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ベイラーの救出

全員集合

「まだ人が争い続けてたころ、島を根城にしてた連中がいてね」


  海賊船レイミール号。急遽出航した赤い船は、波に揺られながら、凄まじい勢いで海を渡っている。甲板の上で、シロロは行く先を示しながら、ほんの少し前の話を続けていた。


「そんな争いが終わった後、そこにいた人は故郷に帰って、シロロは武器だけ持って行ってたんだけど、それも海に有るのはほとんど持って帰っちゃったから、最近見てなかったの。でも、この前見た空を飛ぶベイラーが、なんでかその島に帰って行くのを見たの。そしたらそしたら! 懐かしいあの島が様変わりしちゃってて!! もうすっごいんだよ! いろんな船がいろんな物を運んできてて!! 」


  シラヴァーズである彼女は、自分のヒレをパタパタさせながら興奮気味に話す。その話を聴きながら、龍石旅団の面々が行く先を見つめる。その中で唯一、オルレイトが訝しげな顔をしていた。


「島にパームがいるのはわかった。でも色々な船が物を運ぶって言うのは、どうしてだ……」

「協力者、だろうね」


  包帯を巻いたままのネイラが付け足す。後ろからはマイヤが慌てて追いかけて来ていた。手には薬と、新しい包帯がある。


「お医者さまなのに自分の治療でじっとしないとはどう言う事ですか」

「まだ包帯は新しくしなくていいっていってるのに」

「貴方が一番早く治って貰わねば困るのです」

「なら、今度包帯の巻き方を教えてあげる。実はもうちょっときつくても大丈夫なの」

「わ、分かっていてずっと私の治療を! 」

「言い出すのは野暮かなぁって」


  むくれるマイヤを片手で軽々といなしながら、オルレイトの疑問に答えるネイラ。側でカリンも耳を傾けている。


「パームはどこからあんなベイラーを手に入れたのか。乗り手だって唯待っていれば降ってくるような物じゃない。どこかしらのツテがあると思っていいだろうね」

「それだけじゃないわ」


 カリンが考えるのは、初めてパーム達と会敵した時のこと。


「パームがまだ盗賊団と名乗っていた頃、盗賊の彼らには持ち得ないような、強力な毒を持ってたの。傷口から入れば、直ぐに体が痺れてうごけなくなってしまうような物よ。それに、パームの周りにはお金がかかり過ぎているわ」

「《……かかり過ぎてる? 》」


  カリンが声に気が付いて見上げる。そこには、自分のベイラーが首を傾げながらこちらを見下げていた。心底分からないといったようにコウが疑問を口にする。通常、ベイラーは船の上に出る事はできない。甲板の上で動かれたら最後、甲板を踏み抜いてしまう可能性があるからだ。しかし、諸事情により、コウは中に入る事ができず、緊急処置として、動かないことを条件に甲板に上がってきていた。


「《たしかに、空を飛ぶ為の油だったりなんだりは色々かかりそうだけど、そこまでかな? 》」

「コウ。貴方、私達がサーラに来る途中に飢えで苦しんだのをお忘れ? 」

「《忘れたわけじゃないけど、それがどうして今の話に……そ、そうか!! 》」

「ええ。パーム達は特に痩せこけていなかった。むしろ食事に困っていなさそうだったわ。彼らは食料に困っていないのよ……でも、サーラで行われた略奪に、食料は入っていなった。どれもこれも海藻ばかり」

「後ろ盾があるのは間違い無いってことね」

「話しているとこ悪いけど、見えてきたよー! あの島だよー! 」



 シロロが指差す先に、確かに島があった。地平線の先にポツンと存在するその島には、ナットが居るのかどうかは分からない。だが、目のいいカリンが、その島の違和感を突き止める。


「なるほど。ただの無人島では無いのね」

「《カリンってたまに恐ろしいくらい目が良いよね。何が見えたの? 》」

「港。船が止められるように浮きもある……人の手が入ってるのは明らかね」

「《……なら、間違いないか……ってミーン!! 》」


  コウの静止も虚しく、ミーンが海賊船から飛び出し、一足先に島に向かっていった。一瞬海に沈んでいくと、すぐさま姿勢が直り、ドルフィンキックであっという間に離れていく。その速さは、乗り手のいないベイラーとは思えないほど早い。


「アハ! あの子泳ぐの早いねぇ! 」

「《無茶だっていっても聞かないか》」

「仕方ないわよ。ねぇシロロさん。あの子を追いかけてくださる? 」

「はーいよ! あの子面白いから追いかけてあげる! じゃねー」


  シロロも同じように甲板から飛び込み後を追う。彼女もまたシラヴァーズであり、その泳ぎの巧みさは人間の比ではない。ミーンに追いつくのは時間の問題だった。


「さて……ありがとうございます。キャプテンターム」

「ッハ! お礼なんかいいんだよ! せっかくサマナが頭下げたんだ。そっちに言ってやりな。それにね」

「そ、そのことは良いって」


  そして、この船に普段乗っていない者が同行していた。レイミール海賊団のターム。両目の見えない老婆であるが、その気迫は海賊の中で随一であった。同じ海賊のサマナに体を支えられながら座り込み、目線を彷徨わせつつ、カリンの言葉にしっかりと答える。


「あいつもここに来たいってうるさいんだ。久しぶりだよ。ワガママめいた事をあいつが言ったのは」


  視線が下に移る。レイミール海賊船の後方部。そこはベイラーを乗せる事の出来る格納庫であり、コウを含むベイラーが全員所狭しと並んでいる。その中に、あの海賊のアジトで座り込んでいたベイラーが居る。コウがいないのは、彼の分格納庫が開いていないからだ。


「あの島に、何かがあるんだとさ」

「……何か、ですか」

 

  海賊のベイラーが気にするほどの物。パームの後ろ盾の正体。その全てが、あの島にある事は明白だった。ナットが帰ってくる期待と、冬からずっと纏わりつくパームとの因縁、その決着を予感しつつ、カリンは全員に指示を出す。


「龍石旅団!これよりナットを救い出します! 全員! 抜かりなく!! 」


  同時に、サマナが海賊団に檄を飛ばす。


「野郎ども! あたしたちに泥を塗った連中をぶっ飛ばしにいくぞ! 準備はいいか!! 」


  海賊団と、旅団の全員が、生まれも性別も違う彼ら彼女らが一様に答える。


「「「「「「応とも!!」」」」」」」


 ナットが助けを呼ぶ事に気がつく、ほんの少し前の出来事だった。


 ◆


「《ナット。ここは一体なんなの? 》」

「ベイラーの栽培場だよ。あの空とぶベイラーはここで作られてたんだ」


  男たちの怒号を聞き流しながら、ナットがミーンの中でこの島の事を伝える。乗り込んですぐに、島の中に舞い戻っていた。逃げ出そうとしないのにはいくつかの理由がある。


「《ベイラーの、栽培場? 僕らソウジュから出来るんだよ? ここにはソウジュなんて……》」

「あれが、ソウジュだよミーン」


  頑強な扉と蹴り飛ばし、ミーンがその場所にたどり着く。薄暗がりの中でもはっきりわかる白い茎に白い葉。大きさこそ違えど、ゲレーンでは見慣れたその姿。それが何本も並んでいる光景にミーンが驚嘆する。


「《こ、これが全部、ソウジュ!? 》」

「……パーム達のベイラーはみんなここで栽培されてたんだ」

「《僕ら、栽培できたの!? 》」


  心底驚いき、のけぞりそうになる。栽培と言う言葉で思い描くのは、故郷ゲレーンでのキノコと呼ばれたベイラーのこと。彼は頭にキノコを生やしていた。頭だけではなく、体のそこかしこにキノコが生え、一部を人に分けていたベイラーであった。自分たちはゲレーンの種であり、同じような事ができることは理解できるが、それがこのような島の中で、小さく、それも大量に作られるとはミーンは考えていなかった。


「《 はえぇ……人にとっては便利かもしれないけど、これは、なんか、なんか違うなぁ……》」

「違うんだ。違うんだミーン……あのベイラーを作るために、あいつらは」


  考えが共有される一瞬前。反対方向から怒号が聞こえてきた。男達が何やら武器をもって駆けつけてくる。刃はなく、細い筒状の武器であった。武器であるのは、その筒状の物を一直線にミーン向けている事でかろうじて分かる。しかし、どんな武器なのかは定かではなかった。


「居たぞー!! 」

「《……ナット。もしかしてあの人達だいぶ、その、頭が悪い? 》」


  ミーンの所見は当然の物で、そもそもベイラーと人では大きさも違ければ力も違う。こうして真っ向から合間見えて戦えるほど、ベイラーは貧弱ではない。しかし、その明らかに勝算を得て戦いに望んでいる兵達をみて、ナットはミーンの踵を返した。


「《ナット!? なんで逃げるの!? 》」

「わからない! でも、なんかあの筒は危ない気がする」

「《筒がどうしたって》」


  直後。ミーンが居た場所に、男達が打ち出した液体が降り注いだ。粘着性なのか、近くにあった小石が一瞬で白い液体に吸い付いていく。用途もその効果も、明らかに捕縛用の武器であった。一回の攻撃はさほどではないが、連射されれば、ベイラーの身動きは取れなくなてしまいそうな威力を持っていた。


「《な、なんだあれぇ! 》」

「いいから走ろう!あれに当たったら二度と逃げられなくなる」


  宣言通り、ミーンがこの狭い島の中を疾走していく。拘束用の水鉄砲と言うべきその武器は、1発撃つのに時間がかかるようで、そこまでおびただしい数の射撃がされる訳ではなかった。しかし、岩場の影から、ハシゴの上からと、いたるところから私兵が飛び出し、肩に担いだ筒からあの液体が飛び出てくる度にナットの心臓が縮み上がる。


「こいつらぁ! ミーンまで捕まえようって言うのか! そうはいくかぁ!! 」


  この島の秘密を知るナットにとって、この島でベイラーが捕まると言う事がどう言う意味を持つのかを知ってしまったナットにとって、一つのミスも許されない逃亡劇であった。そしてその逃亡の最中に、ついにナットの思考がミーンに知れ渡り、ミーンもまた、この島の事を知る。


「《あのアーリィベイラーって、そんな奴らだったの!? 》」

「だからまだまだこの島にいる! あのベイラーを使って、何か、何かをするはずなんだ」


  ナットがミーンに説明を終える前に、今度は正面に、その噂のベイラーが立ちはだかった。青黒い体に、どくどくしい蛍光色の緑をしたコクピット。狭い通路の中で、島の騒ぎを聞きつけたのか、私兵がアーリィベイラーに乗り込んでいた。その手には、短くも鋭いナイフが握られている。ミーンの後方には追手が迫り、前方にはアーリィベイラーが居る。引き返すにしろ突破するにしろ、捕まるリスクがどちらにもある。ある種の覚悟が必要だった。だが、以前のナットであれば悩んで決めていたであろうこの局面を、今度は即決してみせる。その事はミーンを大いに驚かせた。


「突破する! 後に戻ったらあのアーリィベイラーに追いつかれる! 僕は空に上がれない! 」

「《……短い間だったのに、変わったねナット》」

「えっと、それは褒めてる? 」

「《うん。かっこよくなったよ》」


  そして、真っ向からアーリィと対決する姿勢をとった。一瞬体を低くしたと思えば、ミーンが3歩で最高速度に達し、相手のアーリィが反応できずにいる。空色のベイラーが洞窟内で風を起こす。


「サイクルキックだぁ! 」

「《だぁあああああ!》」


  赤い目になりながら、ミーンとナットの意思が重なっていく。そして、一瞬だけ片足を軸に跳躍し、全体重をかけた飛び蹴りをアーリィへとかましてみせる。ベイラーの全重量が掛かった飛び蹴りを避けるには、この島の通路は狭すぎた。結果、アーリィベイラーは後方へと盛大に吹き飛んでいく。そのまま壁に激突し、動かなくなる。中にいた乗り手が衝撃で気絶したと考えるのが妥当だった。


「《や、やった! 僕らがアーリィベイラーを倒したよ! やったよナット! 》」


  ミーンが手放しで喜んでいる中で、ナットの思考は冷めきっていた。


「だから言ったろ! ここにはあのベイラーがあと何人もいるんだ! 気を緩ませたらダメだ」

「《ご、ごめんよ……でも、どうするの? 早く船に戻らなくて良いの? 》」

「その前に確かめたいことがある」


  アーリィベイラーを素通りしながらミーンは走る。同時に、ナットが思考を伝え始める。


「まだここにも捕まってるベイラーが良いるかもしれない。ギリギリまでこの島を探し回って、そのあとでここを出るんだ」

「《……そんなに、酷いんだ》」

「酷いなんて物じゃなかった……優しいベイラーだったのに……そんなベイラーに、奴らは平気で火を付ける。ここはベイラーが長居をしたらいけない場所なんだ」

「《……分かった。僕も手伝う……あと、一個だけいいかな? 》」

「どうしたの? 」

「そのベイラーが集まっているのって、あそこかもしれない」


  ミーンが視線だけを泳がせて、その場所を示す。道こそ途中で途切れているが、その先を指している。


「この先にベイラーが? 」

「《その、わからないけど、そんな気がする》」

「わからない? 」

「《ずっと、声が聞こえるんだ。小さいけど、たしかに言ってる。でも変なのは混じってるんだ》」

「声? 混じってる? なんて? 」

「《えっと、一個は、タスケテ。もう一個は……きちゃダメ》」

 

  その言葉の意味する所が、ミーンには分かっていない。しかし、ナットには痛いほど理解できた。その言葉は、つい先日目の前で繰り広げられた光景であり、その景色の中で聞いた言葉そのままであった。


「行こう! きっとそこにベイラーがいる! 」


  意を決して走り出す。障害物を難なく乗り越え、崖を飛び越え、人を避けて、グングングングン進んで行く。しばらくすると、島の内部の様子が様変わりしてきた。今まで岩肌がむき出しだった場所が、徐々に人の手で綺麗に整えられている。足場も丸太を組んだものではなく、正確に組まれた石細工だった。


「……なんだか、いやな感じだけど、ミーンは大丈夫? 」

「《君が行きたい場所なら、僕は行く》」

「ありがとうミーン……って右だ! 」


  とっさにミーンを跳躍させる。そのおかげで、別のベイラーが繰り出す攻撃をかわす事に成功する。再び、アーリィベイラーが道を阻んでいる。今度は不意打ちをしかけてきた。それも、今度は3人のベイラーが陣取っている。


「《ほ、本当に何人もいる!! アジトにだって何人も来たのに! 》」

「戦うだけ無駄だ! 今度は引き返して別の道を」


  振り返ると、今度はあの捕獲用水鉄砲を持った一団が現れている。それも上から下からと出所がわからない。統率が取れておらず、ここで彼らが会ったのは偶然であるが、ミーンとナットにとって窮地以外の何物でもなかった。


  しかし、今のナットには仲間が居る。


「《ミーン! 伏せなさい!》」

「《ッツ!! 》」


 腕のないミーンが、うつ伏せになるように一瞬地面に伏せる。同時に、襲いかかってきたベイラーたち、その両足に、2発づつ針が打ち込まれる。それも、同じ場所、同じ角度で、同じ威力で打ち込まれ、最後の1発が打ち込まれた瞬間、3人のアーリィベイラーは両足を砕かれ、その場で転げてしまう。その威力と連射力を持った攻撃をするベイラーを、ナットは1人しか知らなかった。


「レイダ!! オルレイト!! 」

「《どうやらナットに会えたようで。良かったですねミーン》」

「呼び捨てなのはこの際どうでもいい。でも今度はせめて御礼の一言は欲しいものだね」


  両腕でサイクルショットを構えるレイダ。赤目になっていたのが徐々に収まっていく。そのレイダに向け、今度は私兵達が捕縛せんと筒を向ける。しかし、狙いを定めたその瞬間。地面が大きく揺れた。


「そーれ!! 」

「ほーれ!! 」

「《ーー!!》」


  4本の腕を力一杯地面に叩きつける大柄なベイラー。リクが、声にならない声をあげて拳を振るう。単純な力で揺らされた大地はいとも簡単に兵達を揺らがせる。間髪いれずに、上から、編み込まれたネットが放られる。


「《殴る蹴るだけが能じゃないんでね》」

「あとで聞きたいことが山ほどあるからねぇ……まぁ割と鍛えてあるみたいね」


  まだ傷の残るガインが、サイクルネットで兵達を逆に捕縛してみせた。ネイラが品定めでもするように兵達をみる。


「ただの用心棒にしては、持ってる物が良いもの過ぎる。これは相当おおきい後ろ盾があるみたいね」

「ネイラ、ガインはもう大丈夫なの? 」

「《心配するなナット。この体で戦いは難しいが、そもそも手先の扱いなら俺は得意なんだぜ?》」


  ビロビロと伸びるサイクルネットを作り出してみせるガイン。彼は彼の出来る事をやっていた。


「《っと、まだ出てくるか》」

 

  和気藹々としている暇もなく、奥から再びベイラーが現れる。その数3。しかも1人は紫色をした、あのザンアーリィベイラーだった。


「あれ! パームの乗っていたやつか! まだ居たなんて」

「違うんだオルレイト! あれもここでは沢山作られてる! 」

「作られてる、だってぇ? 」


  すでにミーンにもした問答を繰り返そうとしたとき、アーリィベイラー達がこの洞窟の中にも関わらず、その姿を変え、空を飛ぶように疾走してくる。単純な突撃を意図しているのは明白だった。ベイラーの全体重を乗せた攻撃がどれほど有効であるかは、ミーンが実践したばかりである。


しかし、ガインを、レイダを、ミーンを超え、その背後から飛び出してくるベイラーがさらに二人。


「《サイクルブレード!! 》」

「《サイクルブーメラン!! 》」


 両脇にいるアーリィベイラーを一人ずつ、その生み出した武器で文字通り叩き落としてみせる。そして、返す刀でザンアーリィベイラーの羽を綺麗に切り落とした。羽を失い、突如として制空できなくなったザンアーリィは無様に壁に激突し、のめり込んで動けなくなる。一瞬で3人のベイラーを退かせた、赤いベイラーと白いベイラー。その中から乗り手がそれぞれ顔を出した。そして白いベイラー、コウから顔を出した乗り手が一言挨拶を交わす。


「ナット。お元気? 」

「……は、はい! 姫さま! 」

「あたしも居るんだけどなぁ」

「海賊の! でも、みんな揃って、どうしてここに? 」


  ナットの言葉に、皆一様に不思議そうな顔で返す。それは、自身もよく分かっていない、困惑した顔だった。音頭をとるように、ガインが答え始める。


「《最初は、この島でナットを探すだけだったんだ。でも、さっきから変な声が聞こえてくるってコウがうるさくってよ……いや、たしかに俺達にも聞こえているんだがな》」

「《それって……》」


  タスケテ。きちゃダメ。


  その言葉を追って。龍石旅団の面々は一堂に会していた。


  「《この先に、何かがあるのは確かなんだろう? 》」


  コウは、怖気もせずに歩みを進める。


「《この先に、パームが今まで戦ってこれた理由があるのか、それとも別の何かが有るのかはわからない。でも、これだけは、はっきり分かるんだ》」


  皆を見渡し、確信を持って答えた。


「《この先で誰かが助けを求めてる。そしてそれを無視したら、俺は後悔する。そんな気がするんだ》」


  その言葉に、無言で頷く龍石旅団の面々。そして、コウを先頭に、さらに歩みを進めていくと。明らかにこの島の、自然由来のものではない、別の構造物が見えてくる。それは、石で積み重なった枠に、巨大な鉄で出来た扉。ベイラー以上の大きさを持つその扉には、大きな取っ手も、小さな取っ手もある。一応はベイラーでも人間でも開けられるようになっているが、鉄の総量を見るに、どう考えても重さがそれを許さない


「リオ。クオ。頼めて?」

「お任せあれあれー」

「あれれれのれー」


  リクが、4本の腕を押し付け、踏ん張りを効かせる。数秒後、少しずつ、その扉が開いていく。力自慢のリクでなければ、この扉を開けるのは困難であった。同時に、少しづつ開いていく扉を前にして、コウの胸の内はざわめいていた。


「《(この先に、だれかが助けを求めている。それは分かる)》」


  先程から、ずっと耳の奥で囁かれているように入ってくる2つの言葉。


「《でも、なんでだ。なんでこの扉の先に、嫌な予感しかしていないのは、一体何でだ》」

「コウも、なの? 」

「《……()() ()俺のが伝わった訳じゃないのか? 》」


  操縦桿を握るカリンが、その胸の内を明かす。


「違うのよ。この先に、何か良くない物が居るような……現れるような。そんな気がしてならないの」

「《現れる……ああそうだ。俺もそう思う。でも、自分で言っていて変なんだ。現れるって、どう言う事なんだろう》」


  疑念は尽きない。だが、開け放たれた扉の先で待っていたのは、ある種の予想通りの相手。


「コウ! 」

「《分かってる! 》」

「「《サイクルブレード!! 》」」


  扉が開いたまさにその瞬間。コウめがけて一直線に突撃してくる紫色のベイラー。その顔には表情もなく、コクピットは毒々しい翡翠色。いつもと違うのは、彼は今、笑っていなかった。


「もうてめぇに会うのはうんざりなんだよ……ここで居なくなれよ。なぁ!! 」

「パーム、アドモント!! 」


 両者の剣戟は均衡しつつも、お互いがお互いを弾き合って、距離をとった。ザンアーリィは二刀流の鉈を手に、コウは肩に一本のブレードを構える。


  何時ものように。そう。何時ものように構える。その事に、コウは違和感を感じていた。


「《(パームに会うから胸騒ぎしていたのか? 本当に? あの胸騒ぎは、もっと違う種類の……)》」


  思案するより先に、パームが動く。一切の容赦のない剣の乱撃。そのどれもが一撃必殺の威力を持つ。


「コウ! 今は集中なさい! 雑念を持ったまま勝てると思って!? 」

「《わ、わかってる! 》」

 

  すぐさま、頭を切り替える。そして、一瞬の懸念を彼方へと追いやった。


 ◆


  彼らがいる場所に、ひとりほくそ笑む男が1人。


「あれが白いベイラーか……だが来るのが早すぎた。計画には不要だ。ここでパーム君に仕留められるといい……彼も面白い事を考える。何かを奪う事に関してあそこまで貪欲になれる男などそうそういまい。」


  鉄仮面の男が、品定めをするように眺めていた。その視線には期待もなければ、哀れみもない。ただ、鉄仮面の男にとって、コウに用はなくなったと言わんばかりの目であった。


「『強奪の指』……まぁ玩具としては上等だろう」


バンバン動く物語。次週もっと動きます。

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