第21話 面接始まる②
「あんたみたいな女を雇う訳にはいかないよ」
セーファスが怒りを露にする。
「疲れて座っていた我々にまるで無茶な難癖をつけて広場のベンチから追いたてたのは一生忘れないよ、なあタイセー君、そうだろう?」
俺に同意を求めるセーファス。
彼が怒る根は相当深い。
思い起こせば酷い不快感が広がるから俺にしても彼の言う通りだと思う。
しかし彼女はセーファスに言われて簡単に謝罪するような女ではなかった。
「はん! あんたみたいな○○野郎が居る店なんてこっちからお断りだよ! この△☆♪■×★☆●!」
この前もそうであったが……カルメンの口から聞くに堪えないスラングが炸裂した。
流石のケルトゥリも呆気にとられ、女性には寛容な筈のダレンさんもついに爆発する。
「この馬鹿女があ! いい加減にしろ!」
ダレンさんが本気で怒ると相当怖い。
しかし、その女=カルメンはダレンさんの視線を正面から受け止めて、睨み返す。
その間、部屋の中を言いようのない緊張感が襲った。
暫くカルメンはダレンさんを睨んだ後、すっくと立ち上がるとすたすたと部屋を出て行ってしまった。
そして彼女が部屋を出た瞬間、セーファスが溜めていた息を一気に吐いたように荒く呼吸をしたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、次の人って、あ~っ、やっぱり……」
ドロシアに連れられて部屋に入って来たのはやはり冒険者ギルドマスターのアデリンさん、そして俺が 見覚えのないアデリンさんと同じくらい年齢の高価そうなローブを纏った女性の2人だった。
セーファスがすかさず俺に耳打ちする。
「僕が言っていた大物魔法使いだよ。彼女はブリジット・クラルティ、魔法省のナンバー2さ。トップはあのバルフォアの爺さんだよ」
冒険者ギルドのトップと国の重要な役所の魔法省のナンバー2がどうして街の居酒屋であるダレンさんの店に勤めたいんだ?
ん~? そうか! アデリンさんが昔ダレンさんとはクランの仲間だと言ったな。
もしかしたらクラルティさんもそうかもしれない。
その証拠にやけに親しげに2人で話しているじゃないか。
「おいおい2人共どういう積りだ?」
そんな俺の考えを破るかのようにダレンさんの醒めた声がした。
「あらあら、どういう積りも何もこの店に勤めたくて応募したんだけれど」
「私もアデリンと一緒よ」
アデリンさんもクラルティさんも口を揃えて言う。
「ああ? 何を考えているんだ。2人共責任ある立場だろうよ、今の職場をどうするんだよ?」
ダレンさんが呆れたように言う。
こんな居酒屋で働くなんて正気の沙汰じゃねぇと呟く。
「あらぁ、もうやめてきたから安心して」
「私もよぉ!」
あららら……
この2人、本気だ!
ダレンさんはと見ると……頭を抱えてしまっている。
「ダレンさん、ここは2人の気持ちに応えた方が良いですよ」
「分っているよ! タイセー。ただ面接はまだ続行だ。生半可な気持ちじゃ不味いしな」
俺は改めてアデリンさんとクラルティさんの方に向き直った。
「では、アデリンさん、クラルティさん……」
俺が2人の名前を呼んだ時だった。
クラルティさんが抗議をして来たんだ。
「ちょっとぉ! アデリンをファーストネームで呼ぶんなら私もよ」
分りました!
「では、アデリンさん、ブリジットさん、宜しくお願いします」
2人が嬉しそうに頷く。
俺達もそれ以上に深くお辞儀をした。
こうして俺達は2人に対して面接を続行して行ったのであった。
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アデリンさんとブリジットさんの面接が終わり、2人は意気揚々と引き上げて言った。
「いろいろ質問しましたが、2人共本気で働く気持ちなのは伝わって来ましたよ」
「俺もセーファさんと同意見です。ケリーはどう?」
「アデリンさんは気風の良いお姐さんって感じで最高だし、ブリジットさんも料理の腕が抜群の上に魔法の方もばっちりでしょう。これは買いよ」
「おいおいエマも忘れないでくれよ。ブリジットさんと交代で厨房に入って貰うのが良いと思うんだけど」
セーファスが必死になってアピールする。
そうだよなぁ……自分の彼女だったら必死になるよ。
「うん、私もエマちゃん、買いだと思う」
買い買いって株みたいだな。
まあ良い、俺はダレンさんの方を見て最後はダレンさん次第だと伝えたのだ。
ダレンさんは考え込んでいた。
なかなか決心がつかないらしい。
それを見ていたケルトゥリがダレンさんの決心がつくように助け舟を出したのである。
「ダレンさん、女があれだけの覚悟で来ているんですよ。応えてあげなきゃ!」
ケルトゥリの言葉を聞いたダレンさんは吹っ切れたように笑い、そして答えた。
「分ったよ、ケリーの言う通りだ。アデリン、ブリジット、そしてエマを採用しよう」
よかった!
これで厨房は大丈夫であろう。
後は給仕人を3人か……
「明日も良い人が応募に来れば良いね、タイセー」
屈託の無い笑顔を見せるケリー。
それを見た俺は彼女に癒されるのを感じるのであった。
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