第8話 英雄亭再建計画
「じゃあ、役割分担と仕事の流れを俺から説明します、良いですか?」
夕飯後、お茶を飲みながら、寛ぐメンバーに俺は話を切り出した。
「おお、良いぜ」
ダレンさんがOKし、他の3人も同様に頷いた。
「では、まず役割分担ですが、制作部がエドさんとドロシー。言葉と絵を作って貰います」
「任せてくれ」「頑張るよぉ!」
さっきの事があったので2人とも、やるき満々である。
「俺とセーファさんが営業と企画担当になります。ダレンさんはお客様でクライアントと言う事になります」
「クライアント?」
セーファスが頷き、ダレンさんが怪訝な表情を見せる。
「ああ、流してください、昔の癖なんで。じゃあお客様という事で!」
「で、何をやれば良いんだ?」
俺から客と言われてやっと納得したダレンさんが問いかけた。
「待ってください、ダレンさん。まずダレンさんの希望を改めて聞いた上で、提案の了解をいただきます。その上で現状の把握をし、問題確認とその解決案の立案をします」
「何だか難しそうだが、何でも聞いてくれ」
ダレンさんの頭の上には?マークが飛び交っているがとりあえず質疑応答をさせてくれる事になった。
「分りました、じゃあダレンさんのご希望、着地点はお店の売上げの回復とその継続。俺達はそれに繋がる提案をする事で宜しいですか?」
「ああ、それでいい」
よし、とりあえず提案の許可は得た。
これが無いと何も始まらない。
ただ業界的に言えば所詮は自主提案の了解を取ったに過ぎない。
文字通り、あくまでも自主的な提案であり、お金がいただける正式な契約では無いのだ。
「売上げ数字と利益の具体的な所は後で聞くとして、次に期間を設定します。とりあえず施策は1ヶ月間の実施としましょうか、巧く行ったら継続しての契約としましょう」
「それもOKだ」
「はい、では次です。この店の問題点の提起です。まずダレンさん自身の認識をお聞きしたいのですが?」
「う~ん、特に問題があるとは思えんが……」
首を傾げるダレンさんだが、そんな事は無い。
問題が無ければ閑古鳥など鳴かないのだから。
しかし、クライアントであるダレンさんにそんな事を言うのは広告会社の営業としては失格である。
「では何が足りないと思いますか?」
俺は言葉を言い換える事にした。
「何が……か、そうだな俺1人でやっていたから客を待たせる事が度々あったな」
「う~ん、人手が足りないという事ですか。誰か雇うとかは考えなかったですか?」
「俺は1人でやるのが性に合っているからな、全く考えなかった。客なんて待ってろって感じだったかな、がはははは」
あんたは我儘な子供か!
しかし、やはり直球を投げ込んでしまえば、こちらの負けである。
「逆にダレンさんがそんな店に行かれたらどうですか?」
「まあ、2度と行かないだろうな……むう、そうか! そういう事か」
「はい、そういう事です。業務の迅速化という問題が洗い出されました。後は接客の問題もあります。迅速さは勿論ですが、親しみ易く気持ちの良い接客が出来るスタッフを雇う必要があります」
「スタッフ?」
「済みません、店員いわゆる従業員です。次に料理の問題があります」
「セーファにも言ったが、俺は味には自信を持っている。どうこう言われたくないな」
聞く耳持たずと言う事か。
だけどここで引いては、いけないのだ。
「ダレンさん、お客様相手の料理というのはお客様あっての物です。ご自分が美味しいと思われるのは、確かに大事ですが、お客様がどんな味を求めているのか? どんな食材を食べたいのか? それらを考えた上で調理する必要があります」
「むう! けどよ……」
「ダレンさんが自分で料理を作れない事情が出来たとして、通う店がダレンさんの好みを無視する料理を出し続けたら、どうしますか?」
言い返そうとするダレンに俺は反撃を許さない。
ここは納得して貰わなければ!
「まずそんな店は行かねぇし、絶対に文句を言うな! 俺の言う事を全く聞き入れなかったらその店を粉々にするかもしれねぇ! ははっ! そうか!」
「はは、やっと分って貰えましたか? そう思う人が居ても、ダレンさんが怖いからそうしなかっただけかもですよ」
そこにセーファスが合いの手を入れた。
「言えてますね!」
「こら、黙れ! セーファ」
「と言う事で料理のレシピを再考しましょう。また前にも言いましたが仕入れる食材も増やして料理の種類も同様に増やしましょう」
「でもよぉ、それは赤字の問題が……」
そりゃ、赤字の心配をするのは当然だよな。
しかし、ここでダレンさんを不安にさせちゃいけないぞ。
「ええ、今の営業形態での効率のみを考えるとそうです。それで俺の提案ですけどランチをやりましょう」
「ランチ?」
「ええ、増やした食材の効率的な使用は勿論ですが、昼間の時間帯の新規顧客の開拓とその客を夜、呼ぶ為の物です」
「ランチ……か」
「ええ、人手の問題はありますが、それはさっきも話したので巧く折り合える筈です」
「分った、やってみよう。しかし営業時間の調整は必要だな」
ダレンさん、ランチの提案は納得してくれたみたいだ。
「仰る通りです。料理に関しては我々を含めて、お客様を想定してモニター調査をかけましょう」
「モニター?」
ああ、また言ってしまったけど、まあ良いか。
「実際にお客様に近い条件の方、何人かに意識調査をして、その上で好みなどを確り聞いて、出す料理を決めましょう。現状の料理に関しても好感度を調査します」
「慎重だな、そこまでしなくても良いんじゃないか?」
「ダレンさん、俺は―――いや、俺達はプロです。少しでもリスクを少なくしてダレンさんの店を繁盛させる為にやれる事はやらなくちゃいけません、これくらいは当たり前ですよ」
「ふ~ん、俺はそこまでしなくても良いと思うけどね」
駄目駄目!
ここはダレンさんのプロ意識を呼び覚まそう!
「俺はダレンさんの過去は詳しくは知りません。 ……1流の冒険者だったそうですが、依頼を受ける時もそんな生半可な気持ちや準備で受けていたんですか?」
「むう!」
「たかが料理だからと思って舐めちゃいけません。料理でも冒険でも全く一緒です。それにダレンさんはこの店を成功させたいんでしょう。だったら打てる手は全て打ちましょう」
「分ったよ、タイセー。済まなかった」
よかった!
やっぱりプロって事に今後とも拘って貰おう。
「ではいよいよ広告の検討です」
「広告?」
「今回で言うとダレンさんの店と料理を広く世に知らしめ、購入、つまり店で飲み食いして貰う事になります」
「成る程……広く告げるで、広告か!」
うん、ダレンさん何となくだが、広告の必要性を理解してくれたみたいだ。
「広告を表現するには媒体が必要になります」
「表現? 媒体?」
「表現はエドさんの詩とドロシーの絵で行います。これを組み合わせてダレンさんの店の紹介をするんです」
「う~ん、分らん。何か、ピンと来ないんだよ」
「表現は出来たらお見せしますよ、大丈夫です。……次に媒体ですが、その絵を貼ったり、いろいろな人が見るものを知っていますか」
俺の問いに対して、手を挙げたのはセーファスである。
「貼るのは冒険者ギルドとか、良いんじゃないかな、あ、そうだ良い事思いついたぞ!」
「セーファさん、何か思い浮かびましたか?」
「絵を貼るのは勿論、冒険者ってギルドカードを持っているんだ。そのカードを持って来たら割引するとか? どうかな」
「セーファさん、それナイスです。取り入れましょう。但し、ギルドの了解を取らないといけないですよ」
「ええっ!? そうなの?」
吃驚するセーファスだが……許可を取るのは普通、常識でしょう。
「当然です。交渉は俺がやりますけど、ダレンさんには冒険者ギルドへの口利きをして貰います」
「ええっ、ギルドかよ! 俺、あまり頭を下げたくないけどなぁ」
「甘えないで下さい。何の伝手もない俺ですよ。ダレンさんの口利きが無くていきなり相手がOKするわけないでしょう」
「…………」
黙り込むダレンに対して俺は念押しをする。
「ダレンさん、本当にお願いしますね、次はこの王都で誰でも見る物、読む物は無いですか?」
今度はエドが良い情報を教えてくれた。
「おう、タイセー、誰でも読むものならパーシヴァル・タイムズって瓦版があるよ」
「瓦版?」
「毎朝、中央広場で売っているんだ、1枚につき銅貨1枚でさ。でも最近経営不振だって言うよ。良い噂は聞かないな」
「ありがとう、エドさん」
これで大体、準備は整った。
必要な資金は王家から貰った金で俺が立て替える。
ドロシアの罰金などを払ってだいぶ目減りしたが、俺がまた稼げば良いのだ。
俺は更にどんな施策が良いのか、ひたすら考えるのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。