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桜木開花
[1 桜木開花]
五行相生、相克。
これを極めし者が願い奉る。
心理、真髄の理を知りつつも、無謀なる願いに身をゆだねる。
これ畜生と罵るか、真知と褒め称えるか、それは時の流れが決めるもの。
火は動を、水は静を、土は身を、金は命を与えた。
残されし木が揃いし刻、鬼の目覚めが訪れる。
それが五行を極めし者の望みし刻。
伝承にはこうある。
十万と九千五百の陽、十万と九千五百の陰が別ち日に、我らが神木に祈りを捧げよ。
さすれば、神木より人型の手現われ出でる。
大いなる力を求めし者、この手を掴み受け入れよ。
木の理を秘し鬼が開眼するであろうと。
それは遠い日の話。
そう、今から十万と九千五百の朝と、十万と九千五百の夜が別れを繰り返す前の話。
その翌春、三百年間花を咲かせなかった樹齢千年の桜の木は、盛大な花吹雪を天から降らせ、命の生誕を知らしめた。
伝承は現実に姿を変えようとしていた。
西暦1988年4月4日。
日本の時代年号で伍馬299年から物語は始まる。