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第15話 新規開店前打合せ①

 俺はセーファさん、エド、ドロシアを前に新規開店までに詰めなくてはならない事柄を提示する。


「まだ大事な問題が2つ残っているんだ」


「2つって何だい?」「う~ん?」「教えて? タイセー」


 3者3様の返事である。


「1つはメニュー、これはダレンさんと相談した上で試食会をすれば良い」


「試食会って?」


 ドロシアは聞き慣れない言葉に反応して興味津々のようだ。


「いくつか店で出す候補になる料理を作って、客に近い立場の何人かに食べて貰うんだよ、その結果を見てどれを本当のメニューにするか決めるのさ」


「楽しそう!」


 ドロシアは目をうるうるさせている。

 いろいろな料理を食べる自分を想像しているのだろうか?


「まあ、こっちは材料の値段や入荷状況も考えて決められるから、まだ良いんだ。問題はもうひとつさ」


「もうひとつ?」


 ドロシアが首を傾げて俺をじっと見詰めた。


「スタッフ―――いわゆる給仕人さ、それも出来れば女性が良いんだ」


「そんなのドロシーとケリーに頼めば良いじゃないか?」


 エドが不思議そうに聞いてきた。


 だ~か~ら~、臨時のお手伝いじゃなくて仕事なんだよ。


「いい人が居なければ最初から暫くはお願いするかもしれませんけど、ずっとは無理です」


「どうして?」


 おいおい……


「エドさんがもし頼まれたらどうします? 詩の制作をほったらかして、ずっと出来ますか?」


「…………」


「納得して貰えたようですね。じゃあスタッフに関しては募集告知を出します、……そうだ、スタッフに関してはまだお願いがあります」


「まだ要るのかい?」


 今度はセーファスが興味深そうに聞いて来た。


「これはセーファさんに是非お願いしたいんです」


「僕?」


「ええ、セーファさんは水属性の魔法、それも水を冷やす凍結魔法みたいなものは発動できますか?」


「あ、ああ……出来るけど」


 これは良い!


「とりあえずセーファさんにエールを冷やして欲しいんですよ」


「エールを……冷やす? 冷やしてどうするんだい?」


 この世界にはエールを冷やして飲む習慣が無い。

 その為に皆、ピンと来ないのであろう。


「エールは冷やすと種類によっては凄く美味しくなりますよ、喉越しも良くなります」


「ええっ!? そんな事は聞いた事が無いぞ」


「まあ騙されたと思って――ダレンさんが戻って来たら試してみましょう」


「そんなに美味くなるならぜひ飲みたいな!」


「私も!」


 エドが口火を切り、酒が好きそうなケルトゥリが舌なめずりしている。


「じゃあメニューの話に戻すよ」


 俺は苦笑しながら話を元に戻したのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダレンさんが店の営業と後片付けを終えて戻って来たのは夜の12時を越えていた。

 彼によればこれでもまだ早仕舞いだそうだ。


「ダレンさんにいろいろ決めて貰いたい事があります」


「何だよ、改まって」


 俺の真面目な表情に合わせてダレンさんも真顔になった。


「最初にこんな話がありましたよね、今回の話は巧く行ったらお金をいただくって」


「ああ、そんな話もあったな」


「これから、いろいろ提案をしますけど既にお金が掛かっているものや、決めたらすぐお金がかかるものがあります」


「ふむ」


「申し訳ありませんが、従事する人間に無料タダで働けとは言えません。また俺が立て替えるわけにも行きません」


「そりゃそうだろう、当たり前だな」


 よかった、ダレンさんは理解してくれているようだ。


「問題はこういった提案を実際にお金をかけてやるか、どうかです?」


「成る程、道理だ――と言いたいが、馬鹿野郎だな」


「は!?」


「ダレンの糞親爺! タイセーを馬鹿って何よぉ!」


 俺が、いきなり詰られると、ダレンさんの言葉を聞いて怒ったドロシアが口を尖らせる。


「おいおいドロシー!」


「まあまあ、落ち着け! 嬢ちゃんよぉ」


 結構本気で怒っているので俺がドロシアをなだめていると、当のダレンさんもドロシアに謝罪した。


「分った、落ち着くけど馬鹿は駄目! 謝って!」


 ドロシアは謝罪するダレンさんにきっぱりと言い切った。

 俺の為に……ドロシア、ありがとう。


「はっははは、分ったよ。悪かった、タイセー」


「えっ、ええ……」


 ダレンさんはあっさりと謝るが、俺は先程の彼の真意をまだ理解出来ないでいた。

 それを見越したかのようにダレンさんが補完してくれる。

 それは俺達が吃驚するような素晴らしい言葉だった。


「さっき俺が馬鹿って言ったのはよぉ、例えさ! ようは水臭いって事だよ」


「水臭い?」


「そうだよ、俺はお前達を信じてる! そんな事なんて言わずに黙って使った経費にお前達の報酬を入れて俺に請求すれば良いんだ!」


「えっ!? で、でも」


「でもも、何もねぇよ。これからまた提案とやらがあるんだろう? 俺はわくわくしてるんだよ!」


「ダレン親爺!」


 ドロシアが感極まって、ダレンさんに抱きつくと、わんわん泣いている。

 いや洒落じゃなくてさ……

 しかし、俺も胸に熱いものがこみ上げてくるのを止める事が出来なかったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こりゃ、すげぇ! 凄すぎるぜ!」


 ダレンさんが驚き、喜んでいるのはさっき我々が感嘆したダレンさんの絵だ。


「エドにドロシーよぉ、お前等凄いよ! 良い絵だよ! 俺は全部気に入った!」


「そんなに喜んで貰えて嬉しいよ、ダレン親爺」


「よおっし! じゃあよ、店にも飾るからな!」


「ギルドに2枚貼るから、残り2枚は店に貼れますよ」


「どこに貼るか、考えんといかんな!」


 ダレンさんはもう絵の事で頭が一杯のようだ。

 しかし話はまだ終っていない。

 このまま、英雄亭が新規開店したら、人手不足に陥るのは確実だからだ。


「あの、ダレンさん、次の話をしたいんですが」


「何だ?」


「スタッフの事です、具体的に言えば給仕人とエールを冷やす魔法使いの募集です」


「給仕人?」


「注文を取ったり、料理を運ぶ女性の給仕人ですよ。ダレンさんはもう厨房に入って料理に専念して貰いますから」


「いや、俺はよ。たまには客と話してぇよ」


 そう言うとダレンさんはとても寂しそうな表情を浮かべた。

 冒険者を引退しても、そういった話を客である冒険者と食事の合間にするのは彼の楽しみなのだろう。


 それが彼の仕事への活力となる。


「確かにダレンさん目当ての人も来るし…… じゃあこうしましょう! サブの料理人と給仕人、そして魔法使い……そうだ!」


 良い事を思いついた!

 兼務だ!


「ん?」


「エールを冷やす魔法使いが料理人なら良いんですよ。、セーファさんに探して貰います。良いですか、ダレンさん。スタッフはダレンさんを補助するサブの料理人、これはエールを冷やす事の出来る魔法使いが適任です。そしてホール専任の給仕人が3人くらい必要ですね」


「よおし、了解した! サブの料理人を入れて4人雇えば良いんだな」


「スタッフの募集人数は決まりですね! 後は料理ですが、ええと……」


 俺達とダレンさんはその夜、遅くまで話し合って英雄亭の7日後の新規開店を決めたのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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