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★第6話 あそびかた

 ぺちぺち。


「ミリア。他のことして遊ぼうよ?」

「ん……。もう少し」


 うちの妹は少し変わっている。

 6歳にして魔法を覚えて、その時から夢中になって勉強して、魔法の事を毎日考えているような子だ。


 そんな妹が今、泥団子を作って遊んでいる。

 もっと女の子らしい遊びをして欲しかったんだけど、ミリアにとってはこれが楽しいらしい。


「できた!」


 まんまるでテカテカしてる泥団子がミリアの手に握られていた。

 それを眺めている妹の目は、心なしか輝いているように見える。


「上手に出来たね」

「えへへー。そうでしょー」


 褒められた事に照れて、はにかむ妹。

 うん。かわいい。手は泥だらけだけど。


 そのあとも妹を見守っていると、次々と泥団子を作っていった。

 最後にはそれを積み重ねて、よく分からないものが完成していた。


「そろそろ手を洗おうか?」

「ん? 分かった」

「それじゃ、一度戻ろうね」

「兄さん。魔法で洗っちゃダメ?」


 もじもじしながら可愛く尋ねるミリア。

 前におこなった家族会議で、妹には好き勝手に魔法を使う事を禁止していた。

 なので妹が魔法を使うときは、訓練の時か、お父さんやジホリさんの監視のもとでのみ。もしくは例外として、僕か、お母さんが許可した時にしか使わないことになっている。


 妹が魔法が好きで好きでしょうがない事は知っているし、魔法を禁止された時には、目から光が無くなって虚ろになっていた時期も知っている。


 妹の魔法に対するのめり込み具合は、控えめに言っても異常だけど、それでも可愛い妹にお願いされたら許可するしかない。


「いいよ。でも、手を洗うだけだからね?」

「やった! ありがとう!」


 花が咲いたような満開の笑みで喜んでいた。

 この笑顔を見る為ならなんでも許してしまいそうになる。


 妹が両手の平を向き合せて構えると、少し口をとがらせて唸り始めた。

 集中する姿を見守っていると、妹が魔法を唱える。


「水よ。ウォーターボール」


 手の平から小さな水の球が出現した。

 それが徐々に大きくなりはじめる。


「兄さん、手を出して」

「分かったよ」


 言われた通りに手を出すと、僕と妹の手に向かって、水の球がぶつかる。

 確かに水で綺麗にはなったけど、ミリアの手はまだ泥で汚れてる。

 少しは洗い流せているけど、水の球が小さくて全部は洗えなかったみたいだ。


「水よ。ウォーターボール」


 もう一度ミリアが唱えると、今度こそ、泥のついていた手が綺麗になった。


「うぅー。綺麗になったけど、手がびしゃびしゃ……」

「そうだね。ほら、拭く物貸してあげるから」


 ポケットに入っていた小さな布を妹に渡してあげた。


「兄さん。次はなにして遊ぶの?」

「町の中でも散歩しようか?」

「楽しい?」

「色々な物があって楽しいよ」

「なら行く!」


 一旦家に戻ってから、メイドのジホリさんに、少し出かけてくると言った。

 すると、ジホリさんも一緒に付いて行くことになって、家の外に出る。


「オリス様。護身用にコレをお持ち下さい」

「あぁ、そうだね。ありがとうジホリさん」


 僕はジホリさんから小さな剣を受け取って腰に吊るした。

 見ればジホリさんも、腰に剣を吊るして武装している。

 いくら自分達が住んでいる町といっても、危険な時もある。それなので、町の中でも剣を持っているのは普通だ。

 昔はそんなこと知らなかったけど、お父さんからそう教えられた。


「ミリアは?」


 妹が首をこてんと傾けて質問する。

 妹も羽流剣術の練習はしているけど、刃物を持ち歩くにはまだ早いような気がする。


「ミリア様はまだ刃物を持つには早いですが……。これは私の物です、危険な時以外、絶対に抜かないように。いいですね?」

「うん。分かった」


 ジホリさんが、ミリアに短剣を渡していた。

 まぁ、もしもの時は、僕もジホリさんも居るし、ミリアが刃物を抜く機会はないから大丈夫か。

 僕は妹の手を取って屋敷を出た。後ろにはジホリさんが付いて来ている。


 屋敷を出てすぐに、町の商店街にやって来た。

 ここは色々な物が揃う場所で、よく僕自身も買い物に来ている。


「いつきても賑やかだねー?」

「そうだねー。皆が買い物に来てるからね」


 妹は滅多に屋敷から出ない。

 出たとしても、魔法の練習や剣術の練習をする時ばっかり。

 たぶん、商店街に来た回数も数えられる程しかないと思う。

 出来ればミリアには、町の子供とも仲良くなってくれるといいんだけどな。

 僕は来年になれば軍学校に入るから、もう妹とは遊べなくなってしまうし……。


 まだ先の話と思いながらも、色々な店を観て2人で楽しんだ。

 後ろにはジホリさんも居るけど、護衛だけで会話に入ってはこなかった。

 商店街を歩く途中で、1つの小さなお店が目に入る。


「ミリア。今度はあそこに入ってみようか?」

「オリス兄さん、あそこはなんのお店なの?」

「あれはね。本屋さんだよ」

「本屋さん? 本がいっぱいあるの?」

「そうだね。一杯あるよ」


 年季の入った小さな木製の扉を開くと、店の中は本独特の香りが充満していた。

 嫌いじゃないんだけど、好きでもない、どこか不思議な香り。

 なんとなく妹を見れば、大きな目をぱっちり開いて、本で埋め尽くされている店の中を見渡していた。


「しゅごい。いっぱい本がある!」


 そのまま僕の手を引っ張って、本棚の下から上まで眺めていた。

 妹が1冊の本を手に取ってページを捲る。

 小さい子が読むには少し難しそうだけど、ミリアはじっくりと読み始めていた。


「ミリア、本屋さんでは軽く流し読みするだけね。じっくり読むなら買わないとダメだよ?」

「そうなの?」


 首を傾けてから、本を棚に戻す。

 それからまた本棚をぐるっと見て回って本のタイトルを見ていた。


 僕の方でも武術に関する本を探して、軽く読んでみる。

 どれもこれも簡単な基本だけが書かれていて、特に必要はなさそう。

 お父さんは、羽流剣術も羽流闘術も参段さんだんの実力者だから、お父さんに聞いた方が分かりやすいし、詳しく説明してくれる。


 本を戻して、視線を下に向けると、またミリアが本をじっくり読んでいた。

 注意しようとすると、ミリアが上目遣いに僕を見上げた。


「兄さん。私、これ欲しい」


 そう言って両手で差し出された本には【偉大なる大賢者の軌跡】と書かれていた。


 大賢者。

 確か、滅んでしまった古代黄金族ハイエルフと一部の魔族しか使えなかった魔法という奇跡を、全ての種族にも使えるように、魔法を簡略化して、さらに魔法を広めた歴史上の偉大な人物。


 遥か昔の時代の話で、さらに偉業の数も大きさも通常では考えられない程なので、実際に実在していたのかも、たまに議論になっている。


 議論が始まる度に、魔法使いの人達が顔を真っ赤にしながら『実在する偉大な人物だ』と、毎回主張していけど、本当のところはどうなんだろう……?


 魔法使いにとっては、知らない人が居ない程、有名な人の話。

 可愛い妹に買ってあげたいけど、本はとっても高い。この値段なら僕の貯金しているお金が殆ど無くなってしまう。


「うぅ~ん……。お父さんとお母さんに相談してからかな?」

「……うん。分かった。相談してみる」


 しゅんとしながらミリアが本を棚に戻した。


 っう。妹の可愛い顔が……。

 これはこれで可愛いけど、そんな表情をされると心が痛む。


「よし。ミリア、買ってあげる!」

「ほ、ほんと!?」

「オリス様。いけませんよ、ご両親に相談して下さい」

「いや、僕のお金で買うんだからいいよ」


 それを聞いたジホリさんが呆れた表情になった。


「ミリア。あとでお金持ってくるから、本を買うのは明日にしようね?」

「うん! ありがとうオリス兄さん!」


 すごく嬉しそうに、にこにこと満面の笑みになるミリア。

 僕は妹のこの表情が見れただけで十分に嬉しかった。



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