はまりゆく欠片
「真っ直ぐ谷に向かわない? 」
「ああ」
「それはどうして? 」
「理由はいくらでもある」
宴も終え、生活を共にする中で、龍石旅団がすっかりホウ族と打ち解けた。今日もベイラー達と洗濯を行うカリンと、戦士と名乗るアンリーが乾いた洗濯物を畳みながら会話をする。作業の手を止めずにパタパタと畳める程度には2人とも習熟が進んでいた。
「砂嵐だ。タルタートス達は砂嵐を嫌がる」
「他には? 」
「砂にも種類がある。柔らかく広がる場所、硬く留まる場所。タルタートスが通れる砂は限られる」
「直線でまっすぐ最短にとはいかないのね」
「行っても良い。ただ、その分、足止めで時間がかかる。回り道こそが近道」
「回り道そこが、近道」
「占い師様もそう言っていた」
テキパキと進めながら、それでもカリンの表情が芳しくない。そのまま会話は終わり、ついには今日の分全ての洗濯物が畳み終えてしまった。肩が凝ったと伸びをするアンリーとは真逆に、凝固したまま動かないカリン。するとアンリーは背後に回り、その肩をやんわりと揉み始めた。さすがに体に触られるとは思っていなかったカリンはおもわず振りかえりその真意を問う
「何を? 」
「家事は肩がこる。痛みを伴うと面倒だぞ」
「あ、ありがとう」
「すこしの付き合いで分かった事がある。カリンは口数が少ない」
「そう? 皆とよく話しているけど」
「自分が胸に秘める想いを口にする事が少ない。まるでの恵の雨のようだ。その場に適した言葉は砂と同じくらい出てくるのに。どうしてだ」
「それは、私がそうありたいからよ」
「その場に適した、カリンになりたい? 」
「ええ」
「疲れそうな事をしてるなぁ」
「そう見えて? 」
「そう見える。今秘めた物はなんだ? あたしには話せないことか? 」
「そうじゃないけど、回り道と言うのがね」
「口にしてみるといい」
「口に、ね」
肩をほぐされながら考え込むカリン。肩を揉まれながらではあまり考え事も出来ないのかそのままゆっくりと吐き出すように答え始める。
「前から旅をしたかった。私は国で一生を終えるか、お姉様の様に他の国で一生を終えるかのどちらかだと思っていたか」
「お姉さんがいたのか」
「嫁いだの。だからきっと私もそうなる。だからそうなる前に、旅をして色々な事を知ってみたくなった。他の土地はどんな風なんだろうって。いつもお父様の後を付いていくだけで、街をみたりは出来なかったから。きっと旅は楽しいことばかりあるって思ってた」
「でも、違ったのか? 」
「ええ。お風呂には入れないし、泥だらけにもなる。ふかふかのベットに眠れる日は数えるほどしかないし、食べ物も代わり映えしない」
「そうか。大変だったな」
「それに、コウの事」
「コウ。あの白いベイラーか」
「前はあんなじゃなかった。真っ白な体でみんなを守ってくれる事はあったけど、自分を顧みないで、まるで他のひとさえ良ければみたいな考え方をするし、かと思えば、私の事をすっぽかして戦いに没頭する事もあるし、それに、それに」
「それに? 」
その先の言葉をいい淀みながら畳んだ衣服を積み上げて運ぼうと立ち上がる。何歩か歩いた後で、カリンは意を決して語り出した
「私の事を好いているとか、好きかどうか分からないとかどう思う!? 」
「ホウ! ベイラーが人間に恋とはまた面倒な」
そしてその真意を、聞かれたくない種類の人間に聞かれてしまう。それはいままで真摯にに話を聞いてきくれたアンリーではなく、たまたまその場に居合わせたアマツ。彼女の全身を覆う、占い師を象徴するような装衣がはらはらと揺れている。ただでさえ派手めな格好であるはずのアマツが背後にいることに気がつかなったカリンが思わず畳んだ洗濯物を落とした。
「いつから、そこに? 」
「好いているどうのの時」
「1番聞いて欲しくないところを! 」
「しかし、そう。あの白いベイラーは人をそんなにまで」
「い、いいこと?あまり言いふらすことではなくてよ! 」
「もちろん。誰が誰を好きかどうかなど、てまえには興味がありませんので」
「あとコウ本人にもダメ! 」
「それは承諾しかねるなぁ。ベイラーの反応が見てみたい」
「貴女さては性根が腐っていらっしゃる!? 」
「よくお分かりで! 」
「占い師様、そろそろ」
「いやぁアンリー、許せ許せ。この姫さま叩けばよくよく響く」
「この性悪占い師! 」
「まるで心は痛みませんなぁ! 」
はっはっはと笑うアマツ。腹が攣りそうだと苦しみながらも、ひとまず呼吸を整える。カリンはその大笑いをなんとか耐え、落としてしまった洗濯物を拾い上げた。咳き込んで体裁を整える。
「では、大笑いもした事だし本題をば」
「貴女本当に私で笑いに来ただけと」
「そんな訳ではないのですよ。たまたま大笑いできただけで。さてアンリー」
「はい? あたし? 」
「元々お前さまに用があった。心してもらおうとな」
先程まで人を小馬鹿にして大笑いしていたアマツが、纏う空気を一変させる。同一人物であるか疑わしいくらいの変容をもってして、アンリーへと告げた
「進路が決まった。ここから先、メイビット村を通る事とする」
「メイビット村に? ど、どうしてです? 」
「星詠みの導きと、今朝の占いにより。そこに傷ついた戦士達が集まり休息をとっている。ホウ族はこれを助け、彼らの傷を癒しまた砂漠へと返す」
「わかり、ました」
「もしホウ族に居着くようなら、お前さまが手助けしておやり」
「はい。占い師様」
「では姫さま。てまえはこれで。白いベイラーとは、仲睦まじくしてほしいものですね。それで世界が滅ぼされず済むのならば1番いい」
「分かったから! はやく行っていただけます!? 」
「おう怖い怖い。退散退散」
纏った空気を一瞬で脱ぎ捨て、カラカラと笑いながら軽快にその場からいなくなるアマツ。
「アンリー、アマツという人はいつもああなの? 」
「あ、ああ。なまじ色々な事を知れる人だ。ああやって人をからかわないと持たないのだろう」
「そう言うものなのかしら。ところで、メイビット村とはどんな所なの? 」
「メイビット村は」
アマツの声を聞いてから、アンリーの様子がおかしくなっている。冷や汗なのか脂汗なのか、奥歯を噛みしめながらその村の名を繰り返し呼んでいる。そして何度かその名前を苦々しく読んだ後、カリンに向き直って、その村の真実を紡いだ。
「メイビットと言う名前をした女の子の村から取った村だ」
「そうなの。人が村の名前をしているのね」
「みんなが好きだった女の子の名前をつけたんだ。それくらい小さな村だった」
「砂漠の中にあるのでしょう? 」
「もう誰も住んでいない」
「住んでいない? どうして? 」
「もう何年も前、その村は帝都に滅ぼされた。そもそもその村は、帝都の侵略から逃げ延びた子供達でできた村だったんだ」
「そ、そんな事が? メイビットは、メイビットさんはどうなったの? 」
「ずいぶん、あっけなく死んでいたよ。生き残ったのはあたしだけ」
「ま、まって。生き残った? 」
「重ねて謝る。初めて会った時、仇といって悪かった」
洗濯ものを運びながら歩みを止めない。止めてしまえば、その顔を見られてしまいそうで、彼女はそれを嫌がった。
「あたしは、故郷を守れなかった」
「では、貴女は故郷の仇を? 」
「それだけじゃない」
その後に続く言葉に、カリンは息を飲んだ
「メイビットはあたしの妹だ。もう許せるものか」
それ以上、言葉を聞くことができなかった。それ以上言葉を聞かずとも、彼女がいかに帝都を憎んでいるのかを理解し、その上で、その悲しみをどう受け止めればいいかわからなかった。
◆
《これが、三丁目 》
《ああ。1人を治すための場所だ。そして彼らはレジスタンスでもある》
《レジスタンス? 》
《帝都に唾を吐く気持ちのいい連中だ》
一方、ベイラーであるコウは、このホウ族の人々と共に、4頭いるうちの1頭。3丁目へと足を運んでいた。一丁目はホウ族最大の人が暮らすタルタートス。二丁目はタルタートスの心臓で鉄を加工するき巨大な工房。そして三丁目は、ホウ族の医療が密集してた、いわば町ひとつが病院だった。
その病院の修繕を、コウとシュルツが頼まれている。人の手でも修繕そのものは出来るが、この三丁目全体となると、さすがに範囲が広い。そこでコウ達のようなベイラーが手伝いに来ていた。再びグレート・レターによって運ばれた彼らであったが、今日手伝いに来ているのはコウだけではない。
《向こうの区画、材料は丸太と基礎の岩がいるよ! 人は5人いるから反対側の寮に移してくる! 》
《ありがとうミーン》
礼を受け取るや否や、颯爽とその場から駆け出すミーン。中にナットはおらず、普段の速度よりだいぶ落ちてはいるものの、それでもこの中にいるベイラーでは誰よりも早いその足を利用し、逐一材料の申告や患者の数、移動に必要な物資などをその目で見て報告してくれている。実際ミーンがいなければここまで滞りなく作業がすすんでいない。
《早いものだ。アレが剣を蹴飛ばしたベイラーか》
《ミーンは郵便屋だったんだ。足が早いだけじゃなくって、どんな場所でも走っていける》
《腕がないのに、よく立ち上がったものだ》
シュルツが木材をゆっくりと運び出す。
《戦うことができないのではなく、戦い以外の事をする。いい生き方だな》
《シュルツは、ずっと戦ってきたの? 》
《ああ。この地に来る前は、帝都で剣闘士をしていた》
《けん、とうし? 》
《ああ。そこで、獣やら、同じベイラーと戦っていた》
《たたかって? でもそれじゃぁ》
《分かっている。それでは本懐を遂げられない。しかしどうにも、この体をソウジュにする気が起きなかった。生まれてしばらくし歩いていたが、どうもぱっとしなまま帝都に流れ着いた。そこで行われていた貴族の道楽に付き合ったのが全ての始まりだ》
《道楽》
《獣と獣を戦わせて眺めるんだ。何が楽しいのか全くわからなかった。最初は眺める1人だったが、どうにも体が疼いてしょうがなかい。だから、頼んだんだ》
《頼んだ? 》
《この体を剣にしろとな》
ガコンと柱をはめ込み、穴の空いた屋根にサイクルボードをかぶせていく。
《まぁ負けた。手足はちぎれて治るのに2か月以上かかった。だが貴族にとってその余興はだいぶウケがよかったらしい》
《ま、まさか、そのあとも続けたのか? 》
《ああ。やられては治るまで待ち、何年かそれを続けた。ガムシャラに戦っていたある日、傷ついた獣が恐れをなして逃げ出した事があった。その時。初めて勝利した事を告げられた。その時生まれた胸の高鳴りは今でも覚えている》
《たたかって、勝った事に? 》
《違う。戦い抜けたことにだ。いままで手足をもがれて戦い続けられなくなって縄で引っ張られていたんだ。だがその日はじめてずっと立ち続けられた。それがなにより嬉しかった》
修繕が終わる頃に話も終わり、シュルツが遠くを眺める。おのれの過去を思い出すのはずいぶん久しぶりで、こんな感覚を今でも求めている事に失笑した。
《何が、面白いの? 》
《本懐も遂げずに遊び惚けてるのをみて、既にソウジュとなった皆は馬鹿めと言ってくるのだろうなとな》
《戦いは、楽しい? 》
《ああ。この身がたぎる。だがその貴族、年を召していたからか、知らぬ間に旅立っていてな。剣闘士達は用済みになった。結局、戦いの場をなくした剣は再び退屈な放浪の旅に出たと言うわけだ。だからだろうな。帝都の事はちょっと栄えた程度の街としか思っていなかった》
《帝都って、カリンから聞いたけど、1番大きな国のはずじゃ》
《ああ。だが大きくなる方法を間違えた。帝都は他の国を尽く滅ぼして大きくなった。だから未だに恨みを募らせる。担い手のように》
《担い手? アンリーさんのこと? 》
《ああ。アレは帝都を憎んでいる。だが、アレも剣闘士のような、好き好んで戦うのような戦いが1番好きなんだ。何かを背負って戦うなど担い手らしくない》
《まったくわからないなぁ。戦いって痛いし、負けたくないし。戦いなんて無くていいと思うけど》
《理解しろとは言わん。だが、あまりそっちの都合を押し付けんでくれ》
《……》
コウが考え込む。平和主義者と言う訳ではない。かと言って戦いが好きな訳ではない。コウにとって戦いとは何かを守るべくして行う最終手段にすぎず、戦いたいから戦うという価値観は理解できなかった。そしてその価値観を拒絶するのはなにより容易い。しかしコウはそれを選択しない。コウはこの世界に来て、ほんの少しだけ、相手を尊重する事はどう言う事かを理解しつつある。
そのための言葉選びも、だんだんと精度が上がってきた。
《わかった。戦いが好きなシュルツを、無理に戦いのない世界に連れて行く事はしないよ》
《ああ。それでいい》
《でもシュルツがカリンになんかしたら迷わず戦うから》
《安心しろ。あの太刀筋と剣圧、2度も受けたい物ではない》
1度目の戦いの時にコウはシュルツの腕を切り落としている。それが本当に堪えているのか、ジェスチャーで勘弁してくれと手を振った。
《だが、戦いを挑んでくるのは別の連中だろうな》
《別の? 》
《担い手が言っていただろう? 空から奴らは来たと。少し前から青い空を飛ぶベイラーが、おかしなものを空から落としはじめた。それは尽くを燃やす恐ろしいものだ。お前でも当たればただでは済まないだろうな。この鎧を着るようになったのも対抗策だ》
《空から落とすって、まるで爆撃みたいだ》
《ばくげき? 》
《戦争の手段だよ。炎を空から降らせて敵を倒すっていう手段なんだ。たしかに有効だ。でもそんなことどうやってーーーッツ!》
かけたピースをはめ合わせていく。全ての答えなど分からずとも、全体像が掴めてきた。
アーリィベイラーが作られた理由。なぜわざわざ空を飛ばしたのか。それだけが理解できなかった。戦いに利用したいだけならわざわざ変形までさせる理由がない。しかし、シュルツが与えた情報によってその理由が明確になっていく。もし爆撃させるのが目的なら、そもそもとして空を飛ばなければ意味がない。
《アーリィベイラーで、やつらは戦争をしたいんだ……ならやっぱり、パーム達の後ろにある組織って帝都か》
《どうしたんだ急に》
《俺たちがずっと戦ってる相手がいる。でもそいつの後ろ盾が誰かまったく分からなかった。でももしかしたら、それは帝都の人間かもしれない》
《なぜそう思う》
《帝都は他の国を滅ぼして大きくなったんだろう? 》
《ああ》
《それって今も? 》
コウが少ないピースをつなぎ合わせ、答えを導く。もし未だに帝都が戦い続けているならば、戦力の増量を図るのは当然の事であり、それを埋めるにはアーリィベイラーは最適に見えた。
《そうだ。残党狩りをするくらいには反撃を恐れてる》
《レジスタンスはそれに反抗してるってことか》
《帝都は巨大になりすぎた。至る所で反撃の機会を窺われてる。それを潰して回しているのさ》
《もしかして、最初にあった怪我してたベイラー乗りの人たちって》
《そうだ。彼らもまたレジスタンンスの一員。ホウ族はこれを助けている》
《ホウ族の人たちは、戦いにいくの? 》
《いや。彼らは戦わない。戦いは戦いができる者でやればいいというのがこの里の数少ない掟だ。そしてその数少ない戦いができる者が、この剣と担い手なのだ》
《そう、なんだ》
《なんだ。戦いが嫌いだといっていたのはお前じゃないか》
《でも、目の前で戦いが起きたら、俺は逃げるより戦う方を選ぶ。それはきっと、カリンも》
《お前の担い手か》
《うん。前のめりがすぎるけど、皆の事をよく考えて動ける人だ》
《お互い、担い手には恵まれたようだな》
《そうみたいだ》
作業が終わり、ふたりの元へとミーンが帰ってくる。
《こっちはおわったけど、どうしたの? 》
《なに。その足で蹴飛ばされた事を話していたところだ》
《あれはそっちが言いがかりで切り掛かってきたからじゃないかぁ! 》
《ああ。だから謝っていた。すまなかったな》
《謝るなら姫様にでしょう! もう》
《は、はーーーーっはっはっは! そうだな! そうだった》
突然大笑いするシュルツ。その様子に思わず頭でも打ったかと心配になるミーン。その見当違いの行動に再びシュルツは笑う。そして彼らに訂正をした。
《コウ、恵まれたのは担い手だけではないようだ》
《なんだよ急に》
《お前は、お前達はいい仲間に恵まれている》
しみじみと言われたコウも、謙遜するでもなく、けっして卑下するでもなく胸を張って答える。
《ああ。龍石旅団を選んだカリンに間違いはないよ》
《審美眼は確かのようだ。なら信頼してそのお前たちに伝えるとしよう》
《い、今の今まで信頼されてなかったの? 》
ミーンが至極真っ当な意見をぶつける。それにしえっと答える
《いや、信用はしていた。だが信頼していなかった。他の者はどうか知らんがしかしこの剣は信用とは、言わなくていい事は言わない事だ、そして信頼は相手の為に言わなくてはならない事を言う事だ。そしてそれをお前たちは勝ち取った。すごいことだ。誇るがいい》
《ど、どうも》
《態度が大きすぎてまったくそんな気がしない》
《ゆるせ。それは性分だ。さて。伝えるのは単語だ。頭の片隅に残しておけ》
《覚えておけってこと? 一体なにを? 》
《すこし前に、帝都の兵が沸き立っていた事がある》
《それはなんて? 》
《龍殺しが手にはったと》
《りゅうごろし? 龍って、あの龍の事? それを殺す? 》
そしてシュルツは、知っている事を少しずつ継ぎ足していく。その情報に触れるたび、コウの中で揺るぎない敵意が膨れ上がってくる。
《その体は黒く、長い黒髪をしていると言う。おそらく人の事だろう》
《黒くって、長い髪、コウそれって》
《シュルツ。たった1人だけ、俺の知っているベイラーがその姿をしているよ》
《何? 龍殺しが、ベイラー? 》
《でも、そしたら、パームも、鉄仮面もぜんぶ、帝都が後ろ盾だったってことだ……ただ戦争をする為に、あんな、あんなことを》
膨れ上がった敵意は自分の意思とは無関係に炎となって溢れ出していく。コウの肩から少しずつ、しかし確実に赤い炎が漏れ出していく。
《シュルツ。俺にも、戦う理由ができたよ》
《まさか、龍殺しを知っているのか》
《ああ、彼女は俺が止めなきゃいけない人だ。ありがとうシュルツ》
《そうか……話してよかったよ。コウ》
漏れ出した炎はチリチリと景色を焼いているが、広がることはない。だがこれがまたいつ業火となるかコウにも見当がつかない。
《(戦争を仕掛ける帝都がアイをてにいれた。なら世界を滅ぼすのは彼女だ。なら俺がこの世界に生まれたのは、それを止めるためにか。ああ。こんな所で見つけるなんて)》
燃え広がる事がないのは、ただコウの中で確かな納得があったから
《(アイを止める為に戦う。それがきっとこの世界に生まれた意味なんだ)》
その心の中にいるのは、カリンでも仲間の事でもない。ただ一心にアイだけを考えている。それはコウの炎をさらに燻らせている事を誰も知らない。




