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第5話 犬耳美少女の下手うま絵描きと知り合いました

 パーシヴァル王国王都エルドラードの街は今日も活気に溢れていた。


「俺達の1日の生活は御天道様あっての事と言っても過言じゃないねぇ」


 ダレンさんが遥か彼方の教会の塔を指差す。


「あの教会の鐘が朝5時に鳴るのさ。いつも俺は4時には起きて5時の鐘が鳴るのと同時に市場が開くから1番乗りで良い食材を仕入れているんだよ」


「だったら、もう少し美味い料理を出そうよ、ダレンさん」


「うっせ~、てめぇ、セーファ! だったら食うな!」


 セーファスの突っ込みに怒鳴り声で吼えて返すダレンさん。

 しかし、急に真顔になると酷く疲れたような顔をして俺に対して笑いかける。


「でもよ、あれだけ客が入らねぇと、セーファの言う事も満更、嘘じゃないかもなとも思うんだよ」


「やっと分ったかい、ダレンさん」


 真顔のダレンに更に茶々を入れるセーファス。


「うっせ~! 俺は今、タイセーに聞いているんだ。よう、タイセーどうだい?」


 セーファスを軽く殴る真似をしたダレンは改めて真剣な表情で尋ねて来た。


「ダレンさんの料理は美味しいとは思いますよ」


「けえっ! どうだい、セーファよぉ!」


 俺の言葉に親指を立てて勝ち誇るダレンさん。

 しかし、まだ話は終わりではない。


「でも!」


「おっ? 何だよ?」


「ダレンさんの料理は種類が少ないし、ご自分の満足する料理だけ作っていてお客さんの好みを考えていないんです」


 ここで引いてはいけない。

 俺はずばりと直球を投げ込んだ。


「な、な、何だとぉ! 俺の店の事情も知らないでよぉ!」


「メニューを増やすとコストが上がってしまうのは分ります。でも肉料理が2種類、豆料理が2種類、サラダとスープが日替わりで1種類ずつ、後はパンと酒じゃあ客が飽きますよ」


「くくく!」


「仕入れる食材を増やしましょう、そして新しいレシピを入れて、今の料理も見直すんです」


「ば、馬鹿野郎! そんな事したら赤字が更に膨らんじまう!」


「落ち着きましょう、ここで俺がダレンさんと口論しても仕方ないし、お互いが不幸になります。街の見学が済んだらゆっくり説明しますよ」


「く、糞っ! ふ、不愉快だ!」


 ダレンは、はっきり言わないが、元冒険者らしい。

 元々凄みのある顔だが、怒ると更に悪魔でも逃げ出しそうな迫力である。

 激高したダレンを見てセーファスもエドも完全に怯えていたが、俺は不思議に動揺していない。


 何故だろう?


『ははっ!』


 どこかで耳障りな笑い声が聞こえた気がした。

 どんな時も平常心? これが俺への加護?


『良いだろう? 君のこれからの仕事に実用的でさ』


 今度は、はっきりとあの少年、エクリプスの声が聞こえたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 エクリプスって言ったな、単なる案内人なんて嘘じゃないか!


『いやいや、僕は単なる案内人さ。親父である創世神が全ての物事を決めるんだからさ』


 でも―――この展開は酷いじゃないか?

 俺は王家から目の仇だし、生きていく上の手段だって無い。


『ははっ! 勇者なんかにならなくてよかったじゃないか。堅苦しい生活だし、下手して用済みになりゃ消されるよ』


 で、でも!


『勇者に巧い事言って近づいて来る胡散臭い奴等なんかより、素晴らしい仲間も出来そうみたいだしね。生活の手段も巧く行く予感もあるんだろ』


 そ、そりゃ……


『ははっ! 僕は基本的には君の幸せを祈っているからさ。じゃあね~』


 あ、ま、待て……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おい、どうしたよぉ? 気分が悪そうだぜ。そこのベンチに座って休むか?」


「タイセー君、大丈夫ですか?」「お~い、タイセ~」


 気が付くとダレン、セーファ、エドの3人が俺の顔を覗き込んでおり、俺は尻餅をついて座り込んでいる状態だった。


「歩いていて、いきなり座り込んだんで心配したんですよ、タイセー君」


「ああ、大丈夫だ」


 俺は立ち上がると3人に心配しないようにと手を横に振った。


「ダレンさん、気持ちは分りますが、タイセー君は貴方の為に考えているんですよ、少しは冷静に話を聞いたらどうですか?」


 セーファスがダレンさんを宥めるが、ダレンさんは謝りながらもまだ俺の話に納得しないらしい。


「す、済まねぇ。だけどよ、あまりにも現実的じゃねぇからさ」


「そう思っても、まずタイセー君の話を全部聞いてからにしましょうよ、ね?」


「わ、分った。確かにそれは道理だ」


 激高していたダレンもやっと落ち着いたようだ。

 俺が立ち眩みしたのが、怪我の功名になったのか?

 まさか、これも加護とか言わないよな。


 俺達は中央広場に向かう。


 ここは周囲を正規の店舗が立ち並ぶのは勿論、露店や行商人が敷物を敷いて商品を並べて市民に売っていたりするのだ。


「この街は正門から中央広場を中心として王宮が反対側の1番奥。右手前に冒険者ギルド、そのその向かい側に衛兵隊詰め所、左奥に教会が建っているんだよ」


 ダレンさんが説明してくれて、俺はおのぼりさんのように辺りをきょろきょろ見回す。


「左手前が商業者ギルド、そして職人通りさ」


 その時、中央広場の一画で喚声が上がる。


「何でぇ? 喧嘩か?」


「行ってみましょう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こんな気持ち悪い絵を描きやがって、金取るってのか?」


「き、気持ち悪くなんか、あ、ありません。お、お客様の、と、特徴を捉えた良い絵です」


「はあ~、何だと!」


 野次馬を掻き分けてみると、そこには冒険者らしい戦士風の男と1人の犬の獣人らしい少女が言い争っている。


「似顔絵屋だな」


「似顔絵屋?」


 俺が同じ職業名を言い返すとダレンさんが渋い顔をして頷いた。


「道行く人に声を掛けて似顔絵を描いて売りつけるんだ。気に入った絵を描けば客からチップも入るが、逆だと……」


「こうなっちゃうんですね」


 似顔絵屋の犬耳獣人少女が口答え? したので戦士はますます激高した。


「この餓鬼ぃ! 丁度良い、てめぇ、奴隷に売り払ってやる!」


「あ、あたしは、ど、奴隷ではありません! れっきとしたエルドラード市民です。市民証も持っているんですから!」


「ふざけんな! この犬獣人風情がぁ!」


 戦士が拳を振り上げようとしたその時である。


「もうやめろや、それ以上やると俺が相手になるぜ!」


 辺りに響き渡る低く通る声。


「な、何ぃ!? あ、てめぇ……いや、貴方は」


 見ていた野次馬からもどよめきが起きる。


「ダレン・バッカスだ!」「あのダレンが!」


 俺とセーファは群集の反応に呆気に取られていた。


「おい、エドさん?」


「何だい? タイセー」


 俺は吟遊詩人のエドにダレンの素性を知らないか尋ねてみた。

 あの群集の反応は普通ではない。


「ダレンさんって、そんなに凄い人なんですか?」


「ええっ!? 君達、知らないで彼と話していたの?」


 エドは俺達を不思議な目で見た。


「え?」


「彼はかってのAランク冒険者さ。確か2つ名も持っていた筈だよ。まあ怖い人だけど冗談は分る人だから、それを承知で料理が不味いとか、かましたんでしょう?」


 意外である。

 元冒険者で只者では無いとは思っていたが。

 セーファスに受けたこの世界の講習によれば英雄級と呼ばれるSには及ばなくてもAは凄腕と言われるスーパーがつくプロフェッショナル級のずば抜けた実力者なのだから。


 加えて滅多に居ない2つ名持ちである。


「あの……セーファさん、今までの態度……不味まずくないですか?」


「あのタイセー君、僕、逃げても良い?」


 料理を散々、貶したセーファは顔面蒼白、早くも逃げ腰であった。


「駄目ですよ……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「本当にありがとうございましたっ!」


 犬の獣人少女はさっきからお辞儀をしっぱなしである。

 戦士はダレンさんを見ると戦意喪失して、一目散に逃げ去ってしまったのであった。


「良いって事よ」


 ダレンさんは面倒くさそうに手を横に振る。


「ちょっと戦士を描いた似顔絵を見せてくれる?」


 俺は彼女の絵が気になって見たくなったのだ。


「ぷん、酷いんですよぉ、あの親爺! ちゃんとそっくりに描いたのに!」


 彼女が提示する似顔絵をじっと凝視する4組の瞳。


「ああっ!」「こりゃあ」「そうだな」


俺以外・・・の声が同じ調子で重なった。


「ひでぇ、絵だ!!!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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