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俺が創ったこの世界  作者: 慧斗
捕縛、実験、地下牢監禁、そして神様に
1/1

第1話 変種モンスター!?どこ、って俺!?

 カリカリカリッ

 シャーペンが、ものすごい速度で大学ノートの上を走っていく。それによって生み出された文字は、ノート一面をあっという間にびっしりと埋め尽くしていく。

 カリカリカリッ

 シャーペンは止まることなくノートの上に文字を生み出していき、ページの最後で止まった。

 パキッ

 シャーペンの芯が折れる。でも、そんなことを気にしてる場合じゃない。


「出来た……!」


 俺はシャーペンを机の上に放り出すと、大学ノートをかかげた。

 俺が、この夏休みを使って書き上げた小説。ついに、ついに……!


「完成したぁ~っ!」


 思わず叫ぶ。

 小説を書こうと思ったのは、高二になったばかりの時だ。

 その時に仲良くなった岡っていう奴から、ラノベを一冊借りた。

 そのラノベは今大人気のものだった。主人公は俺を同い年の人気高校生作家。授業の合間にこそこそと書いてた小説を応募したところ当選して、人気者になった話だった。俺は今まであまり本を読んでなかったけど、そんな俺でもすらすらと読めるほど読みやすくて、すっげぇ面白かった。そんで、その主人公小説が書けるんだったら俺にも書けるんじゃねぇかって考えたんだ。

 それからは、ずっと書いてみたくてたまんなかった。でも、俺には部活もあるし、そんな時間は取れねぇ。だから、夏休みという長期の休みに入るまで、設定を作りながらひたすら待ってたんだ。

 そして、ついに完成した。俺の、世界に一冊しかない小説が。

 内容は、俺が一番好きなバトル物だ。十五歳の誕生日を迎えて突然異能力を持った主人公が勇者となって、仲間と一緒にドラゴン退治。王道な仕上がりになったと自分でも思ってるけど、初めてなんだから仕方ない。どっちかというと、初めての小説をわずか二週間で完成させたのはすごいと思ってる。とうとう、探し求めていた俺の才能が見つかったのかも?

 パラパラとめくってみる。大学ノート一面にびっしりと埋め尽くされた字は、早かっただけに少し雑だ。でも、書いてる時は頭に次々とアイデアが浮かんできて、そんな事を考えてなかった。


「なんかちょっと、異世界って感じがしないけど……まあ、いいよな!」


 異世界。それがどういうものなのか、(当たり前だけど)行ったことのない俺には理解出来なかった。

 こんな世界だろうか。あんな世界だろうか。なーんて考えて書いていたら、日本とそんなに変わらない世界になってしまった。ちょっとでも異世界感を出すために登場人物はカタカナで、見た目はちょっと変わってるようにしたけど……そりゃそうだよなぁ。異世界ものの小説なら、普通登場人物は外国人みたいな感じだって。異世界の住人の名前が山田とかで、黒い髪の黄色人種だったらおかしいもんなぁ……。


「ま、これはこれでいっか。こっちの方が、共感してくれるかも」


 誰が共感するんだ、というツッコミを、あえて心の中にしまう。どうせ書いたんなら、誰かに見せたいじゃん。ちょっと恥ずかしいけど。

 そうだ、岡に見せよう。


「きっとびっくりすんだろーなぁ……」


 これを書くきっかけとなったラノベを貸してくれた、岡の姿を思い浮かべる。

 すげぇとか言ってくれるだろーなぁ……。岡の興奮した顔が目に浮かぶぜ。ああ、想像してたらわくわくしてきた。


「ふわ~ぁ」


 やべ、ほっとしたら眠くなってきた……。最近は徹夜で小説書いてたからな……。


「ちょっと寝るか……」


 大学ノートを机の上に置くと、俺はベッドに向かった。




『おね……い……』


「……ん?」


 誰かの声が聞こえた気がして、俺は目を覚ました。


「……気のせいか……?」


 辺りを見回すけど誰もいない。時計を確認すると、まだ二時だった。おいおい、まだ二時間ぐらいしか寝てないじゃねぇかよ。いつもだったらま絶賛爆睡中だぞ?

 にしても、さっき聞こえた声は何だったんだ?空耳か?


「おっかしいな……。まあいいや、もっかい寝よ……ってあれ?」


 毛布を被ろうとして、がばっと跳ね起きる。あれ、さっき視界に何か変なものが映ったような……。


「何だ、あれ……」


 俺の机が、うっすらと光っていた。


「何だ……?」


 そうっと近づいてみる。


『お……がい……おね……い』


 さっき聞いた声が、耳に入ってきた。やっぱ空耳じゃなかったのか。


「この声、ノートから聞こえてる……?」


 耳を澄ませる。


『お願い……』


 今度は、ちゃんと聞き取れた。


「やっぱり……。どういう仕組みなんだ?」


 このノートは、ただのどこにでも売ってあるノートだ。俺が百均で買った、百八円の大学ノート。声出るなんていう不思議な仕組みがあるわけがない。つーか、そんな機能あったら俺が気づくっての。


『お願い……』


 でも、現実では確かに声が聞こえている。聞き間違いでも空耳でも幻聴でもない、確かにノートからの声だ。


「どうなってんだ……?」


『お願い……』


 幽霊か?でも、声が出てんのは間違いなくこのノートだしな……。


『お願い……』


「だああ、さっきからうるせぇ!」


 さっきから考え事してんのに、ずっとお願いお願い繰り返しやがって。いったい、俺に何を伝えたいんだ?


『お願い……』


 俺の抗議の声が聞こえてるわけもなく、何かを頼む声はずっとノートから発され続けている。

 理屈ではありえないはずの不可思議な現状。それが、俺の目の前で実際に起こっている。


「なんで……」


 何か、好奇心が働いた。どうなってんのか、この目で見てみたい。

 そうっと、手をのばす。頭のどこかで警報が鳴った気がした。

 カサ……

 俺の手が、ノートに触れる。次の瞬間、ノートは眩い光を放ちだした。


「うわっ……!」


 思わず目を閉じる。すると、光はさらに強くなって俺を飲み込み、突然ぷつりと消えた。


『お願い……、助けて……!』


 最後に聞こえたその声は、なぜか頭にこびり付いて離れなかった。


                   ☆


「うわぁっ!」


 何か、空中に放り出されるような感じがして、俺は目を開けた。

 どしんっ


「いててて……」


 腰打った……。いっつー……。


「なんなんだよ、いったい……」


 腰をさすりながら辺りを見回す。目に映るのは、見慣れた俺の部屋……じゃなかった。


「……なんだよ、ここ……」


 そこは、知らない場所だった。周りには草が生い茂っていて、建物はどこにも見えない。見たことのない場所だった。


「俺、部屋にいたんだよな……?」


 そうそう、確かに部屋の中にいたはずだ。だけど、今俺がいる所はどう考えても室外。なんで……?


「夢、か……?」


 頬をつねってみる。痛っ!夢じゃねぇ……。


「とにかく、ここにいんのもあれだしな……」


 どっか、家ねぇかな……。ここがどこなのか聞きてぇし……。

 俺は、ふらふらと立ち上がると歩き出した。俺がいたのは丘かなんかだったらしく、坂道が続いていく。


「にしても、なにもねぇな……」


 どんだけ歩いても、建物一つ見えねぇ。


「疲れたし……」


 眠いし、腹減ったし。


「もう歩きたくねぇ……」


 ここらへんで少し寝ていいかな……なんて考えていると。

 ガサガサッ


「ガオーッッッ!」


「うわっ、なんだいきなり!」


 茂みから、なんか変な動物が出てきた。


「なんだこいつ……」


 見たことねぇ動物だな……。なんか、虎とワニとライオンを足して二で割った感じみたいな……。


「ガオーッッ!」


「ってやべっ!」


 虎もワニもライオンも肉食じゃねぇか!食われる!

 走って逃げようとするが、前からも似たような動物が出てきた。


「じゃっ、じゃあ……!」


 後ろに方向転換しようとして、止まる。後ろにも、いつのまにか似たような動物がいた。なんだよ、こいつら。


「横もダメか……!」


 マズい、囲まれた。


「グギュルルルルル……」


 そいつが威嚇してくる。すっげぇ尖った歯からよだれがこぼれて、俺はビビッて気を失いそうになった。


「やべぇ……」


 このままじゃ食われる!


「ガァァァッッッ!」


 俺の前にいた奴が、いきなり襲い掛かってきた。他の奴らもそれに続く。服に爪をたてられたかと思うと、あっという間に引きずり倒される。そいつの顔が目の前まで迫って、顔がよだれでべちょべちょになった。うわっ、気持ち悪ぃ……。


「俺、このまま死ぬのか……」


 こんな、どこかも分からねぇような場所で、見たこともねぇ動物に襲われて。

 死を覚悟してぎゅっと目を閉じる。痛そうだな、あんな牙で噛み付かれたら俺なんか一気に食われちまうんだろな……。

 バァーンッ!

 突然、銃声が鳴り響いた。


「ガァァァッッ!」


 べちゃっと俺の顔になにかが落ち、俺の上に乗っていた動物がいなくなる。


「ん……?」


 恐る恐る、目を開けてみる。上に乗っていたはずの動物は、俺の横に倒れていた。

 そっと、顔を触ってみる。ものすごくべちゃべちゃしていて、気持ち悪い。


「俺、死んでない……?」


 体を見回してみても、食われているところはどこにもない。良かった……。

 バァーンッ!


「って危ねっ!」


 突然、銃弾が頬を掠った。血が、ポタポタと落ちる。え、ちょ、どういうことだ?


「……え?」


 銃弾が飛んできた方を見る。すると、十人ぐらいの男が一斉に銃を構えていた。その横では、暑苦しい真っ黒なコートを着た女が立っている。髪はオレンジ色で、とても目立つ。フードを被っているからか、顔がよく分からん。


「総員、構えっ!」


 男たちが腰を下ろし、銃口をこっちに向ける。


「え、マジで?タンマ、タンマ!」


 あわてて手を振るけど、女はそんなの気にした様子もない。なんなんだよ、こいつ!撃つ気満々じゃねぇか!日本は法治国家だぞ?武器を持つのはだめなんだぞ?


「撃てぇっ!」


 バァン、バァーンッ!


「うおっ!ちょっと待て、危ねぇだろうが!」


 肩や頭に銃弾が掠る。今の、完っ全に俺のこと狙ってただろ!こいつらの辞書には、〈法律〉という二文字が載ってないのか?

 それに、俺が狙われるのは筋違いというもんだ。俺は、あの動物に襲われた被害者なんだぞ!


「逃げるな!大人しくしたら、命だけでも助けてやるわ!」


 突然、女が高らかに叫んだ。


「嘘つけ!」


 絶対、俺のこと殺す気だろ!なんかよく分かんねぇけど、そう簡単に殺されっかよ!


「撃てぇっ!」


 バァン、バァーンッ!


「うおっ!」


 ドラマとかだと逃げれたりするけど、銃弾速すぎて避けられねぇ。なんで掠るだけですんでるんだ、俺……。


「くっ、なんで当たらないのかしら……。さすがモンスターね、なにか特殊な技でも使っているのかしら!で

も、私たちをナメんじゃないわよ!」


 女が叫ぶ。……ちょっと待て、今俺のことモンスターって言わなかったか?


「待て!俺はモンスターじゃねぇ!」


「嘘おっしゃい!」


「ガチだって!」


「黙りなさい!皆、騙されんじゃないわよ!撃て、撃てぇ!」


 バァン、バァーンッ!

 女の叫び声と同時に放たれた銃弾は、また掠るだけに終わった。


「なんで当たらないのよ!」


「こっちが聞きたいわ!」


 俺の運が良いのか、そっちの男たちの腕が悪いのかどっちかだろ!俺のせいにされても困るっつーの!


「仕方ないわね、こうなったら……」


 女がなにかを取り出す。え、それって大砲じゃね?


「ちょっと待て!それ撃たれたらいくらなんでも死ぬって!」


「大丈夫よ!モンスターは解剖したり実験するのに使うから、殺しはしないわ!」


「なんかすげぇ怖いこと言われた!」


 意地でも捕まるもんか!


「大砲、用意!」


 バカでかい、映画とかアニメでしか見たことのないような大砲が、俺に向けられる。え、ちょ、待てって……!


「発射!」


 ドォンッ!


「どわぁっ!」


 俺が立っていた地面がえぐれる。俺は、爆風で吹き飛ばされて五メートルぐらい転がった。

 おいおい……。ちょっと待てよ、近くに落ちてきただけで吹き飛ばされるんだぞ?あれ当たったら確実に死ぬじゃんかよ……。

 地面に転がったまま考えてた俺の周りに、いつの間にか黒いコートの男が集まってきた。やべっ……。


「今よ!確保ぉ!」


 女のちょっと嬉しそうな声と共に、網が投げられる。くそっ、絡まった……!網の中でもがいても、余計に絡まって動けなくなる。


「無駄な抵抗はやめなさい!」


 やなこった!捕まって解剖なんて絶対に嫌だね!

 諦めずに必死にもがいていると、黒コートの女が近づいてきた。近くで見てみると、どこぞのマンガに登場する黒ずくめの女みたいな感じだ。いや、実際に見たことないけどな?


「諦めが悪いのね」


 俺の目の前で仁王立ちする、黒コートの女。当たり前だ!解剖なんて痛そうな死に方、絶対に嫌だ!


「ちなみに、その網。まさか、対モンスター用の網がただの網だなんて思ってないわよね?」


「へ?」


 なんか仕掛けでもあんのか?見た限り、普通の網だけど……。


「動けば動くほど、網に仕込まれた刃がじわじわと刺さるわよー?」


「悪趣味!」


 何その痛そうなの。つーか、この網のどこにんなもん仕込んであんだよ!どう見てもただの網だよ!開発者すげぇ!はっ、普通に褒めてた……。


「キャッチコピーは、一度捕らえた獲物は逃がさない!体も、心も!だったのよね」


「心が捕らえられるのはドMだけだからな!」


 今すぐ逃げてぇよ!体も、心も!


「まぁ、もう動かない方が身のためだからね」


「うぐ……」


 へいへい、分かりましたよー。


「さあみんな、これを研究所まで運びなさい!」


 黒コートの女に命じられて、男どもは言われた通りに俺が絡まった網を持つ。って、おい、その持ち方、何つーか、すげぇ嫌な予感がするんだけど……


「オーエス!オーエス!」


 野太いかけ声が腹に響く。お前ら、何そのかけ声。綱引きかよ。

 ずるずるずる。


「ちょ、引きずんな!痛い、痛い!」


 嫌な予感は的中したみたいだ。お前ら誰か一人だけでも、俺ぐらい楽々と担げんじゃねぇの?何でわざわざ引きずんの?罰ゲームか何かなの?


「痛い、痛い!」


「オーエス!オーエス!」



「待てって!服が破けるから!」


「オーエス!オーエス!」


「あぁぁ、小石が目に、目にー!」


「オーエス、オーエス!」


「うわ、ガチで刃出てきた!つーか、俺何もしてねぇのに!お前ら、早く止まれぇ!うわぁっ、じわじわと

くい込む~!痛い!」


「オーエス、オーエス!」


「こんだけ悲鳴聞いても何とも思わねぇとか、お前ら鬼かよ!」


「オーエス!オーエス!」


「ちょっとは人の話を聞きやがれ~!痛い、痛い!」


 丘に、たくさんの声が響き渡った……。主に、俺の悲鳴。




「ふむ、ワシも、今までこんなモンスターは見たことないのぅ」


 白衣着た白髪のじいさんが、立派なひげをさすりながらそう言った。爺言葉に一人称はワシ。その見た目も合わせて、どっからどう見ても〈じいさん〉だ。


「だーかーらー、俺はモンスターじゃねぇって言ってんだろ!」


「黙りなさい!」


「いてっ!」


 網に入ったまま引きずられること十数分。俺は、研究所とやらに運ばれていた。そろそろ網から出してくれませんかね?


「新種なんじゃないですか?」


「ふむ。そうかのぅ」


「だからモンスターじゃねぇってむぐぐぐぐぐ」


 なんでも、俺みたいな奴は見たことがないらしい。そりゃそうだ、俺人間だもん。


「実験してみれば分かりますよ!」


 女が拳を握り締めて力説する。ちなみに、まだ黒コートは着ていた。室内では脱げよ、暑苦しい……。


「そうかのぅ。まあ、お主がそう言うのならば試してみるか。では、お主。こっちへ来い」


「網に絡まった状態でどう動けと」


 実際、一歩動いただけで刃が刺さる状態なんだぞ?あのガチムチのあいつらのせいで。


「あんたっ、失礼にもほどがあるわよ!敬語を使いなさい、敬語を!」


「なんで?」


 こんな俺を実験しようとするイカレたじいさんに、敬語を使えと?Why?


「このっ……!ジェラルド博士といえば、この国で知らない者はいないほどのお方なのよ!こうやって話して

もらえるだけでもありがたいことなんだから!」


「へー」


 俺にとっちゃどーでも良い。まず、勝手に運ばれて来たのに話してもらえてありがたいとか意味分かんねぇ。


「ふぉっふぉっふぉ。そう言ってもらえるだけでありがたい事じゃ」


「ですけど、博士……」


 二人が話し合っている間に、部屋の中を見回してみる。表彰状やメダルがいくつも飾ってある。おお、国王みたいな王冠をかぶった人とのツーショットも!それとさっきの黒コートの話を合わせてみると、このじいさん、意外に偉い人らしいな……。ジェラルド……だっけ?どっかで聞いたことあるような名前だな……。


「さあ、実験を始めるかの」


 じいさんが手の平をぱんぱんと鳴らす。実験て……解剖?

 頭にばらばらになった俺の姿が浮かび固まってる俺に、黒コートが近づいてきた。


「網が邪魔で動けないの?ま、まあ、動けないのなら運んでやるわよ!その網を外して逃げられたら困る

し?」


 ふん、と鼻を鳴らしながらそう言うと、黒コートは俺を軽々と担いだ。うわ、力持ちだなー。いや、でもこんな俺と同じぐらいの背丈の奴に(しかも女!……だと思う)軽々と担がれるなんて、俺のプライドが……!


「おい、黒コート」


「ん?それ、私の事?」


「そうだ。下ろしてくれねぇか?あのじいさんのとこまでぐらい、自分で歩けるからよ。やっぱ、俺にもプ

ライドってもんがあるし?お前に担がれたくねぇんだよな、ぶっちゃけ」


「ふん、モンスターのくせにプライドだけは一人前なのね」


 鼻で笑いながらも、黒コートは俺を床に下ろしてくれた。……ただし、勢いよく、叩きつけるように。


「いってぇ!」


「落としてあげたわよ」


「俺は下ろせって言ったんだよ!」


 叫びながらも、芋虫みたいにのそのそと歩こうとする。


「あ、ちなみにー」


「何だよ」


 嫌な予感しかしない。


「あんた、まさか一歩でも動いたら刃が刺さるって、忘れてないでしょうね?」


 黒コートが神妙にそう言った時。俺は、もうすでに動き出していた。


「ぎゃーっ!」


「わざわざ教えてあげたのに、ばかね」


 痛がる俺の横で、くすくすと笑う。あのタイミングで言ったって、もう手遅れなんだよ!お前は鬼か!部下が部下なら上司も上司か!


「……怪力女」


「なによ!」


「ちょっ、悪かったって!だから蹴るな!やめろ!あぁ、刺さる!」


「ふん。それで、担いでほしいの?それとも、そのプライドを持って刺さりながら歩く~?」


 黒コートが意地悪そうに聞いてくる。決まってんだろ、そんなの。答えは一つだ。


「担いでくださいお願いしますこの通り」


「はぁ……。あんたのプライドって、紙よりも薄いのね」


 当たり前だ!命より大事な物なんて無い!


「おい、仲良くしてるのは良いが、さっさとこっちに来てくれんかの。実験が出来ないじゃろうが」


「はっ、はいっ!すみません!」


 黒コートが頭を下げる。そして、俺を担ぐと慌てて走り出した。


「では、まずは水中実験じゃ」


 そう言って、じいさんが歩いていった。黒コートも後をついていく。


「ここじゃ」


 じいさんが立ち止まったところにあったのは―――


「うわっ、すげぇ……」


「大きいですね……。ここに、こいつを入れるんですか?」


 そこにあったのは、でかい水槽だった。水があふれそうなほどいっぱい入ってる。高さ六メートルはあるぞ、これ……。


「ああ。ここに、そのモンスター(仮)を入れるんじゃ」


「おい、モンスター(仮)ってなんだよ、(仮)って。俺は純粋な人間だっつーの!つーか、こんなとこに

入れられたら死ぬって!」


「黙れっ!あんたに拒否権は無いのよっ!」


「差別だ、俺にだって人権はあるんだぞっ!」


「モンスター(仮)がなにをっ!」


「だからモンスターじゃねぇんだって!」


「(仮)をつけてやったじゃない!贅沢ねっ!」


「お主ら。さっさと実験を始めるぞ」


「はいっ!」


 黒コートは元気よく叫ぶと、俺を高く掲げた。まさか、俺を水槽に放り込む気か!


「おい、やめろっ!」


 俺があわてて止めるが、黒コートはそれを無視して俺を投げる。くるくるくるっと、フィギアスケーターもびっくりの回転を披露して、俺は水槽の中に飛び込んだ。おえ、酔った……。

 ジャッポーンッ

 勢いよく、水の中に入る。冷たっ!


「ごぼっ、ちょ、助けろって!おぼれるっ、死ぬっ」


 立ち泳ぎをしても、服が重くて沈みそうになる。やばい、ガチで死ぬ!


「お前ら!見てねぇで助けろって!ここの奴らは全員鬼なのか!お前ら殺人狂か!」


 とにかく助かりたくて叫ぶ。


「水で溺れるのか……。まさか、リオラのあの実験体が逃げ出して……いやいや、そんな事は……。でも……」


 じいさんが、ぶつぶつと呟いてる。おい、早く引き上げてくれぇっ!


「がぼっ、じいさん!リオラって奴が何だか知らねぇけどよ、実験はごぶっ、もうすんだんじゃねぇのか!がぼっ、は、早く引き上げろ!」


 水が、口に入ってくる。じいさんがこの叫びを聞いてくれなければ、俺は溺死体確定だ。溺死は、ものすごく苦しいらしい。嫌だ、助けろ!


「ふむ。よし、では引き上げて良いぞ」


「はいっ!」


 じいさんの合図で、黒コートが水槽に飛びこんでくる。それはもう、楽々と。そして俺の体が持ち上げられたかと思うと、そのまま水槽の外に出た。ぷはーっ、助かった……。


「じいさん!こんな実験、なんの意味があったんだ!」


「ふぉっふぉっふぉ。モンスターは水に強いはずじゃからのぅ」


「じゃあ証明できただろ!俺がモンスターじゃねぇって!」


「ふむ、そうじゃのう」


 じいさんはしきりにひげを触って、なんか考えてるみたいだ。なんだろ……。「どうしても分からないからいっそのこと解剖」とかになったら嫌だなぁ……。


「そうじゃのぅ。喋るモンスターなんぞ聞いたことがないし、水に入れたら溺れるときた。見た目はワシらに少し似てるしのぅ。リオラの事を知らないんだとしたら、意味が分からん」


 じいさんたちは、髪とか目の色が変だし、歯も尖ってる。耳も尖ってるし。でも、あとは俺とそんなに変わんねぇ。確かに、日本だったらコスプレ好きの外国人で通りそうだ。


「博士。一応生かしておいた方が良いのでは?」


「そうじゃのぅ。よし、このモンスター(仮)は檻にでも閉じ込めておくと良い」


「はいっ!」


「マジで!?」


 檻に入れられるのか、俺……。猛獣扱いだな……。


「そうと決まったら、行くわよ!」


「えー……」


 俺は、また引きずられて檻まで連れていかれた。


ここから、俺の長いか短いかよく分からない牢屋生活が始まるわけだけど。


俺は、絶対に、あの黒コートとじいさんに俺が人間だって認めさせてやる!







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