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第45話 ファッションショー、そしてカミングアウト

 俺が裏カジノに乗り込んでから1ヵ月後……

 回復した俺は仕事に復帰、キングスレー商会から受注した仕事の準備は順調に進んでいる。

 そしてイベント会場の最終確保や実施の確認、それに伴うイベント開催の準備で俺達エクリプス広告社の面々は奔走していた。


 その後の、あの事件の顛末だが……

 

 俺は裏カジノの連中を1人も殺さなかった事が決めてとなり、過剰防衛という名目の厳重注意だけで済んだ。

 元々は違法な事をやっていた相手なのでダレンさんが身内の救出と衛兵への捜査協力という理由をつけてくれたのである。

 ジュリアンはブリジットさんの適切な処置と強力な回復魔法、そして自らの強靭な生命力もあって死の淵から生還する事が出来た。

 あの時、俺が助けに来た事は薄れ行く意識の中で覚えていたようで意識を取り戻すと俺の名を呼んで子供のように号泣した事を付け加えておく。


 今、俺達はケルトゥリが許可を貰って来た建物の壁面に大きな看板を掲出する作業をしていた。

 俺の前世で言えばよく電車の駅中で見かける3m×4mサイズのボードである。

 当然、こちらにある素材で作ったものだ。

 それを4つ……内容は今回のキングスレー商会のイベントの告知であり、イベント終了後は違うお客さんの商品広告が入るよう既に契約を取り交わしている。

 道行く人は見た事のない看板に仰天し、興味深そうに見守っていたがダレンさんの不敵な笑みを浮かべたドロシアの素晴らしい絵が貼られると大きな歓声が上がった。


 この1ヶ月、ドロシアはこの絵や他のイベント関係の大量の絵を仕上げる為にてんてこ舞いの忙しさであった。

 

 だがついている時は幸運が重なるものだ。

 

 以前、ドロシアの絵を購入した者や冒険者ギルドに掲出された絵の評判を聞きつけて若い女性が何人も彼女に弟子入りを志願して来たのである。

 その娘達は皆素晴らしい絵の才能を持っていてドロシアの大きな助けとなり、それはすなわち我がエクリプス広告社の製作部門の大幅な人材強化と質の向上に結びついたのだ。

 ちなみに吟遊詩人のエド・マグナーテンがそのうちの1人の娘と恋に落ち、大恋愛の末に結ばれるのであるがそれはまた別の話……


 俺達はその日1日をかけて看板全てを掲出した。

 広告内容の連絡先がキングスレー商会になっていた為にその日からイベント開催の日までいろいろな方面から問合せが絶えず、良い意味でマルコは嬉しい悲鳴をあげたそうである。

 ドヴェルグの鍛冶師オルヴォ・ギルデンとの間柄も例の事件のせいもあって俺達との結びつきは益々強くなった。

 多くの飾った言葉よりも身を捨てて尽くしてくれる行動に人の心とは感じるものなのだ。

 マルコから部下としてつけて貰った人間族の鍛冶職人だけでなく、評判を聞きつけた同じドヴェルグの鍛冶職人が集まり、ファッションショー用の商品の製作は予定通り順調に進んだのである。


 英雄亭はというとダレンさんはモデルの準備は勿論だが、サブイベント『北の国ヴァレンタイン展』の方にもとても気合が入っているようで今から食材の確保に抜かりが無いように方々に手配を怠らない。

 ちなみに料理に関してはブリジットさん及びセーファスとエマの夫婦がダレンさんを大いに助けている。

 ヴァレンタインはワインやエールの産地としても名を馳せているので当日は冷えた酒を楽しむ人も多くなりそうだ。

 そうなると人手も足りなくなるからと、アデリンさんは元の職場であった冒険者ギルドに依頼をした。

 確保できたスタッフを英雄亭の通常の仕事をしながら、当日の運営と警備の訓練をカルメンと共に行い大忙しの日々である。


 リリアーヌはモデルとしてのデビューに向けて製品の着こなし、歩き方を猛特訓していた。

 カルメンの仲間である黒い薔薇ロサネグラの女性達が彼女に同情してダンスの手解きをした所、何と素晴らしい才能を発揮したらしい。

 日々疲れ果てて帰って来るが、俺に向ける笑顔はやりがいと感謝に溢れている。


 そんなこんなであっという間に時は過ぎ、いよいよイベント当日がやって来た。

 その日は開場前から中央広場は多くの人で賑わい、ステージと英雄亭の周辺にはヴァレンタイン王国の食材販売と軽食を売るテントが建ち並んだ。

 会場付近だけでなく他の多くの店も盛況であり、このイベントが原因でエルドラード全体がお祭りのように盛り上がっている。 

 それから時間が迫るに連れてファッションショーの会場は押すな押すなで人が溢れんばかりになったが、事前のアデリンさんのアドバイスと万全な警備のおかげでトラブルも無く開始する準備が出来た。


 そしていよいよファッションショーの開始時刻になる。


 マルコが招いたヴァレンタイン王国の王宮楽隊によりこのパーシヴァルとヴァレンタインの軽快な音楽が鳴り響く中、いよいよショーは始まった。

 まずは前座としてカルメンが率いる黒い薔薇ロサネグラ達の情熱的なダンスが披露される。

 その中には何とリリアーヌも混じっていてひと際目立つ動きで人々の注目を集めていた。


 やがて楽隊の曲目が変わり、黒い薔薇ロサネグラが引っ込むと獣人の可憐な美少女であるドロシアが可愛い革鎧、アールヴ絶世の美女ケルトゥリが美しいデザインの革鎧を着て現れる。

 メイクもばっちりされた2人はとても美しく、彼女達がしなやかな肢体や腰を情熱的な仕草で歩いて見せると会場の男達の熱い視線が一斉に注がれる。

 やがて2人は俺に気付いて手を振り、片目を瞑ったので熱い視線を注いでいた男達はそれが誰に向けられたものなのか、躍起になって探す始末であった。


 ドロシアとケルトゥリに代わって現れたのがアデリンさん、ブリジットさん、そして先程までダンスを披露していたリリアーヌであった。

 アデリンさんはベテランの女性冒険者が着用するような機能的な革鎧、そしてブリジットさんは彼女らしい豪華で美しい法衣ローブを着て登場すると会場からは喚声が上がる。

 王都の人に名前と顔を知られた2人が手を振ると人々はひと目見ようと身を乗り出した。

 その絶妙なタイミングでアデリンさん達は凛々しい魔法剣士の格好をしたリリアーヌを前面に出したのである。


 美少年か? 美少女か? 

 どちらともとれるリリアーヌの妖しい美しさに観客は息を呑んだ。

 そしてそのどよめきは地鳴りのように会場に響いたのである。


 3人がステージの裏に引っ込むと楽隊の音楽は重厚感のあるものにいきなり変わった。

 いよいよ今日の、このショーの主役ダレン・バッカスの登場である。

 その時であった。


「ダレ~ン!」


 会場の誰かがダレンさんの名を大きな声で呼んだのだ。

 その声が引き金となり、何人もの人が拳を振り上げて彼の名を呼び続ける。


「ダレンッ! ダレン!」「ダレン、ダレン」


 やがて会場に居る殆どの人間がいわゆる『ダレンコール』を声の出る限り出し続けたのだ。

 暫くすると頑丈そうな革鎧を身に纏ったダレンさんが現れ、その激しいダレンコールの中、逞しい巨体をのっしのっしと動かしてステージ中央に歩いて来る。

 その顔は一見むっとしたような無愛想なものであったが、俺には自分を慕ってくれる人達の思いを一身に受けるダレンさんの感謝の気持ちが垣間見えたような気がしたのだ。

 ダレンさんは手も振らず腕を組み、辺りを一通り鋭く睥睨するとひと言も発さずにステージの奥に消えて行く。

 その間もずっと『ダレンコール』は続いている。


 さあここでこのショーのフィナーレだ。

 またもや楽隊の音楽が変わると異国情緒たっぷりなヴァレンタイン王国の物に変わり、キングスレー商会のマルコと鍛冶師のオルヴォが並んで登場した。

 観客からはショーを行ってくれた感謝の気持ちなのか拍手があちこちから起こる。

 

 やがてマルコの挨拶が始まった。


「皆様、本日はこの『オルヴォ・ギルデンブランドショー』と『北の国ヴァレンタイン展』にご来場頂きありがとうございます。今後当キングスレー商会は今迄ご覧になった彼の作品や今、皆さんがお召し上がりになっているヴァレンタイン王国の美味しい食材を取り扱い、このパーシヴァル王国に貢献して行きたいと考えております」


 ここでマルコはひとつ咳払いをして話を続けた。


「その貢献の第一弾としまして今迄皆様がご覧になったオルヴォ・ギルデンの作品をチャリティ・オークションという形で皆様に提供したいと思います。なおこの売上げはある所に寄付される予定ではございますが、その説明は改めて今日の主役ダレン・バッカス氏より説明して頂きます」


「ではどうぞ」とマルコの合図と共にダレンさんを先頭にしてモデル達が再びステージ上に再登場する。


 その中から指名のあったダレンさんが中央に進み出てマルコの隣に立ったのだ。

 ここで観客はダレンさんの意外な姿を見る。

 何と彼は観客に向って深々と頭を下げたのだ。

 観客は何だろうと吃驚している。


「皆さん、今日はお集まり頂いて感謝している。俺は口下手だから手短かに言おう」


 しんと静まり返った会場でダレンさんの声が響く。


「初めて話すが……俺は孤児だった。親の顔も知らず辛い思いをして育ったが、死なないで済み、何とかこうして店を持てるまでになった。それはこの王都にあるエルドラード孤児院のお陰だ。そして今も俺みたいな餓鬼……いや子供がたくさん居る」


 ダレンさんはふうと息を吐いた。


「俺は微力ながら孤児院に店の売り上げを寄付して来た。しかし俺の寄付だけじゃ孤児院の経営は苦しい。そこで街の皆さんの力を借りたい。俺や他の奴が着ている素晴らしい鎧や法衣をオークションという形で売りたい。その金は今回このキングスレー商会のマルコさんの好意で全額孤児院に寄付される事になった。こんな事は普通なかなか出来る事じゃあない、という事で宜しく頼む」


 ダレンさんはもう1度深々と頭を下げた。

 まだ観客は静まり返っている。

 しかしショーの時と同じであった。

 誰かがダレンの名を呼ぶとまたもや『ダレンコール』が沸きあがり、会場は新たな熱気に包まれたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ショーが終わってから1ヵ月後……


 あの日からこの街の孤児院に対して街の注目は高まった。

 特にダレンさんの元には何か出来る事はないかという問合せが毎日あったそうだ。


 一方、ショーを主催したキングスレー商会も同業者の妨害はあったもののこのエルドラードの街に好意的に受け入れられ、商売も順調のようだ。

 マルコは今度、ヴァレンタイン王国の2つの都市、王都セントヘレナと冒険者の街バートクリードで『魅惑の国パーシヴァル王国展』を予定しているらしい。

 この案件も俺に対して、ぜひにと声が掛かったので俺はその準備に余念がない。

 そして今では元気になったジュリアンは働き過ぎではと言われるくらい働いている。


 最後にこの俺であるが……


 何故かドロシア、ケルトゥリ、カルメンの3人を妻にする事になったと思ったら何とあのリリアーヌまで俺と『一緒になりたい』と言いだしたのだ。

 

 どうしてか、例の悪態が俺の前だと殆ど出ない事が原因で気になり、俺の姿が見えないと落ち着かなくなってしまったと言うのである。

 俺としてはリリアーヌだけ結婚を断わるなど出来る筈も無い。

 世の男達には申し訳ないが、一度に女性4人を妻にする、リア充爆発しろとはまさにこの事であろう。

 

 しかし4人の妻達も次の仕事の準備で相変わらず忙しい。

 当然、未だ結婚式などは挙げていない。


 彼女達の為にも仕事を成功させて新居を用意し、それなりの結婚式を挙げてやらないと。


 俺はそんな事を考えながら必死に仕事をこなして行くのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


とりあえずはこの話でこの章は終わりです。

次のパートを最終章にする予定ですが、作者の構想が纏まり次第連載再開とします。

何卒宜しくお願いします。

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