第12話 冒険者ギルドと提携します!
ギルドマスターの呼び方を変更しました。
メイヤールさん⇒アデリンさん
「アデリンさん、ここからが本題です」
俺が居住まいを正したのを見ると、アデリンの顔付きも僅かだが引き締まった。
「実は冒険者ギルドのギルドカードを使って店の優遇制度を作りたいんです」
「優遇制度? 良く分らないねぇ?」
「説明しましょうか?」
「ええ、詳しく説明してちょうだい」
「ダレンさんの店の主な客はこのギルドの冒険者を想定しています」
「それは光栄だね」
「はい、ランチセットとディナーセットが対象となりますが、ギルドカードを食事の際に見せると1回注文する毎に5%値引きします。アラカルトでの注文と酒は適用外ですけれども」
「へ~、うちの冒険者達には有り難い話さね。でも大丈夫なのかい? ただでさえ、かつかつの貧乏店なのにさ」
「ほっとけ!」
アデリンさんの軽口にダレンさんが突っ込む。
何か夫婦漫才みたいじゃないか、この2人。
俺はアデリンさんに説明を続けた。
「売上げは他の条件、例えば料理の味とか、接客とか、いろいろ関係はして来ます。だけど、これがきっかけになってくれれば新規客は勿論、リピーターの客が大勢獲得出来ますから、5%値引きしても、こちらとしては充分、見返りがあるんですよ」
「ふ~ん、そんなもんかい?」
「ギルドは福利厚生サービスの提携店としてアピールして下さい。ギルドの力で安くしていると言って貰って構いません」
「本当かい!」
表面上だが、ギルドが冒険者にサービスする形になると聞いてアデリンさんは嬉しそうだ。
「ええ、それでギルドの評判も上がると思いますから、そうなったら、また違う形で協力をお願いしますよ」
「良いわよ、喜んで協力するさ。でも良くこんな事をこの親爺に認めさせたわね、大変だったでしょう?」
「うるせ~よ!」
またもやダレンさんとアデリンさんの間に夫婦漫才が炸裂していたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アデリンさんとの話が終った後……
俺達は1階に降りて、集客用のポスター………いや絵の掲出場所を探していた。
1階が依頼の受付と報告用のカウンターの階がある1番、人の目に触れる場所だ。
そこで確認の結果、依頼用の紙が掲出された掲示板の脇とギルドの重要な連絡を貼る掲示板に直接掲出、計2箇所に貼る了解をアデリンさんから取ったのである。 とりあえずギルドへの支払いが月額で銀貨6枚となった。
しかし、この得値とも言える掲出料金、費用対効果は大変高い。
ギルド内を俺達と歩くダレンさんを見て、何人かの冒険者がこちらを指したり、何か話し掛けようとして、躊躇ったりしている。
ダレンさんって、本当に有名人なんだなぁ。
その上、ギルドマスターのアデリンさんまで居るものだから、俺達は注目の的だった。
これが良い宣伝効果になれば良いのであるが。
用が済んで、冒険者ギルドを去る俺達をアデリンさんがギルドの入り口で見送ってくれた。
その時、ダレンさんに対して注がれる眼差しはやはり情愛を感じさせる何かがあった。
しかしダレンさんは怒ったような表情でアデリンさんの方を振り返りもしなかったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、これからどうする?」
「俺はエドさんから教えて貰ったパーシヴァル・タイムズって言う瓦版屋に行ってみるよ」
ダレンさんが俺にこの後、どうするか聞いてきたので俺は瓦版屋に行くと答えた。
「ね、ねぇ、……あ、あたしもタイセーと一緒に行って良い?」
ドロシアがおずおずと俺と同行したいと申し出た。
さっきアデリンさんがドロシアをからかったものだから、俺の事が心配で仕方がないらしい。
またセーファスが目配せをして来たので、俺は片目を瞑って返事をする。
「良いよ、ドロシー。それでダレンさん、パーシヴァル・タイムズの場所って分りますか?」
「いや―――分らんな。中央広場で衛兵に聞けば良いんじゃないか」
「じゃあ、衛兵とかいろいろな人に聞いて行きますね。戻ったら料理のコストとか、それに伴うメニューとか、そして営業時間の件で打合せしましょう」
「分った、気をつけて行けよ。何かあったら俺の名前を出して構わんぞ。それで足りなければ、アデリンの名も出して構わん」
「ええっ!? 何でアデリンさんまで?」
「俺には分かるよ、あいつはお前を気に入ったようだ」
それを聞いたドロシアは不安そうに俺にぎゅっと抱き付いて暫く離れなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダレンさん、セーファスと別れて俺とドロシアは手を繋いでエルドラードの街を歩いている。
獣人に対して酷い差別があるこの街でも、流石に王国公認の奴隷の輪をつけたドロシアに街から出て行けだの難癖をつけて来る者はいない。
それどころか可愛いドロシアを奴隷にしている妬みなのか、殺気に近い物騒な視線を投げ掛けて来る輩も多いのである。
そんな視線を投げ掛けられる度に怯えて俺の手を握るドロシア。
もしも俺TUEEEだったら、某世紀末救世主のように指先ひとつでダウンさせてやるのだが、悲しいかな、俺はそんな能力が皆無で王宮を追い出された元屑勇者だ。
彼女の手を握って、その場を足早に立ち去るしか手が無いのであった。
途中で衛兵や害の無さそうな老人に聞いてやって来たのは職人通りにある一軒の建物。
確かに看板が出ている。
黒地に金文字でパーシヴァル・タイムズと書いてある。
どうでも良い事かもしれないが、この色の組み合わせは結構渋くて俺は好きだ。
まあ、良い。
さっさと用事を済ましてダレンさんの待っている店に帰ろう。
俺とドロシアは扉の前に立つと軽くノックする。
中に人の気配がした。
人間族より遥かに勘の良いドロシアも俺を見て黙って頷いている。
しかし……
中に人間は居るらしいのではあるが返事が無く、ドアが開く気配が無いのだ。
何か開けられない原因があるのか?
もしくは開けるのが面倒臭いので居留守であろうか?
俺はもう1回ノックした。
今度は前回より強く、そしてリズミカルにだ。
ノックして暫し待つも、やはり反応は無い。
俺とドロシアは顔を見合わせ、今度は扉に足で蹴りを入れようとした時だった。
「君達? うちに何か用?」
背後から女性の声がした。
俺達が振り向くと、そこには怪訝な表情をした1人のアールヴの女性が立っていた。
※この世界ではエルフの事をアールヴと呼んでいます。
「え、ええ。こちらって、パーシヴァル・タイムズさんですよね。実は相談があって来たんですよ」
「相談?」
「ええ、こちらの瓦版に俺のお客さんの記事を載せて欲しいと思っているんですが」
「お客さんの記事? その前に君は何者?」
そう言うと、アールヴの女性は首を傾げながら俺の名を尋ねた。
抜けるように白い肌。
やや乱れて無造作な感じだが、肩まで伸びた美しい輝くような金髪。
神が丁寧に作り上げたような鼻筋の通った整った顔立ち。
憂いの篭った深い菫色の瞳が俺を見詰めている。
俺が前世で架空世界の住人として伝え聞いていたアールヴの美しさを、そのまま体現しているような容貌である。
俺が思わず見とれていると、ドロシアが俺の手を思い切り抓り、自分も奴隷の首輪から痛みを受けたのか小さな悲鳴をあげた。
「い、いてぇ! ……何者って言うと説明が難しいんですが。俺はタイセー・ホクト、こっちはドロシア。我々のお客様であるダレン・バッカスさんの依頼で動いています」
「ダレン……バッカス? あ、ああっ! 狂戦士のダレンね!」
狂戦士のダレン!?
何だか、凄くやばそうな2つ名だ。
「そのダレンが何の用なの?」
「あんたも、とっとと名乗りなさいよぉ!」
ようやく首輪の痛みから解放されたドロシアがアールヴに向かって吠え立てる。
うん、怒鳴るって言うより、ぎゃんぎゃん吠えるって感じだな。
「あはぁ、御免御免! 私はケルトゥリ、ケルトゥリ・エイルトヴァーラ。見た目通りのアールヴよ、このパーシヴァル・タイムズの記者をしているわ」
「それでエイルトヴァーラさん……」
「ケルトゥリで良いわ」
よく言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしいケルトゥリに対してドロシアの表情が曇る。
「ダレンさんの経営している店の件で相談があるんですよ、出来れば中で話したいんですが誰も居ないんですかね?」
「あはぁ、また借金取りだと思って居留守使っているのよぉ、ちょっと待って」
そう言うとケルトゥリは扉に向かって帰ったと大声を張り上げた。
すると扉が細めに開き、こちらに視線が注がれているのを感じる。
「大丈夫よ、私よぉ」
ケルトゥリが声を掛けると扉が開かれ、疲れたような表情の髭を生やした中年の男が顔を出した。
「ええっ!? ぶ、部長?」
「部長?」
何とその男は前世で俺が勤務していた広告代理店の上司にそっくりだった。
俺が思わず声をあげると、怪訝な表情をする中年男だったが、ケルトゥリを認めるとすぐに元の表情に戻る。
「私がこのパーシヴァル・タイムズの発行人のベンジャミン・ミラードだが、何の用だね?」
俺達は再度、名乗り、ミラードに来訪の理由を話して、ようやく中に入れて貰えたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。