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護衛という肩書

ここまで、読んで頂きありがとうございます。長々とした話ですいません。楽しんで頂けたら幸いです。

あの集まりの日から、私への対応と環境は以前とは別物になってしまった。

実戦経験を補う為でもあろう、魔物との戦闘にはアンネさんが傍に付き添い丁寧に魔法での戦い方や、場所や範囲での注意点、魔力の調整から魔法の発動時間など事細かに教わった。事前に本で魔物への知識はあったとはいえ、その知識は全くと言っていいほど役にたたない。教わった事をそのまま実戦する事だけでも必死だったりする。そんな経験から分かってきた事が、私の魔力について。他の魔導士方々よりも、魔力の量が圧倒的に多い事に気が付いた。使った分だけ反動で動けなくなっていく魔道士のなか、私はその反動が各段に少なかった。その分、実戦も多くこなすことが出来、一目置かれる存在となっていった。

時頼、グァド様が私の戦いの様子を見に来ては、駄目だしをしていく。始めのうちはグァド様が現れるたびに緊張してしまっていたが、今では思いのほか的確で気遣うような言葉をくれる彼に対して緊張もほぐれてきたように感じる。


夜は室内、野外に問わず私は、ネオ・ロンリース様の傍での宿泊となった。ネオ・ロンリース様を魔物から守る意味で、私の名が上がったらしい。私の保護者的な意味合いで、アンネさんまで巻き込んでしまい一緒に行動をする事になった。


夜と言えば、もう一つ私の立場を変えた事がある。それは、大魔導士であるオルドレイク様の弟子として学ぶという名誉を頂けた事だ。事の始まりは、集まりの後、改めてオルドレイク様に挨拶をさせて頂ける時間を設けてもらった時だった。


「先ほどは挨拶ができなくてすまないね。私に挨拶をするという事は、私と近しくなるという意味もある。なかなか、可愛い娘さんとは知り合う事も出来なくて困っとるところだ」


大魔道士であり賢者とも名高いオルドレイク様との深い関係を望むものは多い。その為、挨拶でさえも細心の注意を払うのだと、オルドレイク様の付き添いの方が教えてくれた。


「君ももう知っているとは思うが、私はオルドレイク。大魔導士とか賢者とか言われているが、ただの老いぼれだ。そんなに緊張しなくてもいい」


「はい、ありがとうございます。私は…セリシアと申します。今は名乗る事は出来ない事にはなっていますが、マンドレイヌ家の一人娘になります」


マンドレイヌの名を出したのは、オルドレイク様には伝えなければならない気がしたから。魔導士の血筋として名が通っているわけではないが、オルドレイク様にはきちんと名を告げておきたかったのだ。この場にオルドレイク様と付き添いの方しかいなかった事も、きっかけになった。


「…やはり、ミイファの娘なんだね?」


「はい」


付き添いの方が息をのんだのが分かった。マンドレイヌの名よりも、私の母であるミイファの名のほうが衝撃があったらしい。


幼い頃、母は有名な魔導士だったのだと言う父の話を私は、半信半疑で聞いていた。何故なら、父との結婚で魔導士を引退した母は、私達の前で一度も魔法を使った事などなかったのだ。


廻りの魔法使い…それが母の通り名だ。相手のどんな魔法でも廻らせてしまう魔法を使う魔導士。


父と子供を成した時、その魔法を母は使えなくなったのだと聞いている。子を成せば使えなくなる魔法。もちろん普通の魔法は使える。ただ廻りの魔法と言われる魔法だけが使えなくなったのだ。魔法を使わない私の母は、本当に普通の母親だった。


その母の名をオルドレイク様が口にし、名を聞いた者を驚かせる。ここに来て母の偉大さを知る事になるとは…何とも不思議な縁である。


「セリシア、私が名を名乗ったという意味を分かるかい?」


「いえ、あの…」


意味と問われ、質問の意図が分からず混乱する。そんな私の様子を、オルドレイク様は、優しく微笑んで私の手をとった。


「君は本当に欲がないようだね…。ヤーン、どうだい?彼女は合格かな?」


「合格もなにも、もうオルドレイク様は決めていらっしゃるのでしょう?」


ヤーンと呼ばれたオルドレイク様の付き添いの方はそう言って、私の方へ体ごと向けると軽く咳払いをする。ピッチリした髪型に眼鏡をかけた青年、20代後半ぐらいだろう付き添いの方は手にもっていた本を私の目の前に広げた。


「私の名は、ヤーン・ドルトル。オルドレイク様の元で魔法を学んでおります。貴方は…セリシア…そうお呼びしても?」


「はい」


「では、セリシア。オルドレイク様の元で私達と一緒に学ぶ権利が貴方にはあるようです。その権利をご使用になりたいのでしたら、この本に誓いの名を」


そこに書かれた誓は、魔法への心構えと責任についてが記されていた。それよりも、ヤーンさんが私に言った言葉に驚き、頭がついていかない。オルドレイク様の元で学ぶ権利とはつまり…。


「それは…オルドレイク様の弟子として、魔法が学べるということですか?」


「先ほどからそう説明しているのですが、貴方の耳は節穴ですか?」


口が悪いな…この人…。そのお陰で、今の状況に現実味を帯びてきたけれど…。私が、あの大魔道士とも賢者とも名高いオルドレイク様の弟子に!あまりの感激に「宜しくお願いします」っと何度も言えば、オルドレイク様は優しく頭を撫でて微笑んでくれる。


「先に誓いの名を…」


最後まで言われる前に名前をサインすれば、「はい、ご苦労様でした」とヤーンさんが本を閉じて契約を済ませていた。その本は契約すれば魔法での縛りを発生するものだという。説明を聞いても初めて見た魔法の一つだったのでよく分からなかったが、とくかく誓いを守れば良いという事が分かっていれば問題はなさそうだ。誓いの内容も、人に危害を加えるななどの道理に反するような事をしない様に的なものばかりで、普段の私でも守っているものばかりだった。


こうして私は、オルドレイク様の弟子として夜の空いた時間にヤーンさんの手伝いをしつつ魔法を教えてもらっている。時々オルドレイク様の話し相手になったりと充実した日々を送っていた。


…ただ、問題と言うほどの事でもないが、ネオ・ロンリース様の元で寝泊まりする事により、ライアン様との接触が増えてしまった。

魔物との戦闘時では、話す事もなく戦闘に集中すればいいのだが、夜の就寝前には必ずライアン様はネオ・ロンリース様の元へ顔を出した。そんな時は流石に無視する事も出来ず二三言会話をする羽目になる。非常に面倒くさい。ライアン様は王子というお立場にありながら気さくでお優しい方なうえ、しかも容姿も優れている。その為、テントや宿の部屋の中にいたとしても、女性の喜びの悲鳴により来訪が分かるぐらいの人気ぶりだ。そんな方に毎日のように話しかけられれば、否応なしに目立つ事になる。しかも悪い意味で。女性の羨望のような嫉妬の目が、本来ならネオ・ロンリース様に向けられるべき所を、ネオ・ロンリース様に相手がいるからなのか、私に向けられている。私は関係ないはずなのに、腑に落ちない。就寝時にはネオ・ロンリース様の元で休むのは私だけという事も悪循環になっている。


「セリシア、今日の調子はどうだい?」


「息才でございます」


野外ではなく街で一番大きい宿の部屋の一室にて、今日もライアン様の来訪と共に、ネオ・ロンリース様だけでなく、私へのいつもの会話が始まった。


「しかし…昼の戦闘では、怪我をしたと聞いたが…」


魔法の威力の反動で、後ろに倒れてその時の怪我の事ならばただの擦り傷程度である。しかも誰かにその事を聞いたのなら、怪我の程度も知っているだろう。報告するような事でもないし、何故私にわざわざ聞いてくるのか良く分からない。この部屋の壁は薄いらしく、この会話も筒抜けである。誰に聞かれているかわからない。出来るだけ早めにライアン様との会話を切り抜けたい。


「たいした怪我ではありません。ご心配ありがとうございます」


「いや、ひどい怪我じゃないのならいいんだ。女性なのだし、傷跡さえ残らないのなら…」


「あら?その場合、ライアン様が責任をおとりになればいいのじゃありません?」


ネオ・ロンリース様は、ライアン様よりも年上という事もありこうやって、からかうのがお好きらしい。出来れば、私に関係のない話でそういう事をやって頂ければいいのだけど…この場に私しかいないのだから仕方がないのかもしれない。


「えっいや…」


ネオ・ロンリース様の言葉に慌てだすライアン様は、いつもの威厳などをなくしたように動揺する。あまり話を広げたくない私は、助け船を出すように話を切った。


「怪我程度の覚悟は出来ておりますので、責任などライアン様が心配していただく事ではありません。どうぞ、私の事などお気遣いなく」


どんな風に責任とって頂けるのかなんて考えたくもない。私は軽く頭を下げ目線を下にしたままの状態を保つ。早くこの場を去って貰えないだろうか。出来るだけ早めに就寝したい。奥の寝室に籠ってしまえれば良かったのだが、ネオ・ロンリース様の傍を簡単に離れる事が出来ない。必然的に、ライアン様と話をする事になるのだ。


「セリシア、あまり無理はしないように。ネオも何かあれば、すぐ連絡して欲しい」


「分かってますわ。今日もついでに、私の様子を見に来てくれてありがとう」


ネオ・ロンリース様は、軽く投げやりにライアン様に告げると、さっさと帰るようにライアン様の背を押した。


「ついでなんかでは…」


「はいはい…また、ですわね」


私は頭を下げたまま黙ってライアン様を見送る。やっと居なくなった…っと一息ついていると、ネオ・ロンリース様は困った顔で笑われる。そんな表情でも美しいなぁなとど思っていると、ネオ・ロンリース様お菓子とお茶を用意しはじめた。慌てて私はお茶を入れるのを手伝おうとすれば、止められて椅子に座らされた。私の前にネオ・ロンリース様が入れて下さったお茶が置かれる。


「どうぞ、久しぶりに入れたから味は保証できないけど…」


「いえ!ありがとうございます」


ネオ・ロンリース様も目の前の椅子に座り、お茶を飲み始める。これは、腰を据えて何かお話があるという事だろう。私は、ネオ・ロンリース様が話し出すまでお茶を飲んでその時を待つ。ずっと馬車の中で少しは慣れたとはいえ、乗り心地が良いとは言えない。そんな馬車の中に座っていたせいか、今座っている椅子は普通の椅子だと分かっていても最高の座り心地だ。当分の間は、馬を休ませる為にこの街に留まると聞いている。ちょっとはゆっくり出来るのかもと期待しつつ明日の予定を考えていた。


「セリシアはライアンの事がお嫌い?」


「えっ?」


薄々は、ライアン様の事を聞かれるであろうとは思っていたのだが、あまりにも直接的で唐突な質問に答えが詰まってしまう。


「いいのよ、誰にだって好みはあるのだし…」


「あっ…いえ、嫌いとかではありません」


「それでは、お好き?」


「…尊敬しております」


好きかと問われたら、少し躊躇してしまう。嫌いと問われれば、苦手という表現のほうが近い。ライアン様が、勇者に選ばれこの世界の為に惜しみない努力をされた事も分かってはいる。この世界の為に色々なものを犠牲にしてきた事も、命を懸けて使命を果たそうとしている事も、頭では分かってはいるのだ。

それでも、どうしても側室だった頃の二年間がある私には、ライアン様を素直に好む気持ちが生まれない。あの二年間は、私だけではなかった。きっと、私だけが二年間耐えろと言われれば問題なかったのかもしれない。

側室に選ばれた中には愛しい人がいながら、ひたすら王宮から出られる日を待っていた人。

脅しのように、親からライアン様の子を儲けるように期待を背負った人。

女同士での醜い争いも水面下で行われていた。他の男と交わり、お腹に出来た子をライアン様の子だと偽り密かにいなくなった人もいる事も知っている。偽った人は、自業自得だと言われたら仕方のない事だったのかもしれないが、通われもしない側室ほど無駄なものはない。王の命があったとはいえライアン様がどうにか出来たのではないか…そう思ってしまうのだ。現に私は、側室だったとはいえ名ばかりで、ライアン様は私の事など欠片も覚えてもいない。忙しい方だった…と同情は出来ても、好意を持つには程遠い。所詮、勇者様とその御供その一という立場でしかないのだ。


「そう…尊敬はしているのね。良かったわ、嫌われていないようで…」


何が良かったのかは、考えない様にする。私がライアン様に好意を持っているかどうかなど、ライアン様に関係ないはずだ。それに私にも関係ない事。


「ライアンが誰かに興味を持つ事が珍しくて、余計な事をしてしまったようね。セリシアにはどなたか想う方がいらっしゃるの?」


想う方と言われても、私には恋というものを経験したことはない。…側室に入る前は、ライアン様に憧れる感情はあったように思う。神託の勇者に選ばれ端正な顔立ちを見れば、普通の女性なら憧れない訳がない。あくまで側室に入るまでの話だが…。

勇者様がこれから守ってくださる…もしかしたら…復讐なんて考えなくても、いいのではないか…そんな淡い望みに縋りたかっただけなのかも知れない。復讐を考えてしまったのは、ライアン様の所為ではないのに…。今考えれば、それはとても身勝手な考えだった。


「複雑な思いがあるようね…。分かりました。ライアンには、ここに顔を出すことは控えてもらいましょう」


私が何も答えられずにいると、ネオ・ロンリース様はそう言って優しく微笑まれた。


「…あの、別に私は…」


「ごめんなさいね。ライアンには色々とお世話になったものだから、気づいていたのだけど強くいえなくて…」


「その…本当に私は…!」


「いいのです。いくら想い人が心配だからといって、就寝前に女性を訪ねるなど迷惑でしかないのですから」


何かとんでもない誤解をされているようだが、確かに就寝前は困る。けれど、その時間しかライアン様は時間が空いていないのだろう。私のせいで、ネオ・ロンリース様との時間を御取り出来ないというのは心苦しい。


「想い人と私とは、関係ないかと…」


私が言葉を続けようとすれば、外から何やら女性の声と共に、誰かこちらに向かってくる足音が聞こえる。扉をノックした音がしたかと思えば開かれ、エフェクト・バーン様が現れた。いきなりの登場に動けない私は、ただ見ているしか出来ない。


「なるほど…よく分かりました。不愉快な人がこの時間に現れれば、こんなにも嫌悪してしまうものなのですね」


「おいおい…嫌悪って」


「そのままの意味ですわ」


ネオ・ロンリース様は、何かを悟ってしまった様子で私に同情し、エフェクト・バーン様を無視するように決めたらしい。お茶を飲みながら、目線はお菓子へといっている。


「急いでもってきてやったっていうのに、酷いなぁ」


酷いなぁっと言いつつも、別に堪えた様子もないエフェクト・バーン様は手にもっていた手紙を机の上に置く。


「なんですの?…もしかして…」


「お前の愛しい旦那からの手紙だよ。ほら、さっさと読んでしまえ…。それと、ちょっとセリシア借りる。遅くなるから、先に寝てろ」


そう言ってエフェクト・バーン様は私の手首を掴むと、部屋の外に連れ出した。




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