第30話 次の仕事
俺は3人を連れて暫く中央広場を流していた。
料理店の種類は多いのだが、俺の優柔不断さも出てなかなか決まらない。
「ちょっとぉ――早く決めようよぉ! あたしはタイセーと違って好き嫌いがないもん」
ドロシアが鳴き声を上げる。
「私はアールヴだけど、ドロシー同様好き嫌いはないからね」
はい、分っていますよ、貴女が何でも好き嫌いなく食べるのは。
「ねぇ、タイセー! 鶏と卵の料理はどう?」
カルメンが指を差す方を見ると古びた家屋に店名の看板が下がっていた。
「何、鶏? って店名がまんまじゃないか」
俺の言葉を遮るように賛同者が現れる。
「私、鶏と卵大好き!」「私も!」
ドロシアとケルトゥリが手を挙げて、店に入ろうと強調した。
「決まりみたいだよ、タイセー。入ろうよ」
カルメンが鬼の首でも取ったように得意顔で俺に笑いかけた。
まあ、良いか。
今日の昼飯はここで決まりだな。
俺達はドアを開けて鶏と卵料理の店『鶏』に入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
店は4人掛けのテーブルが6つ程……見ると半分が埋まっており、そのうちの2つのテーブルには料理が既に出ている。
特に目立ったのは鶏が1羽丸ごと入ったスープだ。
たくさんの野菜と共に煮込まれて美味そうであり、皆が夢中になって食べている。
他人が食べているとそれが美味しそうに見えて同じ物を食べたくなるのはどこも同じらしい。
ドロシアが俺の袖を引いて同じ物が食べたいと告げる。
俺達に気付いた人間族の中年女性が声を掛けて来た。
この店の給仕担当らしい。
俺は彼女に人数を告げ、案内を頼んだのだ。
―――俺達は奥の席に案内され、腰を下ろすと早速メニューを見る。
ここの鶏はやはり去勢された鶏を使っている。
俺の居た世界の欧州でもその手法は使われており、太り易くなり肉付きがよくなるのだそうだ。
「やはり肉は直火焼きより、茹でたり煮込んだ方が俺は好きかな」
さっきのスープを見た俺が言うとやはりドロシアやケルトゥリが追随する。
「あたしも!」「そうそう旨みや滋養が逃げないのよね」
「私もよ。母が作ってくれたスープは最高だった」
最後にカルメンも賛成してくれたので例のスープは文句無く人数分オーダーとなる。
メニューを改めて見ると店の名物らしい。
「オムレツも美味しそうよぉ」
鶏の挽肉が入った親子オムレツやレーズンが入ったものなど種類も結構ある。
「好きなのを頼んで良いよ」
俺はと皆に言うとバターを使っただけのシンプルなプレーンオムレツを選び、一緒に卵白を使ったパンケーキのオーダーも決めた。
「あ、お姉さん! エール人数分ね~」
やがてケルトゥリの涼やかな声が店内に響き渡る。
「あいよぉ!」
それに答えるように給仕の女性の威勢の良い声も響く。
暫し待つと4人分のマグが運ばれ、俺達は乾杯をした。
「これから、このメンバーで頑張るのよね」
ケルトゥリが少し上気した顔で俺を見詰めて来る。
「最初の仕事は巧くいったし、凄く面白かった。私は途中からだったけど……今度は最初から組めるのよね」
「私もそうね……迷惑掛けた分、頑張るよ」
カルメンが思い詰めた表情で呟いた。
「そんなぁ、カルメン! タイセーは迷惑だなんて考えていないよぉ! カルメンはカルメンらしくやってくれればいいのよぉ」
ドロシアの声が上ずっている。
どうやらあまり酒は強くないらしい。
「で、次は何をやろうって考えているのぉ? タイセー」
俺は暫し考えた上で口を開いた。
「まず手っ取り早いのは看板だ。ここパーシヴァル王国の王都エルドラードの中で人が行き交う所がたくさんあるだろう、そこに看板を作るんだ」
「看板ってこの店の軒先にあるのと一緒の奴?」
ケルトゥリが面白そうに聞いて来たので俺もそうだと答えて頷いた。
「ああ、広場に掲示板があるだろう? そのでかい奴を俺達の手で目立つ高い所に作ってその中にはお客さんの伝えたい事を入れるんだ」
俺は屋外広告の『看板』を説明したが、3人には今いちピンと来ないらしい。
まあ、良い。
腕の良い大工でも確保して看板自体を実際に作らないと分らないだろう。
「でもさ……」
今度はカルメンが不思議そうに問う。
「看板を出す場所だってタダじゃないよね。それはどうするの?」
「それは持ち主に交渉するのさ。こんな物を作らせて設置させてくださいって」
俺は以前、街中に看板を出す為にあるビルのオーナーと打つ合せをした事を思い出していた。
基本は1年以上、出来れば最低3年は契約して欲しいとそのオーナーは言った。
俺達が設備投資をして、オーナーに賃料を払い、そして借り手を探すという図式だったと思う。
俺はある事を考えていた。
この3人のように言葉で言っても中々理解に到るまでは難しいだろう。
何か1つ実績を作ってしまうのだ。
こんな時はやはりダレンさんに頼むのが良いだろう。
『英雄亭』の看板をどこかに作る。
そして次の客にはその看板を見せながら話せば良い。
看板の『掲出場所』の持ち主に関しても同じ対応だ。
俺がそこまで考えた時に料理が一斉に運ばれて来た。
女性陣の目が爛々と輝いている。
これが肉食系女子というものか……
「さあ食べようか!」
俺の呼びかけに3人の女性は元気良く返事をしながら料理をぱくつきだしたのであった。
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