ベイラーたちの軌跡
人の営みには様々な音が満ちる。自分の着る服を清潔に保つ為に水で濯ぐ音。食事の準備のために獣を捌く刃の音。住処を磨き擦る音。あるいは、誰かが愛を囁く音。その音の種類は様々であり細分化するのも馬鹿らしくなる。そして今このミーロの街で響く音は、未来の街を守る為の大工道具の音が一日中響いていた。
「本当に、ベイラーってのはこんなことが……」
唖然としながら見守るのは街の長ボッファ。街の大工を呼びあつめ、この土地に、巨大な橋をかけることになってすでに5日経っていた。大まかな材木は彼らが切り出し、加工している。その橋は年に一度、砂漠の谷底で傷を癒すリュウカクの元へ集う動物達が街を通り越える為のもの。だがその規模は街を覆うよう群勢であり、生半可な大きさの橋では支える事が叶わない。そこでベイラーの力を借り、大きくも丈夫な架け橋を建造することになった。大まかな設計や配置を考えるのに3日費やし、実際の作業はまだ2日しか行っていない。だというのに。
「もう半分まででできあがるとは」
龍石旅団の面々が、その建造を手伝いうことで大幅に時間が短縮されていった。大工達が拵えた材木を運び
組み立てるのに、ベイラーは大いに役に立った。そも彼らの運搬能力は人間の比ではない。さらには高所まで運ぶ術が限りあるミーロの人々にとって、7、8mの位置に材料を上に上げる事ができるのは何よりの時間短縮になった。
《セス! もうちょっと右だ》
《白いの、こうか? 》
《はい! そのまま! 》
《ええいそこの大工。足元をうろつくんじゃない。セスだって踏むことはある》
当のベイラー達はというと、巨大な建造物を作るのは初めての経験であり、少々手間取っている。長い木材を運ぶ際に家に当てないように一苦労したり、物珍しさでベイラーに近づく子供に一喜一憂したり。心労とまではいかないものの、非常に気を使う場面が多い。それでも誰も投げ出さないのはある助っ人があったからであった。
《はっはー! たまにはいいなこういうのも! そうだろう担い手よ!! 》
「楽しそうでなによりだ我が剣! そら次にいくぞ! 」
《おうともさ! 》
「ありがとうアンリー。貴方達がきてくれたおかげでだいぶ捗っているわ」
「ホウ族の戦士は戦い以外の時はこうして大工をしているものなのさ」
《しかし、虫を渡らせるための橋とはな》
ホウ族から、アンリーとシュルツ、ほかにも彼らの工房から何人かが手伝いとして来てくれていた。荷物を運べる者は荷物を出来るだけ多く運び、食事を作れるものは食事を振る舞うことで皆の英気を養っていた。
「この様子なら、来年を待たずとも橋は出来上がるでしょうな」
「ええ……レイダやコウが大工仕事を経験していたおかげで勝手が分かってたのが幸いしてたわ」
《驚きました。私も城の修繕はしていましたが、コウ様はいつ大工仕事を? 》
《サーラにいた頃に、船の組み立てを手伝ってたんだ》
「私の知らない間にいろいろ覚えてくるんだもの。驚いたわ」
ベイラーの動作は慣れが非常に重要になる。彼らはそもそもとして乗り手がいなければ動きが鈍い。物を運ぶ事さえおぼつかない。しかしある程度は経験によってそれはカバーできる。運びにくいだけで、どうすれば転ばないように運べるのかは学ぶ事ができる。
《これで、ミーロの街は安全になるね》
「……ええ」
《何か、気になるが? 》
「あのアーリィベイラーのことだ。コウ」
レイダの中からオルレイトが答えた。
「結局あの後、アーリィベイラーをこの街で見つけること出来てないんだ」
「崖の中で見たリュウカクの事もそう。あの怪我、一体どんな事をされればあんなことに」
クチビス達がこの街に来ていた理由がようやく解けたというのに、まだ残っている問いが多すぎた
「ここでは答えは出ないわ。ひとまず。今はこの橋を完成させることに全力を尽くしましょう」
《ところで……あれなに? 》
コウが指差す先には、出来上がった部分の橋に、大勢が色を塗ったくっていく様子だった。それぞれ規則的に色を重ねている。混じり合わないように注意を払い塗られていくその様子を眺めていると、色の選び方に真先に双子が気がついた。
「あー! 」
「みんなの色だー! 」
「みんな? 」
「うん! 赤に、黄色に、緑に、みず色に、青に、白! 」
「セスに、リクに、レイダに、ミーン、ヨゾラ、それにコウ! 」
「……ベイラーの色? 」
「わしが指示しました。この地を助けた者達の色を残すようにと」
ボッファが誇らしげに進言する。そのまま深くお辞儀し、カリン達に何度目かの感謝を述べた。それは何度述べようとも内容が薄くなる事はない。
「我らの街をお救いくださり、ありがとうございます。龍石旅団の方々」
「もう。言い過ぎよボッファ。それに、あんな色まで」
「何度言っても足らぬくらいです。お嫌ですかな」
「それは、ベイラーの皆に聞くしかないけれど……どう? 」
《私の方は、問題ないかと》
《セスの色があの赤とは違うが、まあ多くは求めん》
《ヨゾラノイロダー! 》
《なんか、変な感じ。僕らの色が街に残るのって》
《ーーー!! ーーー!! 》
《カリン。みんな大丈夫みたいだ》
自分の体の色が、街の一部になっていくのが、どこかむず痒く、そして晴れやかな気持ちにさせていく。街にかかる橋が伸びるにつれ、その色もまた長く伸びる。その姿をボッファが例えた。
「この街に、消えぬ虹ができていくようです」
「消えない、虹」
「皆さまが諦めなかったからこそ、この街はクチビスの猛威の中立ち上がる事が出来たのです。あの
の橋がある限り、あの出来事が人々の心からなくなることはないでしょう」
「そう言っていただけるのなら嬉しいわ。ねぇコウ」
《……そうだね》
細める目も無いというのに、どこかその視線は寂しげだった。コウの胸に渡来するのは、ホウ族の里で占い師に言われた言葉。コウが世界を滅ぼずと言う断言。
《(こう言う事を続けていれば、俺が世界を滅ぼす気なんか無いって、わかってもらえるかな)》
目の前にできつつある橋をながめながら、それでも己の力の大きさに恐れ続ける。島1つを吹き飛ばしかねない力と、虫達を導いた緑の炎。どの力も未知数であり、制御できない。自分が使いたいと思うタイミングで使えるものでもなく、どうすればあの力を再び使えるようになるのかなど検討がつかない。だが、ひとつだけコウの心は決まっていた。
《使い方を間違えないようにするんだ……絶対に》
力そのものを否定するのではなく、その力をどのように使うのか。それをこの街で考えられるきっかけを手に入れた。
◆
「もう少しゆっくりしていだたくわけにはいかないのでしょうか」
「そうしたいは私も同じ。しかし、いかねばならないのです」
3日後、橋が完成し、祝いの席が用意されようとしているなか、カリンがこの街を出ることを告げた。その言葉に心底残念に思うボッファが引き止める。
「しかし、何も労いを受け取らぬなど」
「あなた方が無事であったことが何よりの労いになります」
「……お心は固いようで」
「いかねばなりませんから。帝都へ」
「ならば、もはや止めますまい。しかし、せめて土産のひとつや二つは持っていってください」
ボッファが手をあげると、準備していたかのように樽が運ばれてくる。ただの樽にしては四隅が頑強に補強され、かなりの重量になっているのがわかる。
「……これは? 」
「飲み水にございます。しかしただの飲み水ではございません」
そう言うとボッファは樽の一部、飲み口のようになった小さな蓋をあけると、一杯水をくみとり、カリンへと渡した。意図がわからずそのまま受け取り、一口飲んだところで、驚きの声があがる。
「冷たい!? 」
「はっはっは。中に氷をいれてあります。樽もただの樽はなく、丈夫で長持ち。さらに外の暑さを耐える仕組みになっています。氷が保てば5日は この冷たさは保つでしょう」
「わざわざ、貴重な氷を、私達のために」
「氷は溶ければ水になります。砂漠の道は長い。冷たさがなくなろうとも、その喉を潤すでしょう」
「……大切に使わせてもらうわ。マイヤ」
「は」
「リクに運ぶのをと手伝ってもらいましょう。荷造りを手伝ってあげて」
「かしこまりました」
「ボッファさん! ちょっといいかな」
「なんでしょうか」
「この地図なんだが、どうやってみればいいかわかるか? 」
オルレイトがレイダの中から複数の地図を取り出す。それはこの地方に飛ばされて来た時に見ていた、あの砂漠を示す地図。何枚の地図を組み合わせることで出来上がるその巨大な地図をひろげてボッに聞く
「ここからだとどうやって帝都に向かえばいい? 」
「……あの、言いにくいのだが」
「いや、わからないならいいんだ」
「そうではなく……この地図、間違っているんだ」
「そ、そんな!? たしかにこれは古いが間違っているなんてこと」
「いや、地図そのものは間違っていない。ただ……」
何枚の地図を組み合わせたオルレイトの地図。ボッファはそれを捕捉するかのように輪郭を指で継ぎ足していく。
「この山これで…谷がこの名ということは……つまり…うーん」
「ボッファ、一体何をいってるんだ」
「いや。この地図は未完成なのです。正確には、これが」
ボッファが囲むように輪郭を広げていく。あれだけ大きくみえた地図がさらに大きい全容を表していく。その大きさに面くらいながらも、声をかけた。
「……これの地図のサルトナ砂漠は、ほんの一部だったのか??? 」
「たしかにこの谷は帝都へ続く谷。ただ、このミーロの街がはるか南……わしも地図を読むのが得意というわけではないが……」
そうして出来上がった、元の地図より2倍は大きくなった地図のど真ん中を指差す。
「ここがミーロの街、にあたるはず。このまま北へとまっすぐ行けば、谷に迷わずいけますぞ」
「……は、はは。ははは! 」
思わずオルレイトから乾いた笑いが出る。予想だにしない広さに心が折れそうになった。
「オルレイト、どうしたというの」
「一体どれだけかかるっていうんだ……砂漠越えするには僕らはなにも」
「その心配は無用です」
心が折れかかったその時に、背後から声が聞こえた。全員が振り向いたその先にいたのは、体とすっぽりと包むようなローブを見に纏う、白髪の女性。語り口調はどこか小馬鹿にしたような、聞く者が聞けば癪に触る声。そしてその声の主を龍石旅団の面々は知っていた。
「占い師のアマツ・サキガケ」
「ゲレーンの姫。おひさしぶり」
「なぜ、貴女がここに……げぇ!? 」
ホウ族の占い師がミーロへとやってきていた。その風貌は白髪で褐色。異国の人間であることを外見でありありと示している。そしてカリンはその人物よりも、その隣で歩く人物をみて心の底から嫌そうな声を出した。実際、その人物にはあまり会いたくないためである。そんな事を見越しているかのような反応をその男は示した。
「全くひどい反応ですな」
「どうして貴方まで! オージェン!? 」
オージェンもまた、ミーロの街へ来ていた。アマツと並ぶ事で異国情緒あふれる組み合わせとなっている。しかしそんな雰囲気をぶ地壊すかのように アマツが笑い出した。
「……ほう! ほうほうほう!! よくもまぁ! 」
「占い師。馬鹿にしすぎでは」
「てまえが馬鹿にしていると? とんでもない! よくやったと心の底から思っているんだとも」
ミーロの街で出来上がった橋を見上げ笑う。しかし、たしかにその笑いには何かを下に見た上ででた物ではなく、ただその途方もない大きさの橋をみてそのスケールに笑っていた。
「よく作った! 占いで見たときはにわかに信じられんかったからな」
「それは、どうも……はい? 今なんと? 」
「占いで見た。と言った。……馬鹿正直につきっきりで作るとは思わなかったよ」
「つっきりで? 」
「てっきり、作り方なりなんなりを伝えさっさと街を出る物だともっていた。それがどうだ。こうして街の住人とあの橋を作り上げた。見事見事」
《(あれで本当に馬鹿にしてないのかな)》
「(悪気はなさそうね……占い師って難儀なものね)」
ひとしきり笑うと、急に顔を引き締め。カリンに向きあう。あれだけ朗らかに笑っていたのにも関わらずに、纏う空気が変わった。それは、これから発言する言葉はアマツ1人の物ではなく、この里の総員である事を示唆していた。
「そしてこれもまた占いの物。どうやら、てまえは貴女方を帝都へと送り届けなくてはならないようです……里の者は貴女方と居る事に不満はないそうです」
「……では、貴女も帝都に? 」
「いいえ。ホウ族は帝都には向かいません。あくまで谷の前まで。そこまででしたら、タルタートスで送りましょう」
「それは、願ってもない事だけど……私たちは貴女方になにも返せません」
「なに。また里の子供達とあそんでやってください。それだけでもありがたい」
「そう言う、事であれば。ありがたく」
「よかった……これで目処はたった……渡りに船だ」
オルレイトがこの中でだれよりも安堵している。道中の食料、宿、水その他もろもの問題が全て解決したことで力が抜けていく。他のベイラー達は、再びタルタートスでの生活に戻る事になんの異論もなかった。旅のいく先が決まり、最後にカリンがボッファと話す。
「それでは、ボッファ。また共に」
「それが、ゲレーンでの別れの挨拶、なのですか? 」
「ええ。再び会えることを祈る言葉です」
「なるほど。それは、美しい響きだ」
「この土地ではなんと言うの? 」
「別れで使う言葉であれば、龍の導きがあらん事を。と」
「龍の、導き? 」
「はい。この地にはかつて龍の住処がございました。その龍はこの地に住む我らの祖先をよく導き、それによって栄えたとも」
「ではボッファ。龍の導きがあらん事を」
「はい。異国の姫カリン。また共に」
お互いの互い土地の言葉を交わし、彼らは別れた。その後、彼らの尽力で出来上がった橋に、ミーロの人々は「虹の橋」と名をつけた。6色の色がつけられたその橋の根幹には、6人のベイラーと、7人の乗り手の名が刻まれている。
◆
広大な砂漠の中でも目立つ砦。そこに、とある一行が到着しようとしていた。
「まさか、本当に砂嵐を抜けてきたってのか? 」
「どうでもいい! 受け入れ準備だ! バルバロッサ卿をお呼びしろ! 」
慌ただしく受いれ準備を始める。兵士が灯りを持ったかと思うと、一列に並んだ松明に次々と火をつけていく。砦の外にある長く広い道。砂漠でも珍しい土の上にできたその砦と同じく、土の上でできた道を真昼から照らすように灯りが並んでいく。
「みえた! 太陽を背にしてる! 」
兵士が叫ぶと、その姿を一目みようと砦の中から我先にと他の兵士達がでてくる。それは空からこの砦へとやってきた。5つの影が鳥の群れのように編隊を組んでいる。先頭の影が道の灯りに気がついたのか、ゆっくりと砦へと降下してくる。そして距離が詰まり、陽炎が晴れた頃、ようやくその全容が明らかになった。青黒い体。毒々しい翡翠のコクピット。アーリィベイラーがこの砦へとやってきた。その後ろには付き添うように別のアーリィベイラーが飛んでいる。
「あんなにうまくアーリィを扱えるのか……一体どんなやつが乗ってるんだ」
アーリィはまっすぐ降下すると、空中で変形をして見せる。一瞬で鳥のような姿から手足の生えたベイラーの姿になり、広く大きい道、否、滑走路というべき場所に着陸する。砂埃を盛大に上げて長い距離を滑りながら急制動をかけ、ようやく止まった頃には地面に大きな跡が残っていた。しかし、5つのアーリィベイラーのうち1つが、サイクルジェットに不調をきたしたのか、降下途中に突然向きを変え、滑走路とは別方向にいってしまった。変形を試みるも、あまりに地面が近すぎて間に合わず、そのまま、そのアーリィベイラーは砂漠へと墜落してしまう。
「ひとつおちたぞぉ!」
「乗り手がやべぇ! 」
その様子を見ていた兵士達が何人か救出に向かう。しかしそれを止めるように冷たい声がアーリィの中から聞こえてきた。
「バーカ。あのヘタクソぉ」
中から出てきたのは、まるで踊り子のような派手な格好をした女性だった。男たちを喜ばせるための意図的な服装であることは見ればあきらかだった。しかし間の抜けた声でありながらそんな気は一切ないと宣言しているようであり、事実兵士たちには見向きもしていない。そんな中、兵士たちの足元から割って出てくるように、とてとてと幼女がやってくる。
「ほうほう。お前がケーシィかい? 」
「……子供ぉ? でもその態度、ポランドっていうのは、まさかあなた?」
「いかにもだよ。この姿の事はしっていたのかい」
「仮面卿がぁ、ってちがった。鉄仮面の人がそう言ってたよ」
「仮面卿? 今はそう名乗ってるのかい」
「状況が変わったんだってー」
「そうかいそうかい……黒いベイラーとその乗り手は? 」
「旦那様は…大怪我だったからまだ休んでるし、黒いベイラーもまだ眠ってる」
「まぁまぁ……それならそれでいいさ。遠くからよくきたね。」
「ねぇ。ここにいるの? 」
「ここに? なにが? 」
「決まってるでしょう」
どこか間の抜けた声が、一瞬で怒気の孕んだ声へと変貌する。
「旦那様を、大怪我させた連中だよ! ここにいるんでしょう! 」
「ああ。いるとも。でもアーリィじゃぁ、もう勝てないかも」
「だからこんな砂漠まで来た」
「うんうん。なら話は早い。ついてくるといい。ベイラーはこっちで運ばせるよ」
ザンアーリィに乗っていた乗り手、ケーシィ・アドモントがポランドについていく。その姿をみた兵士たちが色めき立つ中でも全く意に介さずにすたすたと歩いていく。
「そんなに、黒いベイラーの乗り手は悪いのかい? 」
「血が足らなくなって、足先が腐ったの」
「ひょう!? またそれは」
「だから、右足の膝から下が義足になった……今は歩く練習をしてる」
「けっこう参ってそうだね」
「旦那様はそんなヤワじゃない。あの人は絶対に生きる事は諦めない」
「それならいんだけどね……さぁこれだ。ごらんよ」
砦の中に鎮座する、紫色のベイラー。その姿を見てケーシィが舌打ちした。
「ちぇけ。ただのザンアーリィじゃない。まぁアーリィよりは強いだろうけど」
「いいや。こいつはただのザンアーリィじゃない」
「えー? なんか変わったの? 」
「黒いベイラーのかけらを組み込んだベイラーさ」
「えっと、それでなんか変わる?」
「どのザンアーリィよりも強く、どのザンアーリィよりも早くなった。」
「いまあるザンアーリィの中で、1番強いってこと? 」
「ああ。ただ硬さは据え置き。無茶はしないことだね」
「わかったよ……乗ってみてもいい? 」
「もちろん」
ケーシィは腰に貯めた水筒から液体と取り出し、コクピットに満遍なく塗り込むと、その中に手を突っ込んでいく。するとコクピットに波紋が広がり、徐々にケーシィの体が飲み込まれていった。中にあるシートに体を沈め、操縦桿を握る。手足の動きを確認し、同時に変形を行う。いつもの感覚通りに変形がおこなれるのを認めるた。試運転が開始される。
「さて、じゃぁとんでみようかぁ! 」
ひときわ強く握ったその瞬間。
爆音と共にザンアーリィが飛び出した。砦の中から一瞬で駆け抜け、あっという間に空へと向かう。
今まで乗ってきたどのアーリィより早く空へと辿り着いた。
「……あは! あはは!! これならできる! このザンアーリィなら! 」
ケーシィが叫び誓う。このベイラーで、必ずやあの一団に復讐すると。
「旦那様をいじめたやつらを、これで全員ぶっとばしてやるんだ!! アッハッハ!」
空に一筋の雲が走る。どうやってぶっ飛ばすかのシュミレーションを何度も何度もかさね、それを実行すべく、ケーシィは燃料が切れるまでザンアーリィを空に飛ばして続けた。




