☆第9話 へいじょうしんのとっくん
「水よ。ウォーターボール!」
今日も元気よく、私の少し舌足らずな声が響く。
今もがんばって魔法の練習をしている。
魔法の練習というよりかは、平常心を持つ練習といった方が正しいかもしれないけど。
魔法を撃ったら、その都度メイドのジホリさんが持つ銀鏡を覗いてみる。
うん。今日も変わらない表情だ。
「ミリア様。いつも通りに表情が崩れてますよ」
「わ、わかってるよ!」
顔をぺちぺち叩いて引き締める。
どう頑張っても表情がゆるんじゃう……。
1日20回。魔法を撃っていい許可を貰ったけど、その日のうちに5回表情がゆるんじゃうと、罰としてその日はそれ以上撃たせてもらえなくなる。
さらに勝手に魔法を使ったりしたら、5日間も魔法禁止になってしまう。
どうしよう。
もう、今日は表情がゆるむ失敗を3回もやっちゃってる。
が、がんばらないと。
「続きをお願いします」
「うん」
今日は表情がゆるまないようにする平常心の訓練と。魔法の制御を上手くするための練習を一緒にやっている。
制御の練習は、ただの水弾を、いかに綺麗な丸にするかという練習。
これが結構難しくて、なかなか上手くいかない。
平常心の特訓よりは難しくないけどね。
「よーし。もう1回!」
気合を入れ直して集中する。
綺麗な丸が作れるように、表情が崩れないように……。
「水よ。ウォーターボール」
手の平を合わせるように向けて、その中にウォーターボールを創り出す。
えへへー。できたー。
すでに、にまにまと笑顔になっているけど、私は気づいていない。
「まるくなれー、まるくなれー」
念じながら魔力を調節して、デコボコしている水の塊を綺麗な丸にする。
魔法と言うのは不思議なもので、一度魔法を撃って手から離れると、その魔法を制御出来なくなる。
正確には、魔法を撃つ前に念じた通りにしか行動出来ないみたい。
ここらへんの詳しいことは、私には魔法の先生がいないから良く分からないんだけどね。
今やっている、ウォーターボールを丸くする作業は、まだ手から完全に切り離していないから出来るだけ。ちなみに制御に失敗すると爆発する。
この前は、ウォーターボールを盛大に爆発させてジホリさんに怒られた。
全身がびしょびしょになるだけで済んだけど、他の魔法だったらどうなってたんだろう……?
「もう出来たようですね。だんだん早くなってきてますよ」
「えへへー。そうでしょー」
にこにこして答える。
すこーしだけ歪だけど、それでも少し距離を取れば綺麗な丸に見える。
「はい、とっても凄いですよ。でも、表情が緩んでるので、あと1回失敗したら今日は終わりですよ?」
「ぐぬぬぅ」
このままだと、また今日も5回魔法撃つだけで終わっちゃう。
気合を入れて顔を引き締めないと。
ぺちぺち顔を叩いたり、揉み解したりして、キリっとした顔を作る。
ジホリさんが持っている銀鏡を見ると、ちゃんと真面目顔になっていた。
「よーし。がんばる!」
集中して魔法を使う準備をする。
この時も、顔に意識を持っていき、表情を引き締めるように頑張る。
一生懸命、一生懸命、表情を整えてから、魔法を使う。
「水よ。ウォーターボール!」
えへへー。……ッハ!?
ゆっくりと銀鏡を見ると、見事に顔がゆるんでた。
ジホリさんを見ると、無表情で私の顔を観察している。
「……てへ」
愛想笑いで誤魔化してみる。
「失敗ですね」
「しょんな……」
ビシャっと、水の塊も地面に落ちてしまった。
下半身に跳ね返った水飛沫が掛かる。
「今日も失敗ですね。それでも数ヶ月前よりはずっと良くなってますよ」
「も、もう1回だけ! お願い! 毎日毎日5回しか魔法撃てないのは、もうヤなのー!」
「そうですか、では5日間まほ――」
「――ッ!? あー、今日は満足したなぁー!!」
「そうですか、よかったです」
「……ぐすん」
今日の特訓は済んだので、ジホリさんに杖を取り上げられた。
洗濯物を畳みに、ジホリさんがそそくさと帰っていく。
「……今日も5回しか撃てなかった」
私はしゃがむと、光を失った目をしながら、指で地面に丸を描く。
これも私なりに平常心を保つための練習だ。
少なくとも、無心になれる効果は出てる……。
「お? ミリア、今日も失敗したのか? あははは、しょうがない子だな」
嬉しそうに笑いながらお父さんが来た。
私の気分が沈んでるのに、なんか楽しそう。
「お父さんなんて嫌い……」
「ッ!?!? おおおおおおお父さん、何かした!?!?」
「……ふん」
「おぉぉぉぉ! ミ、ミリア! お父さんなんでもしてあげるよ! お願いだから機嫌を直して!?」
「本当になんでも?」
「ぐ……。え、えっと、ジホリに言われてるから、魔法に関する事以外でな」
うん。それはしょうがない。
私の平常心を鍛えるのに、家族にも協力してもらっているから。
それに、お父さんに八つ当たりしちゃった……。
「大丈夫。お父さん、ごめんなさい」
しゅんとしながら謝った時に、たまたまオリス兄さんが通りかかった。
その表情は、何故かギョっとしている。
「お父さん。うちの可愛いミリアがなにやら落ち込んでますが、お父さんが何かやったのですか?」
「うちの可愛い娘に、そんな事する訳ないだろ」
「じゃあ、なんで可愛いミリアが落ち込んでるんですか? 例えお父さんだとしても、許しませんよ?」
「お父さんは、誰よりもミリアを愛してるんだ。そんなことする訳ないだろ」
だんだん剣呑な雰囲気になってきた。
ただ、私はそんなことには気づかずに、ひたすら地面に丸を描いていく。
「お父さん。それは聞き捨てなりません! 僕の方がミリアを愛してます!」
「あぁん!? 息子よ、お前はミリアがどんな接し方をすれば笑顔になるか知ってるのか!?」
「お父さんこそ、ミリアがどんな物が好きなのか知ってますか!?」
互いに睨み合ったまま動かない。
「「……」」
そして、同時に口を開いた。
「「それは何だ! 教えろ!」」
「ぁ、料理の勉強の時間だ」
2人が木剣で斬り結んでいる間に、私はお母さんのところへ戻った。
台所にはお母さんがいる。
「ミリアちゃん。今日はどうだった?」
「また失敗しちゃった」
「大丈夫よ。また明日もがんばりましょうねー」
「うん!」
お母さんが分厚いチーズの塊を切っているのを見ながら会話を楽しむ。
「私なにか手伝うよ?」
「うーん。そうねー。なら、野菜を切って、焼いておいて」
「はーい」
言われた通りに野菜を均一に切って、火をかけてある鍋に放り込む。
隣の鍋には、塩茹でされているガジャモが見えた。
「お母さん、ガジャモはどうするの?」
「もう茹でられてたら、それも焼いておいてちょうだい」
「わかった」
ガジャモはよく茹でられていて、このまま食べても美味しそう。
私はガジャモの水けを切ってから、ガジャモも野菜と一緒に焼き始めた。
「焼けたら冷めないようにして、次はスープを見ててね」
「うん」
お母さんが隣の鍋でチーズを溶かし始めた。
このチーズは、さっき焼いていた野菜に掛けるためのチーズ。
見ていて、と言われたスープは、ぴよこ豆がふんだんに使われていた。
ぴよこ豆って、ぼさっとした味で、特に美味しい訳じゃないんだよね。
ぴよこ豆と他の具材が入って、黄色くなっているスープを掻き混ぜた。
味見をして、少し塩を足したら完成。
「そろそろミリア1人でも、お料理できそうねー」
「本当? 今度作ってみようかな?」
「そうねー。もう少ししたら、簡単な料理から作ってみましょうか」
「えへへー。楽しみー!」
何を作ろうかお母さんと仲良く話していると、ジホリさんがひょこっと、台所に顔を出した。
「奥様。洗濯物を全て畳み終えました」
「ありがとうジホリ。そろそろご飯が出来るから、皆を呼んで来てくれる?」
「はい、かしこまりました」
ジホリさんが、お父さんとオリス兄さんを探しに外へ出て行った。
私とお母さんは、すぐに食事が出来るように準備を進める。
「それじゃ、食卓に運びましょうね」
「はーい」




