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第47話 責任の転嫁

 『オルヴォ・ギルデンブランドショー』と『北の国ヴァレンタイン展』が終わって2年……

 我がエクリプス広告社は更なる発展を遂げ、仮社屋?だった古い宿屋を引き払い、パーシヴァル王国王都エルドラードの中央広場付近に新社屋を構えていた。


 現在の我が社の業務は多岐に渡る。

 新設部署は更に増えたからだ。

 本来の広告業務部は勿論、ジュリアンの仕切るイベント部、カルメンの仕切る芸能部、ドロシーとエドの仕切る制作部に加えて、ケルトゥリの仕切る新聞出版部という部門が出来て、新聞の発行と書物の製作という部署が加わった。

 こうなると、依頼された仕事は基本的にジャンルを問わず受けるという組織になった。

 まるで前世の総合広告代理店並の多忙さだ。


 これ以外にもダレンさんの店で実績を作った経営アドバイスのコンサルタント部もあり、社員も一気に増えて全部で100名を超えるまでになった。

 新築した4階建ての白亜の社屋には引っ切り無しにクライアントや協力者が訪れ、中央広場でも突出した活気に満ち溢れた場所である。


 元々、この場所はケルトゥリが勤めていたパーシヴァル・タイムズ社の社屋があった場所だったが、社主であり、発行人のベンジャミン・ミラードは失踪して行方知れずとなってしまった。

 残った借金の清算に債権者達はこの土地を競売に出したのは言うまでもない。

 丁度、新たな社屋を探していた俺達が渡りに船とばかりに購入したのである。


「社長! 宜しいでしょうか?」 

 

 現在、俺の秘書を務めるリリアーヌが社長室に入って来た。

 

「パーシヴァル王家から至急、王宮に来るようにと使いの方が参られました」


 何だろう?

 屑勇者として追放した俺にもう用は無い筈だ。

 税金だってちゃんと払っている。

 俺と同じ気持ちだったらしくリリアーヌも首を傾げる。


「社長、王家から呼ばれるお心あたりはあります?」


「う~ん、今更無いなぁ」


「そう……タイセー、何だろう。ボク心配だよ」


 今では俺の妻の1人になったリリアーヌ。

 

 彼女は秘書の立場から妻の立場へ口調を変えて、心配そうに言う。

 4人の妻達へは、俺が神エクリプスの使徒で、この世界に来た異邦人である事を伝えてある。

 俺を勇者として召喚したのが王家のヴィクトリア王女だという事も、だ。


 そのパーシヴァル王国だが最近、良い噂を聞かない。

 

 俺を召喚した時が最後のチャンスという感があった。

 ようは『勇者』を呼び出してその力に賭けていちかばちか国の復興を狙ったようだが、召喚出来たのが常人の能力しか無かった俺なので一気に国力が落ち、傾いたらしい。


 以前、ダレンさんの店でスタッフ募集をした時もそうである。

 

 リストラされた王宮の女性達から応募があったのを見て、これは危ないなと気にはしていたのだ。

 パーシヴァル王国はこれといった目立った産業が無い為に税収もジリ貧で周囲の国からの借金で国を運営していたらしい。

 いわゆる自転車操業だ。

 借金で得た金をつぎ込んでも経済が復興せず、パーシヴァル王国は谷底へ転がり落ちるように財務状況が悪化していったという。


 ただ国の状況とは関係なく、俺達の仕事は国の内外を問わず多くの発注があったし、少しでも貢献出来ればと稼いだ分の税金はしっかり払っていたが、多分そんな金額では焼け石に水だったのだ。


「まあ、とりあえず王宮へ行って来る」


「ボクも一緒に行くよ。他の人は出払っているし……」


 リリアーヌが同行を申し出た。

 彼女の言う通り、他のメンバーは業務で忙しいし、秘書役の彼女に同行して貰っても不思議はない。


 俺は万が一の時の『酔拳』発動を考えて、ワインを入れた水筒を懐に忍ばせて王宮へ向ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 王都中央広場の真ん中に王宮はある。

 ここに来るのは、この異世界に召喚された時以来であった。

 役立たずとして放逐された場所に良い思い出などあろう筈はない。


 ……王宮は碌に人が居らず閑散としていた。

 あれからリストラにリストラを重ねて殆ど人が居なくなったらしい。

 その意味では魔法省をさっさと退職してダレンさんの店へ転職した魔法使いのブリジットさんは賢かったといえるだろう。


 今日、俺を呼んだのはヴィクトリア王女だと聞いている。

 俺とリリアーヌは手を繋いで王宮の奥へ進む。

 先導するのは老いた騎士1人であり、これが現在のパーシヴァル王国を象徴しているようだ。


 やがて俺達は王女の私室の入り口へ到着した。

 ここで案内をした騎士は引き下がって行く。

 扉の前では俺が召喚された時に居た、バルフォア宮廷魔術師長が憎悪の篭もった目で俺を睨みつけている。


「王女様が……お待ちだ」


「ああ、じゃあ通らせて貰うぜ」


 バルフォアの前を通り過ぎる時、彼は怨嗟の声で俺を罵る。


「き、貴様さえまともな勇者だったら、この国は救われていたのに……エクリプス様の使徒でなければ叩き殺してやりたいくらいだ」


「こ、この爺!」


 余りにも酷いバルフォアの言葉に激高したリリアーヌが殴り掛かろうとするが、俺は彼女の腕を掴んで止めた。

 そして怒りに燃える痩せこけた老人へ言ったのである。


「俺も屑勇者だったかもしれないが、爺さんよ、お前もどうしようもない奴さ」


「ななな、何! 殺してやる!」


 魔法使いなのに怒りの余りに我を忘れて掴み掛かって来たバルフォアであったが、俺は軽く顔面に拳を入れた。

 まともに魔法を使われたら不味いが、王宮での攻撃魔法はご法度なのであろう。

 俺も相手が年寄りなので気絶するくらいに加減はしてやる。

 放逐された時は怨みもしたが、現在幸せに暮らす事が出来ているのは処刑されなかったお陰かもしれない。

 俺は呆気なく気絶して、ぶっ倒れたバルフォア老人の姿を見て、溜息を吐いた。

 そして彼をそのままにして、王女の部屋の扉を開けたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「爺やに何をしたのです!?」


 ヴィクトリア王女は暫く会わないうちに大分やつれていたが、大きな声で俺を非難した。

 扉の外の様子はしっかりと聞えていたらしい。


「ああ、いきなり殴りかかって来たので正当防衛で撃退させて貰った」


 俺はしらっと返事をした。


「な、何という事を!」


「仕方が無いだろう? こちらには妻も居るんだ。守らなきゃいけないのさ」


 憎しみの眼差しを向けるヴィクトリアを俺はじっと見詰めた。

 逆に俺の視線に気圧されて彼女は数歩下がってしまう。


「そ、それはそうですが……」


「それより今日、俺を呼んだ用件を早く言って欲しいんだ。こう見えても忙しい身なのでね」


 俺がそう言うとヴィクトリアは「はあ」と溜息を吐いて俺達に座るように勧める。

 勧められた肘掛付き長椅子ソファに座ると俺達は正面から見つめ合った。


「パーシヴァル王国は、もうおしまいです」


 ヴィクトリアは、ぽつりと呟いた。


「でもこの王都エルドラードは大層な賑わいじゃあないか?」


「いくら賑わっていても肝心の国はもう駄目なのです。各国にお金を借り過ぎました」


 そうか……

 この国も俺の前世の国みたいに借金で国を運営していたのか。

 俺は詳しい事は良く分らないけど、そんな事を続けて行くのが良くない事だけは理解出来る。


 このパーシヴァル王国は借金で破綻はたんしたのだ。

 その時であった。


「こうなったのは貴方のせいです。勇者として失格だった貴方の責任です」


 先程のバルフォアのようにヴィクトリアは俺に怒りの矛先を向けて来たのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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