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第16話 新規開店前打合せ②

お店の開店までの準備期間を3日から10日に変更しました。

流石に3日は阿呆な設定でした、御免なさい。

 いよいよ俺達の手助けによるダレンさんの店の開店準備が始まった。

 その為10日間、店は休みとなる。


 俺とケルトゥリはダレンさんとメニュー作りの為に市場へ、セーファスはサブの料理人探し、エドとドロシアは開店告知用と給仕人募集用の絵の制作にかかる。

 ドロシアがケルトゥリと行く俺を気にしたが、俺だってドロシアをエドと2人きりにしたくないのだ。

 自分がいつの間にかドロシアの事がとても気になる事を自覚して驚く。


 俺、やっぱりドロシアの事、好きなんだろうか?


 俺達3人の朝は早い。

 ダレンさんが市場に出掛ける時間通り、午前4時起き、5時着で市場直行である。

 まずは肉だ。

 様々な肉がある。

 1番、多いのはやっぱり手軽に育てる事が出来る豚の肉だ。

 ダレンさんによると放し飼いにして森の中で団栗を食わせた豚が高価だが美味いそうである。

 俺に肉質の良さは分からないのでダレンさんに判断して貰う事になるが。


 他には牛、山羊、羊、鶏、家鴨などの家畜の肉を始めとして猟師が領主の許可を得て山野で狩って来た兎、鹿、猪そして鴨、雉、鶉など市場で取り扱っている種類は幅広い。

 猟で捕れる物はその日によってバラつきはあるそうだ。

 

 魚は川から漁師が納める鱒、鯉、くらいしかないが、好きな人は結構居るらしい。

 

 野菜はキャベツ、テーブルビート、タマネギ、ニンジンなどの中世西洋に実際に流通していた野菜はあるし、当時西洋に無かった筈のジャガイモ、トウモロコシ、トマトまである。

 豆類も豊富だ。

 エンドウマメ、ヒヨコマメは勿論、これも無い筈のインゲンマメもある。


 香辛料も結構有った。

 黒コショウ、シナモン、クミン、ナツメグ、ショウガなどである。

 それも俺の先入観では香辛料は高いというイメージがあったが、それ程でもなかったのだ。


 そして鶏の卵。

 この世界でも卵は結構安い、今回は大いに活用したいと考えている。


 俺達3人は俺とダレンさんの作ったメニューレシピを基に値段も考えて買い物をして行く。


「う~ん、今から考えればよぉ、俺って気分で買い物してたんだなぁ」


 頭を掻くダレンさんに俺とケルトゥリは苦笑しながらも早く店に戻って料理を試作しようと促したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダレンさんの店に帰るとドロシアが元気良く迎えてくれた。

 冒険者ギルドに貼る4枚の絵は勿論、給仕人募集の絵も4枚出来たそうだ。


「タイセーの為に頑張ったよぉ!」


 俺は何となくホッとして、そして愛おしくてドロシアを抱き締めてしまった。


「タ、タイセー!」


 吃驚して一瞬身体を固くするドロシアだったが、やがてふにゃっと柔らかくなる。

 なんだ? この娘、犬なのにまるで猫みたいだな。


「コホン!」


 背後でわざとらしい咳がする。

 振り返るとケルトゥリがじと目でこっちを睨んでいた。

 俺は慌ててドロシアから離れ、明後日の方を向いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「じゃあ、俺は冒険者ギルドに店のオープン告知と給仕人募集のポスターを貼りに行ってくるよ。それに給仕人募集のポスターを街のどこに貼るかだな」


「店にも給仕人募集のポスターは1枚貼った方が良いわね」


 ケルトゥリがすかさず言う。

 ああ、確かにな。

 店の雰囲気と仕事がその場で分るから、それを見て応募したいと考える人が居るかもしれない。


「じゃあ、とりあえずギルドに行ってくるよ」


「ちょっとあたしも行くぅ!」


 ドロシアが俺と一緒に行くと言い出した。

 ずっと部屋に篭って絵を描いていたので気分転換に外に出たいと言う。

 彼女の言う事も最もだ。


「じゃあ、私も!」


「あのさ、ケルトゥリは新聞社をやめる話をしないと不味いんじゃないか?」


 ケルトゥリも何故か一緒に行くと言い張ったが、新聞社をやめる話をしてないよね、君は?


「あの~」


「何?」


「あの親爺の所に一緒に行って説明してくれる?」


 はぁ? 何で俺が?


「それは俺が一緒に行って話す事じゃないでしょ」


「貴方……ドロシーにだけは優しいんだ……」


 はぁ? 訳が分らん!


 しかし良く見るとケルトゥリは涙目になっている。


「おいおい、女の子を泣かせちゃいかんぞ」


 ここで何とダレンさんが口出しして来た。

 ダレンさん曰く、女を泣かせる男は許せないんだと……

 何か変な音で指を鳴らしているよ……


 分った、分りましたよ!


 こんな成り行きで俺は冒険者ギルドで用を済ませた後、パーシヴァル・タイムズに行って、ベンジャミン・ミラードにケルトゥリが退社する説明をする事になったのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今、俺達3人はダレンさんの店を出て冒険者ギルドに向かっている。

 俺達が出掛けている間、ダレンさんが買ってきた食材で料理の試作を作る事になっていたのだ。

 それを俺達が食べて、その上で試食会とする。

 俺の後ろでドロシアとケルトゥリは賑やかに話している。

 ケルトゥリなんかさっきまで大泣きしていたのに、その満面の笑みは一体何だ?


「ああいう時って何か自然に涙が出ちゃうんだ、すぐ止まっちゃうけど」


 何と言う悪質さ……

 確か、前世でもそんな女子が居て痛い目に合ったなぁ……


「でもケルトゥリ、俺はいきさつだけ話すだけだよ。やめる事は自分でしっかり言うんだぜ」


「いや~だぁ! 分っているって、そんな事。それよりケルトゥリなんて他人行儀よ、ケリーって呼んでよ!」


 ……あの~、他人行儀も何も、他人なんですけど……


「え~! タイセーは、またドロシーだけ特別扱い?」


 ……もう話がややこしくなるし、疲れるからやめた。

 そうこうしているうちに俺達は冒険者ギルドに着いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あら、良く来たわね!」


 ギルドマスターのアデリンさんは幸いにもオフィスに居たので、以前了解を得た絵と共に給仕人募集の絵の掲出もお願いすると快諾してくれたのだ。


 それ以上に俺達が驚いたのはエドが言葉を入れてドロシアが描いた絵を見せた瞬間のアデリンさんの反応だった。


「あ、ああああああ……」


 アデリンさんは電流に打たれたように身体を硬直させ、額に入った絵を掴み、顔をくしゃくしゃにして大泣きしてしまったのだ。


「あ、あのアデリンさん?」


「ご、御免ね。実は私は昔、ダレンと一緒のクランだったんだ。この言葉と絵を見たらそんな昔の思い出が溢れて来ちゃったんだよ」


 アデリンさんは流れる涙を腕で拭いながら格好悪いよねと苦笑した。


「ねえ、お願いだ。この絵を私に譲ってくれない? その代わり掲出料は無料にしてあげるよ」


 俺はドロシアを振り返って同意を求める。

 本当はエドの許可も貰わなくちゃいけないんだけれどもね。

 ドロシアは黙って頷いてくれた。


「良いですよ、しかし、お金は払います。けじめですから」


「ふふふ、分ったわ。じゃあこうしましょう。私が貰う絵も暫くギルドに貼ります。そして今回持ち込んだ給仕人募集の絵は無料にしてあげる、どう?」


 俺はここらが落とし処だと思ったので了解する事にした。


 アデリンさんに恥をかかせちゃいけないしね。


 俺達はギルドマスター室から階下に降り、絵を掲出する。


 昼前だったのでその場に居合わせた冒険者はまばらだったが、俺達が3枚の絵を掲げると小さなどよめきが起き、一斉に視線が注がれたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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