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先輩を好きになった20の出来事  作者: 夏野 みかん
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「おまえ、大丈夫か?」


「う、うん。秋…いや翔兄になにかあったの?」


「俺からは言えないけど…ただ、今あいつの心を支えているのは…平蔵だけかもしれないなぁ」


「へ!へいぞう!!……まさか…あのまさかとは思うけど、く、ろい猫だったりして~」


兄は、大きく目を見開き…

「おまえ、いつ超能力者になった……」


兄のバカバカしい物言いに、いつものように返す力がなかった…。いや声が出てこなかった。


自分の口があわわわ…と動いているのはわかった、言葉が出てこなかった。


なにが、起こっているのだろう?私の目は兄に縋ったが、この兄貴では…と頭が拒否した。


でも…誰にも言えない、いや信じてもらえないだろう。


兄を見ては、頭を振り、また兄を見ては、頭を振る…その繰り返しを兄は訝しげに見ていた。




その夜、心臓が飛び出すくらいドキドキ感が、堪らなくて眠れなかった。でも寝ないと、確かめられない。


本当なのだろうか?私が…猫になってるのだろうか…。あの翔兄の…猫に…、



翔兄は、今誰と暮らしているのだろう…そう言えば、平蔵という名は時代劇が好きなお祖父ちゃんから…と言っていたなぁ。




11年前、5歳だった私が覚えていることは…翔兄のお父さんとお母さんのお葬式だ。


親戚も少なく…そして一人息子の翔兄は入院していて本当に、寂しいお葬式だった。


そうだ、喪主は父方の祖父だった…そのおじいちゃんと暮らしているのだろうか。


最後に翔兄を見たのは、翔兄が引っ越す日だった。


荷物が次々と運び出される様子を、翔兄は顔を歪め、泣くのを我慢していた。


骨折し三角巾で吊っている翔兄の左手には、家族の写真が握られていた。


私は…翔兄の怪我をしていない右手を握った。


翔兄は、繋がれている手を見て、そして私の顔を見て…

「ひとりぼっちになっちゃった…」と言って、また、片付けられていく部屋を見つめていたが…そのうち涙がポロポロと零れていった、でも声は出ていなかった。


私は…翔兄の手を強く握り、そして、うまく泣けない翔兄の代わりに、大声で泣いた。


「ひとりぼっちになっちゃった…」と言った翔兄に、私がいるからと言葉に出来ない分、翔兄の手に伝えたかった。


私がいるから、翔兄の側にいるからと伝えたかった。




うまく泣けない翔兄は、6歳のままだった…。


あの日、試験前で部活は休み、そして雨で誰もいない校庭で、雨の音に紛れる


ように泣くあの姿は、確かに、翔兄だった…。




いつ、眠ったのだろうか…気がついたら翔兄のベットの上で、丸くなっていた。


翔兄は机に伏して眠っていた…試験勉強していたのだろうか…


私は、翔兄の机に飛び乗り、翔兄を見た。


どうして…半年も気がつかなかったのだろう。あの頃と同じだ。茶色い癖のある髪も、意志が強そうな眉も、口下手でうまく話せない口、その分、表情豊かに揺れ動く切れ長の目。



翔兄…。なにがあったの?。


私が、子猫になっちゃったのは、また翔兄の側にいてあげてと、神様が言っているのかもしれない。


あの時…私は…翔兄の手を強く握ったが、今日は翔兄の頬に頭を寄せ、そして言葉に出来ない分、翔兄の頬を軽く舐めた。



それは…悲しい思い出を呼び覚ました、私と先輩…ううん…




私がまた翔兄を好きになった3つ目の出来事だった。





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