舟に乗る」

「方舟? 海があるの!? 」

 《なんだと! サマナ! 聞いていないぞ! どこだ海! 》


 船という単語を聞いた瞬間、セスが大いに興奮しだす。陸がそもそも好きでないセスにとって、海の存在は癒し以上の物だ。しかしそんな期待も、アンリーの言葉で掻き消えてしまう。


「違う違う。ただ、もっと楽しいことろだ」

「もっと、たのしい? 」


 そんな場所、海以外にあるのだろうかというサマナの疑問を無視しながら、全員がその船へと

 向かう。船とはいうものの、舵はなく、帆もない。ベイラーの胴体ほどの船体が長細く続いていおり、10人ほどベイラーであれば余裕をもって乗ることができる。不可解のなのはその船の構造で、ベイラーでもすっぽり入るような深い構造をしていた。所々補強に鉄材が使われているのもまた異様さを加速させている。


「一体これからなにを? 」

「なに。タルタートスに頑張ってもらうのさ。しっかり捕まってな」


 動作には作法があるのか、ホウ族のベイラーたちはその手すりにしっかりと掴まっている。腕のないミーンやヨゾラは、リクに抱えられるようにして体を支えてもらう。全員が何かに掴まったことを確認すると、アンリーが大声で叫んだ。


「全員乗り込み終わり! いざ砂上へ! 」

「砂上へ! 」

「砂上へ! 」


 同じ言葉が伝言ゲームで続いている。なんども繰り返すと。最後には掛け声が変わった。


「かけ脚はじめぇ! 」

「かけ脚はじめぇ! 」


 最後になぞの掛け声かかかると、あたりが静かになった。生暖かい静寂のみがこの空間を支配する。ふと、オルレイトが先ほど見たものを確認する。


「長い棒が見えたな。あれでなにかするのか……待てよ。ここは鼻だったな」

 《はい。オルレイト様。タルタートスの鼻の中だと先ほどアンリー様が》

「偶然かもしれないが、この船の先には、あの大きな筒があるな」

 《ありますね》

「あれ、サイクルスナイプショットと似ていないか」

 《オルレイト様、ならば、あれは筒であると? 》

「僕らが乗り込んだ船は、針だ。あれが筒で、僕らはこれから打ち出されるんじゃないだろうか」

 《さっきの棒で? いくら10人がかりで押したとして、勢い良くとびだしません。木から落ちるように、無様に落ちるだけです》

「そこなんだ。さっきの棒は僕らを押し出すための物ではないらしい。もっと後ろに持っていってたんだ」

 《それで? 》

「もう一度確認だ。ここはタルタートスの鼻だ。で、さっきの棒はその奥にもっていった」

 《なにを仰りたいので? 》

「人ってな」

 《はい? 》

「人ってな、鼻の奥を突っつかれるとくしゃみがでる物なんだ」

 《……まさか》

「あれだけ大きな筒。そして多分この船は弓矢だ。そして動力は」


 オルレイトが結論を出そうとしたその時。


 頭の上から、鈍い声色がきこえた。最初は短く小さなタルタートスの唸り声。次には、それはまるで、何かを我慢しているかのような声へと変わる。連続して長い感覚で聞こえてきたが、しかし数える間にもそれは感覚がせまくなり、ついには声というよりは、息が何回も吸い込まれるような声だった。


「全員伏せぇええ! 」

「動力は、このタルタートスの!! 」


 最後の声が聞こえた後、それはやってきた。生暖かい空気が、猛然とした風となって前方から吹いていく。そして次の瞬間、凄まじい豪風が、さっき来た道を戻るように吹き荒れる。船は風によって押し出され、自動的に砲へと装填される。そのまま、恐ろしい勢いで加速し続ける。もはやトンネルと言っていい砲を滑っていくカリンたち。襲いくる衝撃に耐えながら、オルレイトが感極まって叫んだ。


 なんてバカらしいのかと。それでいてなんて効率がいいのだろうかと。その動力は


「くしゃみだぁああああああ!!!!! 」

「ひゃっほぉおおおお!!! 」


 アンリーはこの状況が楽しくて仕方ないというように叫んでいる。くしゃみを誘発させ、その勢いを利用して自分たちを射出しようというのだ。巨体から吐き出される鼻水が懸念されたが、体液をほぼ体外へと吐き出さないタルタートスだからこそできる芸当だった。


「ああー! そっか! さっきのお祈り、お山にやるのとおんなじ! 」

「おんなじ! リク頭いい!! 」

「くしゃみさせるからごめんなさいってことね! だからってこれは! 」


 リオが先ほどのジュースの儀式の意図を読み取る。人間のせいで強制的にくしゃみをさせることを許してもらう為に、ああして野菜を捧げていたのだと理解する。


「そういうことだ! さて出口だ。気合をいれろぉ! 」

「出口!? まさかこのままいくのか! 」

「そうさ! くしゃみが一回だけだと思うかい? 」

「ま、まさかぁ!? 」


 アンリーの声に嫌な予感が渡来しつつも、オルレイトが前を向くと、前方から確かに光が差し込んでいくる。出口は近い。同時に、先ほど聞こえた、くしゃみを堪えるタルタートスの声が聞こえてきた。最高速度に達する為には二回ほど回数を必要とするようだった。


 そして、その時はすぐ訪れた。


 すさまじい衝撃と共に、船、もとい弾丸が後押しされる。全員が体を持っていかれそうになりながら、それでもしっかりと手すりを握る。


 体を吹き飛ばされそうになりながら、アンリーが叫ぶ。


「出撃だぁあああああ!!!」

「「「「おおおおお!! 」」」」


 叫んだ人々の勢いが乗り移ったかのように、船がタルタートスの鼻から勢い良くとびだした。すると船の側面から突如として帆があらわれ、風をうけて打ち出された勢いとはべつに力を受けて飛んでいく。


「目標……メイビット村! 」


 苦々しくその名を口にしながら、打ち出されたカリンたちが風を切って進んでいく。その場には、レジスタンスがおり、アーリィベイラーたちがおり、そしてコウがいる。


 メイビット村。小さな寄り合いだっただけの、帝国に惨殺された村。そこが再び戦場になろうろしている。そのことにアンリーは激しい怒りを感じていた。


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