夜空のベイラー
だれかの力になりたいのはナット君だけではありません。
「船には指一本触れさせねぇぞぉお!! 」
「「おおおおおお!! 」」
海賊船レイミール号が到着し、ミーンが仲間と合流したころ。船を沈めようとする兵を退かせるために奮闘する海賊達がいた。鎖を巧みを使い、あるものは吹き飛ばし、あるものは縛り、またあるものは叩きつけている。ただ一人。海賊ではない人が、自分の立ち位置を見失っていた。
「お、お手伝いすることはありませんか? 」
「その言葉だけで十分だぜ! 」
給餌服を身にまとい、視力調整用に、この世界に2つとない眼鏡をかけた女性。マイヤが、何もできない事に焦りながら、それでも出来る事を探して奔走していた。男たちが戦っている合間に、船の中にある水を持ってきたり、武器を運んだりしていたが、それも最初だけで、すでに水も武器も運び終え、もうする事が残っていなかった。
「(……ナット様も言っていた、戦えない事のもどかしさ。まさかここまでなんて)」
現在は膠着状態である。その隙に男たちはマイヤが運んだ水を静かに口には運び終え、兵を退かせる為に武器を持つ。
「(……私も、何かお手伝いできる筈)」
「ん? まちなってお嬢さん!そっちは駄目だ!!」
いても至ってもいられなくなったマイヤが、一人海賊船から降り、島の中へと入っていく。制止も虚しく、マイヤはあっという間にこの島の入り組んだ空間へと入っていた。
「意外と人は少ない……皆海賊船の方に行っているのかしら」
すんなりと潜入できた事に驚きを隠せないマイヤ。まるで散歩でもするように、人目もはばからずに歩ける事に違和感を感じ、ひとけの無さに恐怖を感じ始める。
「(島の全体像だけでも把握できれば、私でも何かお力になれるはず……このように、ナット様も同じ考えになったのでしょうか)」
今、カリン達が必死の捜索を行なっているナットも又、自分と同じように考えたのかもしれないと、今の境遇を重ねながら歩いていると、地面がわずかに揺れ始めた。同時に、聞き慣れた音が正面から聞こえてくる。とっさに道の外れに隠れ、その音の正体を待つ。しばらくすると、揺れが最大になり、聞き慣れた音はさらに大きくなる。マイヤが隠れた場所に影を落としたソレに、彼女は見覚えがあった。
「(紫色の、ベイラー……たしか、ザン……ザン……なんとか)」
マイヤは名前を覚えるのは苦手であった。龍石旅団の面々は最近ようやく覚えたばかりである。その彼女が忘れている、ザンアーリィベイラーが1人、のっしのっしと歩いている。一つ目が正面だけを見据え、足元にいるマイヤの事など気にもせずに、ゆっくりとその場をはなれていく。聞き慣れた音は、ベイラーのサイクルが回る音だった。息を潜めているマイヤが、そのベイラーが真新しい何かを付けているのに気がつく。
「(右腕に……あれは、道具? それとも武器? )」
ザンアーリィベイラーの右腕に、釘で道具が打ち付けられている。それは縦長の筒になっており、中から水の音が聞こえてくる。さらにマイヤが一瞬見えたものに、首をかしげる。
「あのベイラー、手の内側に棘が……爪のように使うのなら分かりますが……なぜ内側に? 」
しばらくすると、ベイラーは道を曲がり、何処かへと言ってしまう。その道の先は海賊船が居るところとは別であり安堵するも、同時に、あのベイラーが何をしに行ったのかが気になりはじめる。
「コウ様を迎え撃ちに行った? なら、あのベイラーは戦いに行ったと言う事に……こうしてはいられない。すぐに海賊船にもどらないと……」
そして、振り向いた瞬間だった。さらに大きな足音が、マイヤの後ろから聞こえる。それも複数。それは大人数のベイラーが、マイヤを見つけていた証だった。青いベイラー、アーリィベイラーが静かにサイクルを回し、その手に武器を作り出す。
「怪しいやつがいるぞ! 海賊の仲間かもしれん! 捕まえろ!! 」
「……ごきげんよう! 」
マイヤはひとまずの挨拶を交わし、即座に逃げの体制に入る。しかしながら給餌服の裾を持ち上げ、ベイラーより早く走る事は、彼女の身体能力では不可能だった。
「どこか隠れられる場所……あそこなら!! 」
とっさに見つけたのは、扉が空いている倉庫のような場所。これ幸いと飛び込み、内側からつっかえ棒で扉を閉める。
「……飛び込んだはいいものの、どうしましょう」
部屋にはひとつだけ松明があるだけで、全体像は見ることができない。仕方ないと諦め、松明を手に取り、辺りを探す。
「出口でもあればいいいのですが……しかし、ここは、そしてこれは一体? 」
マイヤが全体を捜索すると、辺り一面におかしなものが転がっている。
「ベイラー……の一部でしょうか? 」
右足だけ。左手だけ。もとから欠けているのではなく、すでに欠けた後のベイラーの体がそこかしこに転がっている。その数は両手両足で数えられないほどになり、中央では山積みになっているほどだった。部屋全体をくまなく周り、その実情が明らかになるにつれ、その欠けた後の体の数は何十人のベイラーの分だと分かる。
「……貴方は欠けていないのね。綺麗な肌……でも、痛みがひどい……ろくに磨かれなかったのね……それにしてもベイラーにしては随分大きい。翼もある」
そんな中に一人だけ。欠けていない、かつ、まだ怪我をしていないベイラーを見つけるマイア。色はアーリィと同じ青黒い色をしているが、一部が灰色に塗り直されている。それは見てくれを変えるという感じではなく、削れて色が落ちてしまった部分を補うように塗られていた。
「あら? 貴方お顔はどこに? 」
ペタペタとベイラーを触るも、反応はない。そして明かりを遠巻きにすると、そのベイラーの全身がよくわかった。その特徴は、アーリィと戦ったコウ達であれば一言で表す事ができる。
「鳥みたいなベイラーね。腕もなければ頭もない。どうなってるの貴方」
だが、そうでないマイヤには、どうしても鳥の姿にしか見えていない。それは、ちょうどアーリィベイラーが変形した後の状態であった。しかし、いたるところが削れており、かつ動きもしない。マイヤがこのベイラーの事を諦め、出口を探そうとした時だった。
「扉をやぶれ! 中に仲間の女がいるぞ!! 」
ゴンゴンと扉を叩く音と同時に、何人もの男たちの声がしはじめる。
「べ、ベイラー! 匿ってくださらない!? 」
マイヤがコクピットを叩いて懇願するも、アーリィベイラーは動かない。徐々に扉を叩く音は大きく、そして連続しているものに変わっている。見つかるのは時間の問題だった。そうして、マイヤは動かないベイラーを優しく撫でる。
「そ、そうね。私はいままで、ベイラーに触った事はあるけれど、乗り手になった事はないし……叩いたりしてごめんなさいね。ここを離れたら、いい乗り手に出会うのよ」
翡翠色をしたコクピットを撫でる。ここは、ナットが見つけた廃棄物の倉庫と同じ、すでに鉄仮面によって用済みとされたベイラーの収容所であったのだが、ここでマイヤはそれをしる事はできない。今彼女ができるのは、叩いてしまった事へと謝罪と、ベイラーの未来を祝福する事だっけだった。やがて、マイヤは捕まり、捕虜として扱われる。マイヤの身がどうなるかは、マイヤ自身もわからない。ただ、もうコウたちとは会えなくなるかもしれないなと。頭の隅で考えはじめる。同時に、すでに殺気立った男たちに殺されてしまうのかもしれないとも考える。
「……申し訳ありません姫さま。私もまた、愚かな事をしてしまいました」
誰に伝えるでもなく嘯く。扉は同時に突き破られ、灯が部屋全体をおおきく照らす。慣れない光量に目をつぶるマイヤ。男たちの手が伸びるのをまつも、なぜか、自身の服には何も起こらない。
「……はて? 」
「こ、こいつ、動いてるのか! 」
「失敗作じゃなかったのかよぉ! 」
マイヤがつぶった目を開くと、そこには自分の背後を見てうろたえる男達が、もはやマイヤの事など忘れてしまったように叫び声を上げる。
「べ、ベイラー用の武器を持ってこい!! 」
「い、いま出払ってるよ!! 」
「はて? 」
マイヤは初めて、後ろを向いた。そこにいたのは、先ほどまで、何も言わなかったアーリィベイラーが、そのコクピットと、機首に隠れている目を、ギラギラと輝かせながら、自身のサイクルを甲高く回している、あのベイラーの姿だった。そして、マイヤも、そして、追ってきた男たちがさらに驚く。
「あなた、動けたのですか? 」
「ど、どうするんだよ! 」
「ビビるな! 奴は失敗作だ! 関節を狙え! 」
ヤケになった男たちは、手に持った武器をがむしゃらにベイラーへと投げる。狙いなどつけていないその投擲はマイヤに当たる事は無いが、図体の大きいベイラーはその限りではなく、次々にナイフや斧、弓矢が突き刺さっていく。
「《ーーーー》」
「(彼はまだ、生きている!それを、それを! )」
動き出したベイラーはその度に体を震わせている。声に出せないだけで、その仕草で痛がっているのはよく分かった。削られた肌にさらに切り傷が増え、ナイフが木屑を掘り起こすように抉っていく。傷がますます増え、声の出せないベイラーが悶え苦しむことしかできない。
「よ、よし! 所詮失敗作だ! やっちまえぇ! 」
「……さっきから」
そのベイラーの前に立ち塞がる人が1人。すでに諦めかけたはずの命を張って、身を呈して前に立つ。
「あ、ああ? 」
「さきほどからなんです! 失敗作失敗作と! 」
給餌服を着た女性が、両手を広げて怒鳴る。マイヤは、明確な怒りを表している。こめかみに力が入り、感情の高ぶりで目は濡れはじめる。先ほどまで逃げ回っていたはずの女が突如としてベイラーを庇いだしたことに、男たちが呆けると共にたじろぐ。
「彼はこうして生きている! それを失敗だなんて、何故そんな悲しい事を平気で言えるのですか! 」
涙ながらに怒号を重ねるマイヤ。もはや、自分の命を勘定に入れていない。ただ、目の前の命が侮辱され続けた事を許せずにいた。
「撤回なさい! 彼は失敗でもなんでもない! 」
「ヤダね! そらやっちまえぇ! お姉さんこそ忘れちゃいないか? この島じゃぁ、実験で死体の1つや2つ増えるのは珍しい事じゃねぇんだぞ」
たじろいだのは一瞬で、男達は再び投擲を開始する。ベイラーに近寄れないと分かると、ひたすらに投擲による遠距離からの攻撃を行う。何本かのナイフが突き刺さり、ベイラーが悶えはじめる。だが、それでも、マイヤは一歩も退かない。
「(あの人ならば、こんなところで退きはしない)」
それは、ずっと世話をしていたはずなのに、ずっと教える側に居たはずなのに、いつの間にか教わる事が多くなり、いつの間にかその在り方に憧れを抱いていた人。その人であれば、必ずこうするであろうと考えている。そして、実行に移していく。
「(カリン様であれば! こんなところで! )」
だが、その誓い紛いの決意など吹き飛ばすかのように、マイヤに力自慢の男が投げつけた岩がぶつかった。手のひらほどある大きさの岩が頭に直撃する。
「よっしゃあ!! 当たったぜぇ! 」
「さて……まぁ飢えてる奴らにでも突き出して……やれば……」
頭から血が滴り、膝が今にも崩れんばかりに揺れている。頭に当たった衝撃で眼鏡は外れ、足元に転がっている。だが、マイヤは、さらに一歩前に出て、その、眼鏡が無くなり、視界が一層悪くなった事で、睨みつけながら前を向く。片目に血が垂れていようと気にしていなかった。そして叫ぶ。
「撤回なさい! 今すぐに!! 」
「こ、こいつ不死身か! さっさとやっちまえぇ! 」
ついに、男達は武器を投げてベイラーを傷つけるのをやめ、マイヤに向かって直接武器を振るおうとする。先程マイヤに岩を投げた力自慢の男が、両手で持った大斧を振りかぶった。それでも、マイヤは目を逸らさずに前をみる。決して許さないとその目で吠える。 そして、その力自慢の男は、青いベイラーに蹴飛ばされていった。壁に激突し、気絶する。命に別状はないが、その腕は明後日の方向に向いていた。男達がその光景をみて今度こそ狼狽る。
「こ、こいつ、意思を持ってるぞ! 」
「何を、当たり前のことを? 」
マイヤと男たちとの認識がズレていく。アーリィはそもそも鉄仮面の男が主導して栽培した、戦う為のベイラーであり、彼らに意思の無い道具にしたものだ。それが、この目の前の、幾ばくかの飛行実験の際、墜落して動かなくなり、打ち捨てられたベイラーは、たった今、意思を持って応え始めている。壊れた笛のように、音階が安定せず、聞き取りにくい声で、それでも少しずつ、マイヤと話しはじめる。そのベイラーは、掠れた男の声をしていた。
「《ナンデ……タッテ……クレル……ノ……ナンデ……? 》」
「立つ? ……えっと」
マイヤが困惑しながらも応えていく。最初の、初対面での感想を素直に言う。
「貴方が綺麗だと思ったから。」
「《……キレイ? 》」
「ええ。なんで肌が痛んでるのか分からないくらい」
「《ホン……トウ?》」
「ええ。本当」
「《……ソラ……スキ……?? 》」
突如、全く別方向の質問をされたことに戸惑いながら、ゆっくりと話しはじめる。マイヤには、目の前のベイラーが、生まれたての子供というよりは、始めて友達になろうとしてくる人付き合いの苦手な、どこにでもいるふつうの子であるように思えてくる。
「ええ。白い雲も、雨の後に掛かる虹も好きですよ」
「《……ソラ……クモ……ニジ……》」
「見たこと、ありませんか? 」
「《………ナイ……ズット……ソラト……ジメンダケ……》」
「そう。なら、一緒に、見に行きませんか? 」
「《……イッショ? 》」
「ええ。一緒に」
その手を伸ばすと、ベイラーも応えた。翼がおおきく動き、埃を落とす。サイクルが周り、その姿を変えていく。 翼は折りたたまれ、逆に畳まれた足が伸びていく。だが他のアーリィと違い、それ以上の変化が訪れない。途中で変形が止まってしまったような姿だった。
「は、ははは! そいつは人型になれない出来損ないなのさ! アーリィの失敗作なんだよ! 」
その姿をみてあざ笑う男達。だが、マイヤだけは違っていた。
「腕が無いベイラーを、私は知っています。そのベイラーは、乗り手も、彼女自身も、一度も、腕が無い事を、言い訳にした事がなかった。そのベイラーだけじゃない。みんな、得意な事、自分の出来ることをするのが彼らベイラーです。私達が断じて失敗などと言っていい存在ではありません。」
そして顔の無いベイラーに向けて言った。
「ありがとう。たすけてくれて」
ベイラーが動き出す。翼を広げ、炎が徐々に上がる。サイクルとは別の甲高い音が、この狭い空間に充満する。ゆっくりとマイヤの元に近づいていく。
「貴方、お名前はあるの? 」
「《ナマエーージュウニバンーーソウヨバレテターーソレハーーナマエ? 》」
「……それは順番の話。名前じゃないの……もし、よかったら。」
マイヤが、ベイラーに番号をつけるここの人間に心の中で悪態をつきながら、彼に、新たな名前をつける。青黒く、灰色で、しかし優しい彼につけるのであればと考える
「夜空。夜の空の事。如何でしょうか 」
「《ーーヨゾラ……ヨゾラ》」
その瞬間だった。ヨゾラと名付けられたベイラーが、サイクルを回していく。だが、体を動かす為ではない。削れた体を、投げつけられた武器を払うべく、その体を新たにする。そして、ヨゾラは、その給餌服の女性に名前を聞く。
「《……ナマエ》」
「私はマイヤ。……今更だけれど、私が、乗り手になっていいかしら? 」
「《ーーーーイッショガイイ》」
「わかった……ええと。コクピットは? 」
「《マッテテ》」
ゆっくりと翼を傾ける。そして坂のようにすると、胴体にあたる部分を見せた。露出している部分こそ小さいが、たしかにベイラーのコクピットがそこにある。マイヤがそれに気がつくと、眼鏡を拾い上げながら駆け上がり、滑り込む。すんなりとヨゾラの中に入り込み、操縦桿をみる。
「(共有する為の操縦桿が2つ。でも、姫さまの話と、操縦桿の位置が違う)」
中はベイラーと同じだったが、操縦桿が全く違っていた。足の間に挟むように、真ん中から伸びる一本の操縦桿と、左手の位置にある操縦桿。マイヤの知識には、ベイラーの操縦桿は両脇にある物であり、ヨゾラの物は何から何まで違っていた。
「でも、これが貴方なら、そう言う事なのでしょうね……さて」
意を決して、操縦桿を握る。マイヤにとって始めての感覚の共有が始まる。同時に、視界がブレはじめ、焦点が合わなくなる。ベイラー側からの、視界の共有も同時に行われている。
「こ、これが共有……め、目が回る……」
「《ーーセンヲミテ》」
「せ、線? 」
マイヤが目を凝らすと、コクピットの内側に、意図的に傷つけられた部分がある。それは縦に1本と、横に5本走ったもので、目盛りにも見えた。それをマイヤが凝視すると突如、視界がきっちり2つある事に違和感がなくなっていく。線を見ているのは自分であり、線を見ていないのはベイラーであると明確に判断が出来るようになる。そうなってはじめて、ブレていた視界がしっかりと固定されていく。
「こ、これは……ええと、ヨゾラ、私の考えている事が分かりますか? 」
「《ーーワカルーーダカラーートベル》」
「と、飛ぶ? ま、まさか」
マイヤの意識の中に、ヨゾラの飛び方が流れ込んでいく。それは自身ではたった一度も想像したことのなかった。空への向かい方。中央にある操縦桿を握りしめると、ゆっくりとヨゾラに付いているサイクルジェットが吹き上がる。
「《ーーイコウ》」
「え、ええ! いいですともッツ! 」
カリンであれば狼狽えない。ミーンであれば言い訳しない。そう納得させるも、握り込んだ瞬間の、生まれて初めて感じた加速度に舌を噛みそうになる。一瞬で空に飛び上がり、男達を置き去りにしていく。道中私兵を吹き飛ばしながら、狭い通路を飛び出して、マイヤは島の上空にまで行ってしまう。
「こ、これが、サイクルジェット……これが空……」
こみ上げる吐き気を抑えながら、初めてみる上空からの景色を目に焼き付けるマイヤ。すでに夕刻に差し掛からんとしているこの海は、太陽と月が同時に見えていた。茜色の空と、自分が名付けた、夜空が同居した風景だった。
「これが、貴方の好きな景色? 」
「《ーーチガウーーデモーーコレモーースキ》」
夜空が、ゆっくりと空を漂う。サイクルジェットを出来るだけ絞り、落ちるか落ちないかの瀬戸際で対空させえている。あまりの光景に言葉をなくし、しばしその空中散歩に見惚れている。だが、マイヤにはまだやる事があった。
「ヨゾラ。また島に戻りましょう」
「《ドウシテ? 》」
「あそこに、まだ大切な仲間がいます……貴方の仲間でもあります」
「《イッショガ、イッパイ? 》」
「はい。一杯です」
「ジャァーーイコウ。マイヤ」
「ええ。いくわよヨゾラ」
低速の状態から、反転して島へと向かっていく。上空から見て分かった事であったが、この島の中央には吹き抜けがあり。その中から侵入出来る。
「あそこから行ける……ヨゾラ? 怖いの? 」
「《コワイベイラーガアラワレルーーソレデモイイノ? 》」
「ええ。良いわよ。姫さまが助けられるなら 」
「《ーーワカッタ》」
会話がそれで途切れる。ゆっくりと操縦桿を動かし、脱出したばかりの島へ向けて進路を取った。
「(……怖いベイラーが現れる? )」
ヨゾラの言っていた事が胸につっかかりながら、初めての飛行をおっかなびっくりこなすマイヤ。そして同時刻。すでにパームとコウが激突していた。
◆
「《(な、なんだ? 本当に同じパームなのか)》」
何度目かの斬り合いが終わり、お互いに構えを取る。白いベイラー、コウがカリンと共に紫色のベイラーと対峙していた。その乗り手はパームであることは、声ですでに分かっている。
「コウ。感じて? 」
「《ああ。なんか、変だ》」
コウもカリンも、パームに対して怒りを覚えていると同時に、彼に容赦などしている暇はないとも分かっている。だと言うのに、目の前にいるパームは、今までの戦いで見た彼とはまるで違っていた。こちらの斬り合いに応じ、上からの一撃をいなし、二刀流で追いすがる。こちらも返す刀で防ぎきり、コウの胆力で強引に吹き飛ばす。そんな、力と技の繰り出し合いをしている。さらには、レイダのサイクルショット、セスのサイクルブーメランによる援護もある。だが、コウを相手にしながらそれを悉く防いでいる。同時にそれは、パーム自身の余裕を感じさせた。
「……手を抜かれている? 」
「《俺たちは、手を抜いて勝てる相手だって思われてるのか》」
「そうじゃない。そうじゃないと思うのだけど」
カリンも、コウも、このパームに恐怖でも怖気でもなく、気味の悪さを感じていた。
「油断できない相手よ……コウ! 右から何か! 」
「《増援か! 》」
サイクルショットでやってくる敵を迎撃する。その迎撃の為に発射したサイクルショットは、相手が放ったサイクルショットで打ち消される。射線とタイミングが完全に合わなければ起きない現象に、恐ろしい技能を持った相手だと理解できた。
「おまたせしましたぁ! でも本当にいいんですかぁこれつかってぇ? 」
「問題ねぇ。むしろ、おまえはぶっつけ本番でよくうごかせるな」
「あれ? 動かせないんですか? 」
「……しばらく喋るな」
そして、やってきた紫色のベイラーの後ろから、さらに4人のベイラーがやってくる。パームと同じアドモントの名を持つケーシィが、アーリィベイラーをつれてやってきた。
「《アジトと同じか。芸がないな》」
「《でも今度は、空とぶ紫のやつが2人です。気が抜けませんね》」
セスが相手を煽りながらも、サイクルショットを撃ち落とされた事に驚愕を隠せないレイダを、オルレイトが落ち着かせる。
「だが奴らもこの狭い場所では飛べないんだろう。いけるねセス」
「《もちろんだ》」
「レイダ。こっちは後からきたザンアーリィベイラーを叩くぞ。パームとの決着を邪魔させたくない」
「《仰せのままに》」
「リク! リオ達は他のベイラーをドッカンドッカンするよ! 」
「リク、クオ達で守ってあげるからね!いくよ! 」
「《ーーーーッ!! 》」
レイダ、サマナ、リクが乗り手の応えて構える
「《相棒。両腕で6発ずつまでいけるからな》」
「……そん時は頼むよ」
ガインがその拳を握りしめる。全員の戦意は高まりに高まっていた。しかし、その中でもただ1人、その心中を憎しみと怒りで燃やしながら、誰よりも機会を伺う男が1人。
「(乱戦にもつれこんだ……これで前提条件は出来た。あとは当てるだけだ)」
パームが、ザンアーリィに着いた武器を眺めてほくそ笑む。
「(必ず……必ず当ててやる)」
誰よりもドス黒い決意がそこにあった。




