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ベイラーの本懐

 ベイラーはソウジュの種である。より遠くに芽吹く為にその身に人間を乗せて旅をする。彼ら彼女らはその為に生きている。そうして生まれた木から、長い年月をかけ、実が成り、再びベイラーが現れる。彼らに死という概念が希薄なのは、体が簡単に生え変わる事に起因するが、原因はそれだけではない。彼ら彼女らの意識は木になった時でも持っている。ただ話す事が出来なくなるだけで、木となって枯れぬ限り、彼ら彼女らの生命に終わりはない。樹齢は1000年など容易く超える。結果、人間の生き死にに関しては、単純に自分達に比べて早すぎると感じてしまう。ベイラーの時点で、正確に何年樹齢を重ねるか分からない彼ら彼女らにとって、死という物は余りに自身と遠い為に、意識する事がまるで無いのだ。


  しかし、ある区切りだけはその限りではない。その区切りこそ、彼らが、ベイラーからソウジュの木となる瞬間である。ソウジュの木となれば、天高く伸びる樹木となって、枯れゆくまでその地と共に居続ける。だがもう二度と、人間を乗せて遠くに行くことはできない。それは、根付く場所を見つけるまでの旅が出来なくなる事であり、それは、ベイラーにとって、それまでの旅が楽しかった物であればあるほど、とても寂しいと感じる事だった。


  寂しいが、悲しい事では無い。人間の寿命とベイラーの寿命が違くとも、人間は世代を重ね、ベイラーはソウジュとなって月日を重ねる。その際、万が一でも乗り手の子孫が一度でも会いに来てくれれば、それはとても嬉しい事だと、ベイラーはソウジュに成る際に考える。もし、ソウジュに成る際に、己と共にその身を捧げて一緒に木となってくれる乗り手がいるのであれば、それが例え、乗り手に世代を重ねさせない行為だとしても、ベイラーにとって、この上ない、かつ取り替えの効かない幸せと言えた。


  そしてその幸せを、タームのベイラーは手に入れた。それが黒いベイラーを止める為だとしても、この島にある人工的に生み出されるベイラー達を止める為だとしても、どうでもよかった。もう寂しくないと思えるだけで、彼は良かったのだ。


 ◆


  タームのベイラーが、その体を変えていく。朽ちかけたはずの体は、樹木と形を変えて、その体の何倍もの大きさになりながら伸びていく。大きさも太さもベイラーとは比べものにならない程大きい。その大きさの根を、この島に根付かせるべく、彼は存分にその身をソウジュへと変えていく。


「船長!! 」

「《よせ! ソウジュに成ろうとしている! 近寄ったら巻き込まれる! 》」


  サマナがタームの元へと向かおうとするのを、セスが全力で止める。先程まで確かに戦場であったはずのこの場が、突如として現れたベイラーによって中断を余儀なくされている。


「《な、なによこれ!! 》」

「ベイラーがソウジュになったというのか……この島で、この空間で、たった今!!」

「《感激してないでなんとかしなさいよ! 体が! 》」


  黒いベイラー、アイが、その樹木に雁字搦めにされていく。どれだけ力を込めて破壊しても、何度でも絡みつき、その体を離す事はない。


「まさか、この為に、アイ君を止める為だけに、こんな事を……! 」

 

  鉄仮面の男は驚愕する。同時に、自身の計画が破綻していく様を想像した。


「バカな。こんな、こんな事があっていい訳が」

「あるさ。なぜなら、元からあっちゃいけないのがこの島なのさ」


  樹木から、金属の反響するかのように声がゆっくりと、しかし聞き逃れないように確かに聞こえてくる。その声の主に、鉄仮面はまるで覚えが無かったが、この行動を起こした人間である事は確信できた。反旗を翻してきた人物に対して隠す事なく怒りをぶつける。


「あってはいけない、だと」

「ベイラーを生み出すのはソウジュだけだ。人間が手を出す事じゃない」

「何をいう! 彼らは人間が居なければ何も出来ないただの人形だ」

「その人形にに、お前は今から締め上げられるのさ……お題目を並べて綺麗に飾っても無駄だよ」


  聞き覚えのない声に、自身の、まだパームにも話していない核心に触れられる。


()()()()()()()()()()()()()使()()()()()。」

「……な、何? 」

「今ならはっきりわかる。お前は自分の為だけにベイラーを使った! ならば、お前もまた、ベイラーの為に自身のその尊厳を蔑ろにされると知れ!! 」

「お、おおお!? 」


  羽交い締めはさらに進み、アイの体のほとんどが樹木で埋め尽くされていく。身動きなど取れず、足掻くことさえ許されない。その事実に何より絶望してるのは、他でもない。鉄仮面の男だった。


「こ、こんなことで、こんな事で終わってしまうのか……始まったばかりでこんな苦境が待ち受けているとは……誰が想像できようか……まだ、まだ何もしていないというのに!! 」

「《ちょっと! 力が抜けるから考えてないで手を動かしなって! 》」

「ーーよぉ。俺に任せちゃくれないか? 」


  しかし、この状況になってなお、絶望などひとかけらも持たない男がいた。鉄仮面の男は、例えこの身をどれだけ奪い去られようとも、例え間違っていようとも、この男を信じるしかなかった。しかしこの訪れた絶望を覆す唯一の方法だとも確信できた。


「ああ。やはり君を見つけて正解だった」


  仮面の下で、彼は勝ち誇ったように笑った。


  ◆


  ソウジュの木となるべく、根を生やしていくタームのベイラー。その大きさもさる事ながら、伸びていく根の数も多かった。そしてそのことごとくは、あのアーリィベイラーが生まれていた場所を執拗に潰しながら広がっていく。薬品は散らばり、プランターは倒れ、白い樹木が何本も横倒しになっていく。生まれてくる途中だったベイラーが、まだ体を動かす前に島に潰されていく。


「《カ、カリン……これが、ベイラーがソウジュになるって事なのか》」

「そうだと思うわ……私もはじめてみる……って呆けてないで! 」

「《そ、そうだった》」


  無理やり樹木がこの島に根を貼り続けている事で、島ので作られた建造物が崩落を始めていた。龍石旅団の全員が島から脱出を図るべく、黒いベイラーを避けて通れる道を探していると、樹木が崩れた壁を押しのけて、出入り口を構築しているのを発見する。


「セス! なんで! もう一回でいいからおばあちゃんに会わせて! 」

「《見ろ! 奴はセス達を逃がそうとしてくれている! 黒い奴を横切らないようにしてくれているんだ! それでもまだ奴のところに行きたいなら勝手にしろ! セスはお前を簡単に見限るぞ! 》」

「セスのバカ! なんでこんな時くらい慰めてくれないのさ……なんで……」

「《それは今ではないだけだ……今は、タームがやろうとした事を叶えてやれ》」

「船長……おばあちゃんが……」

「《違うだろうサマナ……今は、お前がレイミール海賊団の船長だ。船長なら、仲間に指示を出せ》」

「バカ……バカァ!! 」


  捨て台詞と共にセスへと乗り込むサマナ。片目から溢れる涙を拭う事もせず、ただ、切り開いてくれた出入り口を指差して吠える。


「レイミール海賊団、()()!サマナだ! 全員脱出しろ! 」

「か、海賊の?」

「タームとそのベイラーが、あの黒い奴を押しとどめてくれている! 」

「聞こえたなレイダ! 」

「《とてもよく。ミーン。リク。よろしいですね? ガインは私が引っ張っていきます。お二人はお先に》」

「《わ、わかった! 》 」

「《ーー!! 》」

「コウ! 先に行くぞ! 姫さまを頼む! 」

「《……わかった! すぐ追いつく! 》」


  崩落にも似たこの状況でも、ミーンとリクは元気に返事をし、自分が成すべき事を果たさんとする。足の速いミーンが真っ先に先行し、他のベイラーが通りやすい道をあらかじめ目星をつけていく。


「《ねぇナット……やっぱり、ネイラは》」

「今は、今はここから出る事を考えよう……大丈夫だよ。きっと寝てるだけだよ」

「《うん……そうだね》」

「コウだって大変なんだ……今は僕らは帰る事だけを考えよう。帰ったあとでたくさん聞けばいいよ。たくさん聞くことはあるんだから」


  この戦いの中で思い起こされるのは、ガインのコクピットに入り込むベイラーの腕。そして引き抜かれた後にピクリとも動かなかくなったガイン。そして、激昂したコウが行ったまばゆい光を伴った爆発。黒いベイラーの出現。


「(何かが、始まってる。僕らの知らないところで、僕らの知らない何かが、起こりはじめてる……これから一体何が起こるんだ……)」

「《ナット! もうすぐ外だよ! 》」

「わ、わかった! 」


  ナットは考えを中断し、今は仲間が通りやすい道を見つける事に専念する。細い場所はリクが通れず、入り組んだ場所ではレイダがガインを引っ張ってこれない。出来るだけ大きく、平坦な道を選び通っていく。視界の端には、ちらちらと太く伸びていく樹木が入ってくるが、彼らの道を阻害する事はなかった。


「本当に黒いベイラーを止める為だけに……僕らを、逃す為にか」


  あまり話した事のないベイラーに、こうして助けられる事にむず痒さを覚えながら、島の先端へと向かっていく。


「《お礼の一言くらい言えればよかったね》」

「……」

「《ナット? 》」

「おかしい。さっきから光が見えない」

「《…… 光? 松明が消えてるってこと? 》」

「あの黒いベイラーが出てきた時、もう朝日が登って来てたんだ。なのに、今は真っ暗だ……なんで? 」

「《雨かな。島の天気は変わりやすって叔父さん言ってたし》」

「そうだけど、それにしたって暗すぎる……よう……な」

「《それよりも早く外に行こうよ。船だって待ってるんでしょう? 》」


  ミーンがせかすと、ナットの方もすぐにその疑念は流され、道を素早く移動する。途中後ろを振り返りながら、仲間がどの辺りにいるのかを把握し、遠すぎず、近すぎない距離を保つ。そして、何度目かの曲がり角を曲がった先、ようやく、レイミール海賊団の船が見えた。


「《やったぁ! ナット! これで帰れるね! ……ナット? 》」

「そんな、そんな馬鹿な!! 」

「《どうしたのさナット? 》」

「僕らは、閉じ込められた」

「《船もあるのにどうして? 》」

「これじゃぁ海に出れない」


  ナットが消沈する中、ミーンも目を細めて外を眺める。最初はたしかにナットの言う通り、少し暗い程度であったが、徐々にその全貌が明らかになるにつれ、ミーンもまた途方に暮れ始める。


  黒く分厚い雲。雷は鳴り響き、海は荒れ、島に波が叩きつけられている。間違いなく嵐のそれだが、ただの嵐ではなかった。この強すぎる嵐を、2人は過去経験している。


「《追われ嵐だ……なんで、サーラに追われ嵐が? 》」

「わからない。でも、これじゃぁこの島から出られない。助けも呼べない」

「《どうするの? 》」

「……待つしかない」


  遅れて到着した、仲間も、外の様子を見てナットと同じ結論に至ったのか、その場に座り込んでしまう。幸い、彼らをおそってくるような私兵も周りにはおらず、比較的に安全といえた。皆それぞれ、先ほどまでの激動と戦いで疲労は限界に達している。疲れによる沈黙が続く中、オルレイトが口を開く。


「……レイダ。ガインはどうなってる? 」

「《……返事がありません。目の光もありません》」

「そうか……そっとしておいてやろう」

「《はい。それがいいかと》」


  未だ乗り手からの声が聞こえない。あの状況を見れば絶望的なのは明らかだった。それでもなお信じているのは、彼がまだひょっこり声をかけてくるんじゃないだろうかと言う淡い幻想だった。


 しかし、その幻想は、突如聞こえた爆音で現実に引き戻される。


「こ、今度はどうした!? 雷か!?」

「《……外に行きましょう。洞窟の中では崩落するかもしれません》」

「お前が雨に濡れる事になるが……しょうがないか」


  レイダを走らせ外に出る。想像の10倍は激しい雨と風からレイダを打ち付け、遠目からは雷が何回も鳴り響いているのが見えた。しかし、この島に雷が落ちている訳ではなかった。まず最初に見えてきたのは、嵐の中でもひたすら成長し続ける、ソウジュの木だった。


「さ、サマナ! サマナ! 」

「なんだよのっぽ」

「オルレイトだ……いい加減名前を覚えてくれ……あれが、タームのベイラーだ」


  サマナがぶっきらぼうに答えながら視線を動かすと、そこには、この地では珍しい、巨大なソウジュの木が、今まさにその体を形作ろうとしている瞬間だった。島の内側から、膜を破るように樹木が生え、それが寄り集まり、ひとつの大きな幹となっていく。その幹がある程度の大きさなっていくと、今度はそこから枝が生えはじめ、徐々に葉が成りはじめる。幹の色も、枝の色も、この薄暗い嵐の中でもはっきりとわかる白色をしている。オルレイトが幼い頃から知っている、ソウジュの木以外の、何者でもなかった。


「ゲレーンのソウジュにだって引けを取らない……綺麗なソウジュだよ」

「……綺麗でなくたって良かったんだ……ただ、もう少し、もう少しだけ、一緒にいて欲しかったんだ……こんな形でお別れしたくなかったんだ……」

「《それは、お前だけじゃないぜ》」


  ポツリとつぶやくベイラーが1人。レイダではない。


「《きっと、あの乗り手だってそうさ……その人は笑ってたかい? 》」

「……うん。 笑ってた」

「《なら、きっとそれが答えだ。……勝手だよなぁ。全くよ》」


  呟いたベイラーーガインがレイダの肩から滑り落ちる。ドシンと尻餅をつきながら、ガインが空を見上げながら雨に濡れた。その目に当たった雨が頬を通って滴り落ちる。ガインは、もう何度目かの呼びかけを行う。その結果がすでにわかっていたとしても、もう一度


「《でも俺のほうも……きっと笑ってたぜ》」

「そっか……そっか」

「《ああ》」

「《ガイン。傷は大丈夫ですか? 》」

「《俺はどこも怪我してねぇよ……怪我してねぇのに。こんなにいてぇんだ……まったく。ずいぶんと付き合いが長かったから余計だな……》」

「《ーーでは》」

「《あいつはしみったれたのは嫌いだ……それに、まだいろいろやる事が残ってる。コウはどこだ? 》」

「《先程、後ろからついてくると……》」

 

  直後、島の中腹から、1人のベイラーが飛び出してくる。ソウジュと同じ白い肌をもつベイラーが、逃げ惑うように空を駆けていた。そして、飛び出したベイラーを追うように、長く鋭い刃が、まるで生きているかのように追いかけていく。時にうねり、時に弾んでコウを追い立てていく。


「あれは、コウじゃないの? 」

「あ、ああ。でも、何かにおっかけられてる……あれは一体? 」


  オルレイトが目を凝らして、コウを追いかける謎の物体を見極めんとする。しなやかに、そしてなめらかに動くその自由自在の刃は、いくつもの房に分かれコウを襲っている。


「コウが危ない! レイダ! あの刃を撃ち落とす! 」

「《仰せのままに》」


  オルレイトがレイダに右腕を構えさせる。一本の長い筒を作り出し、その内部に小さくも鋭い針を生み出した。徐々にサイクルを回し、射線を決める。だが、今回は周りの状況が違った。


「か、風が強い……これじゃぁ真っ直ぐとばない」

「《バーストショットでいっそ撃ち落とすのは? 》」

「だめだ。コウに当たる。どうすれば……」

「オルレイト。もっと上だよ」


  レイダの肩を叩くセス。そのコクピットの中から、至って冷静な声色のサマナが指示をし始める。その指示の意図に、一瞬オルレイトは理解出来ず、また理解できた時、サマナのことを信じられない目で見た。


「……まさか、この嵐の中で、風を読んでるのか? 」

「海と同じだよ……ほらちょい右」

「し、信じられないが……今は頼むしかないか。次は? 」

「そのまま。あと……ひと呼吸待って」


  今、オルレイトが向けている方向にコウは居ない。それどころか追いかけている刃もない、まるで明後日の方向をむいていた。しかし、サマナの指示にあまりに揺るぎが無い為に、オルレイトはその言葉を半ばヤケクソで信じた。


「当てずっぽうだったら恨むからな」

「なら恨まれないよ……ほら」


  サマナの指差す先には、コウが刃を躱しつつ、それでも何度か体を斬りつけられ、態勢を崩している姿が見える。だが、その移動する先に、確かにオルレイトが向いている方向に向かっていた。これにはオルレイトは大いに動揺する。


「さ、サマナ、一体何をしたんだ? 」

「……分かったんだ。あたしは、()()()()()が出来るんだって。これは、あたしが持ってる力だったんだって。おばあちゃんが教えてくれた」

「おばあちゃん……タームさんか」

「ずっと不思議だった。なんでみんなは風を読めないのか。波を読めないのか。あんなに分かりやすいのに……きっとみんな知らないだけなんだって。でも違ったんだ。これは、おばあちゃんが、それにきっと、お母さんも持ってた力なんだ」


  片目だけで、コクピットの中でもしっかりを前を見据え、嵐の中でも揺らぐ事なく指差す。そして、サマナの言う通り、コウがその先に飛び込んでくる。


「今!! 」

「サイクルスナイプショット!! 」


  レイダの腕から、鋭い針が突き進むが、わずかに風によって射線がずれていく。しかし、サマナの顔は冷静そのものだった。


「大丈夫。そのまま上がって……落ちる」


  サマナが呟いたその瞬間。レイダが放った針が一瞬で上空へと持ち上げられる。消え去ったかのような勢いで天高く持ち上げられると、一瞬針が静止する。持ち上がった力と、針の重さが均等になった。そして、針の先がコウを追いかける刃へと向いた。


「風も波も、こんなに簡単に教えてくれる」


  レイダの針は風を受け、上空から落下する力と共に加速する。打ち出した時となんら遜色のない力を得て、コウの背後、追い縋る刃の全てを、たった一本の針が貫いた。


「ほ、本当に当たった」

「《サマナ。お前は……》」

「うん。これはあたしの力だ……そして、みんなの為に使える力だよ」


  やがて、コウがその体を旋回させ、龍石旅団の元へと駆け込んでくる。サイクルジェットの力を弱め、その足をしっかりと踏みしめて大地へと戻ってくる。そしてしきりに首を傾げながら聞いて来た。


「《えっと、手助けしてくれたのは誰? というかどうやったの? あれサイクルショットだろう? 》」

「こんど教えてやるよ……そうえば、あの刃はなんだ? 」

「《その事なんだけど……多分、もう直ぐ分かる、アレが何なのか》」

「《アレ? コウ様。説明はもっと具体的にしてくださりませ》」

「《見た方が早いんだ……来た》」


  そして、それは現れた。


  光を飲み込むような黒い体。サイクルがまだ完全に回っていないのか、小枝を折るような音が何度も何度も響いている。その手には、体を埋め尽くしていたであろう樹木の破片。無理やり引きちぎって出てきたのは明白だった。通常のベイラーよりも肥大化したその肩には、噴射口からあふれんばかりの炎が上がっている。彼女が出す炎で、濡れる体から湯気が出ていた。そして何より、長くしなやかな髪が、そのひと房ごとにゆらゆらと揺れて、まるで生き物のように蠢いている。体にひっついた最後のかけらを引き剥がし、そのベイラーは笑った。


「《逃しはしないよ……白いの》」


  龍石旅団の面々が各々に構えをとる。戦意は十分だった。


  その笑い声を聞くまでは。


「へっへっへっへっへっへ……」


  もう誰も聞き逃しはしなかった。もうだれも聞き間違えはしなかった。その笑い声が響いた時、だれかが奪われ、だれかが怒りに震えていた。何度も打ちのめされては這い上がるその生命力と、必ず生きるという泥臭くも貫き通す意思を持ったその男が、嵐の中で、笑いながらコウ達を見下している。


「ここで決着をつけてやる! 白いの!! 」


  パーム・アドモントが、鉄仮面よりアイを譲り受け、そこに居た。




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