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第13話 瓦版というか新聞に広告はつきものですが……

「ふうむ、話はわかったが……何と言ったっけ? その……」


 ミラードは訝しげな表情だ。

 さっき説明したのに、やっぱり1回じゃ無理か。


「広告です」


「そう、その広告をうちの瓦版に入れるんだよな? それを入れる事でうちは金を貰えるのか?」


「そうです、それにケルトゥリさんにもダレンさんの店で食事をして貰って、店の紹介記事を書いて貰います」


「それも今までのうちの記事としては初めての試みだよ、大変面白そうだ、なんなら私が代わりたいくらいだよ」


 それを聞いたケルトゥリがとんでもないというばかりにぶんぶん手を横に振っている。


「それと、今、聞いた話なんですが……借金があるそうですね?」


「こらっ! ケリー!」


 ミラードに怒鳴られたケルトゥリはぺろっと舌を出した。


「あのぅ…… 余計な事を言う気はありませんが、経営状態はいかがなんですか?」


「いやぁ、まぁ……借金は多少ある。だがほんの僅かだ。実は今日、君が持ってきてくれたアイディアを生かそうと思ってね」


 口篭ったミラードだが、急に何かを思いついたようにぽんと手を叩く。


「アイディア?」


「そう――君の教えてくれた広告だよ! 今までのうちは収入を瓦版の売上げだけに頼っていた。瓦版は記事により売上げが左右するからね。広告が一定で入れば売上げは安定する」


「あのうミラードさん、ひとつお聞きして良いですか?」


 得意げに語るミラードだが……この人ちゃんと分っているのだろうか?


「良いとも!」


「広告は何もしなかったら入りませんよ、誰がどうやって集めて来るんですか?」


「そ、そりゃ、ケリーに決まっているだろう!」


「はぁ~!? 何で私!? 私は記者よ! そんな仕事なんて無理無理!」


 駄目だ! こりゃ……

 広告の何も分かって居ない人が、いきなり広告業務をやろうったって巧く行くわけがない。

 俺は呆れて見ていると、何とこのおっさん、最低の爆弾を落として来た。


「ケリー、無理にとは言わんが……嫌だったら辞めて貰う事になるよ!」


「そ、そんな!? 横暴よ!」


「代わりはいくらでも居るんだ。広告と記者の両方の仕事をやってくれる奴がな」


 酷い話だ。

 俺の前世なら間違いなくこの瓦版屋はブラック企業のレッテルを貼られるだろう。

 退路を断たれたケルトゥリはミラードを睨みつけているが、彼はどこ吹く風だ。


「ぐううう!」


「さ、どうするんだ? ケリー?」


「う~っ、分ったわよ、やるわ、やるわよぉ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 エルドラード市街……


 俺はドロシア、ケルトゥリと3人で歩いている。

 ケルトゥリは俺とは何の関係も無いのだが、一見、両手に美しい花といった趣である。

 ドロシアと2人の状態より更に幸福度がアップした感じだ。

 先程より一段と強い即、爆発しろというような男達の視線が無数に突き刺さってくる。

 俺は冷や汗を流しながら、何とかその視線を避けると、さっきからぷんすか怒っているケルトゥリを労う。


「災難でしたね?」


「本当よぉ! あの馬鹿親爺! 何故、私が広告を集めなきゃいけないのよぉ!」


 ケルトゥリはしかめっ面で俺を睨むと貴方がいけないのよと呟く。


「ええっ!? 何で俺が原因なんですか?」


「貴方が広告なんて新しい考えを持って来なければ、こうはならなかったわ」


 何故か、降りかかった不幸の原因を俺のせいにするケルトゥリに対してドロシアの怒りが爆発した。


「ちょっとぉ! そこのアールヴ! それは横暴でしょう。何でタイセーのせいなのよぉ! あんな借金だらけの瓦版屋なんて遅かれ早かれ潰れていたじゃないの!」


 売り言葉に買い言葉――今度はドロシアの首輪を見たケルトゥリの怒りが炸裂した。


「何よぉ! 犬耳! 奴隷・・の癖に生意気よぉ!」


「へん! 私は確かに奴隷よ! タイセーのね! でもあんたがどうしてあたし達に付いて来ているの? 無関係なあんたがぁ! 尖り耳の馬鹿女!」


「な、何ですって!?」


「おいおいおい、2人とも落ち着け、ここは往来だ。 場所を変えて話し合いをしよう」


 気が付くと何人もの通行人が眉をひそめながら遠巻きにしてこちらを指差している。

 それを見た2人はやっと矛を収めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 英雄亭2階午後3時……


「で、これがパーシヴァル・タイムズか」


 ケルトゥリが持ってきたパーシヴァル・タイムズ。

 皆が興味深そうに覗き込んでいる。

 しかし……失敗した! ……俺もここで初めて見たのだ。


「どう? なかなか凄いでしょう?」


 胸を張るケルトゥリとは裏腹に内容は本当に痛い・・物だったのだ。


「木版の1枚摺りだな、何々……『パーシヴァル王女ヴィクトリアが臥せり体調不良、隣国のイケメン皇子への恋煩いの可能性濃厚……か』だって」


 ……こっちの世界にもあったのか? こういうゴシップ新聞。

 あの王女が臥せってしまったのか……理由も適当に書かれて可哀想だなぁ……

 本当は俺が原因なんだけどさ。

 それにこういう新聞って、大見出しの最後によく「か」とか「?」が付くんだよな。


「こっちは『凶悪ドラゴンVS残虐悪魔 もし戦わば?』だってさ」


 こちらはエドが食い入るように読んでいる。

 何か詩のネタにでもなるのだろうか?


「これちょっと興味あるかな?『パーシヴァル王国イケメン騎士、貴女が抱かれたいベスト10』だって!」


 おいおい―――ドロシア。


「これ、さっき言ってた、そのおっさんだろ!『心と身体の手解きします! ミラードのうっふん恋愛相談』 ……げげげっ!」


「ひでぇ……内容だな。で、これを書いたのが今、目の前に居る綺麗なアールヴの姉ちゃん? という訳かい?」


 ダレンがうんざりしたような表情で呟いた。


「は~い! 恋愛相談以外は、私で~すと笑顔で答えたいけど……そんなに記事、酷い?」


「まあ、ありえねぇな!」


 ダレンがそう返したのを皮切りに出るわ、出るわ、罵倒の数々。


「酷い!」「趣味が悪いですね」「ここまで来るとちょっと」

「記事を書いている女が最悪」


「な、何よぉ! 特に最後のは! こらぁ、犬耳!」


「何よ! 尖り耳! そう言えばさっきの決着ついてなかったわよぉ! タイセ~」


 ドロシアはそう言うと俺に抱き付いて、鋭い目でケルトゥリを睨みつけた。


「だって、タイセーはあたしの主人ハズなんですもん!」


 ええっ! 俺がドロシアのハズ? ハズバンドォ?


「あんたね!? 奴隷の主人・・だったら、ハズじゃなくてご主人様マスターでしょうが!」


「大きなお世話だよぉ! ガリガリの尖り耳! べぇ~」


 ぺろっと舌を出すドロシアは、やっぱりミニチュアダックスフンドそっくりだ。


「い、言わせておけばぁ! この犬っころぉ!」


 激高するドロシーとケルトゥリの間に割って入る俺。


「スタ~ップ! はい、それまで! ケルトゥリ、君が広告を集める事になったのは成り行きだけど、俺は無関係だ。俺達から広告について教えて貰うつもりだったら、もう少し態度を改めてくれ。それに奴隷とはいえ、ドロシーは仲間だ。差別は許さないぞ」


 ざまあみろぉ~とぺろっと舌を出す、ドロシア。

 悔しそうに項垂れるケルトゥリだが……


「ドロシー! お前も彼女に対して言い過ぎだ。もう少し言葉遣いに気を付けてくれよ。そんな酷い事ばかり言っていると折角のドロシーの可愛いイメージが台無しだ」


 一瞬、頬を膨らませかけて、不満の表情を見せたドロシアだったが最後のひと言が効いたらしく、ぱああっと花が咲いたような笑顔に戻る。


「ほら、ドロシー。言い過ぎた事はケルトゥリに謝ろう、俺も謝るから」 


「な、何故? タイセーは悪くないじゃない」


「俺が良い、悪いじゃない。ここは気持ちの問題だ。一旦リセットして皆が気持ちよく仕事を始める儀式みたいなもんさ。昔はよくやったよ」


「昔?」


「い、いや――何でもない。じゃあドロシー、彼女に謝るぞ」 


「う、うん……」


 俺はケルトゥリに頭を下げた。


「ケルトゥリ、悪かったな。成り行きとは言え、あんたに無理な仕事をさせる羽目になっちまって」


 次いでドロシアも上目遣いにケルトゥリを見ながら、頭を下げた。


「ごごご、御免!」


「………ふふふ」


 ケルトゥリはそんな俺達を見て面白そうに微笑んでいる。


「どうした?」


「良いなぁって思ってさ! 気持ち良く仕事をする……か。あのミラードの親爺とは天と地だなって」 


 ケルトゥリ……俺とあの親爺と比べるのは流石に勘弁な――と思ったらドロシアが俺の気持ちを代弁してくれた。


「何よぉ! タイセーは凄いんだよ! あんな親爺と比べちゃ駄目じゃない!」


「そうだよね! 御免ね、ドロシア! 後、色々言い過ぎちゃって御免ね、謝る! この通り!」


 そう言うとケルトゥリは深々とお辞儀をした。

 そんなケルトゥリにドロシアは呆気に取られている。


「ケルトゥリ、あんた誇り高いアールヴにしちゃ珍しいね。こんなに簡単に謝るアールヴは見たこと無いよ」


「ふふふ、私だってアールヴだし、普段は簡単には謝らないよぉ。……そうだ! 決めた!」


 いきなり何かを決意したかのように叫ぶケルトゥリ。


「どうした、ケルトゥリ?」


「もう! 他人行儀ね! これからは、ケリーって呼んでよ! 仕事も面白そうだし、私も仲間に入れて欲しいんだ。お願いっ!」


 それは彼女の意外な決断だったのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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