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最終話 こちらは異世界広告社です!

「貴方がもし伝説の勇者だったら、我がパーシヴァルは救われていたのです」


 ヴィクトリアは俺を睨みながら非難の言葉を続けた。

 でもそれってどうだろう?

 先程のバルフォアもそうであったが、王家の人間と言うのはどうも責任転嫁が酷過ひどすぎる。

 第一、召喚魔法などは水物だ。

 成功か、失敗か、発動だけでも賭けであるのに何故俺だけが責任を負うのだろう?


 あのような年寄り相手に大人気ないと思いながら、先程バルフォアをぶん殴ったのは理由があった。

 余りにも人任せで自分の力で運命を切り開こうとしない馬鹿さ加減に怒りを感じたからである。

 目の前のこのお姫様も同様だ。


「そこまで言うのなら聞きましょう。貴女はもし俺が勇者だったら、一体何をさせようとしていたのですか?」


「そ、それは……北の国ロドニアで暴れている凶悪な竜の退治とか、ヴァレンタイン王国で行う各国合同の武技大会で腕前を見せて傭兵として赴くとか……ともかく、我がパーシヴァルの名において他国に貢献し、借金を帳消しにして貰うのですわ」


「「はぁ!?」」


 何それ!?

 何と安易且つ短絡的な考えなんだ。

 この子は世間知らずにもほどがある。


 ヴィクトリアの言葉を聞いて俺はともかく、ヴァレンタインの貴族育ちであるリリアーヌでさえ呆れて大きく目を見開いていた。

 

 この国の勇者とは名ばかりで結局、便利屋の使い捨てじゃあないのか?


「ヴィクトリア様、それはいかがなものでしょうか?」


 ここで口を挟んだのがリリアーヌである。

 さすがに黙っていられなくなったのに違いない。


「ボクはヴァレンタイン王国の人間で、パーシヴァル王国の人間ではありません。しかし敢えて言わせて頂きます」


「な、何ですか!? ぶ、無礼な!」 


 ヴィクトリアはリリアーヌの剣幕に思わずたじろいでいる。

 しかし俺が居るせいか、少しはブレーキが掛かっているようだ。


「建国の祖である勇者バートクリード様の再来がもし現れても、王女様の仰るように便利屋みたいに使うなど、我が国では絶対にしませんよ。勇者とはもっと神聖かつ尊敬される存在ですから!」


「…………」


 リリアーヌの言葉を聞いて、黙り込んでしまったヴィクトリアに俺は再び問う。


「パーシヴァル王国が消滅したら、一体どうなるのですか?」


「……現在の債権者筆頭はヴァレンタイン王国です。この国はヴァレンタインのひとつの地区として吸収されるでしょう。地名くらいは残るでしょうが、パーシヴァルと言う国は消えてしまうのです」


 俺はその取り決めを聞いて少し不安になった。

 街の民は一体どうなるのであろう。


「住んでいる人々は?」


「そのままヴァレンタイン王国の民になります。私に取っては死ぬほどの辛さですが、パーシヴァル人という人種は存在しなくなるのです」


 それを聞いて俺は少しホッとした。

 いにしえの戦争では負けた街の市民は全て奴隷という悲惨な例があったからだ。

 民族としてアイデンティティ喪失の危惧はあるが、まずは人として真っ当に暮らす事は出来るのである。


「王女様……改めて言いますけど、このままでは国は救えません。もっと根本的にこのパーシヴァルを良くして行かないと」


「根本的に?」


「国の力ですよ。国が富んでいれば借金もいずれ返せますから」


 しかしヴィクトリアは複雑な表情のままだ。

 俺の話が納得出来ないに違いない。

 こうしていても埒が明かない。

 俺は話題を変える事にした。


「で、本題に入ってくださいますか?」


 よくよく考えてみればヴィクトリアから本日呼ばれた用件を聞かされていない。


「私の召喚によって異世界から呼んだ勇者の行く末を見届けろと言われました」


「勇者の行く末を見届けろ? それって誰に?」


「エクリプス様に決まっていますわ。偉大なる神は初めて私のような小さき者にお声掛け下さったのです」


 おいおいおい!

 あの~、また面倒臭い事になりそうだぞ。


『ふふふふふ、良いじゃあないか。リア充爆発、ハーレム万歳!』


 あ、待て!

 また面白がっているな!?


 エクリプスはまた言いたい事だけ言うと即行で帰って行った。


「……でもさ、王女様。見届けるって貴女どうするの?」


「借金は国土を委譲し、王家の財宝を売って清算します。父は僧院、母は修道院へ行きますの。部下達、家臣団は退職金を払って解散ですわ」


 むう……それでバルフォアの爺さんが、やけになって突っかかって来たのか?

 で、ヴィクトリアはどうするの?

 もしや……嫌な予感。


「私ヴィクトリアは神様の啓示なら喜んで貴方のお嫁さんになりますわ」


 おいおいおいおいおい!


「貴女、王族じゃあないか。ヴァレンタイン王国から縁談くらいあるだろう?」


「ええ、ありましたけどエクリプス様の啓示と伝えましたら、即OKでしたわ。貴方のお嫁さんになる為に王族を捨てて平民になりました」


 ヴィクトリアはもう全て準備を整えているらしい。


「でもさ、俺はもうこの子も含めて4人も嫁が居るよ、良いの?」


 俺はリリアーヌを指差して言うが、ヴィクトリアはそれも織り込み済みのようだ。


「全然OKですわ!」


 あちゃ~、こりゃもう駄目だ。

 逃げられないや。


 ここまで来たら俺はもう覚悟を決めて可憐なヴィクトリアの顔をじっと見詰めていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――3ヵ月後


 ヴァレンタイン王国の新生パーシヴァル郡エルドラドの街において、魔法による最新システムが完成した。


 無論、我がエクリプス広告社にも完備される。

 これは前世で言えば『電話』であった。

 魔力により遠方の人間と自由に話が出来るのだ。

 

 俺はこの魔道具の話を聞いた時、直ぐ導入を決めた。

 ちなみにそのスタートが今日なのである。


 さあ導入開始の時間だ。


 早速、電話に良く似た木製の魔道具が鳴り響いた。

 多分、問い合わせの連絡を入れて来た顧客に違いない。


 それをすかさず『取った』のはヴィクトリアである。

 最初は他の嫁達と微妙な距離感があったヴィクトリアだが、今はすっかり仲良しになった。

 やつれていた容姿も、俺の愛情とダレンさんの美味しい食事で元の通り健康で美しくなったのだ。


「はい! こちらは異世界広告社、いえ! 失礼しました! エクリプス広告社です!」


 いきなり間違えてぺろりと舌を出すヴィクトリアの姿を見て、俺や見守っていた嫁達から明るい笑い声が響いたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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