表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/49

第23話 カルメン騒動始末記①

「あのさ……」


 カルメンが口篭りながら俺に言う。

 借金をした相手のもとに行くのだが同行して欲しいと言うのだ。

 聞きところによると鉄刃団アイエンブレイドという物騒な名前の相手らしい。


「タイセー、悪い事は言わないから鉄刃団アイエンブレイドに関わるのだけはやめときなよ」


 セーファスが俺を部屋の隅に連れて行って、カルメンに聞こえないように囁く。


「奴等は最近、この王都でのして来た愚連隊だ。皆傭兵上がりなんだが、情け容赦無いし、怖ろしく頭が切れる奴がリーダーでね。荒事を受けるだけじゃなくて最近、金を無法な高利で貸して儲けて勢力を増しているのさ」


「じゃあ、今回カルメンが借りたのも……」


「恐らくそうさ。最初から彼女達を苦界に落とす為に仕組んだ事だろう。それを邪魔したとなったら……」


「なったら?」


 セーファスの言葉に俺は思わずもう1度聞き直していた。

 彼は俺をじっと見詰めると無言で手を横に動かし、首を切られるゼスチャーをしたのであった。


 う~ん、それは不味い。

 でもカルメンが縋るような目で俺を見ている。

 仕方が無い、乗りかかった船である。

 行くしかないだろう……


 そのうちダレンさんが呼びに来た。

 試食用の料理が出来たようだ。

 皆で階下の店に降りる。

 一緒に来たカルメンを見てダレンさんは一瞬驚くが、さして気にした様子も無く料理を並べ始めたのだ。


「さあ、遠慮なく食べてくれ」


 今日のダレンさんの料理の素材は豚は勿論、兎、鹿、猪など野生の獣も含まれているようである。

 料理方法も具材を細かく刻み、ペースト状に練り上げたパテや煮込み料理であるラグー、串焼き、揚げ肉が食欲をそそるのだ。

 スープもこの前のポトフとは味付けの違う物、オートミールなどが出されている。

 またパンもフラーデン、ゼンメルベック、プレッツェル、クラップフェンなど懇意にしているらしいパン屋から色々な種類のパンが供されていた。


 俺は料理を食べながら、明日行く鉄刃団アイエンブレイドの事を考えていた。

 俺を見たダレンさんは何となく試食に集中してないのを見抜いたようだ。


「お前……あの馬鹿女がここに居るって事は面倒事を引き受けたみたいだな」


 俺は曖昧に笑って見せた。

 説明しなくてもダレンさんはカルメンから事情を聞いて全て分っている筈だからだ。


「事情は聞いているさ。あの女が金を借りたのがややこしい奴等だって事もな」


 ダレンさんは安心しろと片目を瞑って俺の肩を軽く叩いた。

 カルメンは訳があって身請けは出来ないが、奴等の所に一緒に行って話はつけられると言うのだ。

 俺は少し気が楽になった。


「さあ気が楽になっただろう。これで俺の仕事の方も気兼ねなく取り掛かれるってわけだ」


 ダレンさんが白い歯を見せて笑っている。

 俺は頷くとまた料理を食べ始めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌日午後1時……


 早朝、いつもの通り市場にて仕入れを済ませた俺とダレンさんは午後にカルメンの借金を清算しに鉄刃団アイエンブレイドの所へ乗り込む事となった。 

 例によってドロシアとケルトゥリが同行すると言い出したが、ダレンさんがそれは駄目だと強く言ったおかげで彼女達も諦めて留守番する事になったのだ。

 ただ万が一の事があったら不味いのでセーファスの判断で午後4時までに帰ってこない場合はドロシアが冒険者ギルドのアデリンさんの所へ、セーファスが魔法使いのブリジットさんの所へ、駆け込む事になっているのだ。

 カルメンは俺達に多大な迷惑を掛けている事がさすがに分っているようで借りてきた猫のように大人しかった。


 俺達3人はカルメンの先導で店を出て中央広場に出る。

 そして商業者ギルドと職人街区に挟まれた職人通りをずっと奥に入るといわゆるこの王都でも存在する貧民街スラムに入る。

 道端に座っている子供を含めた住民達の目付きが鋭い。

 特にカルメンには無遠慮な視線が集中し、彼女はあまりの雰囲気に身を竦める。

 街中にはすえたような臭いが満ちている。

 掏りや強盗、かどわかしが横行し、治安は王都でも最悪の場所だが、鉄刃団アイエンブレイドが進出してからは不思議な事に以前よりは治安が良くはなっている。

 かと言って気を抜くと不味い事には変わりがないので俺達は気をつけて進んで行く。


「ここだよ」


 カルメンが掠れた声で呟いた。

 目の前にあるのは、廃業した宿屋という趣の木造2階建ての建物である。

 入り口の脇には薄汚れた革鎧を身に纏ったごつい容貌の30代半ばくらいの男が2人立っていた。

 まあ、ごついと言ってもダレンさんには全然敵わないが……


何者なにもんだ、おめぇらは?」


「おい、この親爺は!?」


 1人の男が訝しげに見るのをもう1人の男がダレンさんの顔を見て何者か分ったようで耳打ちをしている。

 耳打ちされた男はやっとダレンさんの正体に気付いて驚きの表情に変わる。


「なっ!? 何で狂戦士バーサーカーが!?」


「俺が何者か、分ったようだな。お前等の団長に会わせろや、このカルメンの借金を返しに来たとな」


 ダレンさんはそう言い放つと、俺達の方へ顎をしゃくって中に入ろうとする。


「ま、待て!」


 男達はダレンさんを止めようとした瞬間であった。

 ダレンさんの両肩が僅かに動いたかと思うと男達の腹に拳が打ち込まれ、瞬きをする間も無く2人の男は地に伏していたのである。

 でも俺には何故かダレンさんの拳の動きが見えた、はっきりと見えたのである。


『ははっ! また面倒ごとに自ら巻き込まれているみたいだねぇ』


 あの聞き覚えのある声が聞こえて来た……エクリプスである。


 この! いつも人の不幸を楽しそうに!


『怒らないでよ、それよりあのおじさんの拳の動きが見えたろう? あれが僕の2つ目の加護さ』


 は!? 何それ?


『君に常人の何倍もの動態視力を与えたよ、これで大抵の攻撃は避けられる筈さ。こっちから攻撃したら、多分やられるけどね』


 それって……何と言う微妙な能力……


『じゃあ、頑張ってね~』


 あっと言う間にエクリプスの気配が消える。


「おい、行くぜ」


 気が付くとダレンさんがまた顎をしゃくっている。


 俺達は今度はダレンさんを先頭に鉄刃団アイエンブレイドの本部に入って行ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

皆様の応援がしっかり私の活力となっております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ