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第24話 カルメン騒動始末記②

 鉄刃団アイエンブレイドのアジトに入ると入り口での騒ぎを聞きつけたのか、数人の男達が剣を振るって俺達に襲い掛かって来た。

 ダレンさんは当然、余裕で躱し、カウンターで拳を打ち込んでいく。

 捌き切れない敵は俺に向かって来るが、充分引きつけてから躱すと奴等は自爆して勝手に壁に突っ込み、気絶してくれた。


 俺をこの異世界に呼んだ神、エクリプスに反撃は駄目と言われているので俺は下手な事などせず言われた通りにしているのだ。

 もう鉄刃団アイエンブレイドのアジトは大騒ぎであった。

 しかし出てくるのは雑魚ばかりで、カルメンが直接金を借りた首領は出て来ない。


「し、首領の部屋はお、奥なのさ」


 カルメンが掠れた声で呟く。

 こんな騒ぎになっても出て来ない首領は余程の大物か、それとも馬鹿か……

 そこでカルメンがいきなり咳払いをする。

 俺は気が付くとカルメンの手をしっかりと握っていたのであった。

 おっと!

 俺は慌てて手を離すとカルメンが俯いている。


「どうした?」


 俺が思わず問い質すと彼女は何と黙って手を差し出して来たではないか!

 

 空気が固まっている。

 

 しかし――流石にこのまま放置は不味い。

 俺はカルメンの手を改めてしっかり握るとダレンさんに続いて更に奥に踏み込んで行ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 奥に入ると廃業した宿屋の支配人室だった部屋がある。

 そこに―――奴は居た。

 カルメンが震える声でその男を指差して奴が首領だと告げたからだ。


 年齢は30代半ばくらいだろうか、眠っているように見える半分閉じた眼がこちらを睥睨している。

 椅子に深く座り、組んだ足を目の前の机に投げ出している。


「お前が鉄刃団アイエンブレイドの首領か?」


 ダレンさんが奴に無造作に近づいて行く。

 奴はまったく姿勢を変えないで、ただ唇だけを動かした。


「何者かと思えば狂戦士バーサーカーとはな……少しだけ驚いたぜ。とっくに冒険者を引退した老い耄れが一体何の用だい?」


「てめぇみたいな餓鬼に老い耄れだなんて言われたかぁねえなあ、そんな事は相手を分かった上で言った方が良いぜ」


 ダレンさんはにやりと笑うと、カルメンを指差し呟いた。


「おう、借りた金を渡すからこの娘の借用書を出しな」


 だが、鉄刃団アイエンブレイドの首領は微動だにしない。

 

「ほう、元Aランクの冒険者なのに他人の家に入る礼儀と人への頼み方を知らないようだな」


 首領の言葉を聞いたダレンさんは面白そうに笑う。


「街のダニが礼儀を語るなんてな」


 その時であった。

 それまで姿勢を変えなかった首領が信じられない速度スピードで飛び上がると、ダレンさんに鋭い蹴りを放って来たのである。

 

 しかしダレンさんは僅かに身体を動かし、その蹴りをあっさりと躱す。


「ほぉ! 人には説教するくせに、いきなり蹴りを入れるとは礼儀知らずの餓鬼らしい。まあ良い―――俺はダレン・バッカス。確かに昔はお前が言う通りの2つ名で呼ばれていたがな」


鉄刃団アイエンブレイドの首領はやはり黙ったまま……名乗らない!


「はっ! 名乗らねぇのか? やっぱり礼儀知らずの餓鬼かい? じゃあ勝手に貰って行くぞ」


 ダレンさんはそう言うといきなり拳を放つ。

 何の変哲も無いパンチの筈なのに首領は避ける事が出来ず、腹にまともに喰らい、あっけなく身体が壁際に吹っ飛んだ。


「なっ!? ぐあっ!」


 俺はエクリプスから貰った常人の何倍もの動体視力の加護で何とか捉える事が出来たが、それは格闘の達人が使う予備動作の無い拳、いわゆる無拍子打ちだったのである。

 一般的な攻撃はどうしても予備動作、モーションがある為に戦闘に長けた者はそれで対処するのだが、それが殆ど無いダレンさんの拳は余程の相手では無い限り避けられないのだ。


「俺は1回、敵とみなしたら容赦しない性質たちなんでな」


 呻く首領にダレンさんは鋭く蹴りを入れる。


「早くカルメンの借用書を出せ。これ以上逆らうと容赦しないぜ」


 低いが良く通る声で首領に囁いたダレンさんは首領の首を掴んだ。


「ぐうう……」


 悔しそうに唸る首領だが素直にカルメンの借用書を出す積りは無いようだ。


「だから言ったろう、おめぇは俺を分った上で物言いをした方が良いってよ」


 首領の後ろには大きな宝箱が鎮座している。


「まあ、良い……俺は本職のシーフじゃねぇが勝手に探させて貰う。で、借用書の内容を見た上で返すべき金額をおめぇに払おうじゃねぇか」


 ダレンさんは懐からピックを取り出すと、宝箱の鍵穴に差込み鍵をあっさり解除した。


「ふん、罠も無いし、子供騙しの鍵だ」


 ダレンさんは宝箱を開けると中には大量の金貨とたくさんの書類が無造作に突っ込んである。


「ぐうう……」


 鉄刃団アイエンブレイドの首領はダレンさんにあっさり倒されて相当に悔しそうだ。


「お~い、タイセーよ。ぼけっとしてねぇで、おめぇも借用書探すのを手伝えや」


 鮮やかなダレンさんの手並みに暫し呆然としていた俺であったが、手を繋いだカルメンに促すとダレンさんと3人で彼女の借用書を探し始めた。

 そして……


「あった! あったわ!」


 自分が借りた借金の証書が見つかったカルメンが大きな声で叫ぶ。


「どれどれ俺に見せな」


 ダレンさんが彼女から借用書を渡されて内容を見る。

 読んでいたダレンさんの顔が瞬く間に曇って行く。


「こいつぁ、とんだ高利の借用書だ。当然、この王都では違法のもんだ! カルメンよ、おめぇ、金貨50枚借りたんだよな?」


「そ、そうだよ!」


「それがよ、金貨100枚なんて借りてから1ヵ月半で倍になってやがる。これは1週間ごとに1割も利子がつけれらて更に翌週はその元本と利子の総金額に更にまた1割利子がつくという無茶な物だ」


「えええっ! そんな話……今、初めて聞いたよっ!」


 やっぱりそうか――とダレンさんは不機嫌そうに呟く。


「であれば、この借用書は無効だ。カルメンが余分に払った他の娘の利子の分も含めてこの借金はチャラにさせて貰う。 それでいいな?」


 念を押すダレンさんに対して唸りながら首を横に振る首領。

 しかし、この借用書を衛兵隊に提出するとダレンさんが言うと静かになった。

 

 俺達がカルメンの借用書を貰い、部屋を出ようとした時である。


「何だぁ!? ジュリアン! 鉄刃団アイエンブレイドの狼と言われたお前がなんてざまだ? この縄張りは俺達がいただくぜ!」


 どやどやと部屋になだれ込んできた一団。

 

 その中のリーダーらしき髭の中年男がにやりと笑い、そう言い放ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援がしっかり私の活力となっております。


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