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きらきらひかる 澄んだかがみ

作者: hana

風にゆれる葉っぱのかげから、白い立札が見えかくれしていました。

『←きらきらひかる、澄んだかがみ』


ある晴れた日曜日、栗ひろいに来ていたゆいは、くり農園の入口で受けつけのおじさんから赤いネットをもらって手に握りしめたかと思うと、さっそく斜面をかけのぼっていきました。

「うわぁ。おち葉がいっぱい。」

「ゆい、気をつけてね。あまり遠くへ行っちゃだめよ。」

おかあさんの声が遠くうしろから響きました。

「わかってる。わっ栗。いっぱい落ちてる。」夢中でイガをつついていたすぐそばに、ゆいの手には乗っからないくらいおおきな青いいもむしが、かれ葉の間から顔をのぞかせました。

「きゃっ。」

びっくりしたゆいに、あおいもむしは言いました。

「驚くことはないだろう。なんせ驚いたのは僕のほうだから。なんだって森の中に、にんげんの女の子がいるんだい。」

「びっくりさせてごめんなさい。くりをひろいに来たの。」

「ふん。」

あおいもむしは、面倒そうに相槌をうつと、もそもそとかれ葉の上をすべっていきました。ゆいは、ついて歩くことにしました。あおいもむしはおち葉のふりつもった木々のあいだを、ふしぎな速さですすんでいきます。ゆいは追いかけるのがやっとでした。ふと、動きが止まりました。かさこそと、えだ葉がゆれたあいだから、白くてかわいい立札がゆいの目にとまりました。それはゆいの小指ほどの大きさで・・


『←きらきらひかる、澄んだかがみ』。

よく見ると、そう書かれてありました。

あおいもむしは、ぴよんと跳びはねたかと思うとゆいの肩にのって言いました。

「あっちだぜ。探しに行くんだろう?のんびりしてると日が暮れちまうぜ。」

「なんだかおもしろそう。きれいなかがみが見つかったら、おかあさんへのおみやげにしよう。」

ゆいは矢じるしの向くほうへ、かけだしました。


ざわざわ、ざわざわ・・。やまぶどうたちがおしゃべりしています。どんぐりのぼうやが迷子になったらしいとか、もみじ谷では気の早いもみじがもうお化粧をはじめたとか、やまぶどうはうわさ話が大好きです。あおいもむしを肩にのせたゆいがやってくると、久しぶりのにんげんのお客さまにみんなはいっせいにおしゃべりをやめました。

「やまぶどうさん、きらきらひかる、澄んだかがみをさがしているの。」

「それならこの先に住んでる、黒かさきのこに聞けばいい。かれなら、きっとなにか知っているよ。」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

やまぶどうたちはまたざわざわとおしゃべりをはじめました。あおいもむしが肩ごしにゆいにそっと言いました。

「まったく、いつのまにかなかまが増えてるんだ、れんちゅうは。僕がこのあたりへ来るたびにね。」

「どうやって増えるの?」

ゆいがたずねるとやまぶどうたちが歌うようにこたえました。


森にかぜが吹きぬけて

実ったなかまがはじけると

やわらか土のあいだから

小さな木の芽が顔をだす

つるがのびてまたのびて

新しいなかま生まれるの・・


やまぶどうのひとりが、ゆいの足もとにぽとんと飛びおりました。

「あなたの気に入った場所に私をうえて、なかまをふやすお手伝いをしてください。」

「わかったわ!」

ゆいはやまぶどうのふさを拾いあげると、大事そうにくり拾い用の赤いネットにしまいました。


やまぶどうたちに教えられたほうへしばらく歩いていくと、かげになった木の根もとに黒いかたまりを見つけました。

「あれが黒かさきのこさんかしら。」

「おそらくそうだね。いろんなきのこたちを知っているが、だいたいが蔭になったところが好きなんだ。」

あおいもむしがこたえました。

「あの、すみません。きらきらひかる、澄んだかがみを探しているんだけど、どこにあるのか知りませんか?」

黒かさきのこはうとうとと、昼ねをしているところでした。急に声をかけられたので、びっくりしてぶるぶるっとふるえたものだから、かさの下から胞子がふわぁんと、あたりに飛びちりました。

「この先にいる、おお石ころのおじいさんから、むかしみた美しいかがみの話をよく聞かされるものさ。むにゃむにゃ・・。」

それだけ言うと、黒かさきのこはまた居眠りをはじめました。

「なんせきのこたちは、いちにちのうちのほとんどを眠ってすごすのさ。」

あおいもむしがつぶやきました。

「おお石ころのおじいさんを探しましょう。」

ゆいはさらに木々のあいだを進んでいきました。


岩があちこちにごろごろして、少し険しくなったところに出ました。そのまん中に、てかてかと黒光りする大きな石がありました。それがおお石ころのおじいさんでした。

「こんにちは。澄んだかがみの話を聞かせていただけませんか?」

「にんげんのお嬢ちゃんだね。いいとも。わしがむかし、これよりまだまだ奥にある、川の中にいたころの話をしよう。あの美しいかがみは、わしにちからをあたえてくれた。むかしはごつごつとして川底でじっと座っているだけの岩じゃったわしだが、かがみは光をわけてくれた。ながいながい年月をかけて、川の底でわしを磨いてくれたんじゃ。そしてわしを岩のなかまがたくさん住むこのばしょまで、運んできてくれた。」

そう言うとおお石ころのおじいさんは、重そうにからだをゆらしたかと思うと、おじいさんとそっくりに黒光りする小石を、ころんころんとゆいのほうへころがしました。

「これを持っていくといい。きっとあのかがみのところへみちびいてくれるじゃろう。」

「ありがとう。」

ゆいはそうっと、ネットに小石をしまいました。

「あのおじいさんは、川にいるころはもっともっとおお石ころだったんだ。今でもおお石ころだけれど、ずいぶんながい旅をして、あれでも少しずつ小さくなってきたそうだよ。」

あおいもむしが、ゆいに話してくれました。

「おじいさんの小石をにぎったら、なんだか、かがみにもうすぐであえそうな気がするわ。」

ゆいはまた、歩きだしました。


こつん、こつん。

「いたっ。」

何かがゆいの頭にぶつかりました。みあげると、せわしそうに高枝のあいだを飛びかうかげが見えます。・・こつん。また当たっては、はね落ちました。

「どんぐりだわ!」

拾おうとしゃがんでみると、ほかにもいろんな木の実がそこらじゅうにころがっています。

「いたずらりすのしわざだな。」

あおいもむしが言いました。

すぐそばでクスクスっと可愛らしいわらい声がきこえたかと思うと、ゆいの目のまえに横たわる枯れた大木のみきに、いつのまにか二ひきのりすがおりてきていました。両手で抱えたどんぐりをしきりにコリコリかじっています。

「きらきらひかる、澄んだかがみを探してるんだけど、森の中でみかけなかった?」

「あれのことかな?」

「あれのことだよ。」

「あれだよ、あれだよ。」

二ひきは早口で、言いあっています。

「どっちへ行けば見つかるか、教えてくれない?」

ゆいがたずねました。

「もう、すぐ先だよ。」

「もう、その先だよ。」

「先だよ、先だよ。」

いたずらりすたちは、あい変わらずせわしそうに、コリコリしながら答えました。

「りすさんたちったら、ずいぶんおなかがへってるみたい。そういえば、私もおなかがぺっこぺこ。そうだわ。お弁当にしよう。」

そういうと、ゆいは背中にしょったリュックからおかあさんが持たせてくれたおにぎり弁当をひろげました。

「あおいもむしさんも、どうぞ。りすさんたちも、食べてくれるかしら。」

そう言うと、ゆいはおにぎりをみんなに少しずつ分けました。

「ありがとう。」

「ありがと、ありがと。」

森の中でみんなでたべるお弁当は、とくべつおいしく感じました。

「お礼にしよう。」

「お礼をしよう。」

いたずらりすたちが、ひっきりなしに木をかけのぼったりおりたりをはじめました。そしてまだおにぎりをほおばっているゆいのそばに、何度も何度もはこんできては、木の実をならべていきました。いろや大きさもとりどりで、ゆいが今まで見たことのなかったものばかりでした。

「とってもきれい!ありがとう。大切にするわ。」

たくさんの木の実をゆいはネットにしまいました。

「ときどきわるさもするけれど、彼らはとっても親切で、森いちばんのものしりなんだ。どこにどんな木の実があるか、いたずらりすたちはたいてい知っているのさ。」

あおいもむしは、感心したように言いました。


木の根が地面をはいまわり、ところどころにつるくさのからまる、うすぐらいところへやってきました。しゅるしゅるしゅる・・。どこからともなく、うすきみわるい音が聞こえてきます。ほそい舌をちょろちょろさせながら、1ぴきの白いへびが、ゆいの足もとへ這いよってきました。

「しろへびさんだわ。こっちへくる!こわいわ。」

「だいじょうぶ。いろんなへびのなかには咬んだりするのもいるようだけど、しろへびは森のかみさまのお使いなんだ。であえたってことは、どうやらかがみはこの近くにあるのかも。」

あおいもむしが言うと、しろへびはゆいのそばを通りすぎて、そのままどこかへ見えなくなってしまいました。


きらっ、きらっ。木々の枝からこもれ落ちる光が、何かをてらし出しました。ゆいがさけびました。

「あそこでなにか光ったわ!きっとあれが、きらきらひかる、澄んだかがみだわ!」


森がすこし、ひらけたところ。そこには、おひさまの光をいっぱいにきらめかせてかがやく、どこまでも透きとおった泉がありました。のぞきこむと、ゆいの顔がはっきりと映りました。土にできた丸いくぼみの中からはこんこんと水が湧き、あふれだしては低いほうへと、ちょろちょろほそい流れをつくりだしていきます。あまりの美しさに、ふたりはしばらくうっとりとしていました。やがてあおいもむしが、そっと話しだしました。

「森に雨がふると、木や草はおいしそうにその水を飲むんだ。そうして枝をのばし、葉をしげらせて花を咲かせ、たねをつける。おおきくそだった木々はおひさまの光をあびると、たくさんのきれいな空気をつくりだすことができるんだ。どうぶつたちは、森の生んだ空気をすって、葉やたねをたべて生きている。じめんの奥ふかくにしみこんでいた雨は、泉になってどこからか湧きだしてきてはあふれだし、川をつくる。いくつものながれは、あつまるうちに大きくなって、海へとたどりつくんだ。海にふり注ぐおひさまの熱にあたためられて、軽い小さな粒になった水は、空にとどいて雲にかわる。その雲が風に吹かれて森のうえへやってくると、雨になってまた森へかえるんだ。」


「これじゃあ、おかあさんのおみやげには無理ね。澄んだかがみは森のみんなのたいせつなものだもの。」


ゆいはそっとつぶやくと、なびく風にゆれてにじいろに変わる泉をしばらく見つめていました。

なんだかいい気持ちになってまどろむと、ふわりふわりとからだがかるくなっていくようでした。ゆいはいつのまにか、ちょうちょになったあおいもむしのせなかにのって、木々のあいだを飛んでいるのでした。


「ゆい、ゆい。起きて。さがしたわよ。」

おかあさんの声で目をさますと、そこはくり農園の入口にある、かれ葉のベッドの上でした。

「あれ。きらきらひかる、澄んだかがみは?」

ゆいはあたりを見まわしましたが、そこはくりの木が続いていて、ときおり小鳥のさえずりが、かんだかく森に奏でられるだけです。かがみは見つかりませんでした。


ゆいの肩から、一わの美しい羽根模様のちょうちょが、舞いあがりました。

「まぁ、きれい。」

おかあさんが言いました。ちょうはゆいのまえで一度ひるがえったかとおもうと、青い空にすいこまれるように、消えていきました。見あげていたゆいの手には、やまぶどうのたね、みがかれた小石、いろとりどりの木の実などでいっぱいにつまった、あの赤いネットがしっかりとにぎりしめられていたのでした。


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