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第43話 裏カジノ潜入

 吟遊詩人のエド・マグナーテンからジュリアンの居場所である裏カジノの場所を聞き出した俺は午後の街を疾走する。

 この状況では愚図愚図しては居られないし、ダレンさんを呼びに行っている暇も無い程予断を許さない状況であろう。

 あ、良く考えればそうかエドに伝言でも頼んでおけばよかったか?


 まあ良い、ジュリアンは必ず助ける。

 俺は一瞬たりとはいえ、彼の事を疑った自分を恥じた。

 彼は俺達に迷惑が一切掛からないように行った先で暴力を振るわれても無抵抗でオルヴォ・ギルデンの作った借金の清算に回っていたのだろう。

 それを考えると俺は胸が熱くなり、目からは涙が止まらない。


「畜生! 生きていてくれよ」


 逸る気持ちを抑えて着いたカジノの場所は、とある裏通りの何の変哲も無い民家である。

 ただドアがやけに頑丈であり、目立たない地味な小さい覗き窓が付いていた。

 俺は慎重にドアをノックする。

 しかし反応が無い。

 もう1回ノックする。

 暫しの間の後に覗き窓が少し開き、そこから人の気配がした。


「……ここで遊びたいんだが」


 そのままだと閉められてしまうので俺は覗き窓から見ているであろう男に対して持っている金貨を10枚程見せ、数枚をゆっくりと落とす。

 すると覗き窓はあっという間に閉まってしまう。


 駄目か……

 糞っ! 

 もし開けないなら力づくで!


 俺がもしもの場合を考えていた時である。

 ドアが鈍い音を立ててゆっくりと開かれ、中肉中背の目付きが鋭い男が手招きをした。

 そして両手を挙げるようにジェスチャーで指示をする。

 多分剣やナイフなどの武器を所持していないか調べるのであろう。

 俺は両手を挙げるとわざとゲップをした。

 酒臭い息が辺りを漂う。

 結構、強烈な臭いだったらしく男が顔をしかめて、舌打ちをした。

 俺は当然武器など携帯していない。

 持っているのは大量の金貨だけだ。

 それを確かめた男は満足そうに溜息を吐く。

 どうせ酔っ払いのカモが来たと思っている様子がまる分かりだ。


 俺は男に案内されて建物の奥に進んで行く。

 細く長い廊下が奥に続いている。

 目の前の男ももしかしたらジュリアンを痛めつけたかもしれないかと思うと暗い殺気が湧いてくるがじっと我慢した。


 やがて前世でいう30畳程度のそこそこ広い部屋に出る。

 見ると中央にはルーレットに近い物が置かれ、それ以外にも胴元の男達が数種類の博打を開いており、それぞれ客が着いていた。

 ここで案内して来た男が初めて口を開く。


「お客さん……何をやるかい?」


「あれで……」


 正式な名称が分からないから見て遊べそうな雰囲気の物を指で差す。

 多分前世の物と遊び方は一緒であろう。

 男は隅のカウンターに行き、金貨をこの裏カジノの擬似コインに代える様に指示をすると黙って俺の傍らから消えて行った。


 ―――15分後


 俺は金貨100枚程の金を擬似コインに代えて勝ったり負けたりしてぼちぼち遊んでいた。

 念の為にワインを追加で買ってちびちびと飲む。

 当然、この場にジュリアンは居ない。

 居るとしたらどこか奥の、客からは見えない部屋であろう。

 こっそり探しながら適当な所で誰かを締め上げて白状させるのが得策だ。

 相変わらず酔った振りをした俺は尿意を催したと言い、トイレの場所を聞く。

 俺の苦しそうな顔を見た男は顎をしゃくると別の男が俺の方に向き直り、低い声でこっちだと誘導する。

 トイレはやはり暫く廊下を歩いた突き当たりにあった。

 今、回りに他の人間はおらずトイレに案内した男が俺の用を足すのを黙って待っていた。

 俺が小便をしながらワインの瓶をらっぱ飲みすると「余り飲むなよ」とまた低い声で笑った。

 俺はチャンスだと思い、ふらついた振りをして男のみぞおちに拳を打ち込んだ。

 倒れそうになる男を素早く支えた俺は携帯していたショートソードを取り上げ、懐を探った。

 手を突っ込んだ男のポケットから冷たい感触が伝わり、金属が触れ合う小さな音がする。


 お!

 もしや!


 俺が思った通り、男が所持していたのは鍵の束である。

 もしかしたらジュリアンが監禁されている部屋の物もあるかもしれない。

 俺は男の持っていたハンカチを口に詰め込んで悲鳴が洩れない様にした上で、奴のひと差し指を折る。

 非情なようだがもし反抗しても拳や武器を使わせにくくする為だ。

 男の口から絶叫が上がるが、ハンカチが口に詰められているのでくぐもった息しか出て来ない。 


 苦痛に歪む男に俺は自分でも分る程殺気の篭った目付きをして尋ねる。


鉄刃団アイエンブレイドの元首領だった男を監禁している筈だ……居所を言え」


 男は涙を流しながら首を横に振るが俺は容赦なく指をもう1本折った。

 ハンカチを詰められた男の口からまたくぐもった息が洩れる。


「おい、てめぇ、遊びじゃないんだ。次は殺すぜ、さっさと言え」


 俺が本気だと分かったのであろう。

 男は涙を流しながら頷く。


「大きな声を出すなよ。小さな声で教えろ」


 しかし男も相当なタマであった。

 俺がハンカチを外した瞬間、大声で叫んだのである。


「あ、荒らしだぁ! 賭場荒らしだぁ!」


 俺は男の腹に思い切り拳をぶち込むと大声で叫んでいた男は絶叫をあげ、胃の内容物を吐き散らすと動かなくなる。

 しかし男の声は充分に各所に届いたとみえて、たくさんの足音が俺に迫って来る。


 ふっ!

 だったら全員ぶっ倒すまでよ!


 俺は瓶に入っていた残りのワインを一気に胃に流し込んだ。

 その時である。

 エクリプスの悪戯っぽく笑う声が聞こえたのである。


『やるねぇ! 普段は大人しい君が友人の為にこんな危険を犯した上に情け容赦ない行為が出来るなんて! 感動だねぇ、友情って良いねぇ! そして活劇に期待だねぇ』


 俺はいつもならそんな揶揄にも馬鹿正直に返す所だが、今はそれどころではない。

 それがエクリプスにも伝わったのであろう。


『ははっ、分かったよ。今は僕に構っている場合じゃないって言うんだろ。まあ僕の加護は発動させるから頑張って殺されないようにしてよ。 じゃあまたね~』


 エクリプスのからかうような声が消えると、今度は重々しい声が聞こえて来る。


『飲めば飲む程、強くなるぅ~』


 俺が酒を飲んだ事で発動する酒の神バッカスの加護である酔拳であろう。

 2柱の神の加護がかかった瞬間、俺の身体は羽が生えたように軽くなり、拳を振ると凄まじい音がした。


 そこに丁度男達がなだれ込んで来た。


 さあ、やりますか!

 

 俺は構えて殺気立つ男達に対峙したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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