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☆第16話 ゆきはあったかくてさむいの


 新の月(1月)も終盤に入った今日。

 私の住むナルボルクの町では、今年初めての雪が降っていた。


「ゆ! ゆゆ! っゆきだぁーー!」


 大陸内で比較的暖かい地域に位置しているバストニア王国では雪は珍しくはない。

 ただ、降ったとしても雪が積もることは滅多に無いことだった。


 それが今日、お屋敷の庭に雪が積もっていた。

 私はそれを見ると、目をッキラッキラさせながら寝間着に寝ぐせのまま外に飛び出して、雪へとダイブした。


「っぐぺ! ちゅ、ちゅべたい!?」


 頭からずっぽり雪にはまった私は、あまりの冷たさに体が震える思いだった。

 むしろ震えてた。そして抜けない……。だれかたすけて。


 あ、雪っておいしいのかな?


 ふと思った疑問を解決するべく、さっそく味見してみる。


「ぺろ。……はむはむ」


 んー……。そんなにおいしいものではないかな?

 でも甘いシロップをかけたら、おいしそう……かな?


 ぺろぺろしながら、どうしたらおいしく食べれるかを考えていると、突然足を掴まれて、そのまま引き抜かれた。


「あ、ジホリ!」

「……『あ、ジホリ!』っじゃありません! なにやってるんですかミリア様!」


 両足を掴まれ、宙ぶらりんになっている私と視線を合わせながら、ジホリさんがなにやら怒っていらっしゃる。


 はて、私なにかしちゃったかな?


「ジホリ。雪っておいしくないね」


 雪を味見した感想をジホリさんに伝えると、彼女は呆れ顔になってから私のことを降ろしてくれた。


「ミリア様、雪は食べるものではありません。それにお腹を壊すこともあるので、雪は食べてはいけませんよ」

「そうなの? でも、まえにジホリが、冒険者の時に雪を食べたって言ってたよ?」


 私はそんな話をジホリさんから聞いていた記憶があった。いや、雪を飲んだだったかな?


「よく覚えてましたね。ですが、あれは飲み水が無かった時の話で、雪を火で溶かして、さらに沸騰させて飲んだ話ですから」


 すこし間違っておぼえてたみたい。

 雪はそのまま食べるとお腹をこわしちゃうんだって。


「それよりもミリア様。寒くありませんか? 寝間着のままですし、寝癖は……いつものことですが、風邪を引いてしまいますよ?」

「え? うん、寒いよ」

「それでしたら、お部屋に戻って着替えてきましょう」

「うん」


 私はジホリさんと手を繋いで、お屋敷の中へと戻ることになった。

 それまでの短い間、辺り一面銀世界となったお庭を見て、私はわくわくが高まっているのを感じていた。


 あぁ、見てるだけでわくわくする!

 よーし。今日は雪でいっぱいあそぶ!


「ジホリ。雪はどうやってあそぶの?」

「雪でですか?」


 ジホリさんが少し考えながら、私の部屋に到着して着替えを用意し始める。

 私はちょこんとベッドに腰かけながらそれを見ていた。


「……そうですね。雪を固めて投げ合う遊びや、雪で形を作る遊びが一般的だと思います」

「いっぱんてき?」

「はい。少し変わったものだと、雪で洞窟を作る『かまくら』というものがありますね」


 雪でどうくつ?


「おいしいの?」

「いえ、食べ物じゃないんですが……。かまくらは雪で出来ているのですが中は暖かく、寒い地方で活動する冒険者がよく作ってますね」


 雪はつめたいのに、あったかいの? なんだか不思議だね?

 雪を固めて投げ合うのは、ジホリと2人だけでも楽しいのかな?

 クロエちゃんも誘えればいいんだけど、今日は遊ぶ約束してないんだよね。


「はい、ミリア様。寝間着を脱いだらこれを着てください」

「ジホリー、着せてー」

「はいはい。ミリア様、自分で出来ることは自分でしませんといけませんよ」

「うん、ジホリだからおねがいしてるの!」


 にこにこしながらそう言うと、ジホリさんは何だかんだで着替えるのを手伝ってくれた。

 もう外で遊ぶと思われたのか、着替えの服は動きやすくて丈夫な素材で出来ていた。


 えへへ。ジホリ、なにもいわなくても外で遊ぶってわかってくれてる。


 そのことが嬉しくて、さらに満面の笑みになりながら2人で外に出る準備を続けた。

 外に出る準備が整ったら、一足先にお屋敷の扉を開けて外へと出た。


「ゆ、雪だぁーー!」


 両手を上げて、そのまま走る。

 そして、まだ誰にも踏まれてない雪の上を走りながら、高く積もった雪の塊へと飛び込んだ。


「はぶー! つべたい! たのしい!」


 っきゃっきゃっきゃっきゃはしゃぎながら、さらに雪に沈んでいくと、再び両足を掴まれて雪の中から脱出できた。


「……またですか」

「たのしいよジホリ!」


 呆れた表情を見せるジホリさんに、満面の笑みを見せる私。

 ゆっくりと地面に下ろしてもらうと、私はさっそく近くの雪を集めて固め始めた。


「っぎゅっぎゅっと」


 小さな雪だるまに、落ちていた小石と枝を刺して完成した。

 腰に手を当てて完成した雪だるまを見詰める。


「むむむ……。もっと大きいのつくる」


 さらに大きな雪の塊をつくってみたけど、なんだかもっと大きいのがつくりたい。

 でもあんまり大きくなると、手で丸めるのも大変だし、どうしよう?


「ジホリ、もっと大きいのつくりたい」

「でしたら、その雪を地面に転がしてみて下さい。もっと大きくなりますよ」

「そうなの? やってみる!」


 その場にしゃがみこんで、コロコロと作っていた雪を転がす。

 真っ白な雪の上を転がるたびに、転がる雪の塊がじょじょに大きくなっていった。


「あ、本当だ」


 なんだろう。転がしてるだけなのに楽しい。


 さらに夢中になって転がしていると、とうとうしゃがまなくても平気なくらいに大きな雪の塊が出来上がった。


「えへへー。大きくなった!」

「そうですね、大きくなりましたね」

「ジホリ! もっと大きくするから、ジホリは頭のぶぶんを作って!」

「え? は、はい」


 ジホリさんの返事を聞く前に、私はもっと大きな雪の塊を作るべく、さらに転がす作業に没頭し始める。


 さらに時間が経って、寒さで出始めた鼻水をすすりながらも必死に丸めていたら、ジホリさんの呆れた声が私の耳に届いた。


「ミリア様。……もう十分です。というか、大きすぎます」

「ずびび。そう? もっと大きくできるよ?」

「もうミリア様の肩近くまでの高さになってますよ」

「うん。重たくなってきた」


 ポケットからハンカチを出して汗を拭いている間、ジホリさんが作った頭のぶぶんを、雪だるまに載せていた。


 あれ? なんか小さくない?


 体が大きくて、頭がとっても小さい。


「ジホリ、頭ちいさいよ?」

「ミリア様のが大きすぎるだけです」


 そうなの? まぁいいか。

 それよりも、手が冷たくなってかんかくがなくなっちゃった。


 手に息をあてながら温める。


 そう言えば、ジホリが雪の中でも暖かいと言っていた『かまくら』も作ってみたいな。


「ジホリ、この子でかまくら作れる?」

「せっかく作った雪だるまで、かまくらを作ってもよろしいんですか?」

「うん、いいよ。どうするの?」

「それでは、もう少し雪の形を整えて、硬くしましょうか」


 2人で一緒に形を整えたり、ぽんぽん叩いてかためると、ジホリさんが道具を使って雪だるまに穴を開け始める。

 私が身をかがめて入れるくらいの穴が出来ると、その中に蝋燭ろうそくを置いた。


「どうぞミリア様。少し狭いので、中にある蝋燭にお気を付けください」

「ジホリは入らないの?」

「えっと……。さすがに入れませんね」

「そう? なら入るね! なんかわくわくする!」


 四つん這いになって中に入り、かまくらの中で膝を抱いて座る。

 中の蝋燭を眺めてから、外で少し寒そうにしているジホリさんを見た。


「この中ほんとうに暖かいね!」

「ええ、喜んでいただけてなによりです」

「えへへ、楽しいね。でも、そろそろお屋敷に戻るね」

「まだこちらにいらしても構いませんよ?」

「ううん。いいの、ジホリが寒そうにしてるから。お屋敷に戻って、お茶にしましょ」

「……はい、ミリア様」


 かまくらから出て、意気揚々とお屋敷に向かう私の後ろを、ジホリさんが嬉しそうに微笑みながら付いて来ていた。



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