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第31話 酔っ払い女達

 料理と酒が進むに連れて俺達の次の仕事に関して様々な意見が出始める。

 いわゆるブレインストーミングって奴だ。

 看板に対して大いに賛成したのはドロシアだ。

 今迄に無い大きなキャンバスに絵を描くというイメージを持ったらしく目をきらきらさせて俺に縋ってくる。

 俺もドロシアの絵が王都の目立つ所に掲げられて道行く人が注目するのを想像するとやる気が出て来た。

 その様子を見て対抗心を燃やしたのか、ケルトゥリが勢い良く手を挙げる。


 おいおい目が据わっているよ。

 ああ、ケルトゥリったらエールのお代わりをさっきから何杯もしているぞ。


「タイセー、魔法を使った広告ってどうよ?」


 魔法か……

 面白そうだ……とりあえずアイディアを聞くか?


「良いじゃないか、で具体的にはどんな?」


「考えてな~い、あははは」


 ……あ~あ

 真面目に期待した俺が馬鹿だったよ。


「じゃあ、今度は私ね」


 カルメンが手を挙げる。

 彼女も酔いのせいか、少し声が上ずっていた。


「私はちゃんとアイディアがあるわぁ。そ・れ・は、ダレンさんみたいな『有名冒険者』の力を借りるのよ~」


「有名冒険者? 成る程、説明してくれないか?」


俺が居住まいを正して聞くとカルメンは上気した顔で頷いた。


「うん、今回の件で私、分ったの!」


 カルメンは拳を振り上げて力説する。

 ダレンさんが経営する『英雄亭』の成功は確かに料理の美味しさと宣伝の巧さにも関係有るが、やはり ダレンさんの持つ冒険者としての魅力に尽きると。

 人間は誰しも強者に対する憧れとそれにあやかりたい気持ちがあるものだ。

 カルメンはその事を確りと認識していたのである。


「論より、証拠! ほらドロシーの絵が高値で売れている事がね」


「そうだな、確かにドロシーの絵は素晴らしいが題材によって欲しい人が変わったりするからな」


 俺はカルメンの言葉に素直に頷いた。

 ギルドマスターのアデリンさんだけでなくダレンさんの絵を欲しい人は多い。

 絵で食って行くならば、人が欲しがる絵を描かなきゃ意味が無い。

 そもそも欲しがる人が居るからこそその芸術品に値が付くのである。


「あたし、ダレンさんの絵は好き。だけど本当は自分の好きなものだけ描きたいんだ」


 ドロシアがぽつりと呟く。

 彼女のその気持ちも分る。

 人から求められているものだけ描いているのは芸術家として虚しい気分になるだろう。

 しかしそれでは所詮素人アマチュアとなってしまう。

 客はドロシーではなく自分の為に金を払うのだから。


「話を戻すけど……」


 俺はカルメンのアイディアを補足する。


「カルメンのアイディアはあり・・だ。但し、やり方は2通りある」


「2通り?」


 カルメンの瞳が濡れた様に光っている。

 何かを訴えるような情熱的な眼差しだ。

 俺はどきりとしながら言葉を続ける。


「有名な人を使うのは普通なんだ。黙っていてもその人の魅力に引っ張られてその商品も有名になる。使うのを試してみようって気になる」


カルメンは納得したように頷く。

自分の考えがまさにその通りなのであろう。


「もうひとつは逆、有名な商品の宣伝に無名な人を使う遣り方だ」


「ええ~っ」


 それを聞いたカルメンが不満な顔を見せる。

 今ひとつ納得していないようだ。


「カルメン、タイセーはまだ話す事があるみたいよぉ」


 ケルトゥリが酔いながらもフォローしてくれる。


「ありがとう、ケリー。じゃあ、話を続けるぞ。無名な人を使うメリットは色々あるんだ。まずは今、ドロシーの絵に関して払っているような謝礼が安く済む事。そしてやり方によってはそれが話題になる事もあるんだ」


「話題に?」


「そう仕掛け方さ。普通にやっても話題や噂にならないだろう。皆が注目するようなやり方……そう、奇抜なやり方で宣伝すれば、あの人は誰って事になる。それに有名な人は自分の威厳が無くなるってそんな奇抜なやり方を頼んでも受けてくれないしな」


「奇抜! 面白そう!」


酔っているようで俺の話を確り聞いていたらしいケルトゥリが大きな声を上げた。


「その奇抜な部分を私達で考えるんでしょう? きゃはははは!」


「おいおい、ケリー。ここは飲み屋じゃないからな。少し静かにしないとまずいぞ」


俺はケルトゥリを窘めながら、心の中では別の事を考えていた。


ここもダレンさんに頼んで実績を作る手だ。

商品の相性はあるが、ダレンさんをモデルに使えばリスクは少ないだろう。

広告のノウハウはあるがこの世界の経験値が絶対的に不足している俺と広告の経験が皆無な彼女達。

これから助け合ってこの異世界で生きて行くのだ。

そう思うと不覚にも少し涙が出る。

それに気付いたドロシアが不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「タイセー、どうしたの? 泣いているの? 何が悲しいの?」


「いやあ……皆とこうしているのが嬉しくてさ。縁って不思議だなぁって思ってさ」


俺が涙を拭いていると先程の注意は全然耳に入っていなかったらしいケルトゥリがまた大声を出した。


「タイセーッたら! こんな美女3人に囲まれて幸せだぞぉ! お前はっ!」


ケルトゥリ……完全に悪酔いしている。

その時であった。

後ろの席で静かに食事をしていた茶色の革鎧姿の男がすっと立ち上がったのだ。

男はこちらを振り向いた。


若い……

まだあどけない少年だ。

13,4歳といったところか……


「悪いけど、静かにしてくれないか。食事をしながら考えなくちゃならない事があるのでね」


「済みません、ちょっと酔っ払ってまして」


俺は革鎧の男に対して素直に謝罪した。

ここは俺達が悪い。

一方的に悪いのだ。


「何よぉ、ちょっと大きな声出したくらいで……ちっさい男ねぇ」


いつの時代でも、どんな場所でも余計なひと言というのは不幸を呼ぶ。

今のケルトゥリの言葉の中に少年の心の琴線に触れる何かがあったらしい。


「何だと! この女! さっきからこちらが黙っていれば図に乗って……許さないぞ!」


 ケルトゥリに怒りの声を上げ、少年は厳しい表情で彼女に詰め寄ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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