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第29話 新たな加護

 こういう切り出しの話っていうのは大体予想がつくものだ。

 俺も前世で何度も聞いた。

 つまり―――退社の挨拶である。


「実はさ、ダレンさんの手伝いをしながら、ブリジットさんやエマの調理をするのを見ていたら僕にも出来る仕事ってこれじゃあないかと思ったんだ」


 これって……?


 俺が不思議そうな顔をしているのを見て詳しい説明が必要だと思ったのであろう。

 セーファスは更に話を続けた。


「うん、実は魔法を使った料理、そして4大属性全ての魔法が使える僕はそれでいろいろな調理法が使える魔法料理人になれるかもって思い始めたんだよ」


「魔法料理人!? 何だか格好良いですね!」


 俺がそう言うとセーファスは満足そうに頷いた。


「実はダレンさんにお願いしてこの店で調理人としての修行を積んでから、自分の魔法を使った独自の料理法を開拓しようと思っているんだ。そして1人前になったら……その、こいつと……エマと一緒になって彼女のお母さんを引き取り、3人でダレンさんのような店をやりたいんだ」


 セーファスはきっぱりと言い放った。

 決意は揺るがないようである。

 しかしセーファスは、だけどと……口篭る。


「君と王宮を出て一緒に頑張ろうと決めたのに直ぐ見放すようで心苦しいんだ」


 大丈夫さ! と俺は心の中で思う。

 俺はもう1人じゃないし、貴方にも大切な人が居るじゃないですか!


「大丈夫ですよ、俺は。ドロシーに、ケリー、そしてカルメンも居ますから。皆で頑張ります」


 俺の言葉にもセーファスは未だ辛そうな表情だ。


「いやぁ……何と言うかタイミングがね。僕もエドも一度に抜けるとなったら……」


 俺はそんなセーファスを叱咤激励する。


「何、言っているんですか、セーファさん。貴方は幸運じゃないですか? こんなに素晴らしい人と一緒になれて、やりたい仕事も見つかったんだ。魔法調理人の料理か……俺、楽しみにしていますよ」  


 俺の言葉を聞いて今迄話を聞くだけだったエマもセーファスに訴える。


「ほら、貴方! タイセーさんも折角、ああ仰ってくれているし、頑張ろう!」


 愛する彼女にそういわれてセーファスも漸く決心がついたようだ。


「分った、ありがとう! 僕は頑張るよ! でも何か困った事があったら相談してくれ。僕に出来る事なら何でもやるから」


 そう述べるセーファスに俺は心からエールを送っていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺は結局セーファスに今回の報酬から金貨100枚を渡す。

 本当はもっと渡したかったがセーファスが固辞したのだ。


「タイセー君、これからもっと物入りで持ち出しも増えるかもしれない。金は幾らあっても良い。君にはあの3人を守っていく義務もあるんだ」


 セーファスはこう言うと、「公私ともどもな」と片目を瞑ってこっそり囁いたのである。


「え?」


「鈍い奴だな。彼女達は皆、君の事が好きなんだ。頑張れよ!」


 最後の頑張れという言葉だけ大きな声で言うとセーファスはエマと共に『英雄亭』に戻って行った。

 部屋には俺とドロシア、ケルトゥリ、そしてカルメンの4人が残った。


 ぐう~


 誰かのお腹が鳴る。

 どうやらドロシアのようだ。

 恥ずかしそうに俯いているから……

 何やかんやでもうお昼近い。


 『英雄亭』で昼でも食べてから考えようか……

 俺はそう考えて皆で昼飯に行こうと全員に呼びかけたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 甘かった……

 自分で宣伝しておいて何だが『英雄亭』の最近の人気は凄まじい。

 何と50人以上の人が並んでいる。

 後でカルメンがスタッフをしている黒い薔薇ロサネグラの娘に聞いた所、昼の部も夜の部も開店前から長蛇の列が途切れる事は無いと言う。

 その状況を見たらいくら身内のような俺達でもずる・・をして割り込むわけにはいかなかった。


「ダレンさんには悪いけどたまには違う店に行かない?」


 こういうケルトゥリの提案で俺達は王都の中央広場周辺を歩いてみようという事になったのである。

 ダレンさんの店の仕事をしていた時にいくつか店の食べ歩きもしたが、この異世界は古代から近代ヨーロッパに存在したいろいろな食材が混在しており、それらを使った料理店の種類や数も結構な多さだ。


「迷うなぁ~……う!?」


 俺が中央広場を3人と流していると例によって殺気の篭った夥しい数の目が向けられている。

 理由は簡単だ。

 俺が3人のタイプが違うい女を連れてハーレム状態の男だと見られているからである。

 ドロシアは獣人特有の可憐な少女、ケルトゥリは美と言う意味では何者も超える事の出来ないアールヴの中でも特に傑出した美人、そしてカルメンは黙ってさえいれば南方系の情熱的な雰囲気を持つエキゾチックな美女だからだ。


 俺には何故か男達の声が聞こえる。


 殺せ、あいつを!

 爆発しろ!

 1人でも良い、俺によこせ!


『ははっ、聞いた? 怨嗟に満ちた男達の声を? だけど君は幸せ一杯で善きかな、善きかな』


 な、その声は!?


『貴方の守護神エクリプスで~す』


 ……相変わらず人の人生で遊んでいるな~


『そんな事ないさ~。せっかく君にまた加護を与えようと出てきたのにさ、ぷんぷん』


 エクリプスはいつもと変わらない。

 一応俺を見捨てる気はないらしいが。


『当たり前さ、君は僕の大事な使徒なんだからさ。で、加護を授けるよ。今度のは面白いよ。何せ酒の神バッカスの力を与えるからさ!』 


『酒の神?』


『君はどんなに酒を飲んでも自分を見失わない。いわゆる底なしになる。酔わないとつまらないだろうから陽気で面白い酒にはするけどね、そして酒を飲めば少しだけど素手での戦闘力をあげる仕様にしておいたよ』


 酒を飲んだら強くなるって……俺は昔のカンフー映画の達人か!?


『じゃあね~、ばはは~い』


 エクリプスはそう言い捨てるとあっという間に俺の意識から消えたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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