第14話 言葉と絵を組み合わせます!
「ええっ! パーシヴァル・タイムズはどうするんだよ?」
俺はケルトゥリに尋ねるが、彼女は今回のミラードの態度でとっくに愛想が尽きているようだった。
「いいのよぉ、あんな親爺! 私の代わりはいくらでも居るなんて、よ~く言ってくれるわよね」
「そうだよぉ! ケリー! あんな馬鹿親爺なんか吠え面かかせてやれ~」
「あら、ドロシア、私の事応援してくれるの?」
「う、うん…… あんな親爺に苛められてたケリーが可哀想だったからさ。それからあたしはドロシ-って呼んでくれて良いからねっ!」
何か2人共、仲直りしたみたいだな。
よかった、よかった。
「でも、タイセーは渡さないからねっ!」
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「じゃあ、残念ですが、パーシヴァル・タイムズへの広告出稿と記事掲載は無いという事で」
俺が言うと皆、黙って頷いた。
あのような瓦版に合う広告は確かにある。
はっきり言ってダレンさんの店の客であればそう違和感は無いかもしれない。
しかし、客の意向は重要だ。
今回、ダレンさんは店のイメージを大事にしたかったのであろう。
逆にクライアントに合う媒体で、ダレンさんが単に好みで判断しているんだったら、説得もする。
今回に関してはパーシヴァル・タイムズの現状を見ると、わざわざそうするほどの事ではない。
「ざまあみろって感じだね、あの親爺!」「そうそう!」
何だよ、すっかり意気投合しているじゃないか。
俺はそんな2人を横目で見ながら、念の為、ダレンさんに確認をする。
「ああ、そこのアールヴの姉ちゃんには悪いが、俺の店には合わないな」
ダレンさんはやはりきっぱりと断ってきた。
「じゃあ、他の媒体なり方法を考えるとして、それ以外の話を詰めましょう」
「ああ、良いぜ」
「まず営業時間ですが午前11時からにしましょう」
「午後12時からじゃあないのかい?」
「この街の昼飯を食べれる店は殆ど12時からなんでしょう?」
「そうだな」
何とこの街の昼飯を食わせる店は12時からの開店が殆どなのだ。
「先んずれば人を制す! そして11時から11時30分までの早い時間に店に来てくれた人には特典を付けましょう」
「また、おまけか?」
「そうです、スープが大盛りとか。別にお茶を一杯つけるとかが良いでしょうね」
「ふむ」
「それと客が来るピークは午後12時から午後1時でしょうから、それを外して午後1時以降に来てくれる人にもおまけをつけます、これで他の店が開いていない時間の客をしっかり取り込みます」
「よく考えるな」
ダレンさんは俺の顔を見て感心したように呟いた。
「当然です、これで営業時間が固まってきました。ダレンさん、夜の仕込みの準備ってどれくらいかかります?」
「正味3時間ってとこだな」
「じゃあ、ランチは午後2時で終了ですね。本当は午後3時までやりたいんですけどね。閉店はどうしましょうか?」
「今までは午前1時ってとこだったよ」
「それで午前4時起きなんて凄いですね、睡眠はきちんと取った方が良いですよ」
「わ、分ったよ……」
俺の注意にダレンさんが苦笑いして頭を掻いている。
「あれれ、ダレンさん! タイセーの言う事、聞いてくれるんだ?」
「いや、こいつが一生懸命やってくれるだろ、俺もあまり我儘言っちゃ、いかんと思ってな」
「ありがとうございます。じゃあ営業時間ですが、前半は午前11時開店、午後2時閉店、間に仕込みの時間を取って、後半夕方は午後5時から開店、午後11時閉店で良いでしょうか?」
「ああ、良いぜ」
「では次に料理ですね。俺も今日、市場に行ったんですが、俺が知っているレシピで安くて使えそうな食材は結構ありました」
「本当か!?」
おっ、ダレンさんの食いつきが良いぞ!
「ええ、具体的なメニューは今夜までに纏めて、明日の朝に仕入れましょう」
「ありがてぇ! じゃあ、俺は店に戻るぜ」
実はダレンさんは、夜の仕込みの最中に店を抜けて2階に来ていたのでまた階下の厨房に戻って行ったのだった。
「エドさん、冒険者ギルドとは話を纏めて絵を貼るのは決定しました。其方の言葉の制作状況ですが、いかがですか?」
「いい感じだよ、湧き出るように言葉が浮かんで来るんだ」
「それは良いですね! じゃあ、個別に紙に書いてテーブルに並べましょう。ドロシーはそれを見て絵のイメージも考えておいてくれ」
「了解だよぉ!」
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「よおし、じゃあ並べるよ」
エドは言葉を大きく書いた紙をテーブルの上に並べ始めた。
エドの魂が篭った力作か!
楽しみだ。
「じゃあ、まずA案だ、良いか?」
『奴の伝説が料理で蘇る!』
う~ん……
「続いてB案だ」
『狂戦士の新たな挑戦が始まる!』
もうひとひねりだな……
「次はC案」
『料理は新たな冒険だ!』
惜しいな!
「最後がD案だ」
『帰るぜ、俺は! 美味い飯を食う為に!』
俺が選ぶとしたら―――これだ! このD案だ!
「この4案だな、皆の意見を聞かせてくれよ」
「僕はB案かな。何か、ワクワクする言葉だ」
とセーファス。
「あたしはD案かな! 何か冒険者の呟きみたいで良いよ」
絵のイメージが思い浮かんでいるのか、ドロシアがきっぱりと言い切った。
「ああ、私もD案かな。何とかして生き残るという冒険者の執念が感じられるもの」
ドロシアと同じ意見なのがケルトゥリである。
「俺としては皆、考え抜いて愛着がある言葉なんだ。出来れば無駄にはしたくない」
現代で言うとエドの立ち位置はコピーライターだが、残念ながら全ての案が採用される訳では無い。
エドには気の毒ではあるが、こういう仕事の裏には没になった候補の山が死屍累々と積み重なっているのだ。
「後はダレンさんの意見も聞かなきゃいけないけど……ドロシー、どうだい?」
「うん、ざっくりとした絵でよければすぐ描けるよ」
「よし、悪いけど―――すぐとりかかってくれないか」
「OK! タイセー、任せてね~」
ドロシアは早速、制作にとりかかったのだった。
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英雄亭2階午後6時……
「出来たよ~!」
俺達はドロシーの絵を見て息を呑む。
エドの言葉が入った絵の数々はラフスケッチながら素晴らしい物だったのだ。
ダレンの容姿がアメコミ風のタッチでよく再現されている。
特に表情が豊かで彼の豪放磊落な雰囲気がよく出ているのだ。
「ドロシー、お前はやっぱり天才だよ!」
「えへへ、タイセー、ありがとうぉ!」
「御免! 改めて謝るよ! 俺の魂を込めた言葉がこの絵によって更に生き生きしている! とても素敵だ! 素晴らしいよ!」
俺以上に感動していたのがエドであった。
彼はドロシアに改めて謝罪すると同時にうっとりと絵に見惚れている。
「これは一種の芸術だよ、僕は専門家じゃないから、よく分らないけどこの絵だけでも良い値で売れそうだ」
セーファスは感嘆の吐息を洩らしている。
「よ~し、これをダレンさんに見せる。それまでに他の事を考えよう」
俺は皆に対して次の課題を提示したのだった。
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