第19話 新規開店前打合せ⑤
翌朝10時……
「じゃあよ、俺は昨日作ったメニューをもう少し練習するよ」
ダレンさんはこう宣言して厨房に篭ってしまった。
メニューは今朝、再度皆で話し合った結果、以下のようになった。
ランチはスープ5種類からの日替わり、パンがその日に入荷した2種類からのチョイス、そしてメインは卵料理のバリエから1種類、もしくは肉料理の3種の日替わりで簡単に処理した野菜を添えたもの。
ランチは1人前銀貨1枚……
ディナーはサラダ、パンはランチと同様2種類からのチョイス、卵料理、そしてメイン料理は肉または魚のチョイス、それにデザートのフルーツが付くというメニューだ。
これに加えて夜にディナーで稼ぐ為に飲み物を通常サイズのマグで1杯、サービスで付ける事にする。
ディナーは1人前銀貨3枚……
1週間分を決めておいて野菜やフルーツのように日によって仕入れ量や金額に差が出る物は仕入れの段階で内容を調整する事にしたのである。
これでやってみて後はまた試食を数回やりながら、修正だな。
俺はそう考えた上で、人の手配の方に頭を切り替えた。
今日から暫く毎日午後2時から面接が続く。
募集は魔法使い前提のサブの料理人とホール担当の給仕人が対象であり、面接官はダレンさんは勿論、俺とセーファスにケルトゥリを加えて4人で行う事にした。
ドロシアもぜひやりたいと主張したのだが、彼女の今の身分は奴隷だ。
奴隷に面接させるのっていうのは流石に不味いらしい。
なので泣く泣く諦めて貰う事になった。
面接の質問内容も考える。
前世の場合、面接の際に聞いてはいけない事って結構あった。
家族の仕事の有無や境遇、結婚の予定、交際相手の有無、体重、体型、政治思想、宗教、終いには渾名や休日の過ごし方まで……
面接に直接関係無いような事はNGと言われていたのだ。
でもここは異世界、ましてやメインの面接官はダレンさんだ。
あえて言えば、やばいのは政治思想や宗教で、女性相手では体重、体型くらいであろうか。
「今日の午後から面接でしょう? 今のうちに練習しない?」
ケルトゥリが模擬面接を持ちかけてきた。
「ああ、やろう。じゃあ応募者役はエドさんとドロシーだ、最初はエドさんから……」
テーブルを挟んで俺とセーファスとケルトゥリの3人が座り、対面にエドが1人で座る。
「いやあ、結構緊張するなぁ……」
頬を赤くして照れる吟遊詩人だが……俺は男には全く萌えなかった。
まずは俺から切り出すか……
「本日は英雄亭の従業員募集に応募していただき、ありがとうございます」
「はぁ…… い、いやぁ……」
おいおい、だから男が照れても可愛くないの!
「では氏名と年齢、現在の職業があればお願いします」
「エ、エド・マグナーテン、23歳。ね、年齢はに、23歳です。し、職業は吟遊詩人です」
盛大に噛んでいる……
エドは慣れないせいか、だいぶ緊張しているようだ。
「マグナーテンさん、リラックスしてください。今日は英雄亭というお店で従業員として勤務する為の簡単な事をお聞きするだけですから」
「は、はい」
俺はセーファスに目配せしてバトンタッチする。
「えーと、マグナーテンさんは今までこのような食堂、いや一応レストランか……で給仕人のご経験はありますか?」
「い、いえっ! 全く無いです! 接客にも全く自信がありません」
おいおい、いくら何でもきっぱり言い切らないでよ、練習にならないから。
逆の立場ならここは自分を売り込む所なのに!
それを俺が指摘するとエドは、あ~しくじったなあという顔をして頭を掻く。
俺は今度、ケルトゥリに目配せする。
「マグナーテンさんは、今回何故英雄亭の給仕人に応募しようと思ったのですか?」
おおっ、ケリー、今度は志望動機ね?
それに対してエドの答えは何とも脱力するものであった。
「いやぁ、あのう……他にやる事も無かったんで……」
あっちゃ~…… 駄目だ、こりゃ……
同じ事を他の2人も思ったらしく盛大に溜息をついていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ、次はドロシーだ」
俺達はさっきのエドでの模擬面接では、はっきり言って練習にならなかったので、ここでしっかり練習しておきたいという気持ちが強かったのだ。
俺は今回の募集に応募してくれたお礼を伝えた上で同じように氏名と年齢を聞いた。
「ド、ドロシア・ダングール。15歳、絵描きだ……です」
お、ちょっと緊張しているかな? 少しもじもじしているみたいだ。
今度はセーファスが質問する。
「ダングールさんは、今までにこういうお店で仕事をした経験はありますか?」
「な、ないよぉ…… だけど村の寄り合いでは集まった村の人達に酒を注いだり、料理を出したりしていたよ」
成る程……敬語が使えてないが、これはこれで彼女のキャラとしてありなのか?
今度は俺が聞いてみよう。
「ダングールさんはどうしてこのお店の仕事をやろうと思ったんですか?」
「え、えええっ…… そ、それは……タ、タイセーが居るから……」
あっちゃ~…… これはこれで練習にならん、駄目だ。
うっかり、しかめっ面をしてしまった俺の顔を見てドロシアがおろおろしている。
いやいや、いじめたわけじゃないけど、俺が怒っちゃったと思っているんだな。
「ドロシー、問題無い、大丈夫だよ。じゃあ質問を変えるから」
俺が笑ったのを見てドロシアもホッとしたようだ。
「じゃあ俺がお客さんだと思ってください、ランチを頼みました。マニュアルはありませんが、自分なりに対応してください」
「は、はい! ダレンさ~ん! ランチ一丁、入りましたぁ! よろしくお願いしま~す!」
ドロシアの大きな声が響き渡る。
「良いぞ、ドロシー!」
俺の反応にドロシアも嬉しそうだ。
「良いじゃない、ドロシー。じゃあ最後は私からの質問ね、っていうか、やって欲しい事があるの」
ドロシアの返事を聞いて微笑むケルトゥリが口を開く。
「え? やって欲しい事?」
「そう、タイセーがお客さんとして店に来たと思って精一杯の笑顔をしてくれない?」
「えへへ! オッケー! いらっしゃいませっ!」
ドロシアは元気よく返事をすると夏の向日葵が咲き誇るような笑顔を見せてくれたのだ。
おおっ! やったね。
やっぱり彼女の笑顔はその絵と同様、皆を元気にしてくれる。
俺は自分の事のように誇らしい気持ちで一杯だったのであった。
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